億万長者の秘密が、今から明かされる のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

100 チャプター

第21話  

翌日、森岡翔は昼まで寝ていた。 顔を洗って歯を磨き、森岡翔は金葉ホテルへ向かった。 「森岡社長、こんにちは!」 「森岡社長、こんにちは!」 ホテルに入ると、彼に挨拶する従業員が後を絶たなかった。 昼食を済ませた森岡翔は、そのまま会長室へ向かい、休憩することにした。 しばらくすると、ノックの音が聞こえた。 「コンコン…」 「どうぞ!」 中村薫が入ってきた。 「森岡社長、ホテルの引き継ぎ手続きが始まりましたが、いつ頃、お時間よろしいでしょうか?」 「薫姉さん、言っただろう?引き継ぎのことは、俺は口出ししないから、任せるよ。支払いが必要になったら、連絡してくれればいい」 「分かりました。それでは、社長のご休息を邪魔しないようにいたします。あ、そうだ、今夜、引っ越してきますね!夜はドアを開けて待ってますから!」 そう言うと、中村薫は、森岡翔が何か言う前にオフィスを出て行った。 またか… また誘惑された… 森岡翔は椅子に座り、スマホをいじっていた。 ラインを開く。 村上祐介からメッセージが届いていた。 「翔、いつ大学に戻るんだ?」 「明日かな」森岡翔は返信した。 「翔、一つ、話しておきたいことがある。絶対に怒るなよ」 「何だよ」 「高坂の野郎、お前が血を吐いて倒れた時の写真を学内ネットにアップしたんだ。しかも、色々エピソード付きで…お前、今…すごい有名人になってるぞ!」 「マジかよ!ちょっと送ってくれ!」 しばらくすると、村上祐介から写真が送られてきた。 それは、森岡翔が小さな森の中で倒れていた時の写真だった。 「あの野郎、昨夜はほんの少し利子を回収しただけだ。これから、じっくりと痛めつけてやる」森岡翔は心の中で毒づいた。 森岡翔は、再びスマホをいじっていた。 そして、秋元詩韻にメッセージを送った。 「今晩6時、金葉ホテルで会おう。来たら、名前を言えば大丈夫だから」 「かしこまりました、マッチ棒社長。お会いできるのを楽しみにしています!」秋元詩韻は返信した。 秋元詩韻は今、授業中だったが、朝からずっとスマホが気になって仕方がなかった。森岡翔からの電話やメッセージを見逃さないように、気を張っていたのだ。 高坂俊朗や徳永勇のような、中途半端な金持ちの
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第22話  

個室に入ると、誰もいなかった。 秋元詩韻は適当な席に座ったが、心は落ち着かなかった。 しばらくすると… ドアが開く音がした。 秋元詩韻はドキッとして、顔を上げた。 ドアが開き、若い男性が入ってきた。 入ってきた男性を見て、秋元詩韻は、どこかで見たことがあるような気がした。 「もしかして…森岡さん?」秋元詩韻は立ち上がり、半信半疑といった様子で尋ねた。 「秋元さん、どうも。森岡翔です。まさか、秋元さんが俺のこと知ってるなんて…やっぱり、大学で噂になってるのかな?」森岡翔は苦笑しながら答えた。 「本当に、森岡さんなの?」秋元詩韻はもう一度尋ねた。 「本物だよ」 「あなたが、昨夜、私に2億円以上もギフトを贈ってくれた小さなマッチ棒さんなの?」 「どう?似てない?」 「そんなはずないわ。だって、森岡さんが…どうして…」 秋元詩韻は驚きすぎて、言葉が出なかった。 ここ2日間で、森岡翔は確かに江南大学で有名人になっていた。しかし、それは良い噂ではなかった。 ラインや学校フォーラムでは、彼の噂でもちきりだったのだ。 4年間付き合った彼女を他の男に奪われ、ショックのあまり血を吐いて倒れた、という話だった。写真までアップされていた。 もし、この人が森岡翔なら、どうして他の男に彼女を奪われるんだ?むしろ、彼が他の男から彼女を奪う側だろう。誰がこんな大金持ちと別れるんだ?頭がおかしいんじゃないか! 「秋元さん、ああ…話せば長くなるんだ。とりあえず、座って。食事しながら話そう」 秋元詩韻は席に着いたが、森岡翔から目を離さなかった。どうしても、彼が噂の森岡翔だとは信じられなかったのだ。 すぐに個室のドアが開き、料理が運ばれてきた。2分も経たないうちに、テーブルいっぱいに料理が並んだ。 「森岡社長、お料理が全て揃いました。ごゆっくりお召し上がりください。何かございましたら、お呼びくださいませ」 新しいロビーマネージャーはそう言うと、個室を出て行った。 森岡社長?それとも森岡さん?従業員がお客様の名前を直接呼ぶことはないはずだ。ということは…森岡社長?でも、どうして社長と呼ばれているんだろう? 秋元詩韻は疑問でいっぱいだった。 「秋元さん、先に食べよう。お腹減ってるだろう?」森岡翔は言った。
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第23話  

