少しの沈黙のあと、若子が口を開いた。「何かを約束することはできません。でも、とりあえず聞いてみます」「松本さん、それなら俺も何も約束できないな」高峯は冷静に返した。「お互い頑張らないといけないようだ。俺は忙しいので、これで失礼する。いい知らせを待っているよ」そう言って、高峯は一方的に通話を切った。若子は握りしめたスマホを見つめながら、強く息を吐いた。―高峯はあまりにも冷酷だ。自分の息子を脅しの材料に使うなんて。とはいえ、世の中にはいろんな人間がいる。親だからといって、みんなが親としての資格を持っているわけではない。人渣は親になっても人渣だ。親になったからといって、偉大な人間になれるわけでも、英雄になれるわけでもない。若子は深く考え込みながら、光莉の番号をスマホから引っ張り出した。躊躇しつつも、ついに番号をタップして発信した。通話がつながるまで、かなりの時間がかかった。「もしもし。お母さん、私です」「何か用?」電話の向こうから聞こえてきたのは、冷たい声だった。顔が見えなくても、若子には光莉の声がどこか冷酷に感じられた。きっと何かあったのだろう。「お礼を言いたくて。今日、ありがとうございました。友達が無事でした」「そう」光莉の声はそっけない。「無事ならそれでいい。他に用がある?ちょっと忙しいんだけど」「はい、実はもうひとつお願いがあって」「何?」「その...... 友達のお父さんが、お母さんに会いたいと言っていて。豊旗銀行の行長だって知って、ぜひお会いしたいそうなんです」電話越しに、重たい沈黙が数秒続いた。やがて光莉の冷たい声が聞こえた。「その友達の父親って、さっきのあの人?」「そう。雲天の社長、遠藤高峯です」また数秒の沈黙が訪れた。「そう」と光莉が短く答える。「その人、名前は聞いたことある。でも、会いたくはないわ」若子が一番恐れていた展開が現実になった。「お母さん、お願いです。ご迷惑をかけるのは分かっています。でも、少しだけでも顔を出してもらえませんか?適当に話すだけでいいので、深い付き合いをする必要はありません」「無理よ」光莉の拒絶はあまりにあっさりしていた。「今は時間がない。忙しいから切るわね。さようなら」それだけ言うと、光莉は一方的に通話を切った。若子は、あま
Last Updated : 2024-11-27 Read more