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第3話

Author: 金本隼子
息子が電話に出なかったことで、私を責め始めた。

孫は肉団子を楽しみにしていたが、キッチンを覗いても何もなく、がっかりして「肉団子はどこ?食べたいよ」とせがんできた。

「作ってないよ」と告げると、孫は「わぁ」と大声で泣き出し、嫁がすぐに孫を抱きかかえてあやし始めた。

息子は信じられない顔をして、私の前に立って、「お母さん、今日はどうかしてるんじゃないのか。電話をかけてもすぐ切られたし、メッセージも一つも返さなかったし、肉団子まで作らなかった。今日は家で一体何をしてたんだよ?」と言った。

まるで私が雇われた家政婦のように、彼は私を責め立てた。

私は冷静に彼を見つめながら、返事をせず、こう尋ねた。

「高所恐怖症じゃないんだよね?」

息子は一瞬戸惑ったが、すぐに顔をそらし、恥ずかしそうになった。

「つまり、木の上での剪定が嫌で嘘をついたんだね。でも、ほかのどころで木には登って手伝うことがあったの?」

「ほかのどころって?」息子は慌てて私の言葉を遮り、「それは山下さんの家だよ。彼女は一人でああいう仕事ができないから手伝ったんだ。だって、お母さんの一番の友達じゃないか」

私は何も言わず、ただ彼をじっと見つめた。

目の前に立っている息子は、かつて私は命を懸けて産んだ子供だった。出産直後、母乳が足りず、真夜中に泣き続ける息子をなんとかあやしてきた。

やっと出した母乳を、彼は嬉しそうに吸いながら幸せそうな顔を見せてくれた。小さな唇が笑みを浮かべ、私はその顔を見て、我が子の愛らしさに胸がいっぱいになったものだ。

彼は成長しても母に甘え、初めて口にした言葉は「ママ」だった。小学生になっても一緒に寝たがり、「男の子は一人で寝るものだよ」と言われると、「僕はママとずっと一緒にいたいんだ」と泣きながら言った。

けれど、今や私をまるで家政婦のように扱い、母親としての私を軽んじ、学歴もない自分を見下し始めた。

彼は私より父親を尊敬し、ひばりの肩書きに誇りを感じているのだろう。

一筋の涙が静かに頬で流れてきて、私は声を絞り出した。「これからは、もうあなたを私の息子とは思わない」

息子は私を冷たい目で見つめ、まるで私が頭のおかしい人のだと思っているかのようだった。

その時、ずっと黙っていた将太が怒鳴りつけた。「一体何をしているんだ?せっかく家族みんなが楽しく過ごして
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yukosama.0714
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    彼に対して、私は普段は穏やかな声で話してきたのに、今日は初めて大声で怒鳴った。息子は驚いた顔で私を見つめ、みんなも私の反応に驚いていたようだ。息子は面目が立たなかったのか、怒りを込めてドアを激しく閉めて出て行った。嫁も私の様子がおかしいと感じたのか、孫を抱きかかえ、逃げるように出て行った。その後、将太は不機嫌そうに言った。「みんなを怒らせて、これで満足したか?」私が無視すると、彼は顔を曇らせて言い放った。「石川ゆみ、いい加減にしろ。そうしないと......」その言葉に、私がついに我慢の限界を迎えた。「まだわからないの?私は離婚を望んでいるの。離婚の話をして、無駄な話をバカバカしく言わないで」将太は目を見開いた。彼は気品のいい教授で、いつも穏やかだったが、私は今、彼に最も下品な言葉で罵りたい気持ちだった。彼は呆然としながらも、冷静な表情を保ちながら言った。「突然これを言い出した理由は分からないが、聞かなかったことにする」そう言って、書斎に入った。私は彼の恥知らずな態度に吐き気を覚え、長年の裏切ってきたにもかかわらず、彼は罪悪感を少しも感じなかったことに改めて怒りが湧いた。彼が私をただの騒ぎだと思うなら、もう何を言う必要がないので、私は必要の荷物をまとめ、ホテルに泊まることにした。翌日、ふるさとに向かう電車に乗った。親が亡くなってからずっと帰っていなかったが、庭に草が生い茂り、家屋はなんとか残っていた。数日間の修繕で家は新しくなり、私は花や野菜の種を買って、自分のための新しい生活を始めることにした。そんな時、息子から電話がかかってきた。しばらくの沈黙の後、息子が謝罪を始めた。「ごめんなさい、あの日は本当に悪かった。広ちゃんがお母さんの作った肉団子を食べたがっているから迎えに行くよ」私は冷静に答えて、「私は家政婦でもないし、あなたのシェフでもない。もう私たち何もの関わりはないから、電話をかけないで」と電話を切った。将太が私に話したいが、勇気がなくて、代わりに息子に頼んで電話をかけさせたのが私はすぐ分かった。案の定、しばらくすると、将太からも電話がかかってきた。彼はまるで何もなかったかのように、「僕の降圧剤は持っているか?君がいなくなってから飲んでいないんだ」と話しかけてきた。私は冷たく答えた。「私にそんなこと聞か

