All Chapters of NAMED QUCA ~死神が愛した娘: Chapter 51 - Chapter 60

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第25-1話 やっぱり、お前じゃん

 クーカはソファーにチョコンと座って居た。外套は着たままだ。「狙撃手を始末してくれてありがとう……」 先島はクーカの前にコーヒーを置きながら礼を言った。「何の事かしら?」 クーカが小首を傾げて聞いて来た。中身はアレだが見た目は愛らしい少女である。仕草が似合っていた。「いや、そういうのは良いから……」 先島は苦笑してしまった。お互いに分かっているが認める訳にはいかないのも困ったものだ。「彼の名前は徐朋栄。中国籍だそうだ」 先島はクーカの反応を見ながら言った。知っている人物なのかも知れないと思っていた。「彼? 彼女じゃなくて?」 クーカは『彼』という単語に反応した。やはり、狙撃手を見ていたのだ。「狙撃手の特徴は報道されて無いから誰にも言わないようにね?」 再び苦笑しながら言った。 クーカが『彼女』と言ったのは『彼』が何故か長髪のカツラを被っていたからだろう。犯人が長髪のカツラを被っていたのは警察しか知らない情報だ。それを知っているのは犯人だけのはずだ。 つまり、クーカは『彼』を見ていたと自白した事になる。「……」 クーカはしまったという顔をしてから首をすくめた。(やっぱり、お前じゃんか……) あの遠距離狙撃を決めているのだから、手練れの狙撃手だろうなとは思っていたが案の定だった。 それでも先島は逮捕する気には無かった。クーカにもそれは分かっているのだろう。 だから、平気な顔して先島の部屋に遊びに来るのだ。「……本当に中国籍なの?」 クーカがちょっと考えてから聞いて来た。「どういう事だ?」 先島は妙な質問に訝しんでしまった。「北安共和国の軍人の可能性が高いわ……」 クーカはある程度は背後関係を知っているので推測したのだ。でも、その背後関係すべてを先島に説明するつもりは無かった。彼女は相棒のヨハンセンですら信用していない。「あの国の兵隊にしては高価なライフルを使っていたぞ?」 先島は藤井から届いた報告書を思い出しながら言った。「レミントンのM700は金さえ出せば調達が容易だから使ったんでしょ」 国民の生活は省みないが、武器には金を惜しまないのが北安共和国だった。「ドラグノフは調達が難しいのか?」 先島はもう少し鎌をかけてみる事にした。「ええ、難しいわね…… てか、良く知ってるわね?」 クーカは少し驚いた。
last updateLast Updated : 2025-03-28
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第25-2話 泣き虫のクーカ

「え? 『あの人たち』一派? 何それ…… 変な名前……」 クーカが口を抑えている。笑いを堪えているようだ。「おっさんの集団なんだ…… ネーミングのセンスは壊滅的に決まっているだろう」 先島が憮然としている。そこまで受けるとは思ってなかったのだ。「ヒントだけなのか?」 どちらも政財界と大型宗教の大物だった。すこし、骨が折れそうだった。「大人なんだから自分で探しなさい……」 そういってクーカはクスリと笑った。「どうして、そんな重要な情報を俺に寄越すんだ?」 先島にもクーカの思惑は手に取るように分かる。 公安が動いている事で相手を慌てさせ、隙をついて目的を達しようと言うのだろう。「私は私で鹿目に用があるのよ」 クーカはそう言った。顔は笑っているが目が笑っていない。(鹿目は臓器移植を受けてるのか?) 世界一の殺し屋は移植された臓器をコレクションしているというメモ書きを思い出していた。 何故なのか聞いてみたい誘惑に駆られる。しかし、聞き出そうとしても答えないのも知っている。「つまり、鹿目を探していると言う事なのか……」 先島が尋ねた。クーカが『探す』というのは相手を『狩る』というのに等しい。「お前さんの仕事の手伝いは立場上出来ないよ?」 呆れたとでも言いたげに先島が答える。警察が殺し屋の手伝いなどは出来ない相談だ。「そんな事は期待してないわ……」 クーカが事も無げに言った。先島の考えは概ね当たっているが肝心の獲物が分からなかった。「そう云えば覚えているかな?」 先島は少し違う話題を振ってみようと考えた。「何を?」 クーカが尋ねる。「多摩川上流の河原にある廃棄されたキャンプ場で何かを燃やしながら空を見てたろ?」 先日、初めて遭遇した際のことを言い出した。そこで見た印象でクーカの事を日本に仇なす敵と見られないでいる。「……」 先島の目には今も泣き虫のクーカとしか映っていなかった。「そうね、そんな事も有ったわね……」 クーカが思い出すように言った。というか、すぐに分かったのだが質問の意図が分からなかったのだ。「あれって何を見てたんだ?」 先島がコーヒーを一口飲む。「鳥を見てた……」 クーカは窓から空を見上げながら答えた。「鳥は風を見る事が出来るのよ」 クーカが答える。彼女の話は抽象的な物が多いなと感じていた
last updateLast Updated : 2025-03-29
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第26-1話 通告

