朝のオフィス。出社してすぐ、私は呼ばれて大会議室に向かった。そこには三十人ほどの社員が集まっていた。営業、開発、マーケティング、法務――会社の中核を担うであろう多方面の部署から選ばれた面々。その中で、一番前に座る彼の姿が目に入った。日向――。動物園で見た、ラフで穏やかな雰囲気の日向とはまるで別人だった。高級感漂う濃紺のスリーピースを身にまとい、胸元にはシンプルながらも品のあるシルバーのポケットチーフが添えられている。その姿は、どんな場に出ても恥じることのない完璧さだった。髪もいつも以上に整えられ、背筋をピンと伸ばした彼からは、揺るぎないオーラが放たれている。彼の隣に座る役員たちでさえ、どこか緊張感を漂わせているように見える。先日、動物園で瑠香を抱き上げ、優しい微笑みを浮かべていた同じ人間だとは思えない。「では、始めましょう」日向の低く通る声が静かに響き、会議室内のざわめきがピタリと止んだ。次にモニターに映し出されたのは、スーツ姿の男性だった。「本日、我々河和グループが手掛ける次期プロジェクトを発表します。このプロジェクトは、グローバル市場における競争力をさらに高めるための重要な試みです」画面越しに映るのは、河和グループのトップ――河和社長。その存在感には、相変わらず圧倒される。彼が会社を率いる姿を見るのは、社員である私にとって珍しくはないことだ。けれど、「彼が日向の父親なんだ」という事実を改めて意識すると、不思議と居心地の悪さを感じる。日向とはあまりにも雰囲気が違う。冷徹で威厳に満ちた眼差し――その姿が、この会社を支える柱であることを如実に物語っていた。社長は続ける。「新たなプロジェクト『グローバルコネクト』は、海外パートナー企業と連携し、最先端のAIプラットフォームを構築するものだ。これは、我々の企業の技術力を世界に示すだけでなく、新たな成長の柱となるはずだ」モニターに映し出される資料には、海外の有名企業名がいくつも並んでいた。すべて、このプロジェクトのパートナー企業らしい。「このプロジェクトには、河和日向副社長をトップに据え、我々が誇る精鋭たちがチームを組む。全員の協力を期待している」そう言って社長が一度目を細めた。その視線は画面越しでも冷たく感じられた。一瞬モニターが消え、会議室内がざわつく。私も、こんな大きなプロジェクトに
Last Updated : 2025-01-20 Read more