「ひとまず、ここから先のことはマジェスタ殿にお任せしたほうがいいだろうな」 ケンゾーが自らの孫であるカイトと妻であり女王のセルリアンとの謁見を締め括るように言うと、マジェスタは「かしこまりました」と応じて深々と頭を下げた。 マジェスタとともに謁見の間を出たカイトは、枢密院の議長としての執務室ではなくマジェスタが王宮内に私用で持つことを許されている書室に案内された。 書室は二十畳ほどの広さで、書室の名が示すとおりに壁一面の本棚には書物がぎっしりと収まっていた。 部屋の中央に置かれた大きな地球儀のようなものの前で立ち止まったマジェスタは、「閣下は聡明にして沈着であられます。早速ですがこの世界と、この国について説明などさせていただきたく存じます」 と趣旨を提示することから会話を切り出した。「はい。お願いします」 カイトが素直にうなずくと、マジェスタは穏やかな微笑を浮かべた。「閣下はダイキ卿のご子息。ダイキ卿にこの世界のことを説明したのも私めにございますれば、この世界と閣下がおいでだった世界の相違も把握しております。どうかご安心くださいますよう」「はい……あの、一点だけよろしいですか?」「なんでございましょう?」「俺に対して、そこまであらたまった話し方をする必要はないんですが……」 遠慮がちに言うカイトを見たマジェスタは、目を丸くして驚きの表情を見せたかと思うと声を上げずに小さく笑った。「これは、失礼を。ダイキ卿も会話の始まりに同様のことを仰っておられたと、思い出したのです」 マジェスタが笑いを漏らした理由にダイキの名を挙げるのを聞いたカイトは、(父さんの異世界ファンタジーもこんな感じで始まったのかな……) と思い出と呼べる記憶のない父親への想いを短く巡らせた。「……そうですか、父も」「ダイキ卿も聡明であられましたが、打ち解けた会話を好まれる方でした。酒を好むダイキ卿に誘われ、夜更けまで酒席で語らうこともありました……分かりました。少し話し方を崩しましょう」 マジェスタの口調から、カイトは父親が好人物だった印象を受け取って安心した。「はい。お願いします」「では閣下。このテルス儀をご覧ください。この星、テルスには四つの大陸がございます。アフラシア、ゴンドワナ、アウストラリス、アンタークティカ。そして、我々のいるミズガルズ王国は……
Last Updated : 2025-02-02 Read more