秋元詩韻は、金葉ホテルを出てから、ずっとボーッとしていた。 ここ数日、大学で噂になっていた貧乏学生の森岡翔が、実はとんでもない大金持ちだったなんて…誰が信じるだろうか? しかも、金葉ホテルのオーナーだなんて… 金葉ホテルって、一体いくらするんだろう?2000億円?それとも4000億円? しかも、森岡翔にとっては、金葉ホテルなんて大した金額ではないみたいだし…彼はいったい、どれだけの資産を持っていたんだろう?2兆?それとも4兆? さらに滑稽なのは、そんな大金持ちが、相川沙織に振られたということだ! 相川沙織のことは知っていた。二人とも大学のダンスサークルのメンバーで、親しくはないが、顔見知りではあった。 もし、相川沙織が森岡翔の正体を知ったら、きっと後悔して泣き崩れるに違いない。まさに、小粒のゴマを拾ってるために、大きなスイカを捨てたようなものだった。 森岡翔は秘密にしてほしいと言って、これからも目立ちたくないようなので、彼女は彼の秘密を守ろうと思った。それに、誰もライバルがいなければ、彼女は安心して森岡翔に近づけた。彼女は、彼に寄り添うことを決意した。 ライブ配信は、もうできないだろう。もし配信を始めたら、絶対叩かれる。ライブ配信では、何を言われるか分からない。 多くの人は、きっと自分のことを森岡翔の女だと思っているだろう。しかし、実際には、二人は食事をしただけで、何もなかった。 秋元詩韻は、これ以上他人から侮辱されたくなかった。それに、1億4千万円以上の収入もあるし、実家に少し広めの家を買ってあげられる。 森岡翔に頼れば、これからお金に困ることはないだろう。 森岡翔は食事を終えると、車で江城を一周した。普通の服を何着か買った。明日は大学に戻る予定なので、目立たない方がいいだろう。 江南インターナショナルマンションに戻ると… 中村薫がすでに引っ越ししてきており、部屋の片付けをしていた。 森岡翔は彼女に声をかけずに、そのまま上の階へ上がった。 翌日。 森岡翔は早起きをした。 顔を洗って歯を磨き、下の階へ降りていった。 リビングに行くと、中村薫はすでに身支度を整え、出勤の準備をしていた。 「薫姉さん、おはよう!」 「森岡社長、今日はずいぶんお早いんですね」 「薫姉さん、俺は大学生
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第24話  

