All Chapters of 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~: Chapter 211 - Chapter 220

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初デートと初長編 page14

「――俺が愛美ちゃんを好きになった理由は、前にも話したよな。君は俺のことを家柄とかステータスでじゃなくて、一人の人間として、一人の男としてちゃんと見てくれてるから。それまで出会ってきたどんな女性とも違うと思った。それで珠莉と同い年の、十三歳も歳下の女の子だと頭では分かってても好きだっていう気持ちは止められなかったんだ」「うん」 だから彼は、ヌン活の時にあんなことを言ったのか。あれはきっと、愛美に言っているようで自分自身にも言い聞かせていたんだろう。「純也さん、わたしとの年の差のことは気にしなくていいよ。わたし、四月で十八歳になるの。つまり、法律上は成人ってことだから、付き合ってても何の問題もなくなるんだよ」「ああ……、そっか。う~ん、でも法律上は問題なくなっても、珠莉がどう思ってるかな……」「珠莉ちゃんのことなら気にしないで。今はわたしと純也さんの仲を応援してくれてるから。好きな人できたから、純也さんのこと気にしてないと思うし」「えっ、アイツに好きな男ができた!? どんなヤツか、愛美ちゃんは知ってるのか?」 愛美の思いがけない発言に、純也さんは「初耳だ」とばかりに目を丸くした。「知ってるよ。そして多分、純也さんも知ってる人」「俺も知ってる……っていうと、もしかして、さやかちゃんのお兄さんとか? まさかなー」「うん、そのまさか」「ウソっ!? マぁジでー!?」 純也さんのリアクションは、今どきの若者らしいものだった。けれど、三十歳にしては若すぎる気がしなくもない。「まだお付き合いはしてないみたいだけど、連絡先は交換してやり取りはしてるみたいだよ」「まだ付き合ってはいないのか。でも、珠莉にもそういう相手ができたんだな。ちょっと安心した」「純也さん、叔父さんの顔になってる」 久しぶりに彼のそういう表情を見て、愛美は笑った。 ――話しているうちに、外の夕焼けが濃くなっていた。ラベンダー色に染まった二人は何だかロマンチックだ。 その雰囲気に後押しされるように、二人は自然と唇を重ねていた。キスをしたのは夏以来だと思う。「愛美ちゃん、今日は楽しかった?」「うん、すごく楽しかったよ」「よかった。じゃあ、そろそろ帰ろうか。――また二人でどこかに出かけようね」「うん!」 ――二人は手を繋ぎ、エレベーターに乗ってスカイツリーの外へ。愛美ももう
last updateLast Updated : 2025-02-18
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初デートと初長編 page15

   * * * * ――その日の夕食も、愛美は純也さんと珠莉と三人だけで、二階のセカンドダイニングで摂ることになった。「ウチの他の連中は、食事のマナーとかにいちいちうるさいから。一緒のテーブルを囲むのは愛美ちゃんにとってストレスになると思うんだ」 との純也さんの計らいで、毎食そうすることになったのだという。もちろん、愛美にも異存はなかったので、彼のその提案をありがたく受け入れることにした。「――で、お二人とも。今日のデートはどうでしたの? 充分に楽しめまして?」 この三人ならマナーを気にしなくていいので、食事中もお喋りが弾む。 珠莉が親友と叔父のカップルに、初デートの感想を訊ねた。「うん、楽しかったよ。純也さんに色んな面白いところに連れていってもらえて、写真もいっぱい撮ってきた。あと、初めてアフタヌーンティーも体験してきたの」「あら、よかったわねえ」「俺も、久しぶりに愛美ちゃんと一日ずっと一緒に過ごせて楽しかった。まだ連れて行けてないところがいくつもあるのが残念だけどな」 「わたしも、ソラマチは行きたかったなぁ。でも、これで小説の大体のイメージは掴めたから、いよいよ執筆に入れるよ」「そう。頑張ってね。……私も頑張らなきゃ」「……ん?」「え? 珠莉ちゃん、『頑張らなきゃ』って何を?」 珠莉が自分に言い聞かせるようにポツリと言った一言に、愛美も純也さんも首を傾げた。「……純也叔父さま、私、この後お父さまとお母さまに自分の夢について打ち明けようと思いますの。お願いですからついてきて下さいません?」「分かった。一緒に行ってやろう」「ありがとうございます、叔父さま」「そっか、いよいよだね。珠莉ちゃん、頑張って! わたしは一緒についていけないけど、応援してるからね!」「ええ。ありがとう、愛美さん」 珠莉は愛美にもお礼を言った。その決意を秘めた笑顔には、初めて会った頃のつっけんどんな彼女の面影はどこにも見当たらない。(わたしが夢を叶えて、今度は珠莉ちゃんの番! ご両親の説得、純也さんと一緒に頑張ってほしいな……)「……珠莉、変わったな。どうやら愛美ちゃんからいい影響を受けてるらしい」「うん。もしホントにそうだったら、わたしも嬉しいな。――純也さん、珠莉ちゃんの援護射撃よろしくね」「ああ、もちろん!」   * * * * ――
last updateLast Updated : 2025-02-18
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初デートと初長編 page16

