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All Chapters of クラックコア: Chapter 41 - Chapter 50

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第020-1話 一人カラオケ

自宅。 ディミトリは病院の事務室に侵入して、職員名簿から鏑木医師の住所を手に入れていた。 侵入と言っても誰もいない瞬間を見計らって室内に入っただけだ。 何故か不審がられなかったのは謎だが、業者か何かと間違えられたのだろうと考えることにした。 自宅はディミトリが住んでる市内であった。確かデカイ家がたくさんある地区だ。 帰宅したディミトリは携帯型超音波診断機を作動させた。超音波端末にローションを塗って自分の腕に当ててみる。 黒いベルトを巻いていた付近を真っ先に調べた。すると左腕の上腕に何かが有るらしいのは分かった。(こんな玩具みたいなのでも役に立つんだな……) 画像部分に白くて四角い物が映されている。金属なので超音波を全反射してしまうので真っ白なのだ。 位置関係を考えると腕の裏側に当たる部位だ。(確かに日本ってのは先進国なんだな) 妙なところで感心してしまった。日本の民生品は凄いものだと認識を新たにしたのだった。(此処じゃ目視では分からない訳だな) 確かに腕の裏側など見る機会はそうそうには無い。むしろ無関心なのが普通だろう。 そこに目をつけて追跡装置を埋め込んであるのだ。(こういう事に手慣れている組織だな……) 自分が相手しているのは諜報機関である可能性が出てきた。 警察であればこんな事はやらない。彼らは逮捕して威嚇して黙らせるのを得意としている。 諜報機関は対象の詳細な情報を得るのが目的だ。泳がせる為に追跡装置などを使いたがる。 そして目立つのを嫌がる。事件化するぐらいなら対象を抹殺するのも手口だ。 これは万国共通の習性なのだろう。 腕の後は身体のアチコチを超音波診断装置で見てみた。 見た感じでは腕以外に反応があった部位は無い。(とりあえずは此処までにしよう…… ヌルヌルして気持ち悪いや……) 全身がローションまみれに成ってしまったのでシャワーを浴びることにする。(ド貧乏国家の市民が先進国に行きたがる訳だな……) シャワーを浴びながらそんな事を考えていた。 先進国ではネット通販で色々な物が購入できるので便利だ。 レントゲン撮影なら確実だが、個人で手に入る代物では無いので諦めた。 大体の場所は分かったので、再び鏡に写して場所を探す。 すると薄っすらと細い線が見受けられた。ここが追跡装置が埋め込まれた手術跡に違
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第020-2話 尋ね人

 遮断カバーを付けて店に入り、道路に面したボックスを割り当てて貰う。 そこから道路を見張りながらカラオケを歌っていた。 三十分ぐらい歌っていたが彼らが現れないのを確認すると遮断カバーを外してみた。 ロシアのラップ歌手の歌を歌っていると、彼らがやってくるのが見えた。(どうやら遮断カバーは機能しているようだな) ディミトリは不審車を見ながらニヤリと笑った。 何故こんな面倒な事をしているのか言うと、こちらが追跡装置の存在を知っていると思わせないためだ。 カラオケボックスに入っているので、電波が不調だったのだと勘違いさせるためだ。 でなければ金の無い高校生カップルがラブホ代わりにしてる所なんぞに来ない。(結果は上々…… 帰るか、ここは臭くて叶わない……) 店を出ようとしたら大串が彼女と来店したところだった。 向こうは『うげっ』とした顔をしていたが、ディミトリは爽やかに挨拶して別れた。「何アレ、一人カラオケってダサくない?」「よせっ……」「どうしたの?」「良いから……」 そんな会話を背にしながらディミトリは帰っていった。勿論、不審車も距離を保って付いていった。 帰宅したディミトリは鏑木医師のスケジュールを思い出そうとしていた。 家に帰るより前に侵入して、色々と下調べをしたかったからだ。今夜は当直で留守にしているはず。 帰宅するのは明日の夕方以降であるはずだ。(御宅訪問は夜中だな……) 医者の自宅に押し入った。玄関の所に警備会社のシールが貼られているのが見えている。 金持ちだし防犯に気を使うのは当然だろうと考える。 警備会社の防犯システムとは窓などに振動センサーが付けられている。 つまり、ソッと開けてもセンサーが反応して警備会社に通報が行ってしまうのだ。 だが、ディミトリも対処法はいくつも知っている。強襲の作戦時にはセンサーに反応しない場所を調べてから入るからだ。 今回は二階の屋根裏部屋だ。そこには通気口があり、年中開いているのは見ていたからだ。 雨樋を使って屋上に上がり、天井裏にある納戸の窓から侵入してやった。(これじゃあ、まるで猿だな) 自分の事をそんなに風に例えてクスクス笑ってしまった。 家の中に侵入したディミトリは家探しをした。コレと言って目的が有るわけではないが手がかりぐらい欲しかったのだ。 だが、綺麗に
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第020-3話 不意の来訪者