森岡翔は、まるで何も聞こえていないかのように、そのまま教室へ向かった。 仕方がなかった。まさか、彼らに殴りかかっていけるわけでもない。それに、一人で3人に喧嘩を売るなんて、自殺行為だった。 もう少し我慢しよう。限定生産のブガッティを手に入れたら、お前らに見せつけてやるからな。 森岡翔は教室に入っていった。 教室には、すでに大半の学生が着席していた。 森岡翔が入ってくると、みんな好奇心いっぱいの視線で彼を見つめた。 森岡翔が自分の席に戻ると、村上祐介たちが近づいてきた。 彼らは、大学に入学した当初、1年以上一緒に寮で暮らし、ヒモ四天王を自称していた。仲の良い4人組だった。 「翔!大丈夫か?」村上祐介が口を開いた。 「大丈夫だよ。お前ら、何だよ?俺が自殺でもするかと思ってるのか?」森岡翔は答えた。 「無事なら良かった。お前が落ち込んで、俺たちヒモ四天王の名が廃るんじゃないかと心配してたんだ」今度は、ヒモ四天王の一人である藤原豹が言った。 「今の時代、三本足の蛙を探す方が難しいけど、二本足の女なんて、どこにでもいるぜ」ヒモ四天王のもう一人、周藤文華が言った。 「もういいよ、心配しなくても大丈夫だって。俺が落ち込んでるように見えるか?」森岡翔は言った。 「分かった、無事なら良かった。じゃあ、明日の夜、合コンしようぜ。もう手配は済んでる。場所は、明日の午後に連絡する。久しぶりに、みんなで集まろう」村上祐介が言った。 「久しぶりに集まるのはいいけど、なんで合コンなんだよ?」森岡翔は尋ねた。 村上祐介は、森岡翔の耳元で小声で言った。 「安心しろよ、今回の合コンの相手は、うちの大学の女子じゃない。江南メディア大学の学生だ。あそこの芸術学部の子たちは、みんな美人だぞ。うちの大学の子とはレベルが違うからな」 「なんで、お前、メディア大学の学生と知り合いなんだよ?」森岡翔は尋ねた。 「俺、新しい彼女できたんだよ。メディア大学の学生なんだ。どうだ、すごいだろ?」村上祐介は、得意げに言った。 「また?お前、彼女を替えるのが早すぎるだろ!お前みたいな浮気性の金持ちのボンボンがいるから、俺みたいな尽くすだけの男は、いつまでも報われないんだよ」 「おいおいおい!!!俺を、高坂の野郎と一緒にしてくれるな!俺が遊んでるのは
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第25話  

千葉偉が最初に立候補した後、他の男子生徒たちも次々と手を挙げ、涼宮映雪との共演を希望した。 しかし、最終的に担任の先生は、千葉偉を選んだ。仕方がなく、彼はクラス委員長であり、先生にとっては一目置く存在だったのだ。 「映雪、千葉、あと数日しかないけど、しっかり練習するように。順位は気にしなくていいから、恥をかかない程度には仕上げておいて」 そう言うと、担任の先生は教室を出て行った。 先生が出て行った直後、教室の入口に人影が現れた。 「すみません、森岡翔さんはいらっしゃいますか?」 声が聞こえると、クラス全員が入り口の方を見た。 「うそ…三大美女の一人、秋元詩韻じゃないか!」 「秋元詩韻、今、誰を探してた?」 「森岡?」 「まさか!」 「秋元さん、誰を探してるんですか?」一人の生徒が尋ねた。 「森岡翔さんを探しています」秋元詩韻は答えた。 「マジかよ!本当に森岡を探してるのか!」 全員が信じられないという目で、森岡翔を見た。 森岡翔は、数十人の視線に晒された。 仕方なく、彼は席を立ち、教室を出て行った。 入り口まで来ると、秋元詩韻に向かって「行こうか」と言った。 そして、彼は先に歩き出した。 秋元詩韻は、おとなしく森岡翔の後をついて行った。 森岡翔と秋元詩韻がいなくなると、教室は大騒ぎになった。 「マジかよ!わずか3日で、森岡は学校の三大美女の一人、秋元詩韻をモノにしたのか!」 「見てなかったのか?秋元女神、森岡の後ろを大人しくついて行ってたぞ。完全に森岡にベタ惚れって感じだった」 「おい…ちょっとつねってくれ。夢じゃないよな?」 「痛っ!痛って!やばっ、やばっ、夢じゃなかった!」 「ちょっと待って!森岡の元カノって、誰だっけ?」一人の生徒が尋ねた。 「確か、相川沙織!」 「相川沙織って、高坂俊朗に奪われたんだっけ?」 「で、高坂俊朗は、秋元詩韻の二大パトロンの一人」 「森岡、すげえな!完璧なやり返しだ!」 「俺の女を奪ったら、お前の女神を奪ってやる!」 「この反撃…まさに怒涛の勢いだ。今度は、高坂が血を吐く番だな!」 ヒモ四天王の残り3人は、顔を見合わせて、同時に言った。「森岡、すげえぞ!」 涼宮映雪もまた、興味津々の視線を向けていた。
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第26話  

