冷酷社長の逆襲:財閥の前妻は高嶺の花 のすべてのチャプター: チャプター 551 - チャプター 560

574 チャプター

第551話

隼人は無理にでも退院したが、入院中にたまった仕事があり、3日3晩、ほとんど休む暇もなく働き続けた。 その間、体調はあまり安定せず、桜子からもらった薬と、井上に頼んで毎日塗ってもらう薬で、どうにか持ちこたえていた。 病弱な体では、好きな人を守ることなんてできないから、必死で回復を願っていた。 「社長、お薬の時間ですよ」 井上は薬とミネラルウォーターをトレイに載せて、隼人の前に置いた。 隼人は書類に目を通しながら、ぼんやりと答えた。「今はちょっと無理だ、一段落したら飲む」 「うーん、もし薬を飲まなかったら、若奥様にこのことを報告しますよ」 井上は少し真顔で言った。「若奥様から連絡があったんです。社長がちゃんと薬を飲むようにって、しっかり見守ってくれと言われてます。万が一、何か問題があったら、すぐに報告しないといけないんですよ。もし若奥様が社長が薬を飲まないことを知ったら、きっと怒りますよ!」 隼人はその言葉を聞いて、すぐにペンを置き、水と薬を手に取って飲み始めた。 井上は満足げに頷きながら、少し笑ってため息をついた。 ああ、3年前にこんなに素直だったら、今頃若奥様との間にたくさんの子供ができていたかもな。 でも今は毎日独り身で、こんな思いをしているなんて。元妻を追いかける道のりは本当に長い、社長、これからが厳しいぞ。「桜子の様子を見ておけと言ったけど、見ているか?」 隼人は薬を飲み終え、苦味が喉を通り過ぎるのを感じ眉をひそめた。 彼はふと引き出しを開け、チョコレートを取り出し、包み紙を剥いて口に入れた。このチョコレートは、桜子が家に残したので、彼が見つけ、ずっとオフィスの引き出しに大事に保管していた。気分が落ち込んでストレスを感じると、彼は一粒食べることで、冷え切った心に少しだけ慰めを与えてくれる。なんて寂しいんだろう〜可哀想だ〜。「最近、高城会長の奥様、愛子さんの誕生日が近いそうですよ。若奥様、ホテルでその準備をしているみたいです」 井上が情報を伝えた。「愛子さん?あの元女優の愛子さん?」 隼人が淡々と尋ねた。「そうです、そうです!母がファンだったんですよ!小さい頃、家で彼女が出演しているドラマを毎日のように流してたんです。母は彼女に夢中で、ドラマの衣
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第552話

井上は少しびっくりしながら言った。「あ、あの......社長、実は俺も心配で!あなたと若奥様、まるでスローモーションみたいに進展が遅いですが、こんなペースで本当に元に戻る日が来るんでしょうか? 前回、若奥様を命がけで助けた後も、あんな冷たい態度を取られて、最近では俺に電話で様子を尋ねるだけで、顔を見に来ることすらない。正直言って、見ているだけで胸が痛くて、辛いですよ」 昔は、社長が帰ってくるたびに、若奥様は早くから料理を作って、待ちわびていたものだ。 あの時、彼女は社長のことを本気で愛して、心も全て捧げていた。 でも今、彼女が社長をを見つめるその眼差しは、冷徹すぎて、傍観者である自分さえ息苦しく感じるほどだった。 失ったものは、二度と取り戻せないんだなって、痛感なんだよ。 「気にするな」 しばらく黙っていた隼人は、やっと息をついて言った。握りしめていた拳を膝に押し付けながら、静かにこすり続けた。「今、彼女がどう思っていようが、俺は絶対に諦めない」 その時、ドアをノックする音が響き、女性秘書の声が聞こえた。「社長、優希様がいらっしゃいました」 「通せ」 隼人が答えると、優希が軽やかな足取りで部屋に入ってきた。 今日も彼は、異常なほど白いスーツを着ていた。そのスーツの下には、あえて何も着ていないかのように見え、焼けた肌にピタリとフィットした筋肉がうっすらと見える。鎖骨には白金のネックレスが揺れ、セクシーで野生的、そしてどこか艶めかしさを感じさせるほどだった。 盛京で彼ほど、派手でもありつつ、どこか高貴さを感じさせる男は他にいないだろう。 「おう、元気そうじゃないか。奥様の薬、効いてるみたいだな」 優希は豪快にソファに腰を下ろし、隼人の元気そうな姿を見て少し安心したようだった。 以前、隼人が彼の前で桜子への気持ちをハッキリと示したことから、彼の呼び方もすっかり変わった。 隼人は「奥様」という言葉に胸が高鳴り、少し心地よさを感じたが、すぐに冷たい目で優希を見て言った。「その格好、もう二度と見せるな。こんな格好では宮沢の門をくぐらせない」 優希:「なんでだよ」 「ここは仕事をする場所だ、遊び場じゃない」 隼人は再び視線を下ろして書類を見ながら言った。「誤解を招きた
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第553話

