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All Chapters of クラックコア: Chapter 31 - Chapter 40

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第015-1話 戦場での術

襲撃の当日。 真夜中に目を覚ましたディミトリは二階の窓から双眼鏡で外を眺めた。例の不審車が居るかどうかを確かめるためだ。 二ブロック先の交差点を見てみたが問題の車は居なかった。(やはり、夜中は見張っていないのか……) もっとも、他の場所に変更した可能性もあるが、それは低いだろうと考えていた。(本格的に見張るのなら複数台で交代するはずだからな……) 見張りだけで何も接触してこないのも不思議ではある。彼らの意図が良く分からない。 だが、分からない事で悩んでいてもしょうがない。今は目の前にある問題に取り掛かることに決めた。 それでも念の為に家の裏側から、他人の敷地を通って抜け出した。自転車は予め公園に駐めておいたのだ。(五時頃までには戻りたいな……) 昼間は普通の中学生を演じているので、突発的な休みはしないようにしている。(良い子を演じるのも大変だぜ……) そんな自虐めいた事を考えながら、詐欺グループのマンションに着いた。 夜中であることもあり、誰とも擦れ違う事はなかった。  マンションの入口付近には防犯カメラがあるのは知っている。 なので非常階段側に回り込み、外についている雨樋を足がかりにして乗り込んだ。 何も正面から行く必要は無い。これから行うことを考えると、防犯カメラに映り込むのは避けたい所だ。 そして、静かな階段を上り外廊下を走り抜ける。いつもながらドキドキする瞬間だ。(このドキドキ感がたまらないよな……) 訳の分からない感想を考えながら目的の部屋の前に来た。 マンションのドアに取り付き、ドアスコープを覗き込んだ。人の移動する気配は無い。 ドアスコープは中から外が見えるように作られている。だから、中が見えるわけでは無いが動く影ぐらいは見えるのだ。 ドアスコープをペンチで外して、その穴から内視鏡を差し込んだ。胃の検査とかに使う器具。 内視鏡でドアに付いている鍵のノッチを回せば、鍵が無くとも家の中に侵入できてしまう。 これは空き巣が良くやる手口だ。ドアスコープが何の脈絡も無く取れていたら要注意。(よし、ひとまずは成功だ……) ディミトリはいとも簡単にアジトに忍び込むことに成功した。賃貸物件サイトの案内では2LDKのはずだ。 マンションに入った瞬間に想ったのは『酒臭え』だ。マンションの中には男たちのイビキが響いて
last updateLast Updated : 2025-01-12
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第015-2話 会話手段

 ディミトリは厚手のマスクを口元にして、携帯の音声加工アプリを使い始めた。 今のディミトリの声は中学生の坊やの声なので凄みが無いためだ。『金は何処だ?』 音声加工アプリから流れ出す器械的な声が部屋に響く。 質問はシンプルな方が良い。彼らに余計なことを考えさせる暇を無くす為だ。「金なんかねぇよっ!」 リーダーらしき男が答えた。ディミトリは最初から彼らが白状するとは思ってもいない。 だが、彼らと会話する手段は幾らでも知っている。色々な手段は経験済みだからだ。『……』 リーダーの顔に持ってきたマスクを掛けてやり、それからマスク全体に酢を垂らしてやった。「ゲホッゲホッ」 酢特有の刺激臭にリーダーはむせ返っていた。顔を左右に振ってマスクを外そうとするが叶わない。『金は何処だ?』 ディミトリは再び質問した。器械的な声が部屋に流れる。「だから、ねぇって言ってるだろうっ!」 やはり、酢程度では駄目なようだ。次は酢酸を掛けてやった。 これは写真の現像などに使う皮膚などに付くと爛れてしまう程の酸性を持っている。当然刺激臭もキツイ。「ゲホッゲホッゲホッゲホッ」 リーダーの咳き込み具合は酷くなった。喉の奥から絞り出すような咳き込み方だ。 何も喋らないので今度はアンモニアの小瓶を鼻先に突きつけてやった。「むがぁっ!」 アンモニアは効いたようだ。仰け反るような仕草を見せたか思うと項垂れてしまった。 他の三人はリーダーの咳や声を聞くだけでビクリとしていた。時々、ぶん殴ることも忘れない。 いつ自分に拷問の番が回ってくるのかを分からせないようにする為だ。 そうやって恐怖心を植え付けるのが上手く尋問を行うコツだ。『金は何処だ?』 きっと、際限なく拷問されると観念したのだろう。「―― 本当に無いんです ――」 リーダーは目と鼻と口から色々なものを垂らしながら言ってきた。『十本有るのは知っている。 何処だ?』「あ、アレはもう渡した……」 リーダーは即答してきた。 此方は金が集結しているのを知っている。そう示唆したつもりだったが頭が回っていないようだ。 まだ、金が無いと言い張るつもりのようだった。『それは明日じゃなかったのか?』「えっ……」 ここでリーダーは襲撃者が金の行方のことを知っている事に気がついた。少しトロイようだ。「ちょっ
last updateLast Updated : 2025-01-12
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第016-1話 クズカード