「で、秋元さん、俺に何の用なんだ?」森岡翔は尋ねた。 「用事がないと、森岡さんに会っちゃいけないの?」秋元詩韻は聞き返した。 「だったら、メッセージを送るか、電話をかけてくればいいだろう?どうしてわざわざ教室まで来たんだ?」 「森岡さん、今、あなたの力になろうとしてるのよ!恩を仇で返さないで」 「俺の力になる?どうやって?」森岡翔は尋ねた。 秋元詩韻は少し考えてから言った。 「森岡さん、考えてみて。この前の事件のせいで、今、あなたが大学に現れたら、きっとみんなこう言うわ。見て、あれが森岡翔よ。この前、彼女を奪われて、怒りのあまり血を吐いて倒れた男よって」 「でも、私があなたに会いに来たことが知れ渡れば、みんな、あなたが血を吐いて倒れたことよりも、私たち二人が付き合ってるのかどうか、そっちの方が気になるはずよ」 「どっちの噂の方が、あなたにとって都合が良いと思う?」 森岡翔は考えた。確かに、その通りだった。 「じゃあ、秋元さん、ありがとう」 「お礼なんて、とんでもないわ。私の方こそ、高坂俊朗とのデートを止めて、たくさんのギフトを贈ってくれて、しかも、毎日ごちそうしてくれる森岡さんにお礼を言わなきゃいけないのに」 「でも、秋元さん、こんなことして、自分の評判が落ちないか、心配じゃないのか?」 「大丈夫よ。あなたに借りができたんだから」秋元詩韻は気にする様子もなく言った。 森岡翔と秋元詩韻は、グラウンドを歩きながら、他愛もない話をしていた。 しかし、秋元詩韻が教室まで森岡翔を迎えに来て、大人しく連れられて行ったという話は、どんどん広まっていった。 大学は狭い世界だし、相手は三大美女の一人だった。 噂が広まるスピードは、想像を絶するものだった。 もちろん、これにはヒモ四天王の他の3人の活躍も大きかった。今の時代は連絡手段が発達していたので、ラインのグループチャットに投稿すれば、すぐに大学中に知れ渡ってしまった。 最も早く、そして最も広く広まった噂は、3日前、高坂俊朗が森岡翔の彼女、相川沙織を奪い、森岡翔は怒りのあまり血を吐いて倒れた。 そして3日後、森岡翔は、高坂俊朗が何ヶ月もかけて口説いていた秋元詩韻をモノにしたというのだ。 高坂俊朗は、完全に面目を潰された。 最初は、誰もこの話を信じ
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第27話  

二人は食事を終えると、金葉ホテルで昼寝をした。 もちろん、森岡翔は会長室で休憩し、秋元詩韻はプレジデンシャルスイートを取った。森岡翔が会長なので、当然、無料だ。 午後の授業が始まる頃に、二人は大学に戻った。食事に出かけて、2~3時間も帰って来なかったことで、周りの学生たちの妄想はさらに膨らんだ。 午後の時間はあっという間に過ぎた。 森岡翔は大学構内を歩いていた。 秋元詩韻の分析通り、周りの学生たちは、以前のような軽蔑の眼差しではなく、羨望と嫉妬の入り混じった目で彼を見ていた。 森岡翔は、金葉ホテルまで歩いて戻った。 ホテルに入ると、背の高い4人の受付嬢が、いつものようにお辞儀をして「森岡社長、こんばんは!」と挨拶をした。 ロビーに入ると、新しいロビーマネージャーも慌てて駆け寄ってきて、お辞儀をしながら「森岡社長、こんばんは!」と挨拶をした。 「もうそんなに堅苦しくしなくていいよ。みんな仲間なんだから。仕事に戻って。俺は一人で行くから」森岡翔は、新しいロビーマネージャーに言った。 「かしこまりました、森岡社長!」 森岡翔はエレベーターに乗り、ロビーから姿を消した。 しかし、森岡翔は気づかなかった。 ロビーの、お客様用の休憩スペースに、一人の美女が座っており、彼のことずっと見ていた。 佐野紫衣は、金葉ホテルのロビーにあるお客様用の休憩スペースで、1時間以上も座っていた。 彼女は、江南メディア大学の演劇学科3年生だ。 演劇学科の学生たちは、3年生になると、コネを使って映画に出演しようと、必死になった。 これは、卒業後の俳優としてのキャリアのために、実績を作っておくためだった。 彼女の周りの友人たちも、次々と映画に出演し始めていた。中には、いきなり準主役をもらって、ちょっとした有名人になった者も二人いる。 しかし、彼女は3年生になって1年経ったが、まだ一度も役をもらったことがなかった。それは、彼女が顔が悪いわけじゃなかった。 むしろ、顔もスタイルもは江南メディア大学の演劇学科の中でも、ずば抜けた美人だった。 役をもらえなかったのは、彼女が自分の信念を貫き、役のために監督や投資家のご機嫌を取ろうとしなかったからだ。 もちろん、それ以上に重要だったのは、彼女がお金に困っていなかったということ
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第28話  