 鹿目の自宅。 鹿目の家系は江戸時代初期まで遡れる武家の出らしい。 元々は勉強が苦手で志望校をことごとく落ち、仕方なく米国の大学に留学した。そこで、超大国のありようをまざまざと見せつけられた鹿目は日本もそうあるべきと考える様になった。 親の地盤を引き継いで政治家になり、党内で様々な役職を経験した。現在は内閣官房長官になっている。 もちろん、党内ににらみを利かせる為に、自分の派閥は盤石な体制を敷いていた。 そんな政界の大物らしく立派な洋館に住んでいる。しかし、家族がいない鹿目はいつも一人だった。 朝、秘書が迎えに来るまでは日中のお手伝いさん以外は人が居なくなる。 鹿目自身は寂しいとは感じていない。むしろ人付き合いに煩わされない分助かっているとさえ思っていた。 そんな鹿目が携帯電話で誰かと話している。『……彼らは約束を守れと言っている』 相手はかなり立腹しているようだ。「守っているじゃないか」 そんな怒りなど気に留めてないかのように鹿目は話していた。 暖炉を模した電熱器からの照り返しが鹿目の顔を仄かに赤くしている。 広大な屋敷にも関わらず、夜になると屋敷には鹿目一人きりだ。鹿目の声だけが部屋に響いていた。『粗悪品では駄目だと言っているんだよ…… 実際にあれは成分分析でも違う物だと分かるぞ?』 相手は取引商品の苦情を言っているようだった。「いいや、中身に相違は無いよ。 連中の成分分析が間違っているんだろう」 鹿目は飄々とした様子で答えていた。粗悪品だろうがなんだろうが内容は同じはずだ。『北の連中は何人も代金分を払っているのに、掴まされたのは粗悪品だと怒っているんだよ』 北の連中とは北安共和国の事だ。 北安共和国は非常に貧しい。それは国際社会に馴染もうとしないので当然ではある。だが、他国と取引しようとする時に外貨が足りないと言う問題に直面してしまう。 今回はかなり高額なのでドルも円も無い彼らは、自国の人間の臓器を代金支払いに充てて来たのだ。 日本は臓器移植を希望する人は多いが、提供者は絶望的に少ないのが現状だ。そこに付け込んだ闇のビジネスが生まれるのも道理だ。『約束を守らない見せしめとして、爆弾を爆発させたと言っているんだ』 先の首相暗殺未遂を言っているらしい。本人は親切のつもりなのだろう。だが、鹿目は知っていたのか動じる
last updateLast Updated : 2025-03-30
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第26-2話 生き方

