社長さん、あまり誘わないで！正体を隠した前妻は不可侵よ！ のすべてのチャプター: チャプター 361 - チャプター 370

三ヶ月後、東南アジアのあるプライベートアイランドで、篠田初は白いハンモックに横たわり、のんびりと冷たい西瓜を食べながらショート動画を見ていた。出産予定日まであと二ヶ月ほどで、彼女のお腹はすでにかなり大きくなっていた。海都を離れてから、彼女はこの小さな島にずっと滞在している。彼女は毎日海風に吹かれながら食事をしたり、動画を見たり、遠隔で天心グループや法律事務所を運営して、悠々自適な生活を楽しんでいた。まさに、ネットで言われている通り、「男の近くにいると不幸になる」というのは真実だった。篠田初は松山昌平の世界から完全に引退した後、食べ物が全部美味しく、身体も健康で、毎日寝たいだけ寝て、楽しい日々を過ごしていた。おかげで体重も増えた。このプライベートアイランドは、何年も前に彼女が自分の奨学金や特許料、子供のころから貯めていたお小遣いで購入し、自分の夢通りに作り上げたものだった。最初は、この島を桃源郷のように作り上げた後、祖父や両親を連れてここで休暇を過ごすつもりだった。残念ながら予定通りにはいかず、島が完成した直後に、篠田家に問題が起きたため、松山家に嫁いだ篠田初は一度も島に足を踏み入れることがなかった。この数年間、白川景雄が島の管理費を負担してきたおかげで、島は荒れることなく、むしろ着実に良くなり、基礎的な通信設備まで整備されていた。自分でインターネット接続環境を確保できたため、篠田初は自由にインターネットを利用でき、個人情報が追跡されることはなかった。この島はまさに小さな国のようなもので、必要なものはすべて揃っている。篠田初が望むなら、死ぬまで住み続けることができ、決して誰にも見つかることはない。篠田初はこの島に「向日島」と名付け、島中に向日葵を植えた。彼女は、生まれた子供たちが、向日葵のように太陽の光を追い、強くて前向きに生きてほしいと願っていた。島で生活しているのは篠田初だけではなく、彼女の乳母である梅井おばさんも一緒だった。先祖の医術を受け継いでいる梅井おばさんは、篠田初の妊娠中の健康管理をしっかりと行い、毎日栄養バランスの取れた食事を作ってくれた。二人は子供の誕生を心待ちにしており、島にさらに多くの命を吹き込むことを楽しみにしていた。港からスピードボートの音が聞こえた。梅井おばさんは遠くから下船し

「面白いもの？」篠田初は好奇心に駆られ、急いで近づいて画面を見た。白川悦子はビデオを開いた。ビデオは映画館で撮られたようで、数人の男女がスクリーンの前に立っており、映画を宣伝しているようだった。「これは......」男女の俳優が自己紹介をしているのを見た篠田初は、紅唇をわずかに開き、驚きのあまりまるで宇宙人を見たかのような表情を浮かべた。「ハハ、驚いたでしょ？これは映画『初心繫昌』の初公開だよ......そう、松山昌平と初姉の同人小説を映画化したやつ。私も見に行ったけど、とても良くて、めちゃ泣いたわ！」白川悦子は映画を思い返しながら、再度見たいと言わんばかりに興奮していた。「ありえない！誰か教えて、なぜ男主人公が......松山昌平、あの野郎なんだ？」篠田初は目を何度もこすり、確認しても信じられず、映画の男主人公が松山昌平本人だとは到底思えなかった！あの人、名の知れた仕事中毒者じゃないか？秒で何十億も稼げるビジネスエリートだろう？名門の御曹司だろう？どうして格を下げて、こんなドロドロした内容の恋愛映画に出るんだろう？暇すぎるのか？それとも制作会社に弱みを握られたのか？「そうなんだよ。この映画は秘密裏に撮られて、突然発表された時、エンタメ業界も商業界も名門も一般層も、みんな驚いた。映画はすぐトレンドに入ったんだよ。噂では、松山野郎が直接出演したのは、脚本が彼のオリジナルだからだって。つまり、あの話題になった同人小説は彼が書いたってことだよ。映画化したのも、初姉を想ってるから......」「ふざけんな！」篠田初は立ち上がり、怒って叫んだ。「誰がその小説は彼が書いたなんて言ってるんだよ！他人の創作を盗んでおいて、彼に恥も外聞もないのか！考えてみてよ！あんな氷のような冷血の松山野郎が、こんな暖かくて、泣ける作品を作れるのか？」「初姉、ちょっと落ち着いて。座って、あまり動くと、赤ちゃんに良くないから」白川悦子は篠田初を座らせ、翼々と言った。「私もそう思うよ。松山野郎みたいな冷血漢が、こんな感動的な小説を作るなんてあり得ない。でも、原作者は今でも出てきていないよ。そうなると、彼が書いたってことになる。それに、ネットで公開されていた小説はまだ完結していなかったんだよね。でも映画は完全版に基づいて作られてる。個人的には、ス