詐欺グループのアジト。 想定していなかった玄関のチャイム音にディミトリは反応した。 まず、四人の口にテープを貼り直したのだ。声を出されたら困るからだ。四人は何やらモガモガ抗議していたが無視した。 部屋の電気を消して玄関ドアの所に行った。外の様子を窺うために、ドアスコープ越しに覗こうとした。 だが、ドアを睨みつけたままで動くのを止めた。(ん?) ドアスコープの部分に違和感を覚えたのだ。(……) 直ぐにそれが何なのかは気づいた。(確か玄関先に廊下の蛍光灯が点いていたはず……) つまり、ドアスコープからは灯りが漏れていないといけない。 だが、ドアスコープは暗くなっているのだ。そして、見てる間に再び明るくなった。(つまり…… ドアスコープ越しに中を覗いている奴がいると言うことか……) それはディミトリにも覚えがある事だ。自分自身がこのマンションへ侵入する時に同じことをしたからだ。 勝手が分からないのに突入するのは馬鹿のやることだ。(泥棒じゃないよな……) 泥棒も強盗もチャイムは鳴らさない。 ディミトリは玄関ドアに耳を付けて、外の様子を窺ってみる。何やら動く気配はあるがハッキリとはしなかった。 そこでディミトリはベランダから様子を見てみようとリビングを横切った。 詐欺グループの男たちはモゾモゾと拘束を解こうと動いてる。(宅配便…… じゃないよな……) ベランダが見える窓に寄り添うように立って、カーテンの隙間から外を覗いてみた。 カーテンが揺れないようにそうっと見るのだ。 すると、目付きの悪い男が熊のようにうろついているのが見えている。時々、この部屋の方向をチラチラ見てる。(何だよ…… ヤクザのカチコミか?) ここの連中はアチコチに恨みでも買ってるのだろうかと思い始めた。恨みを買わない方がおかしいとも言える。 やっている仕事内容からすると、縄張り争いなども考えられる。 だが、男のもとに何人かが近づいていくのが分かると考えを改めた。(男が三人に女が一人…… ちっ、警察のガサ入れじゃないかっ!) ヤクザのカチコミならゴリラみたいな野郎が詰めかけるはずだ。女性が混ざっているのは警察関係者である証拠だ。 そして早朝の時間にやってくるのは詐欺グループの家宅捜索なのは明白だった。 裁判所の出す令状には時間的な制約があるのだ。時
last updateLast Updated : 2025-01-13
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第016-2話 漏れる灯り

