Home / ミステリー / クラックコア / Chapter 11 - Chapter 20

All Chapters of クラックコア: Chapter 11 - Chapter 20

125 Chapters

第005-1話 意図的消去

 ディミトリが自室として割り当てられたのは六畳ほどの部屋だ。 元々はタダヤスの父親が使っていた部屋らしい。勉強机などがそのまま残されていた。 高校を卒業すると同時に大学の寮に入ったので、年に数回帰ってくる時以外は使わなくなったのだそうだ。「この部屋に有るものは全部使って良いわよ~」 祖母はそう言っていた。 もっとも、大した飾り気の無い部屋だった。空気を入れ替える時以外は、誰も入らなかったのであろう。 少し埃が籠もっているような気がする。 壁には昔の野球やアイドルのポスターなどが張られていた。 本棚には教科書や参考書があり、漫画本も少しだけ置かれていた。 タダヤスの元いた部屋も似たような感じだった。さすがは親子だなとディミトリは思った。 もっとも、タダヤスの部屋のポスターは、アニメのキャラクターだらけだった。「ネットが出来る環境が必要なんだがな……」 部屋を見回してみるとパソコンが無い事に気がついた。大学の寮に入る時に持っていたのだそうだ。 色々と調べてみるとインターネットに繋ぐための設備は無かった。「折角、ノートパソコンが有るのにな……」 タダヤスの祖父は物を買うとそこで満足してしまう質だったようだ。 大して使っていなかったらしい。 そこで、祖母に頼み込んで自分用のスマフォを購入し、LTE接続で使えるようにしてもらった。 手短な所でネット環境が整ったので、ディミトリは早速自分を検索してみた。『NOT FOUND』 何も引っ掛からない。 普通ならフェイスブックとかのSNSに一つくらい掛かりそうだが、見事に無いのだ。「う~ん……」 思いつくキーワードは色々試すが何も出てこなかった。小学校や中学校の名簿を調べてみたが無かった。 まるでこの世にディミトリが存在しなかったような感じさえある。「………………」 もっとも、秘匿性の高い作戦に従事することが多かったので、目立ったものは何も出ては来ないと思っていた。 暫く探し回っていたディミトリは違和感を覚えた。 だが、自分が関与した作戦は実際にネットに掲載されているのを見つけている。 もちろん、部隊名や作戦名は出てこないが、新聞記事などから推測出来るのだ。「俺の妄想では無いのは確かなんだがな……」 記事の内容と自分の記憶に齟齬が余りないことから実際に事件が有ったのは確か
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第005-2話 衝撃感覚

(善人には向かないけどな……) 傭兵とは雇い主の命令には逆らわない。彼らが対象を殺せというのなら、躊躇わずに引き金を引いていた。 正規軍の兵士だった時も同じ。ディミトリは良心を、家を出る時に捨ててきたのだ。(漫画喫茶……) 不意にキーワードが頭に浮かんできた。タダヤスだった時の記憶が繋がったのであろう。 最初は何の事なのか不明だったが、目の前のノートパソコンを操作して理解できた。(漫画喫茶とはコミックを読む所でネットも出来るのか……)  全くの匿名では無いが、ある程度なら偽装が可能かも知れない。 彼が渡り歩いた国々にも似たような施設はあった。 ディミトリは早速自分の住む街にある漫画喫茶を調べてみた。駅前に数軒ほど有るらしい。(当然ながら金が必要だな……) 今、ディミトリのサイフには小銭が少々入っているだけだ。当然、活動資金が足りない。 この先、海外への渡航が必要になると、中学生が持っている金では足りないのは明らかだ。 タダヤスの貯金が有るらしいが、引き出すためには暗証番号が必要だった。 勿論のこと知らない。突発的に思い出すかも知れないが当てにならない。(なんてこった……) どうも、タダヤスの記憶は肝心な部分で役立たずのようだ。(まあ、金を手に入れる方法を考えるか……) それは、この国で生き抜く重要なポイントだ。(その前に…… このヒョロヒョロの身体をどうにかしないと……) パソコンを操作する手を見ながら考え込んだ。 こんなガリガリな身体では話にならない。戦闘になった時に指先だけで叩きのめされる。 そこで体力と筋力を付けるために、ランニングを始めているがそれだけでは不足なのは明らかだ。 片手でパソコンを操作しながら、開いている片手で水を入れたペットボトルの上下トレーニングを行う。 本当はダンベルが欲しかったが、直ぐには手に入らないのでペットボトルで代用していた。 何しろ筋肉がゼロに等しいので、これだけでも結構な運動になると考えていた。(なんで見ず知らずの国でこんな事をやっているっ!) 苦笑しながら今後のことなどを考えながらトレーニングを続けた。(そういえば故郷の家でも同じことをやっていたな……) 早く一人前になりたくて金のかからないペットボトルでの筋肉強化トレーニングを続けていた。 そんな彼が気に入らないの
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第006-1話 ストレス