「臓器を移植してやる代わりに帰依して言う事を聴けと、信者を増やしていったじゃないか」 鹿目は大関の動向を部下に見張らせているらしい。元々はそれなりに勢力を誇っていたが、最近は家族ぐるみで信者の入信が激増しているのだそうだ。『その見返りは十二分に答えているだろう?』 もちろん、非公式にだが自分の支持者に移植を希望する者が居る時には便宜を図ったりもした。「それに今回の事は君が部品では無く、生体を持って来たのが発端だと僕は考えているよ……」 部品とは移植用臓器の事だ。そして生体とは生きている人間の事だ。『生きの良い生体を望んだのは自分だろ? だから、そのまま密入国させてたのさ』 宗教を隠れ蓑して密入国までやっている。「冷凍物でも良かったんだがね」 一般に移植用の臓器は取り出してから数時間の内に使われる物だ。そうしないと移植対象に定着しなくなってしまうからだ。『苦労して持ち込んだ生体を逃がしたのは、お宅の部下だろ?』 どこの組織にも良心に目覚める者がいるものだ。「まあ生体を燃やし損ねたのは失態だったがね……」 鹿目はようやく自分の落ち度を認めたようだ。『一家全員を皆殺しにしておいてそれは無いだろう……』 大関が笑いながら言っていた。「ちゃんと事故として処理させたよ……」 鹿目は薄笑いを浮かべていた。『おまけに陰謀の匂いを嗅ぎ付けたライターも殺しているじゃないか……』 金が動く処には群がるハイエナが寄って来るものだ。「あのライターは金を掴ませて黙らせる予定だったのさ」 鹿目が笑いながら話す、今までもこうして来たからだ。金になびかない者などいないし、そういう奴は信用できないのも知っている。「酔っぱらって死んだのはこちらの落ち度じゃないね」 これは本当だった。きっと生活がだらしない奴だったに違いない。『……』 大関は黙ってしまった。返事が無いのが了解の印と受け取ったのか、鹿目は電話を切ってしまった。「ふむ……」 鹿目は静かにため息をついた。このところ不手際が目立ち始めている。仕切り直しの必要性を感じ始めているのだ。(そろそろ大関たちを排除するか……) 使えなくなった駒は捨てる。これが鹿目の生き方だ。親しい友人など必要とはしていない。 同じ時刻。鹿目邸付近の民家の屋根にクーカが居た。屋根の上で星を見上げるかのように寝転が
last updateLast Updated : 2025-03-30
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第27-1話 見張られていた娘

 中型スーパー大光の店内。 今後の対策を練ろうと先島のマンションに行ったのだが留守だった。 実は、先島のコーヒー目当て行ったのだが、自分で炒れるのは味気ないので止めにしたのだ。(それにしても……) クーカが不思議そうな顔で小首を傾げている。(どうしてベランダ側の窓に、スリッパが揃えられていたのかしら……) 猫柄の可愛らしいスリッパだった。先島の奇行には分からない物が有るとクーカは考えた。 もっとも、先島からすれば一向に玄関を覚えないクーカに、スリッパを履かせたかっただけなのだ。(ああ、普通の人は仕事している時間か……) 普通とは違う生活をしているクーカは曜日の観念がすっかり抜けていた。 そこで、先島が帰宅するタイミングを狙って訪問しようかと、彼の『会社』の近くに来たのだ。 このスーパーには片隅にコーヒーコーナーがあるのだ。クーカはそこを利用していた。 店内は夕飯の支度時間には、まだ間があるのか人影は疎らだ。「やあ、クーカちゃんだよね?」 見知らぬ男がクーカに声を掛けて来た。自分の席の前に座ると、前から二人後ろからも三人やって来る気配がしていた。 見た事も無い連中だった。全員が何故かニヤニヤしている。相手を小馬鹿にする時の笑い方だ。(ちっ……) 自分の名前を知っているという事は面倒事が起きるに違いない。先島の勤務先の近所で立ち回りをするのは正直気が引けた。 男四人に取り囲まれてしまったクーカは離脱するタイミングを考えていた。「お兄さんたちさあ、或る人に頼まれて迎えに来たんだよ……」 ヨレヨレのスーツの中身は派手なシャツ。本人は流行りのつもりのようだが、どう足掻いてもチンピラにしか見えなかった。「……」 クーカはそれを無視して席を立った。「まあまあ、お兄さんの話を聞いてよ…… ね?」  先頭に居た男二人がクーカの前に立ちはだかった。そして、腰に差し込んである拳銃をチラ見せしてきた。自分たちは武装してるんだぞ言いたいのは分かった。クーカの事をある程度は知っているらしい。(……トカレフ ……じゃなくて、レッドスター ……装弾数は八発……) 横目でチラリと見たクーカは瞬時に相手の武器を見破った。 レッドスターとは中国がコピー生産したトカレフ拳銃だ。性能は……まあ、弾は出る。(撃鉄も起きてないという事は装弾されていない…
last updateLast Updated : 2025-03-31
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第27-2話 襲撃者たち

