だから、あなたの親友と四十年間浮気したぐらいのことで、離婚する? のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 9

9 チャプター

第1話

その画面を見つめ、手に握ったマウスが震えた。それぞれの動画には日付が細かく記録されている。白髪の彼は、同じ白髪の親友を抱きしめ、首に愛おしくキスをし、彼女の体に優しく触れていた。最初の動画に戻ると、画面はぼやけており、懐かしい雰囲気が漂っていた。彼らの顔は若く、今よりずっと若いことが一目で分かる。ベッドの脇には、私と平井将太の結婚写真が置かれていた。だが、ベッドの上で彼に服を荒々しく脱がされているのは私ではない。彼は親友を抱きしめ、まるで一体になろうとするかのようにしっかりと抱き合っていた。私はそれを見て、力を失い、床に崩れ落ちた。圧倒的なショックが押し寄せ、息が詰まりそうになった。口を大きく開けて息を吸おうとするも、酸素がまるで胸に入ってこないようだった。涙が手の甲に一滴ずつ落ちていった。彼が初めて「できない」と言ったとき、私は迷っていた。しかし、彼を見捨てることはしなかった。彼のために、私は40年間耐えてきた。それなのに、これがすべて嘘だった。私が忙しく親と子供の世話をしている時も、夜更けに孤独に耐えている時も、彼は私の一番の親友と愛し合っていたのだ。時には彼に抱きしめてほしいと頼んだが、彼はずっとしてくれなかった。親友のために「純潔」を守っていたんだろう。私はどうしてこんなにも冷酷なのかと彼を憎んでいる。。40年間、どうしてこんなに完璧に私を騙し続けられたのかとずっと考えている。もっと難解なのは、もし私を愛していなければ、なぜ私を捨ててあの人と一緒に生きなかったのかということだ。なぜ、最愛の友人と一緒になって私を裏切り、私の人生を台無しにしたのか。頭の中は、もつれた縄で縛られたように痛み、混乱していた。私は立ち上がり、すべての引き出しを探し始めた。真実を知りたかったが、何も見つからなかった。結婚前に将太が付き合っていた女性がいたことを思い出し、そして結婚することが向こうの両親に反対されたと聞いたが、詳しい理由は聞かなかった。私は彼の姉に電話をかけた。彼女は私の泣き声に気づいたが、私は平静を装って聞いた。「お姉さん、大丈夫よ。ちょっと気になったんだけど、将太が若い頃に付き合っていた女性、どうして両親はあんなに強く反対したの?」「ああ、そのことかい?あの女性には子供がで
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第2話

私はふと、将太が投稿したSNSの写真を開いた。彼はもう70歳を超えているが、その姿はまだ松のようにまっすぐで、若かりし頃の面影がわずかに残っていた。彼は文学部の教授であり、友人のひばりは文学評論家だ。だから、彼らはしばしば一緒に文学作品について議論するチャンスがある。普段はめったに笑わない将太が、今は笑顔を浮かべ、まるで春風に包まれたようだった。遠くには、家で手伝いをしないうちの息子が、ひばりの家の庭にある大きな木の上で枝を剪定していた。汗も拭かずに一生懸命に作業をしている様子を見て、私は胸の痛みがますます強くなり、背中が重く沈み込むように感じた。涙がいきなり溢れ出し、私は自分の犠牲がどれほど滑稽なものだったかを改めて理解した。私は毎朝、誰よりも早く起きて朝食を準備し、食事が終わったら急いで皿を洗い、キッチンを片付け、孫を学校まで送るというような生活をしている。帰り道では買い物をし、家に戻ると掃除と洗濯をする。その後は野菜を洗い、昼食の準備に取りかかる。孫が帰ってくる時間に合わせて、昼食を作り終える必要があるから。孫は好き嫌いが激しく、肉団子や揚げナス、蒸しエビなどを好んで食べるので、準備にも時間がかってしまう。時には忙しすぎて、彼に孫の迎えを頼むと、嫌そうに眉をひそめて、「本を読んでいるところなんだから」と言われるだけだった。こんな生活の中で、私はまるで独楽のように回り続けていた。疲れ切って倒れそうになることもあったが、私は不満を言わなかった。それなのに、報われたのはこんな裏切りだったのだ。妻として、私が「いてもいなくてもいい存在」であるばかりか、母としても「いてもいなくてもいい存在」だと気づいた。自分の立場をはっきりと認識したことで、私は冷静になってきた。もう、こんな人たちと一緒に生活を送るつもりはなかった。それから私はスーパーへ行き、自分のために新しい服を買った。帰り道、お腹が空いたので、小さなレストランで料理をいくつか注文し、のんびりと食事を楽しんだ。これまで、節約のため、そして家族が健康でいられるように、40年も毎日自分でご飯を作ってきた。結婚式や宴会を除けば、いつもいつもキッチンに立っていた。しかし、これからはもう、そういうことはしない。家に戻って、しばらくテレビを見なが
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第3話