「とりあえず、書き始めれば何とかなるかな。でも、その前に……おじさまに手紙書こう」 手紙を受け取る相手が、今宛て先の住所にいないことは分かっている。だって、〝彼〟はこの屋敷にいるのだから。 それでも、愛美はけじめとして手紙を出すことにしたのだ。****『拝啓、あしながおじさん。  昨日からの連投、失礼します。今日の純也さんとの初デートがあまりにも楽しかったので……。 もちろん、ちゃんと取材もしてきましたよ。写真もいっぱい撮ってきました。 まず最初に、彼はわたしを銀座に連れていってくれました。わたし、銀座って大人の楽しむ街だと思ってたんです。でも全然そんなことなくて、まだ高校生のわたしと、大人だけどまだ若い純也さんも充分楽しめました。 銀座の街で最初に見たのは、有名な和光ビルの時計台。「この時計台は、有名な怪獣映画で壊されたことがあるんだよ」って純也さんが冗談半分で教えてくれました。もちろん、壊されたのは映画のセットなんですけど(笑) それくらい、わたしにだって分かります。 そしてわたし、その怪獣映画観たことない……。 それはともかく、わたしは純也さんを主人公のイメージモデルにして、色んなところで写真を撮りました。GINZA6、ブランドショップ街、オシャレなファッションビルにストリートピアノの前……。 それでわたし、撮影しながら思ったの。やっぱり純也さんはこの街の景色が似合うなぁ、って。やっぱり彼はセレブなんだな、って。そしてやっぱり、この小説の主人公は純也さんで間違いないなって確信しました。 その後は浅草に行って、浅草寺にお参りしました。仲見世通りもブラブラして、そこでもイメージショットを撮影しました。 あと、合羽橋の道具屋筋も見て回って、早めにランチを摂りました。純也さんから「軽めにしよう」って言われたので、バーガーショップで彼はハンバーガーとポテトのセット、わたしはチーズバーガーとポテトのセットを食べました。 純也さんは生まれながらのセレブだけど、ハンバーガーとかクレープみたいなジャンキーな食べ物も好きみたい。そういう気取りのないところがわたしは好きなんですけど。 純也さんってば、食べてる最中に口の横にケチャップがついてるのに、わたしに拭いてほしかったからってわざと自分で拭かなかったの! まるで子供みたいに世話が焼けるんだから! で
last updateLast Updated : 2025-02-18
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初デートと初長編 page17

