兵部アオイのアパート。 ディミトリは夕方になるのを待って目的のアパートにやってきた。 二階建てのアパートは部屋が上下合わせて十戸だ。極普通の安アパートという感じで独身者が好みそうだ。 出入り口は外に面しているが、隣家との間に壁があり人目は避けられる事に気がついた。(窃盗犯に狙われやすそうな作りだよな……) 住宅街に在る為なのか、幸いにも人通りはまばらだった。ディミトリはアパートが見える道路に自転車を止めた。 まだ、夕刻を少し過ぎたあたり。一般的な家庭なら夕飯の支度で忙しいし、勤め人なら帰宅の途中のはずだ。(まあ、それを狙ってやってきたんだが) そのタイミングなら部屋への侵入が容易であろうとやって来たのだ。 友好を求めて来た訳では無いので、相手が留守である必要があった。(よし、どの部屋も電気は点いていないな……) 目的の部屋に電気が点いている様子は無い。睨んだ通り留守のようだ。 ディミトリは自転車から降りて、まるで帰宅した住人のような雰囲気でアパートに近づいていった。 此処までで人とすれ違った事が無い。人通りが途絶える瞬間なのであろう。 ディミトリは誰かとすれ違うようなら中止して帰宅しようと考えていた。(確か、この部屋のはず……) アパートの安そうなドアを見ると、想像した通りのドアスコープが付いている。 これなら詐欺グループのマンションに入った時と同じ手口が使えると彼は安心した。(よしよし、想定内だ……) ディミトリはドアスコープを外し、穴から内視鏡を入れて鍵を外した。 内視鏡には簡易的に使えるマジックハンドが使えるので遠隔で操作するのに適している。(最初は操作するのに難儀したけど、今は楽勝だぜ) ドアを静かに開けて目的の室内に素早く忍び込んだ。 そのまま、ドアに張り付いて外の様子を窺う。誰かが近づいてくる気配が有れば見つかっていると言う事だ。 窃盗などで見つかるのは侵入する瞬間が多いと聞く。ディミトリにとっては緊張の瞬間であった。(まあ、アパートの住人は独身者だけだったみたいだけどな……) 幸いにも何も動きは無かった。まだ、誰も帰宅していないのであろう。だからこの時間帯なのだ。 ディミトリは安心したのか、一度深く深呼吸をしてから振り返った。 落ち着きを取り戻してから室内を観察する。朝から見張っている訳では無い
Last Updated : 2025-01-21 Read more