All Chapters of NAMED QUCA ~死神が愛した娘: Chapter 31 - Chapter 40

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第14-3話 すれ違う思い

「ああ、分かってる……」 とりあえず、返答してみた。我ながら間抜けな返事だと先島は思った。もっとも、気の利いた言葉がパッと出て来るのなら、もう少し出世できていたのかもしれない。「ああ、手伝うよ……」 シートベルトを締めるのに手こずるクーカを手助けした。「さっきはあの家族を巻き込まないでいてくれて有難う」 続いて、先島が意外な事を言いだした。クーカはビックリしてしまった。 ぱちくりとした目で先島を見詰めている。「何の事かしら……」 クーカは始めて逢った風を装っている。 闘い終わって褒められることは有ったが、闘わないのを褒められるのは初めてだったからだ。「ところで、日本では武器の所持は禁止されているんだよね……」 そんな先島が言い出した。「そんな物騒な物は持って無いわ」 クーカは助手席の窓を開けて外気を入れた。「自首するという手があるよ?」 先島が話を続けて来た。「何の罪で?」 クーカは素知らぬ顔で答える。「拳銃を持っていたじゃないか」 先程の駐車場での出来事を言っているらしい。「まあ、こんな愛くるしい少女に向かってなんて事を言うのかしら……」 クーカは取り調べを受けても平気なように銃は隠して来た。後で、回収に来れば良いと考えていたのだ。「しかも、殺し屋御用達の減音器まで付いていた奴だ……」 減音器の事を知っているのは流石だと思った。一般的な日本の警察官は銃には詳しくないと聞いていたからだ。「そんな物騒な物は持って無いわ……」 もちろん、減音器もククリナイフも一緒に隠してある。「俺に突きつけたじゃないか……」 クーカは先島を殺すつもりは無かった。そのつもりなら先島は車を運転する方では無く、載せられている方になるからだ。 銃を抜いたのは、先島の殺気に身体が反応してしまったせいだ。 自分でも拙かったと思っていたので、家族連れの接近を察知した時にすぐに退いたのだ。「突きつける? 何の事だか分からないわ」 依頼されても居ない仕事を、彼女はやらない主義だったのだ。それに目に見える脅威と言う程ではない。「あくまでも白を切るつもりなのか?」 先島がムッとし始めた。からかわれていると考えたからだ。もちろん、当たっている。「あら? それじゃあ私の身体検査でもなさる?」 クーカは自分のミニスカートを少しめくってみせた。
last updateLast Updated : 2025-03-08
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第15-0話 追跡の在り方

 保安室。 先島はクーカと遭遇した事を室長に報告していた。「で、本人はクーカだと認めたのか?」 室長はかなり怒っているようだった。それはそうだろう。 クーカは保安室全員で追いかけているテロリストだ。目撃したばかりか接触までしているのに確保しなかったからだ。しかも、報告したのが、取り逃がした後だからだ。「いいえ、認めた訳では無かったですね……」 先島は分かっているだけに何も言わなかった。何を言っても取り逃がした事実が覆される事は無いからだ。 しかし、本当の理由は別の所に有る。 クーカが廃キャンプ場で見せた表情と、国際テロリストの側面とが合わないからだった。 先島は全員が常識と考える事には懐疑的になってしまう部分がある。 それは組織の裏切りに散々な目に逢って来ているせいかもしれない。(きっと裏がある……) クーカほどの殺し屋を日本に呼び寄せた組織があるはずだ。そう先島は考えていた。それが何なのかを探る方を優先する事にした。(目先の事に囚われて本質を見逃すのはもうごめんだしな……) 先島は他の室員には何も言わずにクーカの調査を続けようと考えているのだ。「それで、何か対策は取ってあるんだろうな?」 そんな先島の思いを無視して室長が質問をしてきた。「はい、発信器を彼女の服に付けました」 先島はクーカの外套に発信器を付けたらしい。彼女の行動を分析して、彼なりにクーカを理解しようとしているのかもしれない。「藤井。 発信器三十六番の信号を辿ってくれ」 発信器と言っても十二時間程度しか持たない超小型のものだ。絆創膏みたいな薄型でどこにでも貼り付けることが出来る。しかし、都会などの電波を拾えるエリア限定だった。 先島はシートベルトを締める手伝いをする振りをしてクーカの外套に張り付けていた。「はい」 藤井が返事をして発信器の信号を辿り始めた。 発信器の電波は携帯の無線局を利用して収集出来る仕組みだ。そうすれば三角測定で大まかな位置が特定できる。位置が判れば付近の防犯カメラを利用して対象を探し出せるのだ。 もちろん、違法スレスレな捜査になってしまうが保安室の面々は気にしないようだ。「んーーーーー?」 藤井の指先が軽快にキーボードを叩いている。彼女にとってはいつもの作業だ。 しかし、馴れない人間が見ていると魔法の呪文を打ち込んでいる魔
last updateLast Updated : 2025-03-09
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第16-1話 馬鹿にしてるの?

