All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 1241 - Chapter 1249

1249 Chapters

第1241話 助けに来た

「そうよ!」瑠美は言った。「とにかく早く連絡して、龍介を連れ出して。あ、私も!」念江は疑問を抱きながら尋ねた。「おばさん、自分で逃げ出せないの?」瑠美はため息をついた。「怖くて出られないの。悟の部下がまた戻ってくるかもしれないと思って、ずっとダンボールの中に隠れてたの」佑樹と念江は何も言わなかった。二人が黙り込んでいるのを見て、瑠美は思い出したように言った。「あっ……忘れてた。一階の奥から二番目の部屋よ」「分かった」佑樹は答えた。電話を切ると、佑樹はすぐに晋太郎にこの件を報告した。その後晋太郎は美月に状況を説明し、警察に龍介の救出を手配させた。ダンボールの中でじっとしていた瑠美は、外が静まり返っているのを確認するとようやく箱の外に顔をのぞかせた。彼女はそっと、殴られて全身傷だらけの龍介のもとへと歩み寄った。「吉田社長?」瑠美が呼びかけたが、龍介は何の反応も示さなかった。仕方なく、彼女はしゃがみ込み、龍介の太ももを叩いた。「吉田社長??起きて!!」声が届いたのだろう、龍介は眉をわずかに動かし、ゆっくりと頭を持ち上げた。しかし、部屋があまりにも暗く、自分の目の前にいる人物が誰なのか、全く判別できなかった。龍介は弱々しく咳払いをしたが、その衝撃で傷口が激しく痛んだ。彼は顔をしかめながら、かすれた声で尋ねた。「……誰だ?」彼の返事を聞いた瑠美は、ほっと息をついた。「私は紀美子のいとこ、瑠美よ。あなたを助けに来たの!」その名を聞いた途端、龍介は慌てて言った。「すぐにここから出ろ!危険だ!」「今は出られないわ。悟の部下に見つかるかもしれない。この部屋には監視カメラがないから、今のところ私は安全よ」龍介は前に視線を向け、胸元に巻きつけられた爆弾を見下ろした。「これは……かなりヤバいぞ」「もう少し我慢して。すぐに助けが来るから」瑠美は励ますように言った。龍介は自嘲した。「長年かけた努力が、こんなあっけなく終わるとはな……」「そういえば、吉田社長ほどの実力と影響力を持ってる人が、どうして悟なんかに捕まったの?あなたの部下たちはなぜ助けに来ないの?」「帝都から連れてきた部下は少ないし、そもそも俺はこのエリアでは大したことない。それに、悟はや
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第1242話 見舞いに行くのが筋でしょう

「吉田社長、しっかりして。悟みたいな腹黒い人間、どう頑張っても避けきれないわ」そう言うと、龍介は不思議そうに瑠美を見つめた。「そういえば、どうして俺がここにいることを知っているんだ?」「悟をずっと追ってたのよ」瑠美はさらりと答えた。「でも、あなたがいつ連れ去られたかは本当に知らないの。たまたまその時は家に帰って寝てたのよ」「何はともあれ、助かったよ。必ず恩は返す」「そんなの、私たちが無事にここを出てからの話よ」瑠美は龍介の言葉をあまり気にしていない様子だった。「俺のズボンのポケットにある携帯を取ってもらえないか?」瑠美は頷くと、慎重に周囲のワイヤーを避けながら携帯を取り出した。「次は?」「この携帯、悟に仕込まれたソフトがあってまともに使えないんだ。それを削除してくれればいい」「……それ、暗号化されてるんじゃないの?」龍介は頷いた。「俺の携帯には技術スタッフの連絡先が入ってる。君の携帯からメッセージを送れば、向こうで対処してくれるはずだ」「分かったわ」瑠美が作業をしている間に、晋太郎が手配した人が紀美子の会社に突入した。指示された場所に到着すると、彼らは部屋の扉を押し開けた。龍介の体に仕掛けられた爆弾を目にすると、すぐさま特殊部隊を呼んで解体を依頼した。特殊部隊が到着し爆弾の型式を確認すると、難しい顔をした。彼らの話によれば、この爆弾は、一度爆発すればこのビルを完全に崩壊させるほどの威力があるということだった。やがて、瑠美と龍介は無事に救出され、晋太郎の手配で病院へと運ばれた。翌日。紀美子は病室のベッドで目を覚ました。最初に目に入ったのは、ソファに座り、目を閉じて休んでいる晋太郎の姿だった。彼女は両腕を支えにして身を起こし、彼の名前を呼んだ。「晋太郎……」その声に、晋太郎はぱっと目を開けた。充血したその瞳を見て、紀美子は胸が少し痛んだ。晋太郎は立ち上がり、紀美子の横に座って尋ねた。「どうだ?少しは良くなったか?」紀美子は頷いたが、昨夜の出来事を思い出し、目を伏せた。「頭がまだちょっとぼんやりするけど、それ以外は大丈夫」「君が眠っている間に、龍介は救出されたよ」紀美子は驚いて彼を見た。「どこで見つかったの?悟は?!」「まだ見
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第1243話 一軒買ってもいい