 そしてその後、純也さんが「ランチは軽めにしよう」って言った理由が明らかになりました。なんと、わたしのために帝国ホテルのアフタヌーンティーを予約してくれてたの! 優雅なホテルのレストランで味わうスイーツに、初めて食べたスコーン……。まさに非日常の時間がそこでは流れてました。だからわたし、そこでは写真を撮らなかったの。本当は忘れてただけなんですけど、これは純也さんからわたしへのごほうびなんだって思うことにしたんです。 最後は東京スカイツリーの天望デッキに上がって、今日のデート兼取材は終わりました。 わたしね、おじさまと純也さんにいくつも共通点があることに気づきました。 純也さんもお金持ちだし、背が高いし、女性不信なんです。で、おじさまと同じNPO法人で支援活動をしてるでしょ? ここまで偶然って重なるものかな……。 でも、多分本当に偶然なの。……って思うことにしました。 最後に、今夜珠莉ちゃんが純也さんと一緒に、モデルを目指してることをご両親に打ち明けに行ってます。 わたしも説得がうまく行くように、陰ながら応援してます。きっとうまく行くはず。だって、純也さんが援護射撃してくれてるはずだから! じゃあまた。おじさま、メリークリスマス! そしてよいお年を。              かしこ十二月二十五日      愛美    』****
last updateLast Updated : 2025-02-18
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大事な人とのバレンタインデー page1

 ――今年も大晦日がやってきた。 でも、この辺唐院家には「家族みんなで大掃除」や「お正月の準備」という概念は存在しない。そういうことはすべて、家政婦の由乃さんやメイドさんなどの使用人の仕事となっているから。 そのため、珠莉の家族や純也さん、親族は今日もみんな思い思いに過ごしている。……もっとも、愛美と純也さんは「何か手伝うことはありますか?」と由乃さんに声をかけては「これは私どもの仕事でございますから」とことごとく断られたので、「いいのかなぁ?」とちょっと申し訳ないような気持ちでいたのだけれど……。少なくとも貧乏性の愛美は。(やっぱりさやかちゃんのお家とは違うんだなぁ……。なんか落ち着かない) そんなわけで、愛美は部屋にこもって自分のノートパソコンで長編の原稿を執筆していたのだけれど。お昼前になって、コンコンと部屋のドアがノックされた。「――はい」「あ、俺だよ。純也だけど」「待ってね、今開けるから」 ドアを開けると、普段着ではなく外出用の服装をした純也さんが立っている。対して愛美は、部屋着ではないもののちょっと外出には向かないような格好をしていた。そして、パソコンの執筆画面も開きっぱなしだ。「……愛美ちゃん、ごめん。原稿書いてたか。ジャマしちゃったかな」「ううん、そんなことないけど。純也さん、どうしたの?」「今日ヒマだし、二人でどこか出かけないか? ……って誘いに来たんだけど。愛美ちゃん、仕事中ならやめとこうか?」 どうやらデートのお誘いに来てくれたのに、彼に気を遣わせてしまったらしい。愛美だって本当は他にやることがないから執筆をしていただけで――学校の冬休みの宿題はとっくに終えていたので――、気分転換も必要だ。それが大好きな人とのデートなら何も言うことはない。「ううん、行きたい! わたしもそろそろ息抜きしようと思ってたところなの。じゃあ、ちょっと着替えたいから……」 今の格好のままで出かけるのはちょっと気が退ける。でも、愛美はお年頃の女の子なので、男の人の前では着替えにくい。それが恋人だとしても、である。「分かった。じゃあ俺は、着替えが終わるまで廊下で待ってるから。着替え終わったら声かけてね」「うん」 純也さんが部屋を出てから、愛美はしばし服選びに悩む。 今日は初デートというわけではないから、そんなにバッチリオシャレをする必要
last updateLast Updated : 2025-02-19
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大事な人とのバレンタインデー page2