(借金返さない奴の所にロケットランチャー打ち込んだ事があったな……) 昔、ポーカーで大勝ちしたことが有ったが、その時の相手が金持ちの癖に金払いの悪いやつだった。 頭にきたので対戦車ロケットランチャーを、自宅に打ち込んだら泣きながら払いに来たことを思い出した。(ちょっとした挨拶だったんだがな……) 慌てふためく金持ちの顔を思い出しながらクスクスと笑っていた。 ディミトリは詐欺グループの男たちの携帯電話を取り出した。没収しておいたのだ。 これから、この携帯電話を使った遠隔装置を作りだす。 まず、ノートパソコンからバッテリーを外す。バッテリーの電源端子に線を繋ぎ少しだけ離しておく。 その線を跨ぐようにテッシュを置き、上からの圧力で線がショートするようにする。 携帯電話を垂直に立てて、不安定にさせれば出来上がり。 こうしておくと着信のバイブ機能で携帯電話が振動して倒れてしまう。 携帯電話はテッシュに倒れ込んで線をショートさせるはずだ。テッシュは発火し花火に燃え移る。 と、なるはずだ。(でも、俺はハズレを引く天才だからな……) いきなりの事態に捜査員は慌ててしまい応援を呼ぶだろう。 つまり、警察の関係者を玄関先に集結させてしまおうと言う作戦だ。 結構、荒っぽいが他の方法を思いつかなかった。(めんどくせぇな…… 全員殺ってしまうか……) 勿論、全員殺ってしまっても良い。ディミトリなら訳なく出来るだろう。だが、今はその時ではない。 小道具は色々と持ってきたが、所詮は中学生が用意できるものだ。たかが知れている。 スリングショット以外に武器は無い。これでは手間が掛かり過ぎてしまう。 なるべく穏便に脱出したかったのだ。 玄関からは相変わらずチャイムが聞こえ、同時にドアをノックする音も聞こえ始めた。 どうやら居留守を使っていると思われているらしい。チャイム音と同時に部屋の灯りを消したので当然だ。 ディミトリは窓に小細工を仕掛けた。内鍵を掛ける所に釣り糸を引っ掛けたのだ。 釣り糸を窓と窓の隙間から外に押し出しておく。外から釣り糸を引っ張れば鍵を掛けた状態に出来る。 そうすると密室状態であると勘違いしてくれるはずだ。(これで上手くいくはず…… いってくれ…………) 玄関に仕掛けた装置を電話で起動した。着信音の後にボンと音がした。やがて
last updateLast Updated : 2025-01-13
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第017-1話 友人の家

自宅。 早朝に帰宅したディミトリは祖母に悟られないようにコッソリと自室に戻った。 そして、パジャマに着替えてベッドに寝転んだ。(何故、あの車が彼処にいたんだ?) 釈然としない気分で自問自答する。自分としては部屋に居る風を装っていたつもりだ。 いつもどおりに夕方のランニングを終え、自宅に戻ってから外には出かけなかった。 そして、彼らに見つからないように裏の家から通りに出た。(何もおかしな点は無いよな……) 今日一日の行動を思い返してみて不審点を考えてみた。(もう一台。監視用の車が居たのか……) だが、通りには車は居なかったはずだ。それは確認していたから間違い無い。 そして移動中も警戒を怠らなかったつもりだ。元々、何か異変を感じたらそこで中止してしまうつもりだったのだ。 これは不審車だけでは無い、警察車両の警らも警戒しているためだ。 中学生がフラフラと出歩いて良い時間でない。それを知っているので注意しているのだ。(車が居なくても人員を配置していた可能性もある……) 通りには雑居ビルもあったし、マンションなども建っている。 その中で監視されていたらディミトリには分からない。(う~ん……) 定点的な観測所を設けるのなら、車を増やした方が使い勝手が良いはずだ。 自分だったらそうする。(何らかの手段で確認する必要があるな……) ディミトリが分からない手段で監視されているとしたら問題だ。行動の自由が無くなるのを意味している。 それでは金を都合して自分の身体を探すことが難しくなるからだ。(ええい、クソッたれな連中めっ!) ディミトリは毒づいてから布団を頭まで被った。考えがまとまらないせいだ。 少しウトウトしてから学校に行くために再び着替えた。日常を演じる事で無関係を装うつもりだ。 もっとも、謎の組織の監視下にあるので意味が薄いかもしれない。 学校を普通に終えたディミトリは早速着替えた。夕方のランニングを装う為だ。 だが、途中でコースを変更して目的地を変更するつもりだった。 毎日、ランニングの最中にストレッチ体操をする公園を横切ってバスに乗車した。 ランニングコースからバス通りに出るには、公園を大回りしなければならない。 ここで不審車の視界から消えてなくなる筈だ。「ふふふっ……」 不審車に載る二人組の慌てぶりが目に浮
last updateLast Updated : 2025-01-14
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第017-2話 内側の密告者