晋太郎が彼を一瞥すると、冷ややかに言った。「吉田社長、充分休めただろうに、なぜ戻らないんだ?悟が来るのを待つつもりか?」紀美子は晋太郎の口調に含まれる嫉妬をはっきりと感じ取った。来てすぐ追い返そうとするなんて、彼ぐらいしかいないだろう。紀美子は慌てて話を逸らした。「龍介君、気にしないで。さあ、座って」龍介は笑みを浮かべ、ソファに腰を下ろした。「誰だって一度くらいは判断を誤ることがあるだろう。森川社長、そうじゃないか?」「自発的と強制では話が別だ」晋太郎は鼻で笑った。「でも結果は同じじゃないか」龍介は晋太郎の嫌味を切り返した。「……龍介君、怪我はどう?」龍介の顔には少し後悔の色が浮かんだ。「すまない、俺のせいで君たちにまで迷惑をかけてしまった」「そんなことない!」紀美子は慌てて否定した。「そんなことないよ、龍介君。迷惑かけたのはこっちの方だよ。私が手伝ってって頼まなきゃ、悟と関わることなんてなかったのに……きっとこんなことにならなくて済んだ」龍介は静かに首を振った。「それは違うよ。結局のところ、俺が油断していたんだ」二人が互いに謝罪し合う様子を見て、晋太郎の顔色はみるみる曇っていった。「……もう話は済んだ?」彼は堪えきれず、割り込むように言った。紀美子は晋太郎の言葉に気にせず、龍介に続けて言った。「私、藤河別荘の家を売ろうと思ってるの」龍介は、この間何があったのかまだ知らなかった。「どうして売るんだ?」紀美子は苦笑しながら、昨夜の出来事を彼に説明した。龍介は真剣な顔つきで言った。「となると、事故物件になってしまうな。売らなくても、もうあそこに住むのはお勧めできない」紀美子は頷いた。「そうよ。龍介君はまだそこに住むつもり?」龍介は晋太郎の険しい顔をちらりと見た後、静かに答えた。「君がいないなら、俺もあそこにいる意味はない」晋太郎は、思わず口元を引きつらせた。こいつ、本気で紀美子とくっつくつもりか?俺が目の前にいるってのに、何も気にしないのか?「そうね」紀美子は言った。「私がいないのに、これから紗子が来て住むのは不便だわ」「今はどこに住んでいるんだ?」龍介は尋ねた。紀美子は頬を少し赤らめて答えた。「潤ヶ
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第1244話 強い刺激