「若森くんじゃないかね…… 君こそ、何でここに居るのかね?」 だが、ディミトリを見て少し驚いたようだが冷静さを取り戻した。 鏑木医師は盛んに外の様子を気にしている。「見張りのことを気にしているんですか?」「……」「大丈夫」「連中は俺がどこに居るのか分からないようにしてあるんだよ」 ディミトリは左腕をまくってみせた。上腕には遮断カバーが巻かれていた。「それは……」「ああ、追跡装置が此処に埋まってるんだろ?」 ディミトリがニヤリと笑ってみせた。鏑木医師は明らかに動揺していた。 ここで知らないふりをするようならディミトリの勘違いだったが彼は分かっているようだ。「大丈夫、電波が出ていないのは確認してあるからさ……」「……」「ファンクラブのおっちゃんたちは俺が自宅に居ると思って安心しているのさ」「……」 鏑木医師は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。「さあ、知ってることを教えてもらおうか……」「な、なんの話だ!」 鏑木医師は知らない振りをしようとしている。「おいおい…… この段階で惚けても無駄だよ……」「俺は何もしらんぞっ!」 鏑木医師はなおも白を切り通そうとした。だが、無駄だ。「俺が元々誰だかは知ってるんだろ?」「……」「じゃあ、元の商売も知っている訳だ……」「優しく聞いて欲しいのか、激しく聞いて欲しいのか…… どっちだ?」 ディミトリの手には自作のスタンガンが握られている。「俺は激しい方が好みだがな……」 スタンガンをバチバチ言わせながら詰め寄ってみた。「わ、私は頼まれて『クラックコア』の経過観察をしていただけだ……」 鏑木医師は動揺を見せ始めた。やはり、この手の人種には目に見える暴力の方が効果があるようだ。 日頃から持て囃されているので、悪意を向けられることに慣れていない。そして、尋問されることにも慣れていない。 少し脅すだけで簡単に口を割ってしまう。「クラックコア?」 ディミトリは聞き慣れない用語に戸惑ってしまった。 詳しく話をさせようと、ディミトリが鏑木医師に一歩近づいた。バスッ 不意に鈍い音が窓から響いた。見ると窓に小さな穴が空いている。 それと同時に鏑木医師の頭が半分消し飛んでいくのが見えたのだ。(狙撃っ!) ディミトリはすぐさま床に伏せて、這いずって窓際に移動した。 状
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第021-1話 ロックンロール