 その隙にクーカは小型の玉ねぎをビニール袋に入れて足で踏み潰した。 潰した玉ねぎを入れたビニール袋を両手に持って立ち上がるクーカ。 まず、左側の男目掛けて投げつけた。簡易な薄い袋は直ぐに破け中身は男の顔にかかった。「うがああああっ!」 ぶつけられた男は両手で目を抑えていた。 玉ネギ絞り汁の主成分は硫化アリルで、催涙ガスの元になるぐらいに刺激が強い。これは目潰し代わりになるのだ。 クーカは次に右側の男に袋ごと殴りつける様に叩きつけた。破れた袋から飛び散った玉ネギ汁が男の目を刺激する。クーカはそのまま身体を回転させ、左腕の肘で左側の男の顎を正確に打ち抜いた。「うがっ!」 目が効かない所で、いきなり脳を揺さぶられた男はそのまま膝をついて突っ伏した。気絶したのだ。 クーカは身体の回転を止め、逆に回転して右側奥の男の股間を蹴りぬいた。もちろん渾身の力を込めてだ。「はぅっ!」 男は悲鳴を上げることが出来ない位に悶絶してしまった。「この野郎!」 そう叫びながら後ろからナイフを構えて襲ってきた者もいる。 クーカは手短な所に有った大根でナイフを受け止めた。直ぐに大根を手を放すと刺さったとナイフと共に床に落ちて行く。 アンバランスな荷重のかかり方に相手の手首が追い付けないのだ。 ナイフを落とした男の喉に手刀をお見舞いした。息が出来ない男はゼヒゼヒ言いながら床を転げまわっている。「てめえっ!」 もう一人のナイフはキャベツで受け止める。それを手首の反対方向にねじると相手はナイフを手放してしまった。 クーカは傍に有った長めの牛蒡を鞭の代わりに使った。相手が銃を取り出そうとしたので、手の甲を叩いてから顔を右に左にと殴りまくったのだ。 三撃目で牛蒡が折れてしまったので、足もとに落ちていたカボチャでぶん殴った。これは硬いので効いたようだ。殴られた男がよろけている。 最後は長ネギを構えて男たちを牽制していた。男たちはあまりの展開に唖然としてしまった。「あ? え? えええーーーっ!?」 男たちは狼狽してしまった。相手のあまりの強さにだ。 相手は見た目は普通の愛らしい少女だ。それが、あろうことか野菜で自分たちを撃退するなどとは夢にも思わなかったらしい。「こらっ! 貴様ら何をしているかあーーー!!」 そこにスーパーの警備員たちが駆け付けてくれた。女の子
last updateLast Updated : 2025-04-01
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第28-1話 野菜使い

 中堅スーパーの警備室。 女子高生が暴漢に襲われたとの通報があったため何人かの警察官がやって来た。しかし、暴漢たちは撃退されて逃げ出している為、警官たちは肩透かしを食らった形だった。 そこで犯人の特徴を捉えようと防犯カメラを見る事にしたのだ。 スーパーの防犯カメラの映像を見た警官たちは絶句した。「……」「……」「……」「何者だよ、この女子高生……」 それは、まるでアクション映画の撮影でもしてるかのようだった。闇雲に逃げているように装って、狭い通路に誘い込み一対一の格闘に持って行っている。 襲撃犯は人数がいるので容易く型が付くと驕っていたのであろう。瞬く間にかずを減らしていった。 そう見えるくらいにクーカは襲撃犯を易々と撃退して行っているのだ。しかも、動きには一切の無駄が無かった。まるで格闘家対素人の試合を見ているようだ。話にならないのは一目瞭然だった。 だが、これでも時間が掛かっている方だった。今までのクーカなら躊躇する事無く襲撃犯たちをあの世に送っている。 今回は武器が無いので仕方なく格闘したのだ。別に格闘戦が苦手な訳では無い。クーカが武器を使うのにはそれなりの訳があった。 クーカは体格が小柄なので体力が無い方だ。体力を猛烈に消耗する格闘戦は持久力に問題があったのだ。後、一分程度に襲撃犯が粘ったら、へたばってしまうのはクーカの方だった。それくらい危うい状態だったのは誰も分からなかった。 男たちは何故か拳銃を出さなかった。目の前で驚異的な強さを見せるクーカに恐れをなして忘れていたのかもしれない。「おぉぉぅぅぅ……」 クーカが襲撃者の一人の股間を蹴り上げた瞬間。室内にいた男性警官たちが呻き声を漏らした。何かに共感したのだ。 男共が何に畏怖したのか、理解できない女性警官はキョトンとしている。「すげぇ、強いな……」「本当に女子高生かよ……」「……俺たちでも敵わないんじゃないか?」 防犯カメラの映像を見ていた全員が口々に絶賛していた。 ナイフとは言え武装した男たちを、野菜で撃退する女子高生に驚愕していたのだった。「取り敢えずは被害届を出してもらっておこうか……」 一番年配の警官がそう言った。 一方、スーパーの警備室では事情聴取が行われている。灰色の壁だけの味気ない部屋だった。「襲われた襲撃犯たちに心当たりはありますか?」
last updateLast Updated : 2025-04-02
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第28-2話 保護者の方