再び病院。 翌日、ディミトリが目を覚ますと、再び病院に入れられているのに気がついた。 以前、事故の時に入院していた大川病院だ。(すっかり見慣れた天井になっちまったな……) 見慣れたと言っても、病院の天井は何処も一緒なのだ。白い塗料と飾り気のない蛍光灯だ。 部屋中に漂う消毒液の匂い。(中々、手酷い頭痛だったな……) ディミトリは手酷い頭痛で気を失ってしまったのだった。世界中がグルグル回ってたのを覚えている。 部屋での物音に気がついた祖母が、心配になって様子を見に来て見つけたそうだ。 事故の後で長いこと意識不明状態だったので心配だったのだろう。 気を失っている間に血液検査やら、脳のCTスキャンやらの検査が行われたらしい。 彼の担当の医師は鏑木医師だ。 外科が専門だが事故当時から親身になって診てくれている。 今回も前回に続いて診てくれたようだ。傍らには例の美人看護師もいる。  ディミトリは彼女に会えて少し嬉しかったようだ。「それで、タダヤス君は自分の事を思い出せて来たかね?」「いいえ、昔のことは良くは思い出せません……」「そうか、まあ…… 焦らずにね……」 診察室で向かい合うディミトリと鏑木医師。いっその事自分がタダヤスとは別人だと告白しようかと思ったが辞めた。 別人だと証明できないし、今度は違う病気だと言われそうな気がしたからだ。「頭痛は今回が初めてなのかな?」「酷いのは今回が初めてです」「酷い?」「ええ…… 軽い頭痛でしたら時々有りました」「そうですか……」「はい」「で、CTスキャンの結果を見ると、脳が腫れている感じだね……」「え?」 ディミトリはパソコンのモニターに映る脳の断面図を見せられたがよく分からなかったようだ。 医学知識が無いのだから無理もない。「んー、寝すぎた時なんかに頭痛がしたりしますよね?」「はい……」「それと似たような症状に見受けられますね」 勿論、鏑木医師も分かっていることだ。なので、分かりやすい例え話を出してきた。 彼は患者からの信頼が厚い医師と聞いている。症例を分かりやすく説明できるからだ。 これが大学出たての奴や気難しい医師だと、専門用語の羅列で意味不明な説明になってしまう。 その辺が患者の側に立つ医師との違いなのだろう。「じゃあ、長時間寝た事が原因でしょうか?」「
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第006-2話 鏑木医師