息子が電話に出なかったことで、私を責め始めた。孫は肉団子を楽しみにしていたが、キッチンを覗いても何もなく、がっかりして「肉団子はどこ?食べたいよ」とせがんできた。「作ってないよ」と告げると、孫は「わぁ」と大声で泣き出し、嫁がすぐに孫を抱きかかえてあやし始めた。息子は信じられない顔をして、私の前に立って、「お母さん、今日はどうかしてるんじゃないのか。電話をかけてもすぐ切られたし、メッセージも一つも返さなかったし、肉団子まで作らなかった。今日は家で一体何をしてたんだよ?」と言った。まるで私が雇われた家政婦のように、彼は私を責め立てた。私は冷静に彼を見つめながら、返事をせず、こう尋ねた。「高所恐怖症じゃないんだよね?」息子は一瞬戸惑ったが、すぐに顔をそらし、恥ずかしそうになった。「つまり、木の上での剪定が嫌で嘘をついたんだね。でも、ほかのどころで木には登って手伝うことがあったの?」「ほかのどころって?」息子は慌てて私の言葉を遮り、「それは山下さんの家だよ。彼女は一人でああいう仕事ができないから手伝ったんだ。だって、お母さんの一番の友達じゃないか」私は何も言わず、ただ彼をじっと見つめた。目の前に立っている息子は、かつて私は命を懸けて産んだ子供だった。出産直後、母乳が足りず、真夜中に泣き続ける息子をなんとかあやしてきた。やっと出した母乳を、彼は嬉しそうに吸いながら幸せそうな顔を見せてくれた。小さな唇が笑みを浮かべ、私はその顔を見て、我が子の愛らしさに胸がいっぱいになったものだ。彼は成長しても母に甘え、初めて口にした言葉は「ママ」だった。小学生になっても一緒に寝たがり、「男の子は一人で寝るものだよ」と言われると、「僕はママとずっと一緒にいたいんだ」と泣きながら言った。けれど、今や私をまるで家政婦のように扱い、母親としての私を軽んじ、学歴もない自分を見下し始めた。彼は私より父親を尊敬し、ひばりの肩書きに誇りを感じているのだろう。一筋の涙が静かに頬で流れてきて、私は声を絞り出した。「これからは、もうあなたを私の息子とは思わない」息子は私を冷たい目で見つめ、まるで私が頭のおかしい人のだと思っているかのようだった。その時、ずっと黙っていた将太が怒鳴りつけた。「一体何をしているんだ?せっかく家族みんなが楽しく過ごして
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第4話

彼に対して、私は普段は穏やかな声で話してきたのに、今日は初めて大声で怒鳴った。息子は驚いた顔で私を見つめ、みんなも私の反応に驚いていたようだ。息子は面目が立たなかったのか、怒りを込めてドアを激しく閉めて出て行った。嫁も私の様子がおかしいと感じたのか、孫を抱きかかえ、逃げるように出て行った。その後、将太は不機嫌そうに言った。「みんなを怒らせて、これで満足したか?」私が無視すると、彼は顔を曇らせて言い放った。「石川ゆみ、いい加減にしろ。そうしないと......」その言葉に、私がついに我慢の限界を迎えた。「まだわからないの?私は離婚を望んでいるの。離婚の話をして、無駄な話をバカバカしく言わないで」将太は目を見開いた。彼は気品のいい教授で、いつも穏やかだったが、私は今、彼に最も下品な言葉で罵りたい気持ちだった。彼は呆然としながらも、冷静な表情を保ちながら言った。「突然これを言い出した理由は分からないが、聞かなかったことにする」そう言って、書斎に入った。私は彼の恥知らずな態度に吐き気を覚え、長年の裏切ってきたにもかかわらず、彼は罪悪感を少しも感じなかったことに改めて怒りが湧いた。彼が私をただの騒ぎだと思うなら、もう何を言う必要がないので、私は必要の荷物をまとめ、ホテルに泊まることにした。翌日、ふるさとに向かう電車に乗った。親が亡くなってからずっと帰っていなかったが、庭に草が生い茂り、家屋はなんとか残っていた。数日間の修繕で家は新しくなり、私は花や野菜の種を買って、自分のための新しい生活を始めることにした。そんな時、息子から電話がかかってきた。しばらくの沈黙の後、息子が謝罪を始めた。「ごめんなさい、あの日は本当に悪かった。広ちゃんがお母さんの作った肉団子を食べたがっているから迎えに行くよ」私は冷静に答えて、「私は家政婦でもないし、あなたのシェフでもない。もう私たち何もの関わりはないから、電話をかけないで」と電話を切った。将太が私に話したいが、勇気がなくて、代わりに息子に頼んで電話をかけさせたのが私はすぐ分かった。案の定、しばらくすると、将太からも電話がかかってきた。彼はまるで何もなかったかのように、「僕の降圧剤は持っているか?君がいなくなってから飲んでいないんだ」と話しかけてきた。私は冷たく答えた。「私にそんなこと聞か
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第5話