鏑木医師の自宅。 狙撃手はひとブロック先のマンションあたりと見当を付けた。距離にして六百メートルくらいだろう。 これだけ遠いと双眼鏡でも無いと確認が出来ない。(まいったね……) ディミトリは傍にあったクッションに帽子を被せて窓から出してみた。 すると五秒ぐらいしてから帽子が撃ち抜かれた。銃弾を発射した音は聞こえてこない。 ライフルの銃撃音は結構大きいものだ。それが、聞こえないということは減音器を装着してるのだろう。(中々の腕前だな……) 撃ち抜かれた帽子を見ながらディミトリは感心した。(でも、狙撃手は一人きりだな……) 狙撃を行うためのスコープは視野が狭い。だから、帽子を撃つのに時間がかかっていたのだろうと推測した。 軍隊の狙撃はスポッターと呼ばれる兵隊が傍に付いている。狙撃手の視野の狭さを補佐する為だ。 スポッターが居るのなら五秒も掛かるはずがないとディミトリは結論づけたのだ。(つまり、少人数の襲撃チームというわけか……) やってくるのは二人組の男たち。顔の所に何やら四角いゴーグルを掛けているように見える。 それはディミトリにも馴染みのものだった。(暗視装置!) 狙撃する者と襲撃する者に別れている。八人ぐらいの部隊だろうなと当たりを付けた。 これは特殊部隊が運用される単位に近かった。(間違いなく厄介な連中だな……) 家の中に入ってきたらしい。しかし、男たちは音を立てなかった。(この足運び方法は…… 兵隊だな……) 戦場の最前線を思い出すようだ。(あのヒリヒリとした熱い空気が、空間に充満している感じ……) ディミトリは嬉しくて爆発しそうだった。自分の居場所だからだ。(嬉しいね…… よしっ今夜は丁寧に君たちを殺してあげるよっ!!) ディミトリがニタリと笑った。無垢の市民相手では無いし、ちょっと腕に覚えがある程度のチンピラでは無い。 プロの殺戮者が相手になるのだ。手加減せずに兵隊時代に培った技術で戦えるのが嬉しいようだ。(まあ、これが本来の俺だ……) まず、手前の男から片付ける事にした。壁際に張り付き男が近づくのを待ち構えた。 殺意が静かに動いてる感じがする。 やがて銃を構えた男がディミトリの目の前に現れた。「ロックンロール(戦闘開始)」 暗闇からディミトリの声が響いた。男はぎょっとしたように立ち止まっ
last updateLast Updated : 2025-01-18
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第021-2話 静かな反撃

(装備は警察の突撃部隊の奴に似てるな……) すると廊下の方からミシリと音が聞こえた。二人目だ。軍隊はツーマンセルと呼ばれる二人組で行動するのが常だ。 ディミトリは再び壁に張り付いた。この後、相手は鏡で部屋の様子を見るはずだ。その時に隙が生じる。 少しだけ待つとディミトリの望んだ展開になってきた。小さな手鏡が壁の向こうから現れたのだ。 ディミトリはしゃがんだ姿勢のまま、壁の向こうに銃だけを突き出し。三発ほど連続で撃ち込んだ。「ぐあっ!」 悲鳴にも似たうめき声が聞こえた。どうやら命中したらしい。 ディミトリは寝転んだまま、身体を壁からはみ出さ連射させる。「あうぅぅぅ……」 もうひとりの男は片足を撃ち抜かれて、片膝を付いた状態でいる。 ディミトリは手に持っていた拳銃で相手の暗視装置ごと撃ち抜いてやった。(こいつの装備は後で回収しよう……) 一人目が耳に付けていたイヤホンを外して聞いてみた。情報収集の為だ。『A隊怎麼了?(Aチームどうした?)』(え? 中国語!?) ディミトリは中国語を知っている訳ではない。何となくそんな感じがするだけだ。 もちろん無線の中を飛び交っていたのは中国語だ。『應答(応答しろ)』『拘束了目標嗎?(目標を拘束したか?)』『應答(応答しろ)』 Aチームというワードは理解できた。恐らくはディミトリが片付けた二人の事であろう。 うめき声の後で応答が無くなれば何かが有ったと考えるのは当然だ。『A隊沉默(Aチーム沈黙)』『出乎預料的事項發生(想定外の事項が発生)』『我是接近的男人想為目標(目標に接近した男だと思います)』『B隊那個傢伙也壓制(Bチームはそいつも制圧しろ)』『了解(了解)』 そして今度はBチームのワードが出てきた。(Aが居るという事はBもあるって事か……) 普通に考えれば様子を見に行かせるのだろう。 最低でも後二人遊んでもらえる。ディミトリはニヤリと笑った。ガタンッ 二階で物音が響いた。何かを落としたような音だ。 きっと、Bチームは二階の捜索を担当していたのだろう。 ディミトリは廊下を素早く移動して、階段横にある納戸に入った。待ち伏せするためだ。 Bチームの二人はゆっくりと慎重に階段を下りてきた。 そして、連絡が取れなくなったAチームが居るはずの、リビングに向かおうとしてい
last updateLast Updated : 2025-01-18
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第021-3話 パンツ収納

