森岡翔がホテルに入ってきた瞬間、4人の受付嬢がお辞儀をした。少し離れていたため、佐野紫衣には彼女たちが何を言っているのか聞こえなかったが、4人の顔が非常に恭しかった様子だった。 その後、ロビーマネージャーも小走りで近づいてきて、お辞儀をした。 佐野紫衣は1時間以上も休憩スペースに座っていたが、ホテルに出入りする客は少なくとも20~30組はいた。しかし、従業員たちがお辞儀をするような客は、他にはいなかった。 だから、佐野紫衣は確信した。森岡翔は、とんでもない大物か、このホテルのオーナーの息子か、あるいは株主の親族に違いなかった。 しかし、それは彼女には関係なく、少し気になっただけだった。彼女は、電話を待ち続けた。 30分ほど経った頃… 佐野紫衣のスマホが鳴った。 「もしもし!黒崎監督、どちらにいらっしゃいますか?もう金葉ホテルに着いています」佐野紫衣は電話に出ると、尋ねた。 「佐野さん、待たせてしまってすまん。今すぐ15---1に来て。そこで待っているよ」電話の向こうから、黒崎監督の声が聞こえてきた。 「黒崎監督、何かお話があるなら、外で話せませんか?」 「佐野さん、これから話す内容は企業秘密だ。もし外部に漏れたら、投資家が投資を引き上げてしまうかもしれない」 「黒崎監督、やっぱり外で話した方がいいと思います。個室を取れば、誰にも聞かれません」 「佐野さん、これは20億円規模の映画なんだ。それに、準主役は重要な役だぞ。この役を狙っている女優はたくさんいる。私も、かなりの苦労をして、ようやくこの役を勝ち取ったんだ。チャンスを逃すんじゃないぞ!もし来ないというなら、他の女優に声をかける」 「それなら、他の女優さんに連絡してください!さようなら…」そう言うと、佐野紫衣は電話を切った。 冗談じゃないよ。彼女は何も知らない新米ではなかった。夜も遅くなっているのに、こんな時間に男の部屋に行ったら、無事に戻ってこれると思うのか? 佐野紫衣は電話を切ると、バッグを持ってホテルを出て、タクシーで大学へ戻った。 準主役の役のために体を売るなんて… ありえない!!! 金葉ホテル15階。 1号室。 これは金葉ホテルで最も格式の高いプレジデンシャルスイートだった。 宿泊料金は、1泊1,333,000円だ。
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