優希の顔は、まるで子供のように軽薄で、尾っぽを立てて喜んでいる猫のようだった! 隼人の目が一瞬暗くなり、理由がわからない怒りが込み上げてきた。心の中で、彼は何とも言えない気持ちでいっぱいだった。「そんなにすごいのか?お前たち本田家が盛京でその立場にいるのは当たり前だろ?だから招待されるのも当然だろう?」 「じゃあ、お前たち宮沢家も盛京でそれなりの立場にいるんだから、招待状が届いているんじゃないのか?」 「話す気がないならさっさと出て行け」 隼人は冷たく言い放った。桜子に関することになると、彼はすぐに怒ってしまい、全く冗談を言っている余裕がなかった。「おいおい、冗談だってば」 優希は隼人が桜子からの招待状をもらっていないことに腹を立てているのを見抜き、からかうのをやめて、ポケットからしわくちゃになった招待状を取り出して見せた。「ほら、これだ。お前の後母が俺に送ってきた招待状だよ。 どうやら、彼女と高城奥様が同じ日、盛京で誕生日パーティーを開くらしいんだ。まるで勝負を挑んでるみたいだよな?」 「何だって?秦と愛子、誕生日が同じ日?」隼人は少し驚いた様子で眉をひそめた。 「社長、秦の誕生日は今週の木曜日で、週末じゃないんです」 井上は首をかしげて言った。「なんで当日にやらず、わざわざ週末にずらすのか?まさか、本当に愛子と競り合おうとしてるんじゃないか?」 「秦と愛子、何か個人的な因縁があるのか?」隼人は鋭い直感で、すぐに本題を切り出した。 「うーん......それについてはよくわからないんです。でも、確か昔二人は同じテレビ局に契約していて、愛子が主役を演じて、秦はそれとは反対に悪役や脇役ばかりだったと聞いています」 隼人は少し考え込みながら言った。「なるほど。この件に目をつけておけ。秦に何か動きがあればすぐに知らせろ」 その頃、潮見の邸では、秦が部屋で誕生日パーティー用のドレスを選んでいた。 衣装ラック、ソファ、ベッドの上には、豪華なドレスが散乱していた。どれも高価なものばかりだが、まるで色とりどりの布が山積みになったかのように見える。 「ダサい!本当にダサすぎる!これが今年の限定デザイン?」 白露はドレスを手に取るたびに、顔をしかめて吐き捨てるように言った。ドレスを次々に
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第554話

