クーカはソファーにチョコンと座って居た。外套は着たままだ。「狙撃手を始末してくれてありがとう……」 先島はクーカの前にコーヒーを置きながら礼を言った。「何の事かしら?」 クーカが小首を傾げて聞いて来た。中身はアレだが見た目は愛らしい少女である。仕草が似合っていた。「いや、そういうのは良いから……」 先島は苦笑してしまった。お互いに分かっているが認める訳にはいかないのも困ったものだ。「彼の名前は徐朋栄。中国籍だそうだ」 先島はクーカの反応を見ながら言った。知っている人物なのかも知れないと思っていた。「彼? 彼女じゃなくて?」 クーカは『彼』という単語に反応した。やはり、狙撃手を見ていたのだ。「狙撃手の特徴は報道されて無いから誰にも言わないようにね?」 再び苦笑しながら言った。 クーカが『彼女』と言ったのは『彼』が何故か長髪のカツラを被っていたからだろう。犯人が長髪のカツラを被っていたのは警察しか知らない情報だ。それを知っているのは犯人だけのはずだ。 つまり、クーカは『彼』を見ていたと自白した事になる。「……」 クーカはしまったという顔をしてから首をすくめた。(やっぱり、お前じゃんか……) あの遠距離狙撃を決めているのだから、手練れの狙撃手だろうなとは思っていたが案の定だった。 それでも先島は逮捕する気には無かった。クーカにもそれは分かっているのだろう。 だから、平気な顔して先島の部屋に遊びに来るのだ。「……本当に中国籍なの?」 クーカがちょっと考えてから聞いて来た。「どういう事だ?」 先島は妙な質問に訝しんでしまった。「北安共和国の軍人の可能性が高いわ……」 クーカはある程度は背後関係を知っているので推測したのだ。でも、その背後関係すべてを先島に説明するつもりは無かった。彼女は相棒のヨハンセンですら信用していない。「あの国の兵隊にしては高価なライフルを使っていたぞ?」 先島は藤井から届いた報告書を思い出しながら言った。「レミントンのM700は金さえ出せば調達が容易だから使ったんでしょ」 国民の生活は省みないが、武器には金を惜しまないのが北安共和国だった。「ドラグノフは調達が難しいのか?」 先島はもう少し鎌をかけてみる事にした。「ええ、難しいわね…… てか、良く知ってるわね?」 クーカは少し驚いた。
Last Updated : 2025-03-28 Read more