  • だから、あなたの親友と四十年間浮気したぐらいのことで、離婚する?   第3話

    息子が電話に出なかったことで、私を責め始めた。孫は肉団子を楽しみにしていたが、キッチンを覗いても何もなく、がっかりして「肉団子はどこ?食べたいよ」とせがんできた。「作ってないよ」と告げると、孫は「わぁ」と大声で泣き出し、嫁がすぐに孫を抱きかかえてあやし始めた。息子は信じられない顔をして、私の前に立って、「お母さん、今日はどうかしてるんじゃないのか。電話をかけてもすぐ切られたし、メッセージも一つも返さなかったし、肉団子まで作らなかった。今日は家で一体何をしてたんだよ?」と言った。まるで私が雇われた家政婦のように、彼は私を責め立てた。私は冷静に彼を見つめながら、返事をせず、こう尋ねた。「高所恐怖症じゃないんだよね?」息子は一瞬戸惑ったが、すぐに顔をそらし、恥ずかしそうになった。「つまり、木の上での剪定が嫌で嘘をついたんだね。でも、ほかのどころで木には登って手伝うことがあったの?」「ほかのどころって?」息子は慌てて私の言葉を遮り、「それは山下さんの家だよ。彼女は一人でああいう仕事ができないから手伝ったんだ。だって、お母さんの一番の友達じゃないか」私は何も言わず、ただ彼をじっと見つめた。目の前に立っている息子は、かつて私は命を懸けて産んだ子供だった。出産直後、母乳が足りず、真夜中に泣き続ける息子をなんとかあやしてきた。やっと出した母乳を、彼は嬉しそうに吸いながら幸せそうな顔を見せてくれた。小さな唇が笑みを浮かべ、私はその顔を見て、我が子の愛らしさに胸がいっぱいになったものだ。彼は成長しても母に甘え、初めて口にした言葉は「ママ」だった。小学生になっても一緒に寝たがり、「男の子は一人で寝るものだよ」と言われると、「僕はママとずっと一緒にいたいんだ」と泣きながら言った。けれど、今や私をまるで家政婦のように扱い、母親としての私を軽んじ、学歴もない自分を見下し始めた。彼は私より父親を尊敬し、ひばりの肩書きに誇りを感じているのだろう。一筋の涙が静かに頬で流れてきて、私は声を絞り出した。「これからは、もうあなたを私の息子とは思わない」息子は私を冷たい目で見つめ、まるで私が頭のおかしい人のだと思っているかのようだった。その時、ずっと黙っていた将太が怒鳴りつけた。「一体何をしているんだ?せっかく家族みんなが楽しく過ごして

