アルバイト2日目。前日に引き続いて資料室の片付けが待っているのが分かっているから、家を出るのも少し気が楽だった。頭を使っていろいろ覚えるよりも、ただひたすら身体を動かしている方が向いているのかもしれない。「おはようございます」 センサーの電子音に掻き消されないよう、少し声を張って挨拶する。さすがにもう誰も迎えに出てはくれないから、遠慮なくパーテーションの奥へと入っていく。フロアは無人だったが、キッチンの方から水を流す音が聞こえている。デスク下のスペースへトートバッグを置いていると、ふんわりと珈琲の香ばしい匂いが漂ってきた。 子供舌なのか、咲月は珈琲を飲んでも一度も美味しいと感じたことは無い。けれど、それでも良い匂いだとは思う。まだぼんやりしていた頭がカフェインの香りで一気に覚めた気分だ。 ブラウンのロングワンピに白いカーディガンを合わせた笠井が、シュシュでまとめていた髪をほどきながらキッチンから顔を出す。「あら泉川さん、早いわね」「おはようございます。今日も資料室の片付けをしたらいいですか?」「そうね。昨日、平沼君がどこまでやってくれたか確認して、続きをお願いします。全部出せたら、隣の部屋から荷物を移動させて欲しいんだけど……資料室へ入れる物は羽柴さんに確認してくれる? あ、掃除用具はキッチンの横の棚にまとめてあるから」 「はい」と頷き返しながら、言われた指示を頭の中で反芻する。不要品を運び出した後に掃除して、隣からまた運び込んでいく。うん、完全に肉体労働のフルコースだ。 気合いを入れ直し、咲月は軍手を嵌めつつフロアの壁沿いのドアを開く。「わっ」 資料室と書かれたプレートが貼られたドアの向こうは、がらんとしていた。初めて入った時は荷物で遮断されて日の光を一切通していなかった窓は、ブラインドが下ろされているのに朝日が強く差し込んでいる。照明を点けなくても平気なくらい明るい室内。 咲月が思わず漏らした短い驚きの声が、何もない部屋の中で小さく響く。 ――平沼さん、残り全部運んでくれたんだ。 そう言えば、駐車場の不要品の山は咲月が帰った時
ปรับปรุงล่าสุด : 2025-03-01 อ่านเพิ่มเติม