飯田雄一の自宅マンション。 飯田は深夜に自宅マンションへ戻り、入浴を済ませた後に睡眠に入っていた。 この自宅マンションはセキュリティが売りのマンションで、人の出入りはエントランス以外には無い。 地下駐車場ですらエントランスを通らなければならないのだ。二十四時間警備の目が光っている。「ん?」 人の気配に気が付いた飯田はベッドサイドの灯りを点けた。 すると、壁際に誰かが立っている。 月の光は身体全体を照らしてはいないが、ミニスカートとそこから延びる素足には見覚えがある。「…… クーカ ……」 飯田は沈着冷静な男だ。きっと、クーカが来る事ぐらいは計算の内なのだろう。「随分と早い到着だね……」 飯田は枕を背に上半身を起こした。 人を探す嗅覚が鋭いとは聞いていたがここまでとは思わなかった。もう少し時間が掛かると思っていたのだ。 灯りが点いたので、クーカはベッドの端までやってきた。しかし、それ以上は近寄っては来ない。飛び掛かられるのを警戒しているのだろう。「人が誰かと繋がる時に、誰にも知られないなんて出来ないものよ」 クーカはカテゴリーから言えば近代兵器だ。当然のように電子戦もこなす。ハッキング程度なら痕跡も残さずに出来る。 そうしないと敵の本拠地に潜入が出来ない。監視センサーやカメラなどを誤魔化す必要があるからだ。 今回は、海老沢へかけた電話番号から辿り、飯田に辿り着いたようだった。「自分のパートナーの心配はしないのかい?」 最初にヨハンセンの居場所を聞き出さないの不思議に思った飯田が尋ねた。「自分の事は自分でしなさいと躾けられているのよ」 クーカはベッドの端から答えた。「ここは万全のセキュリティが売りのマンションなんだがな……」 飯田は御自慢の防犯システムが作動しなかったのが不満だった。「屋上にも人を配置するべきね……」 どうやら驚異的な跳躍力で屋上まで飛び、屋上入り口の施錠を外して侵入したらしい。「どうせ、ヨハンセンは逃げたんでしょ?」 外套の裾から減音器が見える。相手がベッドの上とはいえ隙を見せるのは危険だと判断したのだろう。「ああ、彼にならとっくに逃げられたさ……」 飯田は苦笑しながら答えた。ヨハンセンを拘束したまま、電話を掛けに行っている隙に逃げられてしまったのだ。時間にすれば五分も掛かっていなかったはず
Last Updated : 2025-03-18 Read more