   * * * * 今日の行き先は、数日前に時間の都合で行けなかった〈東京ソラマチ〉に決まった。 七階のフードコートで昼食を摂り、五階まで下りて水族館へ。愛美は可愛いペンギンたちやオットセイたちに癒された。 その後はショッピングを楽しんで、カフェでお茶をして、四階からスカイツリーの天望デッキへ上がった。「こないだとは違って今日は空いてるねー。やっぱり大晦日だから?」「だろうね。大掃除とか新しい年を迎える準備とかでみんな忙しいんだろうな。今日ここに来てるのはもう新年を迎える準備が済んでる人たちか、人任せにしてるヒマ人くらいのもんだ。……あ、俺たちもか」「……確かに」 純也さんが最後に付け足した一言に、愛美は思わず吹き出した。「純也さん、それって思いっきり自虐だよね」「うん……、そうなるよな」 二人とも、本当は何か手伝いたかったのに断られたため、暇を持て余していただけなのだ。決して自分たちの意思で暇になっているわけではない。「――去年の大晦日はどうだったの? さやかちゃんの家で冬休みを過ごしたんだよね」「うん……。でも、あれ? わたし、純也さんにその話……。あ、そっか。珠莉ちゃんから聞いたんだ?」「まあ、そんなところかな」(ウソばっかり。ホントは知ってたくせに) 愛美は心の中でツッコみつつ、口に出しては言わなかった。「さやかちゃんのお家ではね、大晦日は大掃除とかおせちを作るのを手伝わせてもらって、夜はみんなで紅白歌合戦を観て、除夜の鐘を聞いてから寝たんだよ」「そっか。うん、定番の大晦日の過ごし方だな。ウチはみんな紅白観たりっていう習慣がないからなぁ。そもそもTV自体あんまり観ないし。普段通りに過ごして、何となく年が明けてる感じ」「そうなんだ……。純也さんもそうなの?」「いや、俺は毎年、紅白からの音楽番組で年越してるよ。俺の部屋にもTVあるから、今晩一緒に紅白観ようよ」「えっ、いいの?」 純也さんからの提案に、愛美は喜ぶよりも先に戸惑った。 彼が紳士だと分かってはいるけれど、恋人とはいえ大人の男性と同じ部屋に二人きり……。これでドキドキしない方がどうかしている。
last updateLast Updated : 2025-02-19
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大事な人とのバレンタインデー page3

「もちろんいいよ。あ、愛美ちゃん、安心しなよ。俺はちゃんと常識あるから」「……うん」 そういうシチュエーションになるのは二度目だ。夏にそのシチュエーションになった時に、愛美は純也さんから初めてキスをされたのだ。(……まあ、でもあの時はまだ両想いになったばっかりだったし、わたしもまだ緊張してたからなぁ。今はだいぶ〝彼女〟らしくなってきたっていうか、彼女ってことに慣れてきたから) 純也さんと二人きりで過ごすことにもあまり抵抗がなくなってきたのは、彼のことをちゃんと信用できるようになったからだと思う。「ちゃんと部屋は暖房つけて暖かくしておくし、あったかい飲み物も用意しとく。夜はもっと寒くなりそうだから。せっかくの年末の風物詩だし、ひとりで観るのは淋しいからさ」「うん、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」 今年の年越しは、大好きな純也さんと二人で迎えることになった。こんなに嬉しくてドキドキするようなことを、一年前はどうやって想像できただろう!   * * * * その日の夕食後――これもごく普段通りのメニューだった――、愛美は自分の部屋で入浴を済ませてから紅白歌合戦が始まるまでの時間、原稿の執筆に勤(いそ)しんでいた。 そこへ、担当編集者の岡部さんからスマホにメールが届いて……。『相川先生、執筆は進んでますか? プロット拝見しました。大変面白そうな内容になりそうで楽しみですが、可能であればそこにヒーローのロマンス要素も盛り込んで頂けると……。 無理にとは言いませんが、検討のほどよろしくお願いします。』「――ロマンス要素……っていうと、相手はわたし……ってわけにはいかないよなぁ」 読んだ愛美はう~んと唸った。 現実で、主人公のモデルとなっている純也さんの恋人は愛美だけれど。それをそっくりそのまま小説の中でまでやるわけにもいかない。自分たちは好き同士で交際しているから年齢差なんて気にしてはいないけれど、さすがに世間的にはどう見られるのか分かったものじゃないから。 でも、ヒロインの年齢だけ引き上げて、設定はそのままそこに落とし込めば……。 たとえば、純也さんが愛美のことを好きになってくれた理由――家柄やステータスなんて関係なく、彼という人柄を好きになったということ自体は使えそうな設定ではある。
last updateLast Updated : 2025-02-19
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大事な人とのバレンタインデー page4

