森岡翔と佐野紫衣がいなくなった。 カラオケルームに残された井上海は、顔をしかめていた。 シンゲンエンターテインメントの社長になってから、こんなに面子を潰されたのは久しぶりだ。 芸能界に興味がなく、自分の誘いにも乗ってこない女には、どうすればいいのか…井上海は、良い策が思いつかなかった。 徳永芸と佐藤蘭は、井上海の両脇に座り、彼にお酒を注いだ。二人は、どうしてもこの役を手に入れたかった。 ヒモ四天王の中で、村上祐介は相変わらずマイペースだったが、他の二人は、黒崎監督に媚びへつらい始めた。黒崎監督は、それなりに名の知れた映画監督であり、藤原豹たちにとっては雲の上の存在なのだ。 メンバーたちは、それぞれの思いを胸に、お酒を飲み続けた。 森岡翔と佐野紫衣は、エレベーターで下の階へ向かっていた。 エレベーターの中で、佐野紫衣が突然尋ねた。「森岡さん、このホテル、あなたのものなの?」 「え?」森岡翔は、一瞬、何を言われたのか理解できなかった。 「言い訳して隠さなくてもいいわ。あなたが、このホテルと深い関係があることは、もう分かっているから」佐野紫衣は続けた。 「俺は何も隠してない。それに、君が何を言ってるのか、さっぱり分からないよ」森岡翔は言った。 「森岡さん、ホテルのキャンペーンで、料金が全額無料になることなんてないわ。しかも、200万円以上も…さすがにやりすぎよ。せいぜい、割引くらいでしょう」 「このホテルが料金を無料にするかどうか、俺に関係あるのか?」 「森岡さん、認めなくてもいいわ。でも、女の勘は、大体当たるものなのよ!料金が無料になったのは、絶対にあなたが指示したからよ。そんなことができるのは、このホテルの重要人物しかいない。敏たちが戻ってきたら、みんなで考えてみましょう。誰が、そんな権力を持っているのか」 森岡翔は、この女はすごいと思った。頭が良すぎる。料金が無料になっただけで、誰がやったのか見抜くなんて…探偵になればいいのに。 彼は知らなかった。佐野紫衣は、昨日、彼がホテルに入った時、従業員たちが彼にお辞儀をしていたのを見て、彼が重要人物だと確信していたのだ。 「わかったよ、佐野さん。君の勝ちだ。料金を無料にしたのは、確かに俺だ」森岡翔は、ごまかしきれなくなったので、認めた。 「それで、あなた
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