 祖母はディミトリがトレーニング以外の時間を、ネットに張り付くようにしている現状を嘆いた。 食事中ですらスマートフォンを操作しながら何かの記事を読んでいるのだ。 ある時、後ろからそっと覗くと外国語の記事を読んでいる風だった。 もっとも、彼女にはどこの国の言葉なのか分からなかったようだ。「……」「彼は外国語を読めてるのでしょうかね?」 医師は外国の記事ばかりの所で尋ねてみた。 何処の国の記事を読んでいたのだろうかと思ったのだ。「どうでしょうか…… タダヤスが外国語に接する機会は無かったと思います」 祖母は読めているかも知れないとは思っていた。記事のスクロールする速度が遅いからだ。「何というか……」 これが写真などの画像に興味があるのなら、もっとスクロールする速度が早い気がするからだ。 日本と違って規制の無い外国のムニャムニャ画像は、お年頃の男子にとっては人気の的だ。 ある程度は仕方が無いと思う。 だが、ニュース記事らしきページを、食い入るように読んでるのは誰だろうと思ってしまうのだ。「何だか…… 私が知っている孫とは違う人になったみたいで怖いんですよ……」 祖母は日頃感じていることを医師に告げてみた。 後、夜中に洗面所の鏡をジーッと見つめているのも不気味に感じていた。「まあ、事故の影響だと思いますよ。 もう少し様子を見てみましょう」「はい……」 鏑木医師はそう言って慰めた。重症を負った患者の性格が変わるのはよく有ることなのだ。 粗暴な振る舞いで鼻つまみ者だった人物が、瀕死の重傷を負った後に温厚な性格になるなどだ。 人というのは生命の危機に接すると、色々と変化してしまうものらしい。「良く睡眠が取れていないようですから、お薬を出しておきますね」 鏑木医師はそう言ってニッコリと笑った。「はい。 お願いします」 祖母は薬と聞いて何だか嬉しそうに微笑んでいた。老人は薬を処方されるのが大好きなのだ。 飲んでいると自分が病気になっていると実感できるせいらしい。 それは生きている証でもあるからだ。 もっとも、この場合はディミトリへの薬であるが、性格が変わったのは病気のせいだと思い込めるからであろう。「それでは、次の検診は必ず来るようにタダヤス君に伝えてくださいね」 鏑木医師は祖母にそう告げた。 ただの頭痛だけでは入院は
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第007-1話 鈍感な市民

自室。 ディミトリは早々と部屋の明かりを消してベッドの中にいた。遅くまで起きていると祖母が心配してしまうのだ。 彼は祖母に心配掛けるのはイヤなのでベッドに入って寝たフリをしていた。意識は他人とはいえ、自分の祖母に何となく似ている彼女を嫌いになれないでいる。(別に善人を気取るつもりは無いがな……) 天井に張られたポスターを見ながらフフフッと笑った。(恐らくはタダヤスの記憶が混じっているんだろうなあ……) ささやかだが他人を思いやるなどと考えたことが無いディミトリはそう考えた。(まあ、只のクズ野郎であるのは変わらないがな……) そう考えて自分の手を見た。見慣れたゴツゴツとした兵士の手ではなく、スラリとした如何にも十代の少年の手だ。(さて、これからどうしたもんだか……) 取り敢えず自分の身体に還ることは決めている。そのための手段を講じなければならない。 ディミトリが最後に覚えているのはシリアのダマスカス郊外の工場だ。まず、そこに行かなければ始まらないと考えていた。(そのためには金がいるんだよな……)(金が欲しいがどうやれば良いのかが分からん) 仕事をしようにもタダヤスは義務教育が必要な年齢だ。雇ってくれる所など無い。(銀行でも襲うか? いや、警備システムを探り出す手段も伝手も無いしな)(現金輸送車…… 同じことか……) ディミトリはベッドの中で身体の向きをゴロゴロと変えながら考えていた。(んーーーーーー……)(そもそも武器を手に入れたいが手段が分からん……) ディミトリは考えがまとまらないでいた。自分の住んでいた街では、街のゴロツキを手懐ければチープな銃であれば手に入る。 もう少し金回りが良ければ軍の正規銃ですら手に入ったものだ。 ところが、この国では銀行にすら護身用の銃は無いときた。(この国の人たちは、どうやって自分の身を守っているんだろう……) この国に住んでみて分かったのは、自分の身を護ってくれるのは他人だと信じ込んでいることだ。 その為なのか護身用の武器などは表立って売られていない。マニアなどが利用する店などで護身用と称する玩具だけだ。(そういえば…… 夜中に女の子が一人で歩いていたな……) 眠れない夜中になんとなく星を見ている事がある。 そんな時に、明らかに若い女性がトコトコと歩いているの見て驚愕したもの
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第007-2話 堂々巡り