どうして、この二人は顔を合わせると争いが止まらないのだろうか?初めて会ったときも、彼らはこんなふうに皮肉を言い合っていた。待って……紀美子はふと晋太郎を見た。彼が初めて龍介君に会ったときも、今日と同じような話し方をしていた。だが、記憶を失った後の彼は、一度も今日のような強い嫉妬心をにじませることはなかった。紀美子は一瞬考え込んだ。晋太郎は記憶が戻っていないと言っていたはずでは?今の彼の様子は、まるで完全に記憶を取り戻したかのようだ。その目に浮かんでいる独占欲は、演技で出せるようなものではない。まさか、クルーズのあの夜、彼にあまりにも強い刺激を与えすぎたせいで……性格は元に戻っているが、記憶はまだ少しずつ回復している途中なのか?龍介はしばらくすると席を立ち、先に帰っていった。紀美子の視線は、晋太郎に向けられた。「晋太郎、話があるの」晋太郎は顔を上げ、彼女を見つめた。「何?」紀美子は探るように言葉を紡いだ。「実際もう記憶、戻ってるんでしょ?どうして正直に言わないの?」晋太郎は、いつか紀美子からこう問われる日が来ることは分かっていた。そのため彼は動揺することもなく、ただ静かに答えた。「はっきり言ったはずだ。記憶は戻っていない」紀美子はじっと彼を観察した。紀美子には確信があった。それなのに、晋太郎には微塵の動揺もない。まさか、本当に勘違いか?紀美子は納得がいかず、さらに続けて言った。「こんなことで私に隠し事をしてほしくないの。もし騙していたことがわかったら……本気で怒るからね」「そんなことより、その家をどう売るか考えた方がいい」その一言で、紀美子は気を取られた。あの家は、短期間で何人もの人が亡くなっている。そのため、売れるかどうかも分からなかった。そのまま放置しておいても意味がないし、かといって自分が住むなんて……そんなの、絶対に無理だ。紀美子はしばらく考えた後、つぶやくように言った。「お祓いをしたほうがいいかな?」晋太郎の脳裏に、ふとゆみの顔が浮かんだ。彼は眉を上げ、紀美子を見つめて言った。「相談相手は、すぐそばにいるだろう?」紀美子には、その言葉の意味がすぐにはピンとこなかった。「誰のこと?」「小林さんだ」…
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第1245話 焦りすぎ

「三日後に会おう」小林は言った。電話を切った後、紀美子は物思いに沈んだ様子でソファに座り、黙り込んだ。そんな彼女の様子を横目で見ながら、晋太郎は少し胸が痛んだ。「何を言われたんだ?顔色が悪いぞ」紀美子は小林の言葉をそのまま晋太郎に伝えた。話を聞き終えた晋太郎は軽く目を伏せた。こういう類のことは彼にもわからず、どう慰めればいいのかわからなかった。翌朝。晋太郎はいつもより早く起きて別荘を出た。目が覚め、彼は俊介から深夜に送られてきたメッセージを確認していた。今朝7時の便で帝都に到着し、9時半に都江宴で会おうというものだった。晋太郎が都江宴に着くと、ちょうど俊介も到着したところだった。二人は駐車場で会った。俊介の手には線香の入った籠が提げられていた。晋太郎は眉をひそめ、その線香から視線を上げて俊介を見た。「俺の母親とかなり親しかったようだな」俊介は笑みを浮かべただけで、直接には答えなかった。「まずは朝食を食べよう」晋太郎は何か考えながらも、彼とともにホテルの中へと足を踏み入れた。席に着くと、晋太郎は俊介が何か説明してくれると思っていたが、予想に反して俊介はこう言った。「晋太郎、このホテル、そろそろ拡張したほうがいいんじゃないか?」晋太郎は気のない口調で答えた。「元々お前のものだ。好きにすればいい」「法人はもうお前に変わったんだぞ」「俺はホテルなんかに時間を割く気はない。ここが人脈作りに便利だとしても、自分の手で育てたものじゃないから興味はない」俊介は苦笑し、首を横に振った。「俺ももう歳だ。体力的にもきつくなってきたし、こういう仕事からは手を引いて、のんびり余生を過ごしたいんだ」「それで?」晋太郎は詰め寄った。「お前が持ってる全ての事業を俺に託したのは、一体どういうつもりなんだ?」「晋太郎、お前がいろいろ知りたがってるのは分かってる。だが、焦りすぎだ」晋太郎の目が冷たく光った。「誰も、お前の行動は理解できない」ちょうどその時、美月が朝食を運んできた。二人の間に漂う異様な空気を感じ取り、彼女は傍らに座り、にっこりと俊介を見つめた。「ボス、戻ってくるなら、もっと早く知らせてくださいよ。A国まで迎えに行ったのに」俊介は苦笑いをした。
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第1246話 最高のハッカー