KS WORLDホテル。 桜子はオフィスでパーティーの計画書を見ていた。前回のAda Wangの結婚式よりも、さらに真剣に取り組んでいる。 前回は相手が重要なパートナーだったから力を入れたが、今回は親戚である愛子のために、もっと力を注いでいる。 「桜子様、無理しすぎですよ。もう三晩も徹夜してるでしょう?少し休んでください」 翔太は桜子にオレンジジュースを差し出した。コーヒーばかり飲んでいるのが胃に良くないと思い、気を使った。 「休めないよ、宴会場の準備は終わったけど、愛子さんのドレスのことがまだ残ってる」 桜子は書類を置き、疲れた眉を揉んだ。 この年齢の他の女の子たちは友達とショッピングや旅行を楽しんだり、甘い恋愛をしている時に、彼女は山積みの書類と退屈なデータに追われながら、ホテルのスタッフを指導し、業績をどうやってさらに向上させるかを考えている。 彼女は鋼のような女だが、決して鋼のように丈夫ではない。疲れを感じるのも当たり前だ。 「ちょっと待ってて、私は亜矢子のスタジオに行くから、何か手配しておいて」 「愛子さんのドレスの件ですか?」 「うん、時間がないから、残業しないと」 翔太はため息をつき、心配そうに彼女を見守っている。 その時、彼の携帯が震えた。 樹からメッセージが届き、内容は今回の愛子の誕生日パーティーのゲストリストで、「桜子に渡して」と書かれていた。 翔太がその画像を開くと、最初の数名に白石家の三人兄弟の名前が目に入った。 その夜、自分に金を投げつけた坤一や、綾子を侮辱した女性を思い出し、怒りが込み上げてきた。目が赤くなった。 「翔太、リストに何かおかしいことがあるの?」 桜子は彼の微妙な表情に気づき、尋ねた。 「桜子様、実は報告しなければならないことがあります」 そして翔太は、その夜綾子を学校に送った時に起こったことを説明した。 坤一による侮辱については触れなかった。 彼は本来、綾子にその問題を解決してもらいたかったが、彼の思いを変えた。その女性は坤一の愛人であり、普通の問題ではない。 彼は単なる秘書に過ぎない。綾子を守ろうとしても、力不足だと感じた。 その女性は綾子と同じ学校に通っていて、恐らく前から何度も
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第555話

「Alexa~あなたが私のところに来てくれたおかげで、この小さな店が栄えた気がするわ~」 亜矢子は冗談を交えながら桜子を迎えに出た。 最初は、先生が高城家のお嬢様で、さらにSharonという「ゴールドカード」を持っているだけで十分すごいと思っていた。 しかし、予想外にも、桜子はその上にさらにもう一つ「カード」を持っていた。その姿を見て、亜矢子は驚きすぎて思わず口を開けた。 ファッション業界や宝石業界では、AlexaとSharonはまさに「トップ」に立つ存在で、その名声は計り知れない。 「もう、わかってるわよ。私が隠していたことは確かに悪かったわね。じゃあ、どうすれば償える?」 桜子は堂々とした雰囲気を漂わせながら、亜矢子の細い腰を軽く抱えた。 「先生、時々私に会いにきて。それが一番の償いよ」 亜矢子は少し拗ねたように口を尖らせて、「でも、何か問題があったときだけじゃなくて、普段から来てくれたら嬉しいんけど~」 「まるで私が浮気男みたいじゃない。私はそんな、用事があるときだけ現れる人じゃないよ」 桜子は指先で亜矢子の小さな鼻先を軽くつつきながら、ため息をついた。「本当に忙しいのよ。この時期を乗り越えたら、一緒に海外旅行へ行きましょう。好きなだけ遊んでいいわよ、全部私が払うから!」 「やった!先生万歳!」 ............ 桜子はもうお茶を飲む暇もなく、亜矢子と一緒に急いでオフィスに向かった。 オフィスの中央にあるマネキンには、赤と黒の美しいシフォンのロングドレスが掛けられており、そのデザインは見る者を圧倒するほど高級感に溢れていた。 ライトに照らされると、そのドレスは幻想的に舞い、まるで夢の中にいるようだった。 亜矢子は再びその美しさに感動して、思わずため息を漏らした。「ああ......このドレス、天国にしかないんじゃないかと思うくらい美しい!まるで夢のようだ!」 「このドレス、もうここに掛かってから半月も経ってるのに、まだ見飽きないのね」 桜子はドレスに手を触れながら、目を輝かせて言った。 「見飽きるわけがないよ!」 亜矢子は目を輝かせながら、桜子のデザインした作品に対する賞賛の気持ちを隠さなかった。「この最高級の香雲紗は、『ソフトゴールド』
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第556話

