規則では遺族が火葬を見届けることは禁止されていたはずだった。宮本知美(みやもと ともみ)は金を払い、冷たい鉄のストレッチャーに手を添えながら火葬炉室へと足を踏み入れた。空気には焦げるような熱気が漂い、日差しの中で灰が舞っていた。きっと遺灰なのだろう。すぐに、彼女の大切な人もこうなってしまう。知美は真っ黒なワンピースを纏っていたが、一番小さいサイズでさえも彼女の痩せ衰えた体を隠しきれなかった。泣き腫らした目は、この時ばかりは不思議なほど静かだった。白い布の下から覗く蒼白く冷たくなった小さな手に触れ、その手のひらにピンク色の星の折り紙を二つ置いた。「星奈(せいな)、ママを待っていてね」時間が来た。職員が前に出て知美を引き離し、白い布を捲り上げると、星奈の姿が現れた。八歳になっていたというのに、まだこんなにも小さく痩せていて、はっきりと浮き出た肋骨の下端に、大きな窪みがあった。その窪みを見つめているうちに、また涙が溢れてきた。星奈を守れなかった自分が許せない。職員が優しく声をかけた。「お悔やみ申し上げます......お嬢さまの腎臓で、別のお子さまの命が救われました。きっとその子が、お嬢さまの分まで幸せに生きていってくれるはずです」知美の瞳に冷たい光が宿り、嘲るように微笑んだ。「ええ、その子は私の夫の隠し子です。今この時も、あの親子三人が盛大な誕生日パーティーを開いているんですよ。知ってますか?今日は私の娘の誕生日でもあるんです」職員は言葉を失い、目の前の絶望した母親をどう慰めればいいのか分からなくなった。知美は星奈を見つめ、蒼白い顔で微笑んだ。「お願いします。もう時間です。次は良い家に生まれますように」職員は小さく溜息をつき、首を振りながら遺体を炉前へと運んだ。哀れに思ったのか、職員は少し過程を隠すようにしてくれた。でも知美は全く怖くなかった。やっと星奈が解放されたのだから。もうパパに嫌われることもない。「ママ、どうしてパパは私のこと嫌いなの?ママ、どうしてパパは園田(そのだ)さんの子のことばかり可愛がるの?ママ、パパがママのこと嫌いなのは私のせい?ごめんね、ママ」こんなに可愛い子なのに!宮本静也(みやもと しずや)にこんな形で殺されてしまうなん
最終更新日 : 2025-01-02 続きを読む