All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 1221 - Chapter 1230

龍介は軽く眉を動かし、パッと目を開けて、悟の視線と目が合った。「彼女をどこに連れて行くつもりだ？」彼はひび割れて痛む唇を動かし、弱々しい声で尋ねた。「それはあんたに関係ない話だ。今夜、紀美子を連れ出したら解放してやる。ここ数日、あんたもいろいろ苦しめられてたが、残念なことにあんたの言葉は完璧ではなく、私に疑念を抱かせた。あんたも私の報復手段を見ていたんだろ？それなら二度とこんなくだらないことをするな」悟は淡々と龍介を見つめて言った。「本当に卑劣なやつだ」普段は謙虚で礼儀正しい龍介も、悟の手段に腹を立てた。「あんたを追い出す口実を見つけたのは私だ、なぜ紀美子を巻き込んだ？」「私はあんたを殺そうとなんて思ったことはない。今夜、私は計画を実行する」そう言うと、悟は身を乗り出し、浅褐色の瞳で冷静に龍介を見つめた。「言い忘れてたが、解放するというのはこのまま帰らせるのではなく、とある芝居に付き合ってもらうということだ」龍介は彼をしっかりと見つめた。「一体何をするつもりだ？」「夜になればわかるさ。楽しみにしておくがいい。あんたはただの傍観者に過ぎないが、私の女に手を出したやつの結末がどうなるかを見届けてもらいたい」その言葉を残すと、悟は立ち上がり、部屋を去った。龍介は自分を縛っているロープを解こうとしたが、無駄だった。彼は冷静を取り戻し、悟が今言ったことを振り返った。悔しさを抱きながら、彼は悟が去る前に言った最後の言葉に気づいた。悟が言っていた「女」は間違いなく紀美子のことだ。今、紀美子のそばにいるのは彼か晋太郎しかいない。龍介の目つきは次第に険しくなった。悟は晋太郎に手を出すつもりかもしれない。携帯電話はポケットに入っているが、束縛された彼は晋太郎に連絡することはできなかった。夜9時。悟が時間通りに藤河に着いた頃、紀美子はすでに別荘の入り口で待っていた。彼女は悟を怒らせて龍介に迷惑をかけないよう、一刻も遅らせなかった。悟の車が到着するのを見ると、紀美子は急いで車の方に歩み寄った。ボディガードがドアを開け、紀美子は一人で車に乗り込んだ。「言われた通りに来た、今すぐ龍介さんを解放して」紀美子は焦った表情で口を開いた。「焦らないで。そのうち彼を解放するから」悟は穏

「港の監視カメラをハッキングしてみる。何もしないでいると不安だから」「わかった！」一方、晋太郎は道中の信号をも無視して猛スピードで港に向かった。港には、眩しく輝く巨大な遊船が一隻泊まっていた。しかし妙なことに、船の搭乗口に立っているボディガード以外、周りには人影が全く見えなかった。恐らく悟はその船で自分を待ち構えていたのだろう。冷たい川風が彼の体に当たり、黒いトレンチコートを激しく揺らした。周りを見回していると、ポケットの中の携帯が振動した。密かに護衛しているボディガードから「到着した」とのメッセージが届いた。晋太郎は船の搭乗口に向かった。「ボディチェックが必要です」船に近づくと、ボディガードの一人が言った。晋太郎は冷酷な目つきで両手を挙げてチェックを受けた。携帯以外に危険物は見つからず、ボディガードは道を開けた。その時、船上。ソファに横たわっている紀美子は眉をひそめた。「紀美子」そばに座っている悟は優しく声をかけた。悟の声を聞いて、紀美子の混乱した頭の中に一瞬何かが走った。彼女は何かを思い出したかのように、急に目を開けた。目に入ったのは、見知らぬ環境だった。その内装から、カジノのような場所に見えた。周りには十数人のボディガードが経っており、紀美子は強烈な不安を感じた。彼女は額に手を当て、眉をひそめて体を起こそうとした。悟はすぐに手を差し伸べて彼女を支えようとした。悟の手の温かさを感じた紀美子は、反射的に距離を取った。「気分はどうだ？」悟の手は途中で固まり、ゆっくりと引き込んだ。「そんなことを聞くなんて、気持ち悪い！」紀美子は冷たい声で言った。「ごめん、勝手に君を気絶させてここに連れてきた」悟の目には苦しみが浮かんだ。「大事な話があると言ってたのに、何でカジノなんかに連れてきたの？」紀美子は心の中の嫌悪感を抑えて彼を見た。「焦らないで、あの人はもうすぐ来る」悟は腕時計を覗いて時間を確認した。「『あの人』って誰？」紀美子は彼を見つめ、心の中の強い不安が募った。「晋太郎だ」悟は腕を下ろし、冷静に彼女を見て答えた。「あんたは一体何を考えてるの？私を餌食に晋太郎を誘い出すつもりだったの？彼は来ないわよ！」紀美子の