 二人の死体から装備などを外し始める。全員が同じ装備を付けていた。(折角、装備はそれっぽいのを用意したのにな……) 何だか呆気無く片付いてしまったからだ。これは彼らの練度が足りないからではない。 実戦経験が無いので、どこを見て警戒しなければ成らないのかが分からなかったのだ。 これが米軍やロシアなどの、実戦経験豊富な兵隊相手だったら一人では無理だっただろう。(まあ、いいや) 兎に角、ディミトリは短機関銃と拳銃と弾薬を手に入れた。 軍用の暗視装置や小物たちもだ。これは想定外の収穫だった。『B隊怎麼了?(Bチームどうした?)』『壓制了目標嗎?(目標を制圧したか?)』『應答(応答しろ)』 無線の相手は混乱しているようだ。(医者を始末しに来たんじゃなくて攫いに来た感じか……) 鏑木医師を葬り去るだけなら狙撃して死体回収だけで済んだはずだ。 ところが重装備のチームを待機させていたのは、誘拐を企てていたに違いないとディミトリは結論づけた。(じゃあ、何故鏑木医師を射殺したんだ?) ここで『クラックコア』の単語が頭に浮かんだ。 恐らくは、彼らは『クラックコア』の事が露見されるのを好まないに違いない。(ん? 何で鏑木医師が『クラックコア』の単語を口にしたのを知っている?) ディミトリは室内が盗聴されている事に気がついた。可能性が高いのは携帯電話であろうなと考えた。 何しろ自分も携帯電話を使った盗聴をやっているからだ。 これだけの装備を用意出来る連中がやらないわけが無い。『狙擊手告知情況(狙撃手は様子を知らせろ)』『很好地看不見(良く見えない)』『……!……』 無線機の相手が盛んに怒鳴っている。言葉が分からなくと相手が相当苛立っているのが理解できるぐらいだ。 武器を持たないはずの医者を攫おうとしたら反撃されたのだ。 子供のお使い並みに簡単な仕事だったはずだ。なのに襲撃部隊は壊滅状態に成ってしまったのだから無理もない。(引き上げどきだな……) 彼らの目的は鏑木医師の拘束だったに違いない。 目的が達成されていない以上、増援が駆けつける可能性が高い。 もう少し戦いたかったが深追いは禁物だろう。 そろそろ撤収してしまわないと動きが取れなくなってしまう。(これがジョーカーで無ければいいんだがな……) ディミトリは鏑木医師宅の裏側
last updateLast Updated : 2025-01-18
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第022-1話 怪しい同類

自宅。 自宅に帰ってきたディミトリはそのまま寝てしまった。疲れていたのもある。(折角、忍び込んだのに無駄足になっちまった……) 実際は肝心な事が何も聞けなくてふて寝したのだ。 機嫌が悪いまま起き出して階下に降りてゆく。「おはようー」 ディミトリは起きて直ぐにテレビを点けてみた。祖母は台所仕事に忙しいのでラジオ派なのだ。 ニュースを注意深く探ったが、鏑木医師の話は何処にも出てこなかった。(おかしい…… 少なくとも死体が一つは出るはずだ……) 昨夜は鏑木医師を入れて五体の死体が出ているはずだ。 だが、新聞にも出ては居なかった。 あの騒ぐことだけが大好きなマスコミが黙っているはずが無い。大ニュースになると思っていたのだ。(まだ、死体が出ていないか、事件がもみ消されたかだな……)  恐らく後者の方だろうとディミトリは推測した。だが、少し考えを整理する必要がある。 まず、鏑木医師が殺されてしまった理由だ。(医者を裏側の世界に引っ張り込むのは大変だろうになあ) 医者という職種は特別だ。普通の人には無い技能があり、常人には代えがたいものだ。 だから、生かしておけば幾らでも使い道があったはずだ。 なのにあっさりと始末されてしまった。(……) それには射殺してしまうだけの理由があったのだ。 つまり、ディミトリと対峙している時に、致命的なミスをしでかしたからだろう。(そう言えばクラックコアの単語を口にした途端に射殺されたよな……) 射殺される寸前に鏑木医師は『クラックコア』の経過観察を依頼されていると口にした。 きっと、重要な事柄で有ったのは推測出来る。(経過観察を依頼されてる…… か……) 依頼した人物が居ると言うことなのだろう。その人物は自分にクラックコアなる事を行った人物であろう。 それが謎の不審車にも絡んでいるに違いない。(つまり、日本語を理解できる奴がいて、余計な情報を漏らす前に始末させた) あの時、鏑木医師は携帯電話をポケットにしまっていた。つまり、携帯電話経由で盗聴されていたのでは無い。(室内に盗聴器が有ったのかもしれないな) もしくは監視カメラが有ったかも知れない。定点で監視するには有効であろうと考えた。 だが、襲撃してきた奴らは中国語を話していた。(日本人と中国人の混合チームだったのだろうか?) 無
last updateLast Updated : 2025-01-19
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第022-2話 脳の移植手術