 食品倉庫。 指定された倉庫は国道沿いにあった。そこは商店街からも住宅街からも離れている。ただ、高速道路の入り口が近いと言う理由で選ばれたらしい。 夜になると街灯と防犯用のライトに照らし出されただけの寂しい場所だ。 しかし、夜間だと言うのに門が開いていた。守衛所には人影が無い。(どうやら歓迎会の準備が整っているようなのね……) 歓迎会とは銃でお互いの健康を祝福し合う形式に違いないとクーカは思った。 門を抜け指定された倉庫に行くと扉の所に男が一人いた。体育会系なのかやたらと身体が大きかった。 なおも近づくと自分の後ろに二人付いて来ているのに気が付いた。もっとも、門の影にいるのは分かっていた。 わざわざ、姿を見せて待ち伏せしていたらしい。(愛想のない事……) 映画のように『良く来たな』ぐらいは言っても良いのにと思えたのだ。 ヨハンセンは電話での会話の中に合図を紛れ込ませていたのだ。それはトラブルの合図だ。 クーカが仕事に失敗した事など一度も無い。ヨハンセンが巧く行ったのかと質問する時には、自分がトラブルに巻き込まれているとの合図なのだったのだ。 彼女が探すと言ったのは、ヨハンセンを監禁した相手である。 身に降りかかる火の粉は根元から消してしまうに限るのだ。 扉の男は何も言わずに開けてくれた。扉の中に入ると後ろの男も付いて来ている。 倉庫は見た目が三階建てくらいの高さで、壁にはキャットウォークもある。倉庫の中は空っぽだった。二十メートル四方の少し暗め空間が開かれていた。 クーカは倉庫の中から漂ってくる殺気に気が付いていた。自分の正面には三人いる。彼ら以外からも気配はあった。(女が一人。その両隣に男が二人……) 男たちは武器を持っているのにも気が付いた。スーツを着ているが胸の部分が妙に膨らんでいる。それに、前ボタンを嵌めていないからだ。これは銃を持っている事を意味している。素早く抜けるようにだろう。(ヨハンセンのいけ好かないオードトワレは匂って来ないわね……) クーカの鼻は訓練で敏感に出来ている。聴覚と違って意識的に感度の上げ下げが出来ないのだ。 だから、香水やたばこの煙を嫌がる。(別の場所に監禁されているのか…… もう、何やってんのよ……) ヨハンセンは元傭兵なのだ。アチコチの戦場を渡り歩き実践も豊富のはずだった。 日本
last updateLast Updated : 2025-03-10
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第16-2話 価値のあるモノ