「お名前と学校名を教えて貰えるかな?」「……」 クーカは黙ってしまった。クーカは学校に行ったことが無いし、名前を名乗る訳にもいかないのだ。まず、日本に住所など持って無いので、そこから違う問題に発展してしまう。黙秘する以外に方法が無かった。 それより目下の問題はあの女性警察官からどうやって逃げるかだ。「学校で格闘系の部活に入っているとか……」「無いです……」 学校では無く米軍の特殊部隊仕込みなのだが、それも言えないというか信じて貰えないだろう。 クーカは襲われた方なのに、何だか取り調べを受けるのが気してきた。憮然とし始めている。「あの…… 何か特殊な職業に付いた経験があるとか無いですか?」「無いです……」 まさか世界中で指名手配されている殺し屋ですとは言えない。 他に何も言えないので壊れたテープレコーダーのように繰り返すクーカ。そろそろ飽きて来た。 敵に捕まった時に備えての訓練も受けた事が有る。 その時には自分の名前と所属を繰り返して答えろと言われた。尋問官の目を見ずに机の端に視線を向けるのがコツだと教わった。 目を見てはいけないのは反抗的だと取られて尋問が厳しくなるからだ。暖簾に腕押し状態だと相手が折れてしまうのだそうだ。 しかし、これは敵に捕まった状態では無いので、どうやって脱出すれば良いのかが分からかなった。まさか、殲滅する訳にもいくまい、クーカは日常生活に不慣れなのだ。「無いですか…… そうですか……」 警備員はクーカが頑なに協力しないのでため息をついてしまった。「じゃあ、警察の方に被害届を出して貰えませんか?」「いいえ、大した被害は受けていないので出しません……」 結構な暴れ具合だったが被害は無いと言う。確かにクーカが殴られた場面は無い。むしろ襲撃犯の方が肉体的にも精神的にもダメージを受けているはずだ。 第一被害届を出すには住所が居る。これも出せない理由だ。 検索されると密入国している事まで判明してしまう。そろそろ取り調べを止めて欲しかった。「そうですか…… 仕方ありませんね」 警備員は書類に何かを記入してバインダーを閉じた。彼も自分の職務以外には関心が無いようだった。 どうやら、取り調べが終りそうな雰囲気にクーカは内心ほくそ笑んだ。「では、余り過剰な攻撃は止めて下さいね。 過剰防衛になると危険が危ないで
last updateLast Updated : 2025-04-03
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第29-0話 馬鹿ほど声がでかい

