あの時の光景は、今でも鮮明に覚えている。私がその言葉を告げた瞬間、高橋月子は私の手を握りしめ、声を押し殺して泣き崩れた。だからこそ、計画を打ち明けた時、彼女は一瞬の躊躇いもなく承諾した。私は彼女を入院させ、一週間の休養を取らせた。その間、鈴子ちゃんの面倒は妹の川村美鈴が見てくれて、会社の方も私の代わりに出勤してくれていた。しかし、不測の事態で妹が巻き込まれることだけは避けたかった。7月5日、妹の必死の反対を押し切って、新潟行きの新幹線に乗せた。7月10日。高橋月子は計画の全てを理解していたはずだったが、それでも退院の日に『聖杯と剣』を手渡した。彼女は微笑みながら言った。「結婚して六年、初めてもらった贈り物です」その言葉に胸が締め付けられた。私にはまだ、わずかでも温もりを感じられる日々があった。でも彼女は、毎日が生き地獄のようだった。
Read more