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32 Chapters

第31話

あの時の光景は、今でも鮮明に覚えている。私がその言葉を告げた瞬間、高橋月子は私の手を握りしめ、声を押し殺して泣き崩れた。だからこそ、計画を打ち明けた時、彼女は一瞬の躊躇いもなく承諾した。私は彼女を入院させ、一週間の休養を取らせた。その間、鈴子ちゃんの面倒は妹の川村美鈴が見てくれて、会社の方も私の代わりに出勤してくれていた。しかし、不測の事態で妹が巻き込まれることだけは避けたかった。7月5日、妹の必死の反対を押し切って、新潟行きの新幹線に乗せた。7月10日。高橋月子は計画の全てを理解していたはずだったが、それでも退院の日に『聖杯と剣』を手渡した。彼女は微笑みながら言った。「結婚して六年、初めてもらった贈り物です」その言葉に胸が締め付けられた。私にはまだ、わずかでも温もりを感じられる日々があった。でも彼女は、毎日が生き地獄のようだった。
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第32話

薬の効果で、高橋月子は一時的に体力を取り戻した。計画通り、彼女は佐々木健一に近づき始めた。計画初日から、私は佐々木健一の食事に薬を混ぜ続けた。その目的はただ一つ、あの人でなしが高橋月子に触れられないようにするためだった。7月18日。高橋月子と佐々木健一の初めてのデートの日。その日、佐々木健一は私から二十万円を持ち出した。私は鈴子ちゃんの世話をするため、上の階の部屋を借りていた。その部屋が後にこれほど重要な役割を果たすとは、当時は想像もしていなかった。7月20日。突然、会社から28日に大阪出張の指示が来た。一度は仕事を手放すことも考えた。しかし、何年もかけて築き上げたこのポジション。新しい職場を見つけても、また一からのスタートを強いられる。そうなれば鈴子ちゃんの将来は?出張を受けるにしても、計画と日程が重なってしまう。数日間、決断できずにいた。7月25日。妹が突然訪ねてきたことで、新たな案が浮かんだ。この件を妹に任せることにし、細かい手順を伝えた後、大阪への出張に向かった。出発前に、化粧品店で泣きぼくろシールを購入し、顔に貼った。8月2日。戻ってきた時、計画は完璧に遂行されていた。ただ一つ、予想外だったのは高橋月子の死だった。彼女が命を懸けるとは思わなかった。その遺体を目にした瞬間、私は涙が止まらなかった。犯行の経緯は、確かに鈴木力也の証言通りだった。妹は廊下で彼と出くわし、意図的に彼の怒りを煽った。激高した男の理性を完全に奪うのは、意外なほど容易いことだった。「あなたの妻が今、佐々木健一とやっている」という一言で十分だった。妹の証言によれば、彼は家に入るなり台所へ直行し、包丁を手にしたという。実は、たとえ鈴木力也が動かなくても、高橋月子が計画を完遂するはずだった。彼女こそが、私の計画における第二の切り札だったのだから。これが事件の全容だ。私が田中刑事に唯一偽ったのは、佐々木健一と鈴木力也に辱められた人物が私だと証言した点だけ。この真実を知る者は、私と妹、そして既に他界した二人だけ。出所の日、私たち三人——私と妹、そして鈴子ちゃんは、遅ればせながら新年の祝い膳を囲んだ。そして、新しい人生の一歩を踏み出した。
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