晋太郎はその銃を一瞥し、冷たく笑った。「俺一人でやるわけじゃないだろうな？」「もちろんだ」悟は率直に答えた。「私もゲームに参加して自分の決心を紀美子に示す」「あんたの決心なんか見たくない！」紀美子は叫んだ。「こんなくだらないゲームはやめて！晋太郎、彼の言うことを聞かないで！私に構わないで一人で逃げて！」晋太郎は唇を固く結んだ。悟が紀美子を連れて行くのをただ見ているなんて、彼にはできない！しかし、今の状況で紀美子を連れ出すにはリスクが大きすぎる。弾倉を回転させたら、弾がどこにあるのか全くわからない！最初の一発で当たる可能性だってある。そうなれば、紀美子はやはり悟に連れて行かれることになる。この賭けは、確かに危険で計算尽くされている！しかし、この賭けは非常に公平であることは認めざるを得ない！「もしお前も空砲を二発出したら、どうする？」晋太郎は紀美子の言葉を無視し、悟に尋ねた。「それは論外だ。あんたが空砲を二発さえ出せば、彼女を連れて帰ることができる。私はこれ以上邪魔しない。今日このゲームを設けたのは、あんたは自分だけを愛しているか、それとも彼女を自分の命以上に愛しているかを、紀美子にはっきりと見せたいからだ」晋太郎は険しい表情でそのリボルバーを見つめた。自分は……果たして紀美子のために命を賭けるべきか？もしここで諦めたら、紀美子とはもう二度と会えないかもしれない。紀美子もおそらく自分に完全に失望するだろう。しかし、まだ記憶が回復していない今、目の前の女のために命を捧げるなんて、どうしても納得いかない。やるかやらないか、二つの考えが晋太郎の頭の中を駆け巡った。耳元では、紀美子が泣きながら彼に行ってくれと懇願する声が聞こえた。しばらく沈黙した後、晋太郎は視線を戻して紀美子を見た。彼女の青ざめた顔は恐怖に満ちていた。その細い体でボディガードの拘束を振り払おうともがく姿が、彼の心を激しく動揺させた。晋太郎思わず自分に問うてみた。これから二度と紀美子に会えないことを受け入れられるか？自分は紀美子の失望に満ちた視線に耐えられるか？子供たちへの申し訳なさ、紀美子との絶別、それと引き換えに自分の命だけは助かる。それでも生きる意味があるのか？「分かった、付き合ってやろう」そう言って、晋太郎は悟の視線を合わせた。「