私は、やっとの思いで自分の人生を取り戻した。菜を植え終わった後、小さなケーキを買い、自分の新たな人生の始まりを祝った。もう誰のためにも生きたくない。これからは、自分のために生きる。夫であろうと、母であろうと、まず私は私自身のためだ。ケーキを食べた後、私はソファに横たわり、心地よくテレビを見ていた。そこには美しい海の景色が映っていて、私は一度も旅行に行ったことがないことに気づいた。すぐに観光情報を調べ、碧島を選んだ。海の向こうには何があるのか、知りたかったのだ。私はすぐに荷物をまとめ、航空券を買って、出発した。海辺に立ち、風を感じながら両手を広げた時、これまでにない解放感と自由を感じた。その瞬間、ようやく生きている実感が湧き、生命の意味を見つけたようだった。現地の観光地を巡り、様々な食べ物を楽しみ、どこに行っても新しい発見があり、夢中になっていた。そして、新たにSNSアカウントを作り、その生活を投稿し初めた。多くの人から「いいね」とコメントが届き、たくさんの交流が生まれた。帰る日、海を最後に一瞥して振り返った時、見慣れた姿が目に入った。将太もここにいた。私は電話してほしいと言ったが、ここに来てほしいとは言っていない。この美しい島を汚す存在に嫌悪感を覚え、無視して通り過ぎようとした。しかし、数歩進んだところで、彼に手首を掴まれた。「どうしてここに来たことを教えなかったんだ?君は何をしているんだ?これまでずっと順調だったのに、なぜいきなり離婚なんて言い出すんだ?まさか、息子がひばりを手伝ったのが原因?」その言葉に、私の中の怒りと悲しみが一気にこみ上げ、涙が止めどなく溢れた。「ひばり、ああ、あなたは随分と親しげに呼ぶのね。将太、いつまで私を騙し続けるつもりなの?四十年も、私をこんなにも苦しめるなんて、私は何か悪いことをしたの?それで、あなたとひばりが私を欺き続けることになったの?もしあの日、あなたのパソコンを見なければ、死ぬまで騙されていただろう」将太の顔色がすぐ変わった。「何を言っているのか、僕にはわからないが……」「すべて知っているわ。あなたが毎日『忙しい』と言い訳し、ひばりと逢瀬を重ねていたことも、間違いないでしょ。違うなら、否定してみなさいよ!」と私が言った。彼はその場に立ち尽くし、私は我慢できずに彼の
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第6話