白川景雄と白川悦子を送り返した後、もう夜になっていた。島は再び静かな雰囲気に包まれ、花の香りと穏やかな海の波音が心地よく響いている。篠田初は、あちこちを触ったり見たりして、新しく飼った猫「橘（たちばな）」に約30分間も餌をやったりして......何かから逃げるように忙しくしていた。その間、彼女の澄んだ目は時折書斎のパソコンに向かって、無意識に指を動かしながら、何かをしたいという気持ちが溢れ出ている様子だった......結局、彼女は好奇心を抑えきれず、パソコンを開けた。長い指がキーボードで「パチパチ」と操作した後、篠田初は映画配給会社の内部システムに侵入し、もうすぐ公開される『初心繫昌』をコピーすることに成功した。ふふ、映画初出演であんなに好評を得るなんて、松山昌平がどれほどすごいのか見てやろう？映画は2時間以上の長さだ。篠田初はそれをプライベートシアターに投影した。フルーツやお菓子、自家製ミルクティーを準備してた彼女は、ラウンジソファに寄りかかり、静かに鑑賞し始めた。言わざるを得なかったが、映画は本当に質感が良かった。恋愛映画の撮影技法で、どのフレームも細かく作り込まれており、粗製乱造な量産型の駄作とは全然違う。映画の最初のシーンから、篠田初の心を掴んだ。ストーリーは非常に忠実に再現され、男女主人公が豪雨の真っ夏に出会うシーンが描かれていた。篠田初は見ているうちに目が赤くなり、まるで映画を見ているのではなく、自分を鏡で見ているような感覚になった。長い4年の結婚生活が2時間に縮まった。辛酸甘苦や、人生の常ならぬ移り変わりが映画の中に詰まっていた。映画の後半は、松山昌平が自ら創作したシーンで、雰囲気は前半のような悲しい感じではない。主に男女主人公が子供を育てる生活が描かれていて、甘く温かいものだった。そしてある日、男女主人公はちょっとした誤解から大喧嘩をした。怒った女主人公は家出して、二度と戻らなくなる。男主人公は子供を連れて、世界中を回って女主人公を探し続ける。行く先々で、女主人公に一通ずつポストカードを送る。ポストカードがどんどん増えていき、ついには一つのスーツケースを満たすほどになったが、男主人公は女主人公の手がかりを一向に掴めなかった。最後に、男主人公が眠っている間、夢の中で「君、やっと帰っ