晋太郎は無事に逃れきった……一安心すると、紀美子は胃が激しく痛みだした。強い吐き気が胸に込み上げ、胃酸が喉を刺す痛みは耐えがたかった。悟の目は次第に冷たくなった。「まさかあんたがこんなに運がいいとは思わなかった」晋太郎はあざ笑い、瞳には底なしの陰鬱が渦巻いていた。「確かに運が良かった」悟は軽く眉をひそめた。「そして、お前に感謝しなければならない」「どういう意味だ？」「この下品なゲームのお蔭で、俺は昔の記憶を取り戻すことができた」晋太郎は悟に一歩近づき、目を顰めて言った。「何だと？」悟は一瞬呆然とした。晋太郎は銃を掲げ、悟の顎に当てた。「覚えておけ、お前がこれから地獄を見ることになる。俺の女に手を出すなんて、いい度胸してるじゃないか」「晋太郎、その強運がいつまでも続くと思うな」悟は歯を食いしばった。「お前のようなドブネズミより運が良ければ、それでいい」晋太郎は冷たく言い返した。「さあ、次はお前の番だ。この一発、俺が撃ってやるか、それとも自分でやるか？」悟は目の前の銃を見つめた。今、自分が生き残る確率は20％しかない。いずれにして、紀美子は晋太郎に連れ去られる。ソファに座って冷たく自分を見つめる紀美子を見て、悟の心は一瞬にして絶望に包まれた。死ぬとしても、彼は晋太郎の手で死ぬつもりはない。悟は銃を奪い取り、自分の額に当てようとしたが、晋太郎は既に紀美子の方に向かって歩き出した。ボディガードたちは悟を見て指示を仰いだ。悟はその場に立ち尽くし、何の指示も出さなかったため、彼らは紀美子を解放した。晋太郎は腰をかがめて彼女を抱き上げた。紀美子は無意識に晋太郎の首に手を回し、ぼんやりと彼を見つめた。「やはり結末が見たいのか？」彼女の視線を感じた晋太郎は、不機嫌そうに尋ねた。紀美子は呆れた。「目が汚れるぞ」晋太郎は鼻で軽く笑った。……「それとも彼の生死が気になるのか？」晋太郎は尋ねた。「……いいえ」紀美子は呆然と首を振った。「何が『いいえ』だ？」晋太郎は唇を曲げて笑った。「『気にする価値がない』だろ」彼の爽やかな笑顔を見て、紀美子はようやく我に返った。「本当に記憶が蘇ったんだね」彼女は軽く笑って言った

晋太郎が徐々にスピードを落としたが、紀美子はまだ我に返っていなかった。車は漸く路肩に止まった。彼は紀美子を見つめ、整った眉間に心が痛む表情が浮かんだ。「もう大丈夫だ」晋太郎は震えている紀美子の手を握ろうとしたが、彼女がまだ自分は記憶が回復したことをまだはっきり把握していないことを思い出し、手を引っ込めた。まだ耳鳴りが響いていた紀美子は、硬直したまま、男の深い視線と向き合った。口を開こうとした瞬間、後ろから急ぎ足でボディガードが近づいてきた。晋太郎は視線を戻し、窓を下ろした。「社長、悟に逃げられました。奴のボディガード30人のうち、3人が逃亡し、残りは全て始末しました」「わかった、美月に悟の行方を探させろ。見つけたら俺の前に連れて来い」「はい！」窓を閉め、晋太郎は再び紀美子を見た。「同情は必ずしも良いことではない」紀美子は黙ってうなずいた。晋太郎は正しかった。今夜、あの人たちを倒さなければ、殺されるのは自分達だったのだ。紀美子は複雑な思いを抱きながらシートに寄りかかり、沈黙した。悟……今回は完全に手切れになっただろう。彼はすでに彼女をも巻き込んで攻撃を仕掛けてきた。ならば、次に狙われるのは子供たちかもしれない。車が再び動き出し、紀美子は唇を噛みしめて言った。「子供たちが心配だわ」「大丈夫だ、既に警戒の強化を手配した」晋太郎の返事を聞いた紀美子はやや安心した。「いつ手配したの？」「子供たちを別荘に連れてきた時だ。悟のような陰謀家には油断できない。最初は彼が子供たちを使って俺を狙うと思っていたが、まさか彼が君を選ぶとは思わなかった」紀美子の心に罪悪感がよぎった。「ごめん、今日彼と出かけたのは、龍介さんが拉致されたからだ」突然、晋太郎に嫉妬が湧き上がり、軽く嗤った。「龍介のために自分の安全を捨てて悟と出かけたのか？」まだ恐怖が完全に抜けきっていない紀美子は頷き、晋太郎の言葉の裏の意味を深く考えようとしなかった。「彼は無実だし、私のせいで悟に拉致された。だから、そうするしかなかった」晋太郎の目には不満が浮かんだ。自分がいない間に、こんなにも多くの男が紀美子に群がっていたのか！龍介のやつ、一体どこまで紀美子に貢ぐのだろうか。沈黙が流れ、紀美子は突然