 何日か前の新聞報道で、自殺志願者を次々と殺した男の話を報道していたのを思い出した。 だが、報道はいつの間にか立ち消えた。 次は街なかで包丁を持って歩行者を次々と刺殺した男の話も途中で立ち消えた。 被害者なら氏名まで公表されるのに、この件では犯人の名前どころか年格好まで報道されなかった。 恣意的な報道規制が働くのだ。 この国の自称マスコミは、針小棒大で無責任な報道をするのをディミトリはまだ知らない。 彼らはニュースが大きく取り上げられれば良いだけだ。なので、報道内容に質は求めていない。 自分たちの発言に責任を持たないので、いい加減な仕事で構わないのだ。どうせ、国民もそんな事は求めていない。 身の丈に合った『知る権利』で満足しているらしい。知りたくない情報は遮断してしまう事で足りているのだ。(まあ、偉そうにふんぞり返っているのはロクデナシと決まっているがな) そう考えて、日本も自分が関わった国々と変わらず、クソッタレが牛耳っていることに安心した。 悪事を働いても平気でいられるからだ。(日本で銃を手に入れるにはどうすれば良いんだろうか……) ネットで色々と調べてみると、日本では銃などを普通の市民が購入することは出来ないのだそうだ。 ディミトリは日本の裏社会には何もコネが無いのだ。これではどうにもならない。(これがシリアやロシアなら軍上がりの武器屋から買えるんだがな……) だが、直ぐに考えを追い出した。無いものねだりしても仕方無いからだ。 ある程度の金があれば密輸する手立てもあるが、非常に高額になるのは目に見えている。(取り敢えずは自分で工夫して武器を仕立てるか……) 手元にある材料で武器を作った事はある。 戦闘地域にいると物流が当てにならないのだ。だから、手短な日用品で武器を作る訓練も受けたことがあった。 訓練と言っても元スペツナズの隊員達から簡単なレクチャーを受けただけだ。(後、訓練内容もどうにかしないと……) 日頃の運動のおかげで基礎的な体力は付いたと思う。次は実践的な訓練メニューを熟したいと考えた。(人目につかない空き家を利用するか……) 朝晩のランニングで適当な家に目処は付けていた。後はメニューと装備を用意するだけだ。 次は移動手段の確保だ。しかし、日本では車を運転できるのは十八歳以上であるらしい。それは四年
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第008-1話 父の影

 自宅。 ディミトリが早朝のランニングを終え帰宅すると居間で何やら話し声が聞こえてきた。「?」 彼が居間を覗くと祖母が電話口に向かって話し込んでいた。「まあ、敏行がご迷惑を……」 『敏行』というのはタダヤスの父親。相手は父親の元部下からのようだ。 ディミトリはシャワーを浴びるふりをしながら洗面所に向かい、そのまま廊下で会話を盗み聞きしていた。「それで如何ほどお金を借りていたんでしょうか?」 何でも金を貸していたので返してほしいという内容のようだ。(ん?) ここで、不思議に思った。既に葬式も終わってから日にちが経っている点だ。 こういった借金というのは、四十九日が過ぎた辺りで整理するものだと聞いていたからだ。 タダヤスの場合は父親の家のローンなどを弁護士が処理したと聞いている。(あの時の弁護士に任せればいいのに……) その事を思い出し祖母に忠告しようかと考えた。「はあ…… それぐらいの金額でしたら用立て出来ますが……」 どうやら、金額も数万円という少額のようだった。彼女は支払う気でいるようだ。「はい。 住所は……」 祖母は電話の相手に住所を教えてしまっていた。(あああ~……) 何とも無防備な人だ。タダヤスの父親の元部下という言葉を信じ込んでいるようだった。 相手は直接受け取りに来る様子だ。(いやいや…… 本物かどうかの確認が取れてないだろう……) そこでディミトリは祖母に尋ねてみた。「ねえ、何となく聞いてたけど…… 父さんは本当に金を借りてたの?」「あらあら、聞いてたのかい?」「あれだけ大きい声なら聞こえてしまうよ」「借用書もあるって言うからねぇ……」 世の中には、故人の死につけこみ、ありもしない借金をでっちあげて返済を求めて来る奴がいる。 今回も『少しでも貰えたら儲けもの』程度の考えで、平然と詐欺まがいの請求をしてくる輩が現れても不思議では無いのだ。 たとえ借用証書を目の前に突き出されたとしても、偽造された可能性を考えるものであろう。 だが、人の良いタダヤスの祖母は信じてしまっているようだ。 何でもタダヤスの父親の様子を細かく教えてくれたのだそうだ。 小一時間もたった頃、一人の男が訪ねてきた。名前は水野と名乗った。「どうも、初めまして…… 水野と申します」 そう言ってから一枚の名刺を渡してきた。
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第008-2話 同類の匂い