森岡翔がホテルに入ってきた瞬間、4人の受付嬢がお辞儀をした。少し離れていたため、佐野紫衣には彼女たちが何を言っているのか聞こえなかったが、4人の顔が非常に恭しかった様子だった。 その後、ロビーマネージャーも小走りで近づいてきて、お辞儀をした。 佐野紫衣は1時間以上も休憩スペースに座っていたが、ホテルに出入りする客は少なくとも20~30組はいた。しかし、従業員たちがお辞儀をするような客は、他にはいなかった。 だから、佐野紫衣は確信した。森岡翔は、とんでもない大物か、このホテルのオーナーの息子か、あるいは株主の親族に違いなかった。 しかし、それは彼女には関係なく、少し気になっただけだった。彼女は、電話を待ち続けた。 30分ほど経った頃… 佐野紫衣のスマホが鳴った。 「もしもし!黒崎監督、どちらにいらっしゃいますか?もう金葉ホテルに着いています」佐野紫衣は電話に出ると、尋ねた。 「佐野さん、待たせてしまってすまん。今すぐ15---1に来て。そこで待っているよ」電話の向こうから、黒崎監督の声が聞こえてきた。 「黒崎監督、何かお話があるなら、外で話せませんか?」 「佐野さん、これから話す内容は企業秘密だ。もし外部に漏れたら、投資家が投資を引き上げてしまうかもしれない」 「黒崎監督、やっぱり外で話した方がいいと思います。個室を取れば、誰にも聞かれません」 「佐野さん、これは20億円規模の映画なんだ。それに、準主役は重要な役だぞ。この役を狙っている女優はたくさんいる。私も、かなりの苦労をして、ようやくこの役を勝ち取ったんだ。チャンスを逃すんじゃないぞ!もし来ないというなら、他の女優に声をかける」 「それなら、他の女優さんに連絡してください!さようなら…」そう言うと、佐野紫衣は電話を切った。 冗談じゃないよ。彼女は何も知らない新米ではなかった。夜も遅くなっているのに、こんな時間に男の部屋に行ったら、無事に戻ってこれると思うのか? 佐野紫衣は電話を切ると、バッグを持ってホテルを出て、タクシーで大学へ戻った。 準主役の役のために体を売るなんて… ありえない!!! 金葉ホテル15階。 1号室。 これは金葉ホテルで最も格式の高いプレジデンシャルスイートだった。 宿泊料金は、1泊1,333,000円だ。 
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第29話  