翌朝、ホテルの部屋から出ると、廊下のドアの前に将太が座り込んでいたのを見た。彼は私が出たのを気づいて、急いで立ち上がり、緊張した表情で言った。「離婚の話じゃないなら、出て行って」「ゆみ、もう一度だけチャンスをくれないか?」「将太、まだそんなふうにするつもり?離婚すれば、あの女と一緒になれるから。嬉しいでしょ?」「本当に子供たちには話さないか?噂を広めるのもしないか?」この年老いてなお端正な姿を見つめながら、かつてなぜ彼に惹かれたのかが不思議に思えてきた。「余計なことはいいから、今すぐ離婚届にサインして。さもなければ、学校であなたのことを大きく暴露してやるから」彼はついに離婚に同意した。私が彼の名誉を保つ条件で、彼はすべての財産を私に譲渡し、手ぶらで出て行くことになった。一か月後、市役所で再び会い、離婚証明書を取得して私たちは完全に別々の道を歩み始めた。遠くには、ひばりの車が見えた。彼の不動産の売却は面倒だと思い、すべて賃貸に出した。五、六軒の家賃収入だけでもかなりの額になり、裕福に生活できるだろう。その後、私は故郷へ戻った。長いあいだ投稿を中止していたが、新しい生活を始め、猫を飼い、庭で野菜を育てる日常をSNSで共有すると、予想以上に多くの人が共感してくれた。「いいね」が100万件を超え、フォロワーが数万人に増えた動画もあった。その日、自分へのご褒美のためにケーキを作った。ゆっくりと味わっているところ、不意に息子が怒鳴り込んできた。「お母さん、本当にお父さんと離婚したのか?俺が最初に反対したのに、こんなことをして、恥をかかせるなんて......」「前にも言ったけど、私はお前の許可なんていらないの。私は私の人生を生きるから」息子は顔を赤らめて声を荒げたが、次第に落ち着きを取り戻し、「お母さん、前回は俺が悪かった。ごめんなさい。一緒に家に戻ろう」と懇願するように言った。「ここはお母さんの住むべき場所じゃない。高層マンションを離れて、こんなぼろぼろのところに住むなんて。買い物も不便だろう」「ここでは、毎日家政婦のように働かずに、空気を読みながら過ごす必要もないから。食事も美味しいし、よく眠れるの」「お母さん、広ちゃんも母さんに会いたがっているんだ。俺たちみんな忙しすぎて、お母さんが
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第7話

私は、自分の人生を取り戻し、自分の道を歩み続けた。SNSアカウントもどんどん人気が出て、時にはライブ配信も行い、多くの人々が私に質問を投げかけたり、若い頃美人であっただろうと褒めてくれたりするようになった。私はずっと古風で趣のあるものが好きで、学生の頃、国語が得意で、和歌や俳句にも深い素養があった。でも、貧乏だったので、女の子だから勉強なんてしても無駄だと言われた。結局は嫁いでいくのだから、お金をかける価値がないと考えられていた。家で農業をする人がいなくなるのも困るから、私の学業を諦めさせた。もし勉強を続けていれば、将太と関わることもなかっただろうし、きっと心から私を愛してくれる夫がいたかもしれないと時々考えていた。でも、過去はともかく、どれだけ言っても、無駄だから。田舎の生活をシェアするほか、詩を書き始めた。意外にも人気になって、フォロワーはわずか2ヶ月で100万人にまで増えてきた。ある日、制作会社から連絡もあり、私の詩を歌詞として使用したいとの依頼を受けた。喜んで承諾し、その歌はすぐにヒットした。その後も、多くの出版社からオファーがあり、私は名実ともに詩人としての道を歩み始めた。順調ではかったが、私はついに夢を叶えたのだ。ネットで、将太はひばりとの結婚記念日の宴会を挙げたことを知った。彼は「ひばりが最初から妻だった」と言っており、多くの人々が彼らの「愛」に感動していた。これを見て、私はすでに過去を乗り越えたと気づいた。二ヶ月後、私は国際文学賞を受賞し、帰国すると空港で多くのメディアが待っていた。記者たちは次々と私にマイクを向け、ファンたちもサインを求め、熱烈な歓迎を受けた。空港を出ようとするところ、息子一家が目の前に現れた。息子は私の手を握り、「お母さん、本当に素晴らしい。我が国の誇りだ」と称賛の言葉を言ったが、私は無視して足早に立ち去ろうとした。「そうだよ、おばあちゃんすごい」私は彼らの言葉には反応しなかった。「お義母さん、今せっかくだから、食事でもしてお祝いしようよ」と嫁が誘った。「悪いけど、もう食事は済ませたから」しかし、孫が足にしがみつき、「おばあちゃん、僕を嫌いになったの?もう肉団子は作らなくてもいいよ。おばあちゃんがいい。あのばばあは嫌い」と言った。その可愛い姿に
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第8話