 女がクーカを見てニッコリと笑った。「用があるのは貴女じゃないわ」 しかし、クーカはむすっとした表情で言い放った。「私にはあるのよ? クーカちゃん……」 やはり、自分に用があるみたいだ。名前まで知っているという事は商売も知っているに違いなかった。 ドアの男が何も言わなかったのは、やはり自分を知っていたのだろうと考えた。「ある人物を始末して欲しいのよ」 女はいきなり用件を言い始めた。しかも、厄介な感じがする用件だ。「ある人物って?」 クーカが聞いた。仕事の依頼なら普通にヨハンセンに頼めば良いのにと考えた。「内閣総理大臣の町山」 女は事も無げに言った。「……」 クーカは黙ったままでだった。「それで、あなたの彼氏には仕事が終わるまで傍に居て貰う事にしたの……」 やはり、監禁されてしまったようだ。「……」 クーカはそれでも黙ったままだ。まだ、相手の思惑が分からないのだ。「大丈夫。 仕事をちゃんと終わらせれば解放してあげるわ」 女はナイフを取り出して来た。脅しているのかもしれない。「貴女たちが約束を守るとは思えないわね……」 クーカが答えた。むしろ口封じに殺されるのが常識だ。自分でもそうする。「彼氏の事が心配じゃないの?」 女は薄ら笑いを浮かべている。人を小馬鹿にする奴に共通する鼻にかかった笑い方だ。「ごらんなさい……」 すると女はクーカの足元に布に包まれた何かを投げて寄越した。 爪先で蹴ると布包みが開き、中に入っていた指らしきものが出て来た。「ふふふ…… 誰のだか聞く必要があるかしら?」 女が煙草をくわえた。すると脇に居た男のひとりがライターに火を点けて差し出した。 そして、煙を一筋吐き出すとノートパソコンの男に合図を送った。 彼はノートパソコンをクーカに向ける。画面をクーカに見せつける為だ。 そこには片手に包帯を巻かれたヨハンセンが写っていた。画面の端にはLIVEの文字が赤く光っている。どこかに監禁されているのだろう。 ノートパソコンを操作していた男は、クーカを見ながらニヤついていた。「要するにヨハンセンは生きているのね……」 クーカの目が光った。もとより、ヨハンセンの事は気にしていない。それよりも自分の知らない組織が、自分の命を握っている気になっているのが癇に障るのだ。 なによりも一番頭に来たのは目
last updateLast Updated : 2025-03-11
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第16-3話 脅しが通じる相手

「ぐあっ」 男は油断していたのか外を見ていた。そこを背後から撃たれたのだ。膝から崩れ落ちてしまった。「!」 続いてキャットウォークにいた男を銃撃した。腹を撃たれた男は前のめりに倒れて一階に落ちて来た。 クーカは飛び跳ねる様に横に飛び、女の両隣に居た男二人に続けざまに銃弾を浴びせた。「うっ!」「あうっ!」 男たちはクーカの俊敏な動きに反応する間も無い。腹を撃たれた彼らはそのまま折りたたまれたように弾き飛ばされた。クーカは立ち上がり男たちの方へと歩み寄って来た。バスッバスッ 枕を殴っているような音が倉庫の中に響いていく。続けて頭部に銃弾を送り込んだのだ。男たちの頭部が西瓜のように弾けていった。 これは瞬殺と言っても過言では無い出来事。彼等はあまりにも無防備過ぎたのだ。クーカが世界中の猛者相手に生き残ってこれた理由を考慮すべきだったのだ。 だが、女は理解出来なかった。自分たちは人質を取っていて、しかも多人数で取り囲んでいたからだった。圧倒的に有利に事を運んでいるとさえ思っていた。「え?」 そう言ったきり唖然としている。 クーカはそれを無視していた。歩きながら狙いを定めて倒れた男たちの頭部に銃弾を次々と送り出していく。止めを刺しているのだ。  最後に通信係の頭部に銃弾を送り出すと、その腹に刺さっている自分のナイフを引き抜いた。絶命しているせいなのか腹から血が噴き出す事は無かった。「……」 しかし、血糊が付いている。クーカは渋面を作って通信係の上着で綺麗に拭った。愛用品が汚れたのが気に入らないらしい。 ククリナイフを背中に戻すと、グロックの弾倉を取り換えた。小型なので八発しか装填されていないのだ。 女は最初に居た位置から微動だにしていなかった。動けなかったのだ。足元には異臭を放つ水たまりが出来つつある。「わ、私が戻らないと人質の命が……」 リーダー格の女の額に汗が滲んできた。相手が子供だと思ってせいもあるが、言う程には強くないと思っていたのだ。「……」 クーカがため息を付きながら女を見据えた。何時ものように見た目で誤解されていたようだ。『脅しが通じる相手』 女は今までは他人の威光を利用してのし上がって来た。自分は他人とは違うと勘違いしていたのだ。 だが、自分が過ごして来た粗暴な人生で、明確な強さを目の当たりにした事の無い
last updateLast Updated : 2025-03-12
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第17-0話 贈答品