「ちょっと、待てよ……」「なんで、ソイツが来るんだ……」「何で、俺の部屋を知ってるんだよ……」 ディミトリの異常性を知っている大串たちは涙目だ。彼らの拠り所である男の強さとは次元が違うからだ。「俺は何でも知ってるよ……」 先ほどとは打って変わったように静かに返事した。「まあ、大人しく座っていれば、今回は目玉は抉らないよ……」 そう言うとニッコリと笑った。「……」 ディミトリは彼らを無視して部屋を横切った、そして、窓にから外を双眼鏡で覗き始めた。 担いできたディバッグに入っているのは勉強道具では無い。 双眼鏡や着替えなどを持ってきているのだ。「アイツは何やってるんだ?」「覗き?」「近所にお姉ちゃんが居る家なんかねぇよ……」「じゃあ、何やってんだよ……」「関わりたいのか? おまえ……」「……」「……」 大串たちが何かヒソヒソ話をしているのを無視して監視を続けた。彼らがディミトリの事をどう思うが知った事では無いからだ。 そして十五分もしない内に、件の不審車がやってくるのを見ていた。(やはり、そう来るか……) 黒い不審車はブロック向こうの通りに停まっていた。 これでディミトリは確信した。(尾行じゃないな……) 黒い不審車を睨みつけながら、これまでの事を思い返していた。 ディミトリの顔がみるみる内に歪んでいく。(追跡されているのかっ!) ディミトリは不審車の行動の謎が何となく分かった。裏を掻いたつもりだったが、追跡装置があれば意味がない。 日中しか監視しないのは行動観察のためだ。居場所は分かっているので夜間は見張る必要が無かったからだ。 先日の詐欺グループのガサ入れも彼らの入れ知恵であろう。「クソッたれ共め…… 何を考えていやがる……」 思わずディミトリが呟いた。「?」「?」「なんだよアレ……」「お前が聞いてみろよ」「いやいや、大串を訪ねてきたんだろ」「ざけんなよ。 俺は知らんよ……」「俺も無理っす……」 そんなディミトリの呟きを大串たちは不思議そうに見ていた。 いきなりやってきて何かを話するわけでもなく、双眼鏡で外を覗いてイキナリ怒り出す同級生だ。 正直、関わりたくないタイプだと全員が思っていた。(まあ、半分予想はしてた、仕組みがわかればどうってことは無いさ……) ディミトリは背負って
last updateLast Updated : 2025-01-14
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第018-1話 手術跡

自宅。 家に帰ったディミトリはティーシャツを脱ぎ捨てた。アルミ箔を貼っているので着心地が最悪なのだ。 そして、自室の窓からいつも不審車が停車しているあたりを見張っていた。 大串の家を出た後に、近くのショッピングセンターで見張っていたが彼らは現れなかった。 今回はティーシャツを脱ぎ捨てて三十分程で彼らは現れたのだ。「つまり、上半身の何処かに有るのか……」 追跡装置の在り処が絞られてきた。ディミトリは祖母の部屋から姿見を借りてきて映してみた。 事故に有った時の傷跡は全身に付いている。結構な数があり、手術跡だらけでよく分からなかった。 昏睡状態になるような怪我だったので仕方が無い。「参ったな……」 手術跡を触ってみた。デコボコとした感触があるが、傷の跡なのか追跡装置が埋まっているのか不明だ。 ある程度には医学の知識があると言っても、傷病兵に対する簡単な血止め程度なのだ。(しかし、どうやって埋め込んだんだ?) 身体に何かしらの装置を埋め込むのは、普通に寝ているときでは無理だ。 痛みで目が覚めてしまうし、それだったらディミトリは覚えているはずだからだ。 作戦の時に犬に仕掛けたことがあるが、小型と言っても結構大きかった。 身体に埋め込むのなら大掛かりな手術が必要なはずだ。(普通に考えて埋め込んだタイミングはあの時だけだよな……) ならば、これはディミトリが昏睡状態の時に施術された事になる。 それが出来るタイミングはあの時以外に無い。(あのヤブ医者め……) 本人が知らない間に何かを体内に埋め込むことなど出来ない。やれるとしたら自分が入院していたタイミングだけだ。 祖母の話ではタダヤスは病弱だが、入院などしたためしが無かったそうだ。(つまり、ヤブ医者は奴らの仲間ということだ) 親身に相談に乗ってくれていたのは、追跡装置が無事かどうかが気に成っていたのであろう。 それとバッテリーの問題もある。ある程度の間隔で充電しないと動かなくなるはずだからだ。 だから、定期的に検査の為に病院に通わされるのであろう。 ディミトリには確信していた。(さて、どうする……) 少し手荒い方法で情報を引き出そうと考えていた。 その前に身体に埋められた追跡装置だ。取り出させる方法を考えねばならなかった。(幸い…… 俺は方法を良く知ってるからな……)
last updateLast Updated : 2025-01-15
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第018-2話 金髪プリン

