清次と沙織が家に帰ると、由佳が両耳に聴診器をつけ、平らな聴診器をふくらんだお腹に当て、真剣に胎児の心音を聞いているところだった。沙織は小さなランドセルをソファの隅に置き、首をかしげて由佳を好奇心いっぱいに見つめながら言った。「おばさん、何を聞いているの?」由佳は微笑みながら彼女を一瞥し、「赤ちゃんの心音を聞いているのよ」と答えた。「聞こえるの?私も聞いてみてもいい?」「いいわよ、試してみて」由佳は聴診器を外し、沙織の耳に付けさせた。沙織は小さな眉を動かしながら、由佳の手から平らな聴診器を受け取り、そっと由佳のお腹の上を動かしながら、真剣な表情で耳を澄ませた。1分ほどしてから、由佳が問いかけた。「どう?」沙織は聴診器を外して言った。「すごい!おばさん、これをつけたら、まるで……」彼女は丸い目をくるくるとさせ、言葉を探して考え込んだ。「まるで何もかもがぼんやりして、この平たくて丸いものから聞こえる音だけがすごく大きくて、はっきりしてるの」「それがこの道具の役目なのよ」沙織はもう一度聴診器をつけ直し、聴診器を自分の胸に当て、深く息を吸い込んだ。ふと何かを思いついたように、数歩歩いて立ち止まり、由佳の方を振り返って尋ねた。「おばさん、たまの呼吸を聞いてもいい?」「いいわよ」「やった!」たまは、以前の小さな子猫から8キロの成猫に成長しており、鈴も外され、ほっぺたがふっくらして丸い顔になり、とても可愛らしかった。猫は丸くなり、尾の先をゆっくりと揺らしながら、気持ちよさそうにくつろいでいた。沙織は聴診器をつけたまま近づき、つま先立ちで猫の頭を2回なでると、聴診器をたまのお腹に当てて、真剣な顔で音を聞き始めた。たまは沙織をちらりと見ただけで動かず、そのままゴロゴロと喉を鳴らし始めた。リビングでしばらく遊んだ後、沙織は山内さんに連れられて階上の寝室へ行き、寝かしつけられた。由佳も早めに洗面を済ませ、ベッドに入り、頭をベッドボードに寄せて静かな音楽を流していた。9時半頃、仕事を終えた清次が聴診器を手に部屋に入ってきて、何気なく尋ねた。「さっき沙織がこれでたまの音を聞いてたのか?」由佳は軽くうなずいて答えた。「ええ」
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