「冬城!どうして……」「もう離婚という言葉は聞きたくない。俺が許さない限り、お前は永遠に俺の妻だ」「あなたに何の権利が……」「この海城では俺の言葉が法だからだ。俺が反対する限り、離婚など認めない」「あなた……」真奈が言い終わる前に、冬城は離婚協議書をゴミ箱に放り込み、階段を上がっていった。真奈は冬城の背中を怒りの眼差しで見送った。おかしい。なぜ離婚を拒むのか。前世では彼女が泣きながら離婚を止めようとしたのに、冬城は容赦なかった。今度は彼女から離婚を切り出し、ここまで揉めているのに、逆に離婚を拒むなんて。真奈はゴミ箱の中の離婚協議書を見つめた。確かに冬城の言う通り、この海城では彼の言葉が絶対だ。彼が同意しない限り、離婚はできない。となれば、離婚に向けて別の手を打つ必要がありそうだ。翌日、真奈は商業登記所に赴き、瀬川家の赤字企業数社の引き継ぎ手続きを済ませた。会社に到着すると、だらしない受付と、トランプに興じる社員たちの姿が目に入った。瀬川家のエンタメ部門は業界で有名なポンコツ企業だ。以前は多くの優秀なタレントが所属していたが、皆引き抜かれてしまった。今では毎年大きな赤字を出し、瀬川家が穴埋めをしている状態だ。このままでは数年後には立ち行かなくなるだろう。真奈がゆっくりと入ってくると、受付は顔も上げずに冷たく尋ねた。「本日はどのご用件でしょうか」「瀬川真奈よ」「瀬川真奈?」受付は言葉を反復し、何かを思い出したように慌てて顔を上げた。「瀬川社長!」瀬川社長という言葉を聞いた社員たちは姿勢を正し、急いでトランプを片付けた。真奈は一瞥して尋ねた。「私が来ることを知らなかったのか」数人が一列に並び、居心地の悪そうな表情を浮かべた。「私たち、その……吉田マネージャーが来られるものと……」真奈は眉を上げた。吉田マネージャーか。「昨日、私が瀬川エンターテインメントを引き継ぐという連絡があったはず。これからは頻繁に来るから、勤務中の怠慢を見つけたら即刻解雇だわ」「いえ、とんでもないです!私たち、ただ暇を持て余しただけで、二度とこのようなことは……」マネージャーは慌てて言った。真奈は適当な場所に腰を下ろした。内装は立派だ。瀬川家が当初投資した額を考えれば、毎年赤字を出すはず
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