「な、何してんのよっ! アンタ頭おかしいんじゃないの!?」  甲高い声でオネェ言葉を叫び出したプリン金髪。四つん這いで逃げ出し始めたのだ。 ディミトリは笑いを堪えるのに苦労した。 うずくまったまままったく動かないモヒカン風金髪。若干震えていたような気がする。 絶叫して逃走しはじめたプリン金髪を、全速力で追いかけて後ろから蹴ってやった。 すると、ガリガリのプリン金髪は前のめりで転倒した。 その倒れたプリン金髪のボディに蹴りを入れ続けた。相手が反撃出来ないようにする為だ。 最後には顔面にサッカーボールキックをした。助走をつけて蹴るのだ。 これは強烈だった。そんな事をする奴などいないからだ。「うぅぅぅ……」 うずくまったまま動かなくなったプリン金髪。 肩で息をしながらモヒカン風金髪の方に目を向けた。 なんと、さっきまでうずくまっていたモヒカン風金髪がいないではないか。 強烈なフックをお見舞いしたはずだから歩くのもやっとなはずだ。(ええーーー。 やられている仲間を放置して逃げるのかよ……) ディミトリは呆れ返ってしまった。姿形も無い所を見ると逃げ足はピカイチのようだ。「ヘタレどもめ……」 ディミトリは吐き捨てるように呟いた。理由はどうあれ仲間を見捨てるやつは最低だと思っているからだ。 これは兵隊時代から身についている習性だ。「で? 何の用なんだ??」 ディミトリはプリン金髪に向き直して聞いた。 彼は俯いたままだった。泣いているのかも知れない。「な、仲間をボコったって聞いたんで……」「仲間?」 彼らの言う『ボコる』とは喧嘩に勝つ事らしいが、喧嘩なんぞに興味のないディミトリには不明な単語だ。「ええ……」「……?」 ディミトリは何のことだか分からなかった。「何のことだ?」「?」 もう一度聞き直すとプリン金髪の方が当惑してしまったようだ。「前にダチが病院から出てきたオタク小僧にやられたと聞いたもんですから……」 青い縞のシャツと目立たない灰色ズボン。選んだわけではない。コレしかタダヤスは持ってなかったのだ。 ディミトリは溜息をついた。オタク小僧と言われても仕方のないセンスだ。 タダヤスは生まれた時からカツアゲされる宿命だったのだろう。「ああ…… あの金髪の弱っちい奴の事か?」 ここでやっと思い出した。ボコッた
last updateLast Updated : 2025-01-15
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第019-1話 怪しい医者