 日本は四方を海に囲まれている。なので、銃器を密輸させるとしたら海上での受け渡しになる。 外洋を渡れる船が用意出来て、日本のコーストガードに怪しまれない身分の組織だ。(つまり国際的な繋がりがあり、殺人事件程度など簡単に揉み消せる力がある……) 自分が相手しているのは、世界を股に掛ける犯罪シンジケートなのかもしれない。 そう思うと、何だか壮大なスケールの話に成りつつあるなと考えた。(中学生が夢想する夢物語かよ……) ディミトリは余りのバカバカしさに苦笑してしまった。「で、そんな連中が何で俺に用があるんだ?」 思わず真顔で声に出してしまった。 自分は戦場においては使い捨てに等しい傭兵だ。替わりなど山程居る。 過小評価はしないが過大評価もやらない。ディミトリは冷静な人間のつもりだ。(その組織の弱点に通じているとか……) 手術後にディミトリであった記憶がすべて蘇っているわけでは無かった。まだ、ぼやけている部分も多い。 きっと思い出していない何かが有るのかも知れないと推測した。(クラックコアって言うのは、きっと脳の移植手術を示す単語に違いない……) これまでの経緯を考えると思い当たるのはそれしか無かった。 爆弾で吹き飛ばされる寸前までは傭兵のおっさんであった。 しかし、目が覚めるとニホンの男子中学生に成り代わっていた。しかも記憶はディミトリのままである。 脳を移し替えたとしか思えなかった。 ただ、脳の移植手術がどんなものなのか、想像が出来ないのが難点だった。(もっと勉強に身を入れておくべきだったな) 大人になると誰しもが抱く感情だ。 あの時もっと勉強をしておけば違う人生を歩めたのにと後悔してしまうものだ。(今度から追跡装置じゃなくて手術の痕跡を探さないといけないのか……) ディミトリは自分の頭を手鏡で見てみた。手術というからには何らかの痕跡が有るかもと考えたからだ。(脳の移植手術なんか非合法なので口封じか……) きっと日本以外でも脳移植の実験を繰り返しているに違いない。 彼らはそれとの繋がりが、露見するのを恐れていると結論づけた。 鏑木医師がしたミスが何なのか分かったような気がしてきた。(後、中国語を覚えておくと、この先々とても便利かもしれない……) ディミトリは中国語とノートに書き出した。地球上でもっとも話す人が
last updateLast Updated : 2025-01-19
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第023-1話 轢き逃げ女