井上は少し笑いながら、親指を立てて言った。 「うん、なかなかいいです!元気な若者です!」 隼人は瞬時に顔色を暗くし、薄い唇を引き結びながら言った。 「なぜ『いい』んだ?」 井上は驚きながらもすぐに理解した! もし社長の顔色が良ければ、つまり彼の怪我が回復しているということだ。そうなれば、若奥様の彼に対する罪悪感は薄れ、関心も減るだろう。 逆に、社長の顔色が悪く、疲れていれば、若奥様は口では何も言わなくても、心の中では絶対に無関心でいられるわけがない。 なるほど、社長はそう考えているんだ。 本当にずるい男だ。二人が大きな扉を通ると、アシスタントに止められた。 「今他のお客様の対応中なので、他の方とお会いできません。お帰りください」 隼人は冷徹な顔をし、厳かに言った。 「亜矢子さんが迎えているお客様は、彼女の先生ではないのか?」 アシスタントは驚いて答えた。 「どうしてそれを知っているんですか?」 「俺は彼女のために来たからだ」 隼人は冷静に星のような目を細めた。「俺は桜子の夫だ。夫が妻に会いに来るのに、外で待たされるわけがないだろう?」 井上は驚きを隠せなかった。元妻を追いかけるルール第1条——面子なんて捨てる! アシスタントは眉をひそめ、隼人を冷たい目で見て言った。 「隼人社長、もしかして私があなたのことを知らないとでも思っているのですか? 数ヶ月前、婚約者である柔さんがここでドレスを注文してましたよね?そして彼女は誕生日パーティーであなたとの婚約を発表し、大騒ぎになっていました」 柔という名前を聞いて、隼人は眉をひそめ、全身が不快に感じた。 「たった数ヶ月前のことなのに、今私の前で『俺の妻』と言うのはどういうつもりですか?」 隼人の薄い唇がわずかに開き、説明しようとしたその瞬間、上から鋭く、冷徹な声が響いた。 「隼人!さっきなんて言った?もう一度言ってみろ!誰があなたの妻だって?」 亜矢子が叫びながら、すばやく隼人の前に駆け寄り、目を大きく見開いて言った。「あなたの先生、高城家のお嬢様、桜子が俺の妻だ」 隼人は少し言葉を止め、もしそのまま言い続けると誤解を招くと思い、低い声でさらに言葉を付け加えた。
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第557話

隼人は心臓の鼓動が激しくなるのを感じながらも、桜子を見つめるその目には、これまでにないほどの優しさが込められていた。 しかし、彼女の鋭く冷たい言葉が胸に突き刺さり、彼は深く苦しんだ。その目で彼女を見つめると、思わず一瞬ぼんやりとしてしまった。 「先生......」 亜矢子は桜子が現れると、表情が一変し、心の中で言いたいことが山ほどあったが、どう切り出せばいいのか分からなかった。 「隼人、どうしてここに?」桜子は冷たい口調で尋ねた。 隼人は彼女が自分に対して何の未練も見せないことに胸を痛め、まるであの生死を共にした日々がなかったかのように感じ、心がさらに苦しくなったが、それでも深い愛情を込めて答えた。 「お前を探していた。お前に会いたかったんだ」 「もういいわ。あなたの言葉、信じられるわけないでしょう」桜子は冷笑を浮かべ、彼の言葉に耳を貸さなかった。 隼人:「......」 「もういいわ、会えたんだから、早くここを出て行って」亜矢子は不満そうに言い放った。 あの男、少し前までは柔という女と絡んでいたくせに、柔が失脚した途端、元奥さんに戻ろうとしているなんて、あまりにも見苦しい。立っているだけで、汚れが移りそうだ! 「俺は行かない」隼人は強い決意を持ち、その瞳を桜子に向けて言い切った。 「もういい加減にして!ゴルフクラブで殴って追い出すよ」亜矢子は普段冷静でクールな女神のような存在だが、身近な人を傷つけられると、怒りが爆発するタイプだった。 この点では、先生に似ている。 「桜子ちゃん」 隼人は亜矢子の言葉を無視し、ひたすら桜子を見つめ続けた。 「ちょっと話がある」桜子は胸が一瞬締めつけられるような感覚を覚え、信じられない気持ちで彼の熱い視線を受けた。 桜子ちゃん? これは......彼が自分を呼んでいるのか? 結婚していた三年間、彼はいつも名前も呼ばず、「おい」や「お前」などと呼んできていた。 井上も驚いたが、心の中では社長のことを嬉しく思っていた。社長、やっと少し心を開けたんですね!「ねえ、誰に呼びかけているの?」亜矢子がまた口を挟んだ。 「今はもう離婚しているし、先生はあなたに構いたくないの。ちゃんと尊敬の言葉を使って、先生を呼び
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第558話