 祈りが終わったのか水野は祖母の方に向き直り、背広の内ポケットから紙を一枚取り出した。「此方が借用書になります……」 出された紙はA4くらいの紙で金額と名前が入っていた。住所は前に住んでいた場所だ。 借用書の項目には出張代金の立替分と書かれていた。 だが、詳しい内容は書かれていない。パソコンで作られたものだろう。 「はい、息子の字です……」 祖母は長いこと名前を見つめていた。故人の母親がそういうのだから間違いは無いのだろう。 ディミトリには区別が付かなかった。元々知らなかったので無理もない。 だが、直筆であるとは言い切れないと考えていた。元の筆跡を読み込んで貼り付け編集が出来るからだ。 祖母は、暫く見つめた後に仏壇の引き出しから、現金の入った封筒を取り出し水野に渡した。 金額は予め聞いていた金額と心付けが入っているそうだ。「はい、確かに受け取りました…… では、借用書はお返しいたします」 中身を確認した水野は、丁寧に頭を下げ借用書を祖母に渡した。「あの…… 息子は他にも借金をしていたのでしょうか?」 祖母は気になるところを聞いてみた。何だか自分が知らない借金が在りそうだからだ。 実際、故人の隠れた借金が見つかることは良く在る話だ。 人間というのは自分の借金に負い目を感じてしまう。なので、人には中々相談しないものだ。 たとえ相談しても、素人ではどうにも成らない段階に成っていることが多い。もちろん、家族にもどうにも出来ない。 返済不可能な借金を抱えて自殺してしまうのもこういうタイプの人間だ。 だから、頭の良い貸主は遺族が遺産の相続を行った後で、借金の返済を遺族に求めるのだそうだ。 一度遺産相続をしてしまうと相続放棄が出来なくなるからだ。 他にも故人が連帯保証人になっているケースもある。保証人も相続対象になってしまうので注意が必要だ。 これの場合は更に悲惨で、借り主では無く連帯保証人に請求出来てしまうのだ。 何しろ遺産相続で金を確実に持っている。貸主としては確実に金を回収したいので持っている方に請求するものだ。 支払いの請求がなされた場合は返済しなければならない。借り主が返さなくても良い。それが連帯保証の怖さだ。 親兄弟といえども連帯保証人になるなと言われる所以である。「ああ…… 詳しくは分からないのですが、エフナント
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第009-1話 ゲーム感覚

