埼玉県内にある自動車解体工場。「来ますかね……」 その日、何度目かの質問を青木がしてきた。「その内、来るだろう……」 先島は何度目かの返答を返していた。元々、張り込みなどと言うのは空振りの方が多い。その事を年若い青木は知らない様だった。 先島と青木の二人は、埼玉県内にある自動車解体工場の入り口を見張っていた。 保安室の室長はマルボウに気兼ねしたのか、チョウと関東右山組幹部との接触情報を知らせたらしかった。「ちょっと、アチラさんの手伝いをしてきてくれ……」 室長に呼ばれた二人はそう言い渡された。 見返りに彼らの関東右山組にいる内通者からの情報を知らせて来た。 埼玉県内にある自動車解体工場で何らかの取引が有るそうだ。取引の内容については不明。 『絶対に手を出すなっ!』との赤文字の但し書き付きでだ。身柄を持っていかれるのが嫌だとみえる。 自動車解体工場は外国籍の社長が営んでいるが、犯罪歴などは無く暴力団とのつながりは分からない。「分からない事だらけじゃねぇか……」 先島は嘆いていた。本当は過去の取引相手への聞き込みをやりたかったのだ。 しかし、今日は工場の監視したいので協力しろとのお達しだった。「まあ、お仕事は有難く頂戴しておくか……」 先島は誰に聞かれている訳でも無いのに独り言をつぶやいた。「はあ、そう言うもんですか……」 青木は気の無い返事をしながらスマートフォンの操作を行っている。「藤井さんの方からは何も無いと言って来てますね……」 保安室で留守を預かる藤井から、チョウの行動予測情報を得ようとしているらしい。現在は携帯電話の電源を切っているらしい。だが、万が一電源が入って基地局などに繋がってくれれば大体の位置が予測できるからだ。「何のつもりか知らないがチョウは身を隠そうとしていないようなんだ」 先島は自動車解体工場に通じる道の入り口を見ながら青木に言った。 青木がスマートフォンから顔を上げると、白い塗装のトラックが曲がって来る所だった。「あのトラック…… 怪しいな……」 先島が呟いた。何か特徴があるトラックでは無かった。長年のカンでそう思ったのだけだ。 先島の言葉に青木は反射的に望遠レンズ付きのカメラを構えていた。トラックの運転席には南米系と思われる彫りの深い外国人と、アジア系の薄い顔の男が見えていた。「正
Last Updated : 2025-02-11 Read more