病院の診察室。 定期検診に赴いていたディミトリは診察室に居た。「その後、頭痛は起きますか?」 問診している相手は鏑木医師だ。 普段どおりの温厚そうな表情を見せている。「前の時のような酷い頭痛は無いです」「そうですか、それは良かったですね」「はい、ありがとうございます」「恐らくは脳の腫れが引いてきているのだと思いますよ……」 鏑木医師はカルテに何かを書き込んでいた。 その間にディミトリは診察室の中を見回していた。追跡装置に充電する何かが有るはずだからだ。 しかし、これと言って怪しげなものは見つからない。「先生に処方していただいた薬のお陰だと思います」「そうですか、それは良かったですね……」 褒められた鏑木医師はニコニコとしながら答えた。「それで…… 事故にあう前の事は思い出しましたか?」「それは無いですね……」「そうですか……」「……」「まあ、ゆっくりと思い出していきましょう」「はい……」 鏑木医師はにこやかに答えていた。 ディミトリもそれに合わせて模範的な回答を心がけていた。中身はともかく、表面上は優等生を演じることにしているのだ。 まだ、追跡装置の存在を知っていることを悟られてはならないからだ。「背中にシコリみたいな感じが有るのですが?」「そうなんですか?」「はい」「ちょっと見てみましょう」「お願いします」 鏑木医師はディミトリの上半身を脱がせて、背中に回って手術跡を触診しはじめた。 ディミトリはそっと振り向いては先生の表情を注視していた。「どの辺ですか?」「手術の縫い目のあたりですね……」「別段、違和感は無いようですが……」「シコリがあるなと思う時に携帯電話の受信状況が悪くなるんですよ……」「そうですか…… 何とも無いけどなあ……」「勘違いだと思いますよ。 縫っているので皮膚が引っ張られるのを感じ取っていると思います」 一応カマを掛けてみた。『受信状況が悪くなる』で何か反応があるか注意してみたのだ。 だが、鏑木医師は顔色ひとつ変えずに触診をしている。(ひょっとしたら違う医者が埋め込んだという可能性もあるな……) 表情を変えない鏑木医師は違うんじゃないかと思い始めた。「そう言えば先生って独身でいらっしゃるんですか?」「いや、結婚はしているよ」「へぇ、そうは見えないです」「珍し
last updateLast Updated : 2025-01-16
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第019-2話 黒いバンド

 好みの美人看護師に点滴の準備をされながら点滴の袋を見ていた。透明な液体で満ちている。 薬剤は点滴でゆっくりと入れる。作用がきついので時間がかかるのだと鏑木医師は話していた。 その際には腕に黒いバンドが締められる。締められるというより巻かれるという表現が正しい。 血圧を測る時に使うバンドに似てるがちょっと違う印象を受けていた。 だが、ディミトリは点滴の液が滴り落ちるのを見ながら気がついた。(そうか……) どうやって追跡装置を充電していたのか謎だった。だが、その方法が閃いたのだ。『電磁波充電』 電磁波があれば電流を生み出せるのだ。 コイルの中心を通過する磁力線が存在すると、そのコイルに誘導電流が流れる。 これをバッテリーに流し込んでやれば充電が出来るようになる。 こうすれば体内に有っても外からの充電が可能だ。電源コードは繋げる必要がない。 つまり、腕に巻いている黒いバンドは電磁波を起こさせているものに違いない。 点滴で腕に何か巻くなど経験したことが無い。せいぜい言って針がずれないようにテープを巻くぐらいだ。 処置をされる度に感じていた違和感はこれだったのだ。 鏑木医師が定期的に診察に来るように言うわけだ。ディミトリでは無く電源の残量が心配だったのだ。(間違いないな……) もはや確信に近いものがあった。(腐れゴミ医者め……) 追跡装置が腕に有るのなら、背中の違和感など勘違いだと言っているのが分かる。 彼はそこに何も無いことを知っているからだ。 信頼してただけに結果が非常に残念だった。怨嗟の焔が燃え上がるようだ。(さて、どうしてやろうか……) とりあえずは腕の何処にあるかを確認しなければと考えた。 それは自宅でも出来る。小型の超音波診断装置があるからだ。 本当は壁にある隠し扉を見つけるために買ったのだが、本来の使い方が出来るとは思わなかった。 襲撃の時には警察がやってきた事も有り使う暇が無かった。(最初からやっておけば良かったな……) 病院に来るまで買ったことを忘れていたらしい。 もっとも、背中を隈なく探すには一人では無理な話だった。小型なので見える範囲が狭いのだ。(以前に使った時には腹に撃ち込まれた弾丸を探す時だったっけ……) 衛生兵では無いので大雑把な位置が分からないとナイフで取り出せない。 金属は反応
last updateLast Updated : 2025-01-16
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