晋太郎は驚きのあまり、ただ俊介を見つめた。なぜ彼は母さんのことを白芷と呼ぶのだろう?なぜ母さんが小豆の和菓子を好んでいたことを知っている?息子である自分さえ知らなかったことを、俊介はどこで……その口ぶりから察するに、二人は旧知の仲だったに違いない。ただ、どの程度の関係だったのかはわからない。俊介は続けて墓石に語りかけた。「白芷、俺も歳を取った。これまで築き上げた事業や勢力を今までと変わらず管理することはもうできない。君の息子にすべて託そうと思うが……いいだろう?君の息子は優秀だ。能力も胆力もあり、決断力も抜群だ。時には俺を越えてくることもある。ずっと見てきたが、彼は貞則とはまるで違う。性格も考え方も、君そっくりだ。だからこそ、彼になら任せられる。俺は、すべての手続きを終えたらこの近くに家を買うつもりだ。暇な時にはよく君に会いに来るからな。君は花が大好きだっただろう?墓の周りに美しい花を植えてあげよう」そう言った後、俊介の声が少し震えた。「白芷……会いたかった……どうして一度も現れてくれないんだ?」彼の目は赤く潤んでいた。「死に顔を見せたくなかったのか?それとも……貞則から救えなかったことを責めているのか?白芷……あの時は悪かった。許してくれないか?夢でもいいから、一度会いにきてくれないか?」俊介が母に宛てた言葉の一つ一つから、晋太郎は彼の正体を悟った。しかし、彼は途中で遮ることはせず、最後まで聞き終えた後、車に戻ってから静かに口を開いた。「お前と俺の母親……昔、何か関係があったのか?」俊介は無言でうなずいた。「ああ……お前の父に引き裂かれなければ、別れることはなかった」「あの日、一体何が起こったんだ?」晋太郎は眉をひそめて尋ねた。「お前はどうしてこんな風になったんだ?」「昔な、お前の母さんと俺は大学で出会い、恋に落ちた。四年間、一度も喧嘩などしなかったよ。卒業後、彼女は家が貧しかったから、高給のグラビアモデルの仕事をすぐに引き受けた。美しかったから、数回撮影しただけで人気が爆発した。だが、それが裏目に出たんだ。彼女が身体を売って金持ちに取り入った──そんな噂が流れ始めたんだ」「そしてあるパーティーで……お前の父は彼女に酒を飲ませ、酔わせた。そして、そのまま無理やり……」「その夜の
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第1247話 最初から計画していた