 再び多摩川上流の川べり。 先島はクーカを見かけた廃キャンプ場に来ていた。キャンプ場と言ってもバンガローやら水道設備などがある立派な物では無い。 多摩川の小さめな支流に無理やり作られたキャンプ場だ。 川べりの荒れ地を重機で均しただけ設備と名の付く物は何処にも無い。かつてのあったバブル時代に、税金対策として造成されたキャンプ場の一つであろう。 バブルの終焉と共に役割を終えひっそりとしているのだ。「まあ、交通の便が悪いし日当たりも良くないから流行ら無かったんだろうな……」 先島はそんな事を言いながらキャンプ場の中をうろついていた。 そして、この廃キャンプ場に何故クーカが居たのかを調べたかった。それと、直ぐ近所に住んで居る門田実憂との関係だ。(知り合いだから彼女を助けた?) 年頃も似たような印象を受けていたし、第一に門田はクーカを庇っているのが分かっていたからだ。 門田に事情聴取に行った時に、クーカの写真を門田に見せた。だが、知らないと言われてしまっている。しかし、門田の目の瞳孔が開いたのを先島は見逃さなかった。 人間が驚愕した時に見せる反応だった。(しかし、報告書を読んだ限りでは、クーカは外国での暮らしが長かったはず……) クーカは中米の国の出身らしいのは報告書にあった事項だ。(でも、やたらと日本語が上手だったよな……) 車の中での会話を思い出していた。。外人にとって日本語はイントネーションが難しいらしく、独特の訛りが出る物だ。 クーカの場合には普通に日本の女の子でも通りそうな発音だった。(門田との接点が何処かにあるはずだ……) 実際は偶然なのだが、そんな事は信じない先島は迷路に嵌まってしまっていた。 すると、先島の視界を何かが横切った。空を見上げてみると、トンビが上昇気流を捕まえて上空に上がって行く最中だった。「そう云えば……」 先島はクーカが泣いているように見えたのを思い出した。(焚き火を見てメランコリックになったとか……かな?) 年頃の女の子は意味不明に感傷的になると聞いた事が有る。(男の俺には分からん感覚だな…… 藤井にでも聞いてみるか) そんな事を考えながら焚き火の跡をほじくり返した。しかし、炭化した木の枝と灰が残っているだけだった。付近に焚き火の跡が無いので、クーカが焚き火したのはここのはずだった。「まあ
last updateLast Updated : 2025-03-13
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第18-1話 違う種類

 夜の公園。 その公園は都会のビルとビルに挟まれた小さな物だった。そこに藤井は独りでベンチに座って居た。 公園の隣を幹線道路が通っている。首都高速道路の入り口が近い道路には車がひっきりなしに通過していた。(そんなに急いでも誰も気にしていないのに……) 車が一台停車したのが見えた。 車の助手席が開き一人の男が後部座席のドアを開ける為に降りていく。 後部座席の男は席を開けて貰った例などは言わずに降りてきた。そして藤井に向かって真っすぐに歩いて来る。 初老の男だ。その態度はこの世の中は自分を中心に回っていると勘違いしているかのように尊大だった。 藤井は立ち上がって老人がやって来るのを待った。下手に動くと警護の者が飛んでくるからだ。「で、先島はクーカと接触したのかね?」 老人は挨拶抜きでいきなり言って来た。「はい」 藤井は目を伏せたまま答える。「それで、クーカの目的は探り出せたのか?」「そこまでは分かりませんが彼女を追いかけていくつもりの様です」 クーカと接触した先島の様子を彼に伝えた。「そうだろうな…… 優秀な猟犬は目の前の獲物に飛びつくからね」「彼女は暗殺を請け負っているのでしょうか?」 藤井は彼に尋ねた。「それは知らんな。 日本に来ているという事しか知らなかったからな」「はい」「先島は気が付いているのか?」「それはまだだと思います」「彼が巧く踊ってくれれば良いのだがね……」「それは私には分かりかねます……」 藤井が返答に困ってしまっている。彼女が受けた任務は先島の監視だけだ。そして、その事は先島に感ずかれていると感じている。「ああ、そこまでは期待してはおらんよ」「はい……」 そこまで言うと老人は再び車の方に戻っていった。 電話で済む様な内容だ。しかし、自分の力を誇示したがる連中は多いものだ。これもそうなのだろうと藤井は思った。 海老沢邸。 とある日の深夜。海老沢が小用の為に起きた。年のせいか夜中に何度も起きてしまうのだ。 ふと喉の渇きを覚えて台所に行くと、庭に面した窓に寄りかかって一人の男が佇んでいた。「誰だっ!」 海老沢が怒鳴り付けた。「まあ、大きな声を出さずに…… 質問に答えてくれたら直ぐにでも退散しますから……」 暗がりから出て来たのは先島だった。「……」 その時、台所に海老沢の部下が
last updateLast Updated : 2025-03-14
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第18-2話 彼女に聞け