「……うん、よし。これでいこう!」 愛美はすぐ、「ロマンス要素は盛り込む方向で進めていきます」とメールの返信をして、またキーボードを叩き始めた。 そして七時十五分ごろ、キリのいいところまで書けた時点で原稿ファイルを保存してパソコンを閉じ、スマホを持って純也さんの部屋へ行った。服装は部屋に戻ってきたらすぐに寝られるようパジャマ姿で、上からカーディガンを羽織っている。「――純也さん、愛美です。入ってもいい?」「どうぞ。ちょうどいいタイミングで来たね。もうすぐ始まるよ」「おジャマしまーす」 純也さんの部屋に入るのはクリスマスイブの夕方以来である。あの時は珠莉も一緒だったし、彼女の相談事がメインだったので部屋の中を見回す余裕がなかったけれど。 彼の部屋の中はかなり世俗的なもの――TVだったりスピーカーだったり、ゲーム機だったり――があって、そのうえでゴチャゴチャはしておらずキチンと片付いていることが分かった。 そして、ちゃんと暖房が効いていて暖かい。「愛美ちゃん、ソファーにどうぞ。ここがTVを見る時の特等席なんだ。ホットココアも用意してあるからね。ちなみに由乃さんじゃなく、俺が自分で用意したんだよ」 愛美は純也さんに勧められたソファーに座り、魔法瓶から注がれたホットココアのカップを受け取った。その隣りに、同じようにカップを持った純也さんが腰を下ろし、リモコンでTVのチャンネルを変えた。「えっ、純也さんが自分で? 由乃さんに怒られなかったの?」「怒られたねー。『おっしゃって頂ければ、私が用意致しましたのに!』って。でも、俺の個人的な事情で頼むのはなんか申し訳なくて。俺、この家では居(い)候(そうろう)みたいなものだから」「〝居候〟って……」 彼が自虐的に言ったので、愛美は思わず絶句した。でも、普段は別のところで一人暮らしをしていて、実家にはめったに寄りつかないのなら似たようなものかもしれない。(……まあ、わたしが純也さんと同じ立場でも、こんな家にはあんまり帰って来たくないかも) 初めてこの家を訪れた愛美でさえそう思うのだから、この家で生まれ育った純也さんは余計にそうだろう。「……あ、愛美ちゃん。始まるよ」 TVではニュースが終わり、年に一度の華やかな歌の祭典がスタートした。
last updateLast Updated : 2025-02-19
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大事な人とのバレンタインデー page5