黒崎監督は、頭の中が爆発寸前だ。 欲望にまみれた資本家どもが、自分の利益のために、また余計な口出しをしてきた。 まだ卒業もしていない、演技経験もない大学3年生に、20億円規模の映画の主役をやらせろと言ったのだ。 しかも、人気女優の谷雪を準主役にしろと。バカな!この話が世間に知れたら、谷雪のファンから猛烈なバッシングを受けるだろう。 もし、その子に演技力があればまだよかった。きっと、一躍有名になれたかもしれなかった。 しかし、もし演技力がなければ、この映画は失敗作に終わってしまっただろう。 投資家は損をするだろうし、世間からは批判の嵐が吹き荒れる。その責任を負うのは、監督である自分だった。 心の中では、井上海を罵倒していたが、顔には媚びへつらうような笑顔を浮かべて、こう言った。 「井上社長、ご安心ください。必ず実現させます」 仕方がない。この時代、金を持っている者が一番偉いのだ。 彼もこの業界ではそれなりの地位にいるが、資本家を無視できるほどの力はまだなかった。 それは、トップクラスの映画監督だけが持つ力だった。そのレベルの監督ともなれば、映画を撮りたいと一言言えば。 多くの有名俳優、人気絶頂のスターたちでさえ、彼のもとに集まってくるのだった。 多くの資本家が、札束を抱えて彼の元を訪れ、自分の金を使ってくれと頼み込んでくるのだった。 なぜなら、そのレベルの監督が誰の金を使うかによって、誰がより多くの利益を得られるかが決まるからだった。 金を儲けることができるだけでなく、会社の株価も上昇するのだった。 資本家というのは、そういうものだ。利益をもたらしてくれる人間には、誰にでも丁寧に接するという。 黒崎監督もまた、そのレベルを目指していた。 彼は、いつまでもそんな大物監督になりたいと夢見ている。 … 翌日の昼のことだった。 村上祐介から森岡翔に、夜の合コンは金葉ホテルで行うので、遅刻しないように早く来るように伝えた。 森岡翔は中村薫にメッセージを送り、自分がホテルに着いた時は、一般客と同じように扱うように、従業員に伝えておくように頼んだ。 彼はまだ、余計な騒ぎを起こしたくなかったのだ。 午後の授業が終わると、森岡翔は早めに金葉ホテルへ向かい、会長室で待つことにした。 他の3
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第30話  

もし、両親が裕福でなかったら、彼女たちも、同じように辛い思いをしていたかもしれない。 しばらくすると、村上祐介が他の二人を乗せて車でやってきた。 村上祐介の車は、BMWX7だった。 車内では… 「もう着いてるぞ。前の4人組だ、見えるか?」村上祐介が言った。 「マジかよ!うちの大学の女子とはレベルが違うな」 「そうだな。さすが演劇学科だ。将来は女優になるんだもんな。あの4人、誰でもいいからうちのクラスに放り込んだら、涼宮映雪くらいしか勝てないだろう」 「特に、一番背の高い娘は、涼宮映雪と比べても負けないくらいな!まさに女神レベルだ」 「プップー…」 村上祐介は、金葉ホテルの駐車場入口でクラクションを鳴らした。 「彼氏が来たわ。行こう」 高木敏は、村上祐介の車を見て、ルームメイトたちと一緒に駐車場の方へ向かった。 村上祐介たちが車から降りてくると、両グループは合流した。 簡単に自己紹介を済ませた後、7人は金葉ホテルへと入っていった。 そして、従業員に案内され、予約しておいた個室へと向かった。 席に着くと、村上祐介は森岡翔に電話をかけた。 電話がつながった。 「翔、どこにいるんだ?俺たちは46号室にいるぞ。早く来いよ、お前だけいないんだ」村上祐介は言った。 「ああ、すぐ行く」森岡翔は電話越しに答えた。 「悪い、俺のルームメイトがもう一人来るんだ。先に注文しといてくれよ。食べたいものを、好きなだけ頼んでいいからな!」村上祐介は、女子学生たちに言った。 森岡翔は電話を受けると、下の階へ向かった。 途中で、中村薫に電話をかけて、後でホテルのキャンペーンということで、46号室の料金を無料にするように頼んだ。 すぐに、森岡翔は46号室に到着した。 「遅くなってごめん、ちょっと用事があって」森岡翔は申し訳なさそうに言った。 森岡翔が席に着くと、料理が次々と運ばれてきた。みんな、箸を取り始めた。 この場にいた7人のうち、村上祐介と森岡翔以外は、全員、このホテルで食事をするのは初めてだった。 料理の味に、彼らは感動していた。 彼らは、普通の料理を注文していた。森岡翔のように、毎回最高級の料理ばかり食べているわけではない。 佐野紫衣は森岡翔を見た時、どこかで見たことがあるような気
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