桜子は後ろに立ち、困ったような表情をしている隼人をゆっくりと見ると、その目には冷たい光が宿っていた。「あなた、本当に気持ち悪いわ」 「俺は......お前に会いたかっただけだ」 隼人は心が震えるのを感じ、なぜ桜子がまた怒ったのか理解できなかった。 彼は人をうまくなだめることができない。商談では決断力があり、国際会議では堂々と話す社長である彼だが、今、彼は愛する女性の前では、まるでどうしていいかわからない子供のように、言葉が出なかった。 「桜子ちゃん......桜子ちゃん......」 「ちょっと隼人、そんな呼び方やめて。気持ち悪いし、まるであの手の女たちと一緒にされてるみたい。そう思うと、人格まで侮辱された気分になるわ」桜子は鋭い目で彼を見返した。 隼人は乾いた唇をかみしめ、喉が痛むのを感じた。 彼は気づいた。自分が桜子に与えた傷は、まったく癒えていない。むしろ、彼女の心の中で、それは離婚したあの時と同じくらい深く刻まれていた。 どんな些細なことで過去を思い出させるものがあれば、桜子はそれを掴んで、さらに大きくしていく。 桜子は、彼を許すことを考えていない。いや、むしろその過去を決して忘れないようにしているのだ。その過去を忘れない限り、二人の関係は一歩も進まないのだ。 「桜子ちゃん、俺がお前をどう呼ぶかは、誰にも関係ない。ただ......」隼人は口が乾き、言葉が詰まってしまう。 「もういい」 桜子はドアを開け、冷たく彼の言葉を遮った。「考えすぎないで。あんたを呼んだのは、あんたの性格をわかっているから。もし今日、あんたがやろうとしていることを終わらせなかったら、あんたは絶対に亜矢子から離れないから。 私はただ、亜矢子に迷惑をかけたくないだけ」 隼人は桜子の冷たい背中を見つめ、暗い表情を浮かべた。 彼女が彼をオフィスに呼んだのは、ほかでもない。愛子の誕生日が近づいているからだ。普段はホテルで多忙を極め、夕方にならないと亜矢子のところで服を作る時間がない。そのため、できる限り時間を無駄にしないようにしなければならない。 桜子は机の上にあった高級な白玉の簪を手に取り、華麗に髪を束ね、見事にお団子を作り上げた。 隼人の目には、優しさがこもり、指先がわずかに動いた。 彼
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第559話