 この番組は前半戦が終わった夜九時ごろ、ニュースが挟まる。「――愛美ちゃん、ココアのお代わりいる?」「あ、ありがとう! 純也さん、小腹がすいてたら、わたしの部屋からお菓子取ってくるよ。クリスマスに純也サンタからもらったの、まだ余ってて」「サンキュ、愛美ちゃん」 というわけで愛美は一旦部屋に戻り、焼き菓子セットの箱を持って純也さんの部屋へ取って返した。 中身はまだかなり残っている。一人では食べきれないというのもあるけれど、「こんなに高そうなお菓子、食べちゃうのがもったいない!」というのが愛美の正直なところである。「――おかえり、愛美ちゃん。まだ後半戦始まってないよ。ギリギリセーフ」「よかった、間に合って! これ、お菓子ね」 二人はローテーブルに置いた焼き菓子をつまみ、ココアを飲みながらまたTV画面を見つめる。愛美の好きなアーティストがたまたま後半戦に固まっているので、前半戦よりも真剣に見入ってしまっているのだ。(わたし、高校に入学した頃は流行に疎くて好きな歌手とかいなかったのになぁ……。去年さやかちゃんのお家で観た時は、誰が誰だか分かんなかったし) でもスマホをすっかり使いこなせるようになって、流行りの音楽にも詳しくなった。この一年半以上で、愛美はすっかり世慣れしたように思う。「わたし、このグループの曲好きなの。ドラマの主題歌になっててね、そのドラマも毎週観てたなぁ」 ちょうど今歌を披露している男性グループの曲の話をしていると。「俺もこのグループ好きなんだ。やっぱり歌うまいよな」「えっ、そうなの!?」 実は純也さんも、同じアーティストが好きだったことが分かり、愛美はビックリ。「そっか、そうなんだ……。なんか嬉しいな」 こうしてまた、大好きな人との共通点が増え、愛美は彼のことがより好きになった。ほっこりした気持ちでココアを飲んでいて、その甘い香りからふとバレンタインデーのことが頭をよぎる。「……ねえ純也さん、手作りのプレゼントってどう思う? 嬉しい? それとも困る?」「ん? どうしたんだ、急に」(ちょっと切り出し方が唐突すぎたかな) 反省した愛美は、考えていることを順序立てて言い直した。「あ……えっと、二月にバレンタインデーがあるでしょ? でね、わたし、手作りのプレゼントを考えてて。チョコだけじゃなくて、もう一つ。で、それに
last updateLast Updated : 2025-02-19
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大事な人とのバレンタインデー page6

「確かに、好きでもない人から、それも山ほど手作りのものをもらうのは地獄だよね……」「その地獄みたいな光景を、俺は毎年味わってるわけよ。でも、さっきも言ったけど愛美ちゃんからなら喜んで受け取るよ。愛美ちゃんは、俺の大切な人だから。どんなのがもらえるか、今から楽しみだな」「うん! わたし、純也さんのために張り切って用意するからね! あ、もちろん学校の勉強も、作家のお仕事も頑張るけど」(……純也さんの分はこれで決まったとして、問題は〝あしながおじさん〟の分。どうしようかな……) 愛美は悩む。〝あしながおじさん〟=純也さんなのは彼女の中で確定しているので、彼の分も用意するとなると、最終的に純也さんが二人分を受け取ることになってしまう。それはそれで迷惑だろうか?(だからって、おじさまの分を用意してなかったら怪しまれそうだしな……) この段階で、彼に「正体がバレてしまったんじゃないか」と思われるのはどうなんだろうか? 逆に「どうして気づかないフリをしていたのか」とツッコまれてしまうかもしれない。「……何を悩んでるんだ、愛美ちゃん?」「…………えっ? あー、うん。バレンタインデーの贈り物、田中さんの分をどうしようかなーと思って」「ああ……、なるほど」(……あ、純也さん、悩んでる悩んでる) これは彼にとって難題だろう。田中氏と自分は別人ということにして二人分受け取るか、それとも自分はもらえるので田中氏としての分は断るのか。……もし断れば、自分が〝あしながおじさん〟だと分かってしまうかもしれないのだから。(……っていうかわたし、もうとっくに分かってますよー。言わないけど)「…………多分、彼はそういうの、受け取らないんじゃないかな。別に愛美ちゃんからのお礼とか、そういう見返りみたいなのが欲しくて援助してるわけじゃないだろうし」(……あ、上手いこと逃げたな) 当たり障りのない、無難な言い訳をしてきた純也さんに、愛美はそう思った。 これで彼は二人分の贈り物を受け取らずに済むし、田中氏と自分を別人だと愛美に思わせることもできたから。(でもまあ、ここは純也さんを立てて、そういうことにしといてあげようかな)「……そうだね。分かった。じゃあ、おじさまの分は要らないか」 愛美と純也さん、それぞれの思惑(おもわく)は違うけれど、バレンタインデーの贈り物は純也さん
last updateLast Updated : 2025-02-20
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