  • だから、あなたの親友と四十年間浮気したぐらいのことで、離婚する?   第2話

    私はふと、将太が投稿したSNSの写真を開いた。彼はもう70歳を超えているが、その姿はまだ松のようにまっすぐで、若かりし頃の面影がわずかに残っていた。彼は文学部の教授であり、友人のひばりは文学評論家だ。だから、彼らはしばしば一緒に文学作品について議論するチャンスがある。普段はめったに笑わない将太が、今は笑顔を浮かべ、まるで春風に包まれたようだった。遠くには、家で手伝いをしないうちの息子が、ひばりの家の庭にある大きな木の上で枝を剪定していた。汗も拭かずに一生懸命に作業をしている様子を見て、私は胸の痛みがますます強くなり、背中が重く沈み込むように感じた。涙がいきなり溢れ出し、私は自分の犠牲がどれほど滑稽なものだったかを改めて理解した。私は毎朝、誰よりも早く起きて朝食を準備し、食事が終わったら急いで皿を洗い、キッチンを片付け、孫を学校まで送るというような生活をしている。帰り道では買い物をし、家に戻ると掃除と洗濯をする。その後は野菜を洗い、昼食の準備に取りかかる。孫が帰ってくる時間に合わせて、昼食を作り終える必要があるから。孫は好き嫌いが激しく、肉団子や揚げナス、蒸しエビなどを好んで食べるので、準備にも時間がかってしまう。時には忙しすぎて、彼に孫の迎えを頼むと、嫌そうに眉をひそめて、「本を読んでいるところなんだから」と言われるだけだった。こんな生活の中で、私はまるで独楽のように回り続けていた。疲れ切って倒れそうになることもあったが、私は不満を言わなかった。それなのに、報われたのはこんな裏切りだったのだ。妻として、私が「いてもいなくてもいい存在」であるばかりか、母としても「いてもいなくてもいい存在」だと気づいた。自分の立場をはっきりと認識したことで、私は冷静になってきた。もう、こんな人たちと一緒に生活を送るつもりはなかった。それから私はスーパーへ行き、自分のために新しい服を買った。帰り道、お腹が空いたので、小さなレストランで料理をいくつか注文し、のんびりと食事を楽しんだ。これまで、節約のため、そして家族が健康でいられるように、40年も毎日自分でご飯を作ってきた。結婚式や宴会を除けば、いつもいつもキッチンに立っていた。しかし、これからはもう、そういうことはしない。家に戻って、しばらくテレビを見なが

  • だから、あなたの親友と四十年間浮気したぐらいのことで、離婚する?   第1話

    その画面を見つめ、手に握ったマウスが震えた。それぞれの動画には日付が細かく記録されている。白髪の彼は、同じ白髪の親友を抱きしめ、首に愛おしくキスをし、彼女の体に優しく触れていた。最初の動画に戻ると、画面はぼやけており、懐かしい雰囲気が漂っていた。彼らの顔は若く、今よりずっと若いことが一目で分かる。ベッドの脇には、私と平井将太の結婚写真が置かれていた。だが、ベッドの上で彼に服を荒々しく脱がされているのは私ではない。彼は親友を抱きしめ、まるで一体になろうとするかのようにしっかりと抱き合っていた。私はそれを見て、力を失い、床に崩れ落ちた。圧倒的なショックが押し寄せ、息が詰まりそうになった。口を大きく開けて息を吸おうとするも、酸素がまるで胸に入ってこないようだった。涙が手の甲に一滴ずつ落ちていった。彼が初めて「できない」と言ったとき、私は迷っていた。しかし、彼を見捨てることはしなかった。彼のために、私は40年間耐えてきた。それなのに、これがすべて嘘だった。私が忙しく親と子供の世話をしている時も、夜更けに孤独に耐えている時も、彼は私の一番の親友と愛し合っていたのだ。時には彼に抱きしめてほしいと頼んだが、彼はずっとしてくれなかった。親友のために「純潔」を守っていたんだろう。私はどうしてこんなにも冷酷なのかと彼を憎んでいる。。40年間、どうしてこんなに完璧に私を騙し続けられたのかとずっと考えている。もっと難解なのは、もし私を愛していなければ、なぜ私を捨ててあの人と一緒に生きなかったのかということだ。なぜ、最愛の友人と一緒になって私を裏切り、私の人生を台無しにしたのか。頭の中は、もつれた縄で縛られたように痛み、混乱していた。私は立ち上がり、すべての引き出しを探し始めた。真実を知りたかったが、何も見つからなかった。結婚前に将太が付き合っていた女性がいたことを思い出し、そして結婚することが向こうの両親に反対されたと聞いたが、詳しい理由は聞かなかった。私は彼の姉に電話をかけた。彼女は私の泣き声に気づいたが、私は平静を装って聞いた。「お姉さん、大丈夫よ。ちょっと気になったんだけど、将太が若い頃に付き合っていた女性、どうして両親はあんなに強く反対したの?」「ああ、そのことかい?あの女性には子供がで

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