「私、賛成です」突如として響いた声は、幸平くんのお母さんだった。凛とした眼差しで言葉を継ぐ。「景之くんのお母さん、必ず投票させていただきます」彼女の大胆な一声をきっかけに、他のママたちも次々と賛同の意を示し始めた。強引で高慢な夢美の会長ぶりに、みんな辟易していたのだ。余りにもスムーズに事が運んだため、帰り道の車中で紗枝は何か引っかかるものを感じていた。だが、角張さんをどう追い払うかという問題の方が差し迫っていた。「どうやったら帰ってもらえるかしら……」紗枝は目を閉じ、独り言を漏らす。朝の八時半に叩き起こされた疲れか、昼近くになって眠気が押し寄せてきていた。「どなたを、でございますか?」ハンドルを握る雷七が尋ねた。「角張さんよ。義母が寄越した栄養士」その話題が出たところで、紗枝は一旦車を止めるよう指示し、外で昼食を取ることにした。食事をしながら、紗枝は角張さんの横暴ぶりを雷七に吐露した。「それなら、簡単な解決法がございますが」雷七が静かに提案する。「簡単?」「啓司様に一言お願いすれば」紗枝は首を横に振った。まだ些細な確執が残る今、彼に頼るのは避けたかった。だが、雷七の言葉がきっかけとなり、素晴らしいアイデアが浮かんだ。「そうよ。啓司に直接頼まなくても、自然と動いてもらう方法があるわ」雷七は黙って紗枝を見つめた。彼はいつも聞き役に徹していた。相手が話さない限り、余計な質問はしない主義だった。紗枝が戻ると案の定、角張さんが威勢よく料理人に指図を出していた。キッチンに近づくと、「角張さん」と声をかけた。「おや、奥様。もうこんな時間です。外でお食事を?」角張さんは威厳に満ちた口調で詰問するような調子だった。その態度は、かつての管理人を思い出させた。「夕食は角張さんにお任せします。ちゃんと食べますから」紗枝は静かに告げた。告げ口が効いたと思い込んだ角張さんの目が、得意げに輝いた。——言うことを聞かないなんて、どうだい?「そうでなくては」角張さんは満足げに、さらに肉料理を増やすよう指示を出そうとした。「角張さん」紗枝が遮った。「私は肉ばかり食べても構いませんが、啓司さんと子供たちは違いますよね?」角張さんは啓司と子供のことをすっかり忘れていた。「ええ、そ
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