「それは妻と娘だ……」 クーカは先島をちらりと伺った。「そういえば交通事故で死んだって言ってたわね……」 以前に先島の部屋に着た時に言われたことを思い出した。「ああ……」 先島の口から素っ気ない返事が返って来た。「俺の誕生祝をしようとケーキを買いに行ったんだそうだ」 先島は直接は知らなかった。後で警察で事故の詳細を言われたのだ。「ところが、携帯電話に気を取られたトラックに正面衝突されて…… それでお終いだ……」 先島は台所に行って酒とグラスを持って来た。「そう……」 クーカは大人しく話を聞いていた。「当時の俺は事件の張り込みをしていて、連絡が取れたのは翌々日だった」 写真を見ながら先島は当時を思い出すように話す。「妻のご両親には散々恨み言を言われたよ」 勿論、両親は先島の職業は知っている。知っているだけに怒りの持っていきようが無い感じだ。『君の仕事の事は理解しているつもりだ。 だが、家族を犠牲にしてまで、何を守っているというんだね?』 泣く事も出来ず唖然とする先島に妻の父親が尋ねて来た。先島は何も言い返せないでいた。「…… 何気ない一日の終わりに、お前の家族は居なくなりました…… そんな事を急に言われてもな……」 先島は手にしていたグラスに酒を注ぎ入れている。「俺には理解できなかった」 酒の力を借りないと眠れない日々が始まりだった。「そのトラックの運転手には逢ったの?」 クーカが尋ねた。「ああ、相手の住んで居るマンションに訊ねて行った」 最初の一口を飲み込んだ。「最初は気が付かなかったけど、俺の風貌を見て誰なのか分かったみたいだった」 先島は寝る時以外に酒は飲まない。実は苦手だったのだ。「そのまんまマンションの廊下に土下座して謝りはじめたんだ……」 酒を飲むというより流し込むと言う方が合っている気がするとクーカは思った。「俺は紋切り型の謝罪が聞きたい訳じゃない。 あの日に何があったかを聞きたっかったんだがな……」 謝罪されても被害者は帰って来ない。残された遺族を納得させることが出来るのは真実だけだ。「そしたらさ…… 運転手の幼い息子が部屋から出て来て、両手を広げて俺の前に立ちはだかるんだ……」 先島が両手を広げて見せた。手にしたグラスから酒が零れていった。「パパを虐めるなってね」 自分の家族を奪
Last Updated : 2025-04-07 Read more