 クーカが手配されるのは構わないが、それに従って上へ下への大騒ぎになるのが困るのだ。出来れば静かに日本を退去してもらうのが一番有難いとさえ考えていた。「何故、クーカに狙われたんですか?」 先島は単刀直入に聞いた。駆け引きは必要ないと思ったのだ。「クーカを知っているという事はマルボウじゃないという事か?」 海老沢は先島をジロリと睨みつけてから言った。彼の感では先島が警察関係者までは分かっていたらしい。 この手の人たちは嗅覚が発達しているのだ。「ええ、違う種類の警察ですよ……」 先島が名刺を渡した。自分の『会社』の電話番号だけが書かれたものだ。「公安か……」 海老沢は名刺を一瞥して突き返した。一目で判ったのは過去になにかしら関係があったという事だ。 そして、名刺を付き返すのは関わり合いになるつもりが無いという意思表示だった。「クーカの事を知ってどうする。 例え公安であろうと一介の警官にどうこう出来る相手じゃないぞ?」 彼女の圧倒的な強さを知っている海老沢は、公権力の強さを認めようとはしないようだ。強さの基準が人に認められることならば、自分の目で見た事が基準になってしまうのはしょうがない事だろう。「どんな力も受け付けない。 天馬に乗り戦場を駆け抜けて死を運ぶ女さ……」 力が全てである彼の人生において、圧倒的な強さを持つ彼女の存在は憧れですらあるのだ。「クーカが殺すのはクズだけだ。 ほっといても警察の邪魔にはならんよ」 海老沢が吐き捨てるように言ってそっぽを向いた。よほど、警察の事が嫌いと見える。「俺の正義は違う所に有る。 彼女が日本の行く末にジャマになるのなら排除するだけさ」 これは本音だ。今までも邪魔になる人物が事故に遭うのを偶然見てもいる。そう、あくまでも偶然だ。 彼は仕事をする基準に日本が安全であるかどうかを気にしている。安全でないのなら、そうなるように誘導するだけだ。安全がただであると誤解しているのは何も知らない普通市民だけだ。 台所から入って海老沢の書斎を弄りまわして退散する予定だった。予定外に本人が来たので多少は慌ててしまっていた。 先島の所属する部署は、多少の無茶は目を瞑ってくれるのだ。 先島は先導するかのように台所から続く玄関ホールに出た。(彼女はここに来て手酷い歓迎を受けたようだな……) 階段の所に弾痕の
last updateLast Updated : 2025-03-15
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第19-1話 隠しカメラ

