「今日はビュッフェ形式になっております。お好きなお料理をどうぞ」 にこりと完璧な笑みのスタッフに案内され、テーブルのひとつに通された。日向はまだ来ていないようで、プロジェクトに参加していたいつものメンバーで食事会は始まった。どの料理もおいしくて、生ハムやチーズ、ワンスプーンの美しいサーモンの前菜など、目を引く料理を皿に乗せていく。「美味しそうだね」 加奈先輩も目を輝かせている。私も久しぶりのこの雰囲気に調子に乗って料理を取りすぎた。そう思っていた時だった、秘書の男性を伴って日向が入ってくるのが分かった。「副社長、お先にいただいています」 日向に気づいた神代さんがそう言うと、日向は「もちろん」とだけ答え、秘書と一緒に用意されていた上座の席に腰を下ろした。すぐにスタッフが、みんなのところにシャンパンを配り始める。「僭越だが、お礼を伝えたい。一度席についてくれるか?」 日向のそのセリフに、みんなが席に座ると、自然と彼の方に注目した。「本社に戻ったばかりの私を受け入れ、一緒に成果を出してくれたことに感謝を。今日は無礼講だ。楽しんで行ってくれ」「かんぱーい!」 その楽しく嬉しい雰囲気に、私は持っていたシャンパンを一気に流し込んだ。妊娠してからもう何年もお酒を飲んでいなかった。いや、正確にはあの夜、日向とワインを飲んだのが最後だ。一気にアルコールが身体をめぐり、身体が熱くなる。「やだ、彩華ちゃん顔真っ赤」 加奈先輩がクスクスと笑いながら、私の顔を覗き込む。「え? 東雲、酒弱かったっけ?」 瑠香を生む前は、男の人顔負けに飲んでいたこともあるが、やはり久しぶりのアルコールとこの雰囲気に酔いそうだ。「そんなことないんですけどね」 グラスを置くと、これ以上酔わないようにと、美しいテリーヌを口に運ぶ。サーモンとチーズの濃厚な味に、またグラスに手を伸ばしそうになるのを慌てて止めた。「飲めばいいんじゃないか?」 個別に仕事以外で話しかけられたのは、あの初めの日以来かもしれない。日向の言葉に、神代さんが苦笑しつつ口を開く。「瑠香ちゃん待ってるから、気にしてるんだろ?」 「そうですね」日向の前で瑠香の名前を出してほしくなかったが、ここで話題を変えても不自然だろう。「瑠香ちゃんっていうの? 東雲さんの娘さん」 「めちゃくちゃかわいいんですよ! おめめ
最終更新日 : 2024-12-14 続きを読む