嫁が息子に平手打ちをし、「さっさとお義母さんに謝りなさいよ。お義母さんはあなたを産んで育てて、大事にしてきたんだから。あの日、あなたが言ったこと、すごく酷いって思わないの。お義母さんの心を傷つけたのよ」「お母さん、ごめんなさい。本当に悪かった。そんなことをしてしまって、本当に後悔している」「後悔?本当に私を母として扱っているの?家に家政婦がいなくなるのが惜しいだけで、本当の意味で後悔なんかしていないだろう。残念なのは、ひばりが従順な家政婦じゃなかったことだ」子供の頃に何を言ったか覚えてる?ずっと私と一緒にいて、ずっと私を愛し、決して私を悲しませないって。でも実際にやったことはどう?あなたは良心のない父親と同じで、自分勝手で、虚偽に満ちている。決して許さない。子供の世話が必要なら、保姆を雇えばいい。私を無料の保姆として頼らないで「私は今、自分のために生きたいわ。仕事も持っているし、皿洗いや掃除だけをするあなたのお母さんじゃないって分かってる?もしこれ以上、私を引き留めるようなら、警察に通報するわよ」そう言い残し、私はその場を去った。それから、私は自分の道を進み、キャリアも順調で、将太やひばりとはすっかり別世界の人間になった。多くのファンたちに愛されているだけでなく、作品の版権収入は彼らの年収を遥かに上回り、私はもはや彼らの存在に振り回されることはなくなった。そして、将太とひばりの間にも亀裂が生じているようだった。ある日、不動産を処分するために戻ったところ、偶然、将太とひばりが激しく口論している場面を目にした。周囲には人が集まり、スマホで記録している人までいる。「恥を知らないか?こんな年になっても他の男と寝てるだと?」と将太は怒鳴り、ひばりを平手打ちで打ち据えていた。「ふざけるな。私はあんたの妻じゃないのよ」ひばりは泣きながら叫んだ。彼らのやり取りを聞きながら、私はなんとも言えない気持ちになった。「本当にお前みたいな厚かましい女を見誤ったよ。ここ数日、お前は化粧ばかりで、料理は下手くそだし、家中ゴミマンションになってしまっただろう。ゆみには全く及ばない。俺が一番後悔しているのはゆみを裏切ったことだ」「ゆみのことばかり言って。そんなにいいなら、どうして私を選んだのよ?ゆみはもう高嶺の花だし、今さら手が届くわけない
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第9話

私には多くのファンがいて、70歳の高齢でありながらも大きな成果を収めたことで、人々が私に同情し、フォロワーが急増した。コメント欄では、クズ男と女を非難した応援のメッセージで溢れている。そして、将太とひばりは完全に世間からの信頼を失うのを余儀なくされた。事態が静まるかと思っていたところ、将太のパソコンが壊れたということがあった。彼が修理に出した際、スタッフがあのフォルダを発見してしまった。そして、そのスタッフは私のファンであり、それらのビデオをすべて公表した。ネット上では再び大騒ぎとなり、将太とひばりへの非難の声が再燃した。大学のほうもこれを知って、彼が得たすべての栄誉を取り消した。しばらくして、息子一家が将太とともに再び私の家を訪れた。彼らはたくさんのギフトを持って、金のブレスレット、指輪、ネックレスまで私に買ってきた。「すまなかった。僕が悪かった。許してくれないか。君の大切さ、今になって分かったよ」しかし、私は彼の痩せて老いた姿を見ると吐き気がした。「ゆみ、僕はお前なしでは生きていけない。僕たち、ずっと夫婦だったんだぞ。ここで終わりにするわけにはいかないだろ。君がいないと、食べ物もまずくなったよ」彼は涙を流し始めた。「じゃ、飢え死にしてもいいよ」「ゆみ、君はいつも僕に優しかった。なぜ今こんなに冷酷なんだ?」「本当に情けないわ。私はお前に一生尽くしてきたのに、お前はどう?私を子供を産むための道具としてしか見なかった。裏切り続けて40年、人は一度しか生きられないのよ。だから、どうしてここに来る勇気があるの?」「壁に頭をぶつけて潰すべきだろう」「お母さん、お父さんは悪いことをしたが、今何も持ってないんだから、許してくれないか」「黙れ、お前も一緒だ。私が苦労して育てたのに、ひばりを母親として認めるなんて。自分を人間らしいと思っているのか?私を呼びつけ、あの女が枝で怪我しそうになった時、枝を取り除いてやったのを忘れていないわ。お前らに言うことは何もない出て行け、二人とも」彼らは立ち去ることなく、近くのホテルに泊まり、毎日私を悩ませに来た。仕方なく、私はドアをロックして旅行を続けた。ひばりが亡くなったというニュースは、私がネットで見つけた。彼女はこの数年、他の男性たちと乱れた関係を続けていた。
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