 保安室。 外線が着信し電話が鳴った。「はい、青山三丁目警備保障です……」 電話に出たのは沖川だ。青山三丁目警備保障とは対外的に名乗っている『会社』の名前だ。『謀略大好き公安です』と名乗る訳にはいかないからだ。だが、沖川の顔つきが直ぐに曇り出した。「先島ですか? はい、ちょっとお待ちください……」 しかし、沖川は電話の応対をしている内に首を傾げ始めた。「大光スーパーの警備室からよ?」 保安室の近くに有るスーパーだ。良く昼の弁当を調達するのに全員が使っていた。 焼肉弁当の大盛が先島のお気に入りだ。「はい、替わりました。 先島です…… えっ? 娘がそちらにお邪魔してる?」 先島が怪訝な表情になった。身に覚えが無いからだ。首も捻ってしまっている。「?」 保安室にいた室員全員が先島の会話内容にキョトンとしている。先島が家族を失ってからずっと独身なのは知っているからだ。「ひょっとして隠し子?」 藤井と沖川がきゃあきゃあ言い合っていた。他の人もニヤニヤ笑いが止まらない。真面目を絵に描いたような先島が慌てているからだ。「はあ…… クーカですか…… それは御迷惑をおかけしました。 すぐ迎えに上がります」 先島が電話にそう答えると、室長が口からお茶を拭いてしまった。 先島がクーカを連れて保安室にやって来た。スーパーまで迎えに行ったらしい。 保安室の扉を開けると室長を始めとする全員が整列して待っていた。 室員たちは緊張の面持ちで出迎えている。 何しろ『世界最凶の殺し屋』と呼ばれる『死神の娘』がやって来るのだ。緊張するなと言う方が無理だ。 クーカは逃げ出す事も無く大人しく先島に付いて来た。「えー…… みんなが会いたがっていたクーカさんです」 クーカがぴょこんと頭を下げる。それに釣られて全員が頭を下げた。 そして珍しい生き物を見るかのようにジロジロと見ていた。見た目は普通の少女だ。先島の娘と言われても違和感は無い。 クーカは恥ずかしいのか先島の影に隠れようとした。「大光スーパーで暴漢に襲われて、相手を大根・キャベツ・ゴボウで撃退したようです」 室員たちにクーカを紹介しながら、スーパーでの出来事を説明した。「ええと…… 災難でしたね……」 他に言いようが無かった。全員が呆れたように聞いていたのだ。(襲撃相手が生きていると言うのはビ
last updateLast Updated : 2025-04-04
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第30-1話 先島の家族写真

 先島の自宅。 先島が自宅に帰るとベランダの戸が開いていた。「……」 先島が部屋の中を見回すと、隅にクーカが居た。膝を抱えて座って居る。「ごめんなさい……」 クーカも言い過ぎたと分かっているのだろう。素直に謝って来た。足元を見るとスリッパをちゃんと履いていた。「宮田も済まなかったと言っていた。 許してやってくれ、世の中にはああいうタイプも必要なんだ」 先島は十人居たら十通りの答えが有っても良いと考える方だ。むしろ全員が同じ事を考えていたら、そちらの方が気持ち悪いと感じてしまうたちだ。「もう気にするな…… さて、今夜は何にしようか?」 先島は気持ちを切り替えようと夜のご飯の話を始めた。 誰のせいでも無いのに議論しても無駄だからだ。「お腹空いたーーっ」 クーカが先島の考えを見たかのように返事をした。「ん? ちょっと待ってろ……」 先島は空に近い冷蔵庫から野菜とコロッケを取り出して来た。作るのはコロッケ卵とじだ。「凄いーーっ」 クーカは目を丸くしていた。何も無いに等しい冷蔵庫の中身で先島は料理を作り出したのだ。「ん? どうした?」 出来上がった野菜炒めを皿に盛り付けていた。「ひょっとして料理は苦手なのか?」 そう話しながらフライパンを水洗いをする。料理を作りながら調理器具を片付けるのは常識だ。 しかし、クーカの生い立ちを知っている先島は質問を間違えたと思ってしまった。「したことがありまっせぇーーん」 クーカは人が料理する所まじまじと見たのは初めてだった。クーカのテンションが妙に上がっていた。「しかも、美味しいし!」 先島がよそ見をした隙に野菜を一欠けら口に運んでいた。先島はニコニコしながらコロッケの卵とじを作り始めた。 先島は魔法使いなのかも知れないとクーカは思ったのだった。 料理を食べ終えた二人はデザートのケーキを食べ始める。ひょっとしたらクーカが来るかもしれないと帰りがけに買って来たのだ。「甘いものを食べないと身体が燃料切れ起こしちゃうの……」 クーカが美味しそうに食後のケーキをぱくついていた。確かにクーカの身体能力は群を抜いて凄かった。 代謝機能がずば抜けているので、カロリー消費がもの凄いのだ。だから、カロリーバーなどを常に携帯している。「それで何時も甘い匂いがするのか……」 うっすらと甘い匂いを残し
last updateLast Updated : 2025-04-06
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