 雑居ビルの一室。 ヨハンセンはため息をついた。クーカの居た倉庫には天井に隠しカメラが仕掛けてある。 倉庫の防犯カメラとは違う系統なので見つかる事は無いと思われていた。 防犯カメラに映し出された戦闘の模様は一方的な虐殺だった。「話にならない……」 ヨハンセンの隣に居た男はぽつりと漏らした。 自分の部下がやり返す暇も無く倒れていったせいだ。 男の名前は飯田雄一(いいだゆういち)。とある宗教団体の幹部だ。 その宗教団体は『現生からの解放を目指して人類の救済をする』という教えなのだ。 だが、人類の解放を目指す方法が中々やっかいだ。 近い内に人類は滅びの時を迎えるが、教祖を信仰すれば救済されるらしい。 何故なのかは常人には理解しかねるシロモノだった。 そんな団体が何故にクーカに固執するのか、ヨハンセンはそこに興味があったので大人しく捕まっていた。「だから言ったじゃないですか……」 その戦闘を眺めていたヨハンセンが隣の飯田に言った。 例え身内を人質に取ろうと彼女は言う事を聞かないと説得していたのだ。「……」 飯田がショックを受けていたのはそれだけでは無かった。 自分の自慢の兵隊が赤子の手を捻るかのように壊滅させられたのだ。 長年に渡って自衛隊や警察の腕利きを改宗させた苦労が水の泡だ。「僕に人質としての価値は無いって……」 彼らは元軍人や元警察関係者らしいが、クーカとは資質が違いすぎるのだ。彼女は最強になるべく育てられた兵士だ。「……」 飯田は自分が建てた計画が台無しになってしまい苦悩していた。 ヨハンセンに海老沢の情報を与えて、海老沢にクーカの襲撃を知らせたのが無駄になった。 彼女が窮地に陥った所を部下たちが助けて、御仏の道に目覚めさせようと考えていたのだった。 要するに洗脳しようとしていたのだ。「僕と彼女はそういう関係では無いですからねぇ」 飯田たちはクーカとヨハンセンが恋人関係なのだろうと誤解していたらしかった。 確かにビジネス上のパートナーではあるがそれだけだ。 クーカは情報を必要として、ヨハンセンは実行する人物を必要としていた。「ふぅーーーっ」 飯田は深くため息を付いた。 あわよくば腕利きの殺し屋を、手中に収める事が出来るかもしれないと目論んでいた計画は駄目になった。 駄目なものは仕方が無い。次の手
last updateLast Updated : 2025-03-16
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第19-2話 漆黒を纏った天使

 再び海老原邸。「何故、ここに居る…… お前さんが望む物は持って行ったはずだろ?」 海老沢が狼狽えながらクーカに言った。先島は訳が分からずにたたずんでいた。 クーカは海老沢の前にトコトコと歩いて来た。「貴方に連絡をして来たのが誰なのかを知りたいの……」「名前を名乗らなかったから、男としか分からんよ」「携帯電話に掛かって来たの?」「ああ」「じゃあ、携帯電話を頂戴……」「いやだと言ったらどうするんだ?」 いきなり現れて不躾な要求をする小娘に海老沢は憮然としていた。 無関係になれたと思っていただけに余計腹立たしくなったのであろう。 海老沢のような人種は自分が尊大に振舞えない状況を嫌がるのだ。「……自分で死体から探すだけよ?」 何故そんな質問するのかと言いたげに小首を傾げた。一見すると可愛い仕草だ。 だが、彼女が探すと言う意味を理解する者には恐怖の仕草だ。「ああ、分かったよ。 くれてやるから持っていけ!」 海老沢は携帯電話を投げつけようとしたが、思いとどまって手で差しだして来た。 何が彼女の戦闘スイッチを入れるのかが分から無いからだ。 戦闘を直接は見ていないが、彼女が去った後の有り様で理解は出来ているつもりだ。 携帯電話を受け取ったクーカは台所の勝手口を出ていく。「ちょっと、待ってくれ。 門田とはどういう関係なんだ?」 慌てて追いかけて来た先島はクーカに訊ねた。 先島はクーカと門田の関係を問い質してみた。何故、あの工場に居たのかを気にしていたのだ。「門田?」 ところが、クーカは首を捻ってしまった。覚えて無いのだ。何しろ、海老沢邸や生活雑貨用品倉庫で暴れたばかりだ。些末な事に記憶は使わないのであろう。「工場で暴漢三人に乱暴されようとしてた女の子だ。 君が助けただろ」 事件のあらましを説明しようかと考えたが止めにした。自分が切り刻んだ相手ぐらい覚えているのではないかと考えたのだ。「暴漢三人?」 やはり、首を傾げている。どうやら本気で忘れているらしい。「誰の事だか分からないわ」 クーカは首を振りながら答えた。彼女にとっては準備運動にすらならなかった出来事だから当然だろう。「……」 クーカはなおも何かを言いかけた先島の目の前に何かを出した。「そう云えばコレを拾ったわ……」 クーカが先島の警察手帳を出して来たのだ
last updateLast Updated : 2025-03-17
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