自宅。 水野が帰った夜。ディミトリは詐欺グループから金を奪取する方法を考えていた。 この手の連中の始末の悪いところは、『悪いことをしてる俺かっけぇー』と思い込んでいる所だ。 だから、人の良い老人を騙すことに罪悪感を持っていない。寧ろゲーム感覚で小銭を稼いでいる。 自分たちのような悪に盾突く奴はいないと慢心しているのだ。(だからこそ、付け入るスキが有るんだよな……) そして病的に警察を嫌っている。つまり被害に遭っても届け出をする可能性が低いのだ。(どうやって有り金を頂けるかな……) 具体的な手順を考えている内に眠ってしまっていた。 数日後。ディミトリは柔道教室から帰宅した。柔道は格闘戦で力になるのを知っているからだ。 兵隊だった時には、軍の初年訓練で柔術の訓練をやらされていたものだ。 最初は基本訓練ばかりで嫌気がさしていたが、実戦に出ると随分と役に立っていたのを思い出す。 その記憶があるのだ。後は身体に基本的な事を覚え込ませれば良い。 帰宅して玄関に入ると、居間の方から祖母が誰かと話をしているのが聞こえた。 居間を覗いて見ると電話をしているようだった。「まあ、息子が本を出す予定だったんですか……」「金額は二百万ですか…… 私は出版という物には疎くて良く分からないものですから……」 それを聞いていたディミトリには『ピン』と来るものがあった。「それでは、見本を送って頂けますか?」「ええ…… ええ……」「お願いいたします……」 最近の警察の広報などで『オレオレ詐欺』の啓蒙活動のお蔭で祖母も用心深くなっていたのだ。 先日の水野の件では父親の直筆らしき借用書があったので大人しく支払った。 だが、今回は額が大きいので念を入れたらしい。「はい、わかりました。 それでは見本の到着をお待ちしております……」 祖母はそう言って電話を切った。「何、父さんの借金がまた有ったの?」 傍で聞いていたディミトリが何も知らない風で聞いてみた。「ええ、そうなのよ…… FX投資に関する指南書って本を出そうとしてたみたい……」 祖母は少し思案顔になった。まず、FX投資が分からなかったのだ。「あの子が本を出すなんてねぇ……」「前に来た水野って人がエフナントカで大損してたみたいって言ってたじゃない?」 ディミトリはエフエックス関連に絡めて詐欺を
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more

第009-2話 律儀な詐欺

 翌日には本とやらが届いた。普通、出版物は著作者に献本というものが十冊程度配布される。ところが、彼らが送ってきたのは一冊だけだった。 契約書に出版社名は書かれていたが、検索しても出てこない怪しげな会社だった。「…………」 だが、祖母はその本を丁寧に読んでいた。きっと自分の息子を思い出しているのであろうとディミトリは考えた。 すると荷物が届いて小一時間も経った頃。居間の電話が鳴った。 彼らだった。「はい…… はい、届きました……」「その方に二百万円を現金でお渡しすれば良いのですね?」「はい、分かりました……」 彼らは近所にある大きめのスーパーを受け渡し場所に指定してきたようだ。 そこなら場所が分かりやすいからだとも言っている。(防犯カメラの死角を見つけたんだな……) ディミトリは彼らの意図を見抜いてほくそ笑んだ。 自分もそのスーパーはよく知っている。ビデオカメラの購入で利用したことが有るからだ。 屋上が駐車場に成っているタイプの大型スーパーだ。防犯カメラもどっさりと有る。(でも、死角はあるんだよなあ……) 屋上の入り口に向かうスロープと建物の間に、防犯カメラが無い事にディミトリは気がついていたのだ。 普通の人はそんな事は気にもしないが、ディミトリは本能的に防犯カメラの位置を確認してしまう。 正直だけでは生き残れない街で育ったので仕方がない。 そして、彼らはまさにそこを指定してきた。 やはり、似たようなクズ同士なので、意見が合う物だなとディミトリは感心した。(早めにビデオカメラを買っておいて良かったぜ……) ディミトリは詐欺グループの顔を押さえておこうと考えた。その方が後々楽だからだ。 祖母が持っていく紙袋の底に携帯電話を忍ばせてある。GPS装置で位置情報を取得するためだ。 一見すると何のアプリケーションも入っていないように偽装してある。後は上手く行くことを祈るだけだ。 指定してきた時間。ディミトリは落合う場所が見える場所に居た。道路を挟んだ向かい側だ。 そこのガードレールに腰掛けてスマートフォンをいじってる風を装っている。 ビデオカメラは腰のサイドバッグの中だ。穴を開けてレンズだけが露出するように工夫してある。 カメラ本体の操作はスマートフォンで行う。 犯人たちは二人組だった。恐らく『受け子』と呼ばれる係だ。
last updateLast Updated : 2025-01-08
Read more
PREV
123456
...
13
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status