松山昌平は『初心繫昌』という映画がトレンドに入って、世界中で知られるようになったとき、篠田初が反応することは予想していた。しかし、彼は女性の反応がこんなに早いとは思っていなかった。映画はまだ小規模な試写会で、公開前なのに、彼女は待ちきれずに現れた......どうやら、彼女が思っていたほど洒脱に消え去ったわけではないようだ。同時に、司健治は松山グループの社長室に足を運び、謎めいたように、メモを松山昌平の手に渡した。「昌平兄、物はちゃんと渡したよ。今回、僕がここまでやったんだから。それでも、初ちゃんを落とさなかったら、昌平兄に問題があるってことだ。僕と関係ないぞ！」松山昌平は仕事に集中しており、眉をひそめて手に持っていたメモを見下ろした。「これ、何だ？」「初ちゃんの居場所だ！」司健治は非常に興奮して言った。「さっき言った通り、謎の人物が配給元の内部システムに侵入して、映画の原版をコピーしたんだ。僕は大金を払ってハッカーを雇い、その謎の人物の居場所を簡単に突き止めた。なんと、それは人けのない島だったんだ。もし間違いなければ、初ちゃんは今その島にいるはずだ......「なるほど。だからこんなに探しても見つからなかったんだ。彼女、隠れるのが上手すぎる！」松山昌平の深い瞳は一瞬だけ変化したが、すぐに冷淡で無関心な表情に戻った。「彼女がどこにいるか、俺には関係ない。これ、持って帰れ、俺は必要ない」「昌平兄、なんだそれ？初ちゃんが動き出すかどうかを見守れって、昌平兄が言ったんだろ。映画を撮ったのも、出演したのも、彼女に見てもらって、謝罪するためだろ？彼女を引き出すためだろ？それなのに今、どうして『関係ない』って言うんだ？」「お前に頼んだのは、彼女が本当にそんなに洒脱なのか確認するためだった。もうその答えは出た。彼女がどこにいるか、もう関係ない」松山昌平は言いながら、手元の書類を処理し続けている。どうやら、篠田初の所在には全く関心がないようで、女性を探すつもりもなさそうだった。これに、司健治は少し驚き、どうすべきか分からなかった。彼は自信満々で、篠田初の住所が分かれば、松山昌平は夜を徹してでも彼女を探しに行くと思っていた。そして、彼はこの「手柄」で、彼らの前で三年も自慢できると思っていた。だが、松山昌平は全く予想通りには動かない

松山昌平は自家のプライベートジェットを使い、司健治から送られてきたその島へ、最速で夜通し飛んだ。途中、彼は心の中で何度もシミュレーションをしていた。篠田初に会ったとき、クールに振る舞わなければならない。何せ、多忙な彼は、彼女を探しに行くのは、会いたいからでも復縁したいからでもなく、ただ松山グループの法的問題が多すぎて、繫昌法律事務所の弁護士を借りたかったからだ。「そう、これだ！」よく考えた末に、松山昌平はようやく合理的な理由を思いつき、少し落ち着きを取り戻した。島に到着したのは、ちょうど翌日の朝だった。オレンジ色の朝日が水平線から昇ると、青い海が赤く染まって、とても壮麗に見えた。松山昌平は現地のスピードボートに乗り、風を切って島へと上陸した。島に上陸すると、地元の小さな女の子が近寄ってきた。「おじさん、篠田おばちゃんを探しに来たの？」小さな女の子は日焼けした黒い顔で、無邪気に笑いながら彼に尋ねた。「その通りだ」松山昌平はその小さな女の子を見て、心がとても晴れやかになった。心の中で彼は思った。いいね。誰かを迎えに来させることを覚えたとは、あの人もようやく物事がわかるようになったね。「じゃあ、おじさん、私についてきて、篠田おばちゃんのところに案内するね！」小さな女の子は松山昌平に手を振り、元気よく走り出した。松山昌平は何も疑わず、軽装でその後に続いた。彼は最初は遠くないと思っていたが、実際には彼があまりにも甘く考えていたことに気づいた。彼はエンジンが掛かったように、山の底から曲がりくねって進み、途中休むことなく2時間歩き続けた。松山昌平は頑健だが、さすがに疲れてきて、息を切らしながら前を歩いている女の子に言った。「もう着かないのか？彼女は一体どこにいるんだ？」「篠田おばちゃんの家はすごく遠いけど、すごくきれいで、まさに桃源郷だよ。行ったら、きっと好きになるよ！」松山昌平は文句を言いたかったが、我慢して息を切らしながら言った。「じゃあ、少し休もうか」小さな女の子は言った。「おじさん、このくらいの道で疲れちゃうの？やっぱり篠田おばちゃんが言ってた通り、弱虫なんだね！」松山昌平は呆然とした。篠田初！待ってろよ。捕まえたら、この俺、松山昌平が弱虫じゃないことを見せてやるからな