「実は......知り合いの年配の方が誕生日を迎えるので、その方にドレスをデザインしてあげたいんだ。それを誕生日プレゼントとして渡したくて」隼人は少し言い淀みながら話した。 彼は愛子のためにデザインするドレスのことを桜子には伝えたくなかった。サプライズにしたかったからだ。 でも、話す側は心が温まるが、聞く側は必ずしもそうではない。 桜子は少しからかうように笑いながら、「ああ、そういえば、今週末は高貴な宮沢社長夫人の誕生日だったわね。 きっと宮沢社長の前で、後母にプレゼントを渡して、良いところを見せたいんでしょう?なかなか心配りができてるじゃない」 「桜子」隼人は眉をわずかにひそめ、少しだけ不快そうに顔をしかめた。 皮肉を言われるのが耐えられないわけではなかったが、誤解されるのがどうしても嫌だった。 「Sharonに連絡する時、秦の誕生日プレゼントだなんて言わない方がいいよ。言ったら彼女にバカにされるかもよ」 桜子は不満を胸に抱えながら、隼人を見ずに背を向けて、「もう言いたいことは言ったんじゃない?早く帰って、私はまだ忙しいんだから」と言った。 その時、彼女が針を使っている最中に不注意で、針が指に刺さり、「あっ!」と小さく声を上げた。 「大丈夫?」 隼人はすぐに駆け寄り、心配そうに桜子の小さな手を握りしめた。 その指先には、確かに一滴の赤い血がにじんでいた。 隼人は眉をひそめ、胸が痛むような気持ちを感じながら、「痛い?」と尋ねた。 「放して」桜子は隼人の手を振り解こうとしたが、彼の手から逃れることができなかった。 血が広がっていく様子は、まるで真っ赤なバラが咲いているようで、隼人の胸が熱くなるのを感じた。 次の瞬間、隼人は思いがけない大胆さを見せて、桜子の指を口に含んだ。 「え?ちょっと......」桜子は驚き、心臓が激しく鼓動を打つのを感じた。 彼の温かくて柔らかい口の中で指を吸われる感覚は、言葉では言い表せないほど心地よく、体中にしびれるような感覚が広がった。 桜子の息が乱れ、顔が赤くなり、指先が彼の口の中で震えているのを感じた。 隼人はその震えを感じ取り、瞳を細め、桜子の指をそっと吸い込むように舐めた。深く、また浅く。 二人の目が絡み合う
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第560話

金色の夕日が、明るいガラス窓を通して、二人の重なり合う影に優しく注がれる。まるで夢のようにふわりと漂い、見とれてしまうほど美しい。 その優しさは、このキスと同じように。 桜子は隼人のキスに頬を赤らめ、ふわふわとした感覚に包まれ、体中がしびれるような気持ちになった。 最初は、まだ力を振り絞って両手で隼人の胸や肩を叩いていたが、だんだんとその力も抜け、隼人の強いオーラに包まれて息が乱れ、足元がふらつき、後ろに下がる一歩一歩がどこか頼りない。 そのとき、 桜子の柔らかな体が隼人に押し付けられ、テーブルの上に背中をつけた。机の上のものがガラガラと落ちて散乱した。 「うぅ......」 桜子は絡みついた唇の中から低い声を漏らし、抵抗とも甘えともつかない声を出す。隼人は桜子のその様子に、目が赤くなり、耳も熱くなった。身体中に前例のないほどの熱が広がり、まるで「桜子」という名の小さな火が、彼を一気に燃やし尽くすような感覚だった。 隼人は心の中で誓った。この人生で、こんな風にキスするのは桜子だけだと。 そして、他の女性には二度とこんなことをしないと、密かに誓った。 「先生!」 そのとき、突然ドアが開き、亜矢子が元気よく駆け込んできた。 目の前で、桜子と隼人が唇を重ねているその光景に、亜矢子は驚きすぎて目を見開き、思わず口を押さえた。 次の瞬間、彼女は「えぇぇっ!」と、高い声で叫ぶような声を上げた。 「何をしてるの?この変態!先生を離して!」 桜子は半分閉じていた目をパッと開き、目を覚ましたように隼人を押しのけた。 そして、怒りを込めて手を挙げ、力強く隼人の顔を平手打ちした。 「バンッ!」 その音が部屋に響き渡り、隼人の左頬が赤く腫れた。亜矢子も驚きのあまり、ただ呆然と見つめていた。 隼人は頬に熱い痛みを感じながらも、唇の端がゆっくりと上がり、満足げな表情を浮かべた。 もし隼人がこんなにイケメンでなければ、ただの変態に見えたかもしれない。 「隼人......出て行って!すぐに出て行って!もうあなたなんて見たくない!」 桜子は顔を赤らめ、唇に残る隼人の痕跡を恥ずかしそうに手で触れながら、震える声で言った。隼人はその姿をじっと見つめ、にやりと笑みを浮かべた
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