自宅。 ディミトリは次の懸案を考えることにした。「とりあえずはコイツを取り出すか……」 自分の左腕にあると思われる追跡装置を外すことにした。きっと、自分がディミトリである事はバレている。 今後、相手側がどう出るのか不明だが、自分の所在位置をワザワザ教えてやる義理もない。(さてさて、轢き逃げ女は何処に住んでるんだ?) 女の車につけた携帯電話の位置情報は、とあるアパートの前で停止したままだ。 見ると病院のある市の二つ隣の市だ。つまりディミトリの住んでる街を挟んで隣に位置している。 ディミトリは手にしたスマートフォンで、『轢き逃げ女』に仕掛けた携帯電話の行方を監視していた。「ここが住んでいる場所か……」 ディミトリは携帯電話の位置情報が示している緯度経度から地図で場所を特定した。 ストリートビューで見た感じはちょっと古めのアパートだ。 ここが住んで居るアパートに違いないとディミトリは確信した。思い違いの可能性も有るが、それを調べるのはこれからだ。「じゃあ、監視カメラを置いて部屋探しでもしますかね……」 夜中に位置情報の示すアパートに赴き、監視用のビデオカメラを設置した。 ビデオカメラと言っても詐欺グループの監視に使ってたやつだ。見た目は黒色で四角い箱型の物。 それを電柱に貼り付ける。一見すると電柱の付属品のように見えるので怪しまれないと考えたのだ。 中の映像はマイクロSDカードに記録されているので回収は容易なものだ。 本来なら携帯電話に繋げて遠隔操作出来れば良いのだが、手持ちの携帯電話は数が限られているので仕方がない。 手持ちのやつは自宅を見張るのに使っているのだ。「もう少し小道具が有ると良いんだがなあ……」 それは自分が鏑木医師の家に居た事を知った連中が、どういう行動に出るのか不明だったからだ。 もし、待ち伏せされるのなら、事前に知っていると居ないのとでは生存確率が違ってくる。 だが、見た目が中学生であるので出来ることは限られてしまう。いかんともし難いが出来る範囲で努力するつもりだ。(まあ、戦場だともっと酷い状況に何度もさらされたからな) ふとした拍子に戦いの場を思い出し、アレよりはマシと自分に言い聞かせるディミトリであった。 ビデオカメラの設置と同時に、アパートの住人全部の名前を入手しておいた。 別に難しい事をす
last updateLast Updated : 2025-01-20
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第023-2話 ゲスい女の匂い

 一日間を空けてデータを回収してくる。不審車は相変わらずディミトリの日常を見張っていた。 鏑木医師の盗聴をしていたのなら、ディミトリが同じ部屋に居たことを知っているはずなのに不思議だった。 だが、腕の方には電波遮断カバーを付けてあるので、ある程度は自由に行動できるのが有り難かった。 轢き逃げ女の調査と言っても、動画を見ているだけなので退屈だ。 ディミトリは先日回収した武器の手入れを始めた。祖母には玩具のエアソフトガンを買ったと言ってある。 実際に買って空箱だけ残しておいただけだ。中身は同じクラスのガンマニアにくれてやった。 こうしておけば部屋に本物が有っても区別が付かないだろうと考えたからだ。 その内、どこかに隠す必要がある。だが、それはまだ先だ。 ディミトリはベテランの兵隊だったので、分解程度なら手元を見なくとも出来るように訓練されている。 これは暗闇の中で分解掃除する事になっても平気なようにするためだ。 今回はサビが付かないように、グリースをたっぷりと付ける事を目標にしている。 回収してきた動画を早送りで再生させていると問題の箇所に差し掛かった。「……夕方の時間で…… ここか…… 居た!」 『轢き逃げ女』は夕方には真っ直ぐに帰って来ていた。きっと真面目な人柄なのだろう。 録画する時にタイムスタンプを入れてあるので分かるようになっている。「兵部さんね…… これは葵(アオイ)と読むのだろうか……」 彼女がアパートの入り口から入っていたタイミングと、室内が明るくなった部屋を照合して名前を特定できたのだ。「初めまして兵部葵さん」 ディミトリは画面に向かって挨拶をしていた。これで彼女の行動パターンは手に入る。 次は彼女の家に押し入って手術に協力するように『お願い』するだけだ。 何かと上手くいかない日々だったが、今回はスムーズに問題が解決できそうだ。 彼は珍しく上機嫌だった。(あれ? 可怪しいな……) だが、ディミトリは直ぐに怪訝な顔になった。(住んでるのが此処だとしたら……) 地図を見るとアパートから病院までは道路一本で行けてしまうのだ。 詐欺グループの居たマンションには用は無いはずだ。だから、轢き逃げをした道路を通過する必然性が無い。 商店街に面しているわけでも無いし、病院に関係するものも無いごく普通の住宅街だ。
last updateLast Updated : 2025-01-20
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