「あの時はまだお前の父に太刀打ちできなくてな。何年もじっと我慢して、力をつけてやっと対決しようと思ったんだ。ところが、手を打つ前にあの遊園地事故が起こった。後のことは、もうお前も知ってる通りさ」晋太郎は、俊介のこれまでの経緯と彼の母への執着に強い衝撃を受けた。しばらく考えてから、晋太郎は問いかけた。「そこまで彼を恨んでいるのに、なぜ俺を助けようとした?」俊介は首を振った。「助けようとしたわけじゃない。最初はお前を試していただけだ。お前が彼と同じような人間なら、俺はためらいなくお前を殺していただろう。だが、この数日間接してみて、お前は彼とは違う人間だと分かった。そして、白芷との残された唯一の繋がりでもある。愛する人の残したものを大切に思うのは、ごく自然なことだろう?まあ……お前に親切にすることで、白芷への未練を埋め合わせようとしているのかもしれん」晋太郎が黙り込んでいるのを見て、俊介は軽くため息をついて続けた。「まあ、すぐには受け入れられないだろう。だから今まで黙ってたんだ。晋太郎、たとえお前が俺を拒んだとしても、それでいい。俺も無理に押し付ける気はない。お前がどんな道を選ぼうと、俺の気持ちは変わない」「受け入れられない」晋太郎はきっぱりと言った。「自分の力でのし上がる。それこそが本当の実力だ」「そうか」俊介はあっさりと納得した。晋太郎が他人に頼るような人間ではないことは、最初からわかっていた。これだけの権力と財力を目の前にしても揺るがない――やはり、見込んだ通りの男だ。都江宴に戻ると、俊介が部屋に戻って行ったため、晋太郎は自分の仕事に向かった。実際には、彼が去った直後、俊介は美月を呼び寄せた。美月がドアを開けて俊介の寝室に入ると、彼は椅子に座って外の空をぼんやり見ていた。その様子を見て、美月は晋太郎と彼の話がまとまらなかったことを悟った。彼女は静かにドアを閉め、俊介のそばに歩み寄った。「ボス、彼の性格はあなたもよくご存知でしょう。後継者がいなくても仕方ないですよ」俊介は微笑みながら美月を見つめた。「本当にそう思うか?」美月は戸惑った。「どういう意味ですか?」俊介は笑みを浮かべたまま答えず、そばのリモコンを取ってテレビをつけた。すると、白芷が三人の子供たちと遊んでい
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第1248話 彼らに会う

紀美子は軽く眉をひそめた。美月が突然食事に誘ってくるなんて、何か変だ。「遠藤さんは晋太郎のアシスタントでしょう?わざわざ私たちを食事に誘う必要はないと思いますが」紀美子は探るように言った。「入江さんもお気づきでしょうが、彼があなたを連れ帰ったということは、相当大切にしている証拠です。それに、入江さんにお願いしたいことがあります。彼の前でちょっとだけ私のことをかばってくれませんか? 仕事を少しでも減らしてほしいんです。まだ未婚の女性に、ひどすぎます!」紀美子はやんわりと断った。「遠藤さん、冗談はやめてください。私はただ一時的に住んでるだけで、家が決まり次第すぐに出ていきます。それに、晋太郎はまだ私のことを完全には思い出してませんし、私が何を言っても意味がないと思います。それに、たとえ記憶が元に戻ったとしても、彼の仕事には干渉しないつもりです」美月は予想外の反応に驚いた。理屈が通じないなら、裏を返すしかない。美月は軽くため息をついて言った。「実を言うと、私は地元が帝都ではありません。こっちに友達もほとんどいなくて……今夜お誘いしたのは、個人的に親しくなりたいからです。それと、一人紹介したい人がいるんです」最後の一言に、紀美子は興味を引かれた。「どんな方を紹介してくれるんですか?」「それは夜のお楽しみ。あ、二人のお子さんも連れてきてくださいね」美月は付け加えた。紀美子は軽く眉をひそめた。いったい誰なんだろう?子供たちまで連れて行く必要があるなんて。しばらく沈黙した後、紀美子は言った。「わかりました。場所と時間を送ってください」電話を切った後、美月は扇子で自分の頭を軽く叩いた。早くこう言っていれば、紀美子とこんなに無駄口をきかずに済んだのに!自分自身にイライラしながら、彼女の頭の中にはあの鈍感な男、肇の顔が浮かんだ。美月は唇を噛みながらニヤリと笑い、肇にメッセージを送った。紀美子は電話を切ったあと、晋太郎のラインを開いた。美月が食事に誘ってきたことを彼に伝えるべきか?しばらく考えた後、紀美子は携帯を置いた。美月が晋太郎に話していないということは、その相手が彼に知られない方がいい人なのだろう。とはいえ、子供たちを連れて夕食に行くことだけは、事前に伝えておいたほうがい
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第1249話 イメージと違った

「僕たち、あなたのことなんて知りませんよ?会う理由なんてあるのですか?」佑樹は尋ねた。「前に君たちのおじさんの動画を送ったのを覚えているか?」佑樹と念江は、はっとして動きを止めた。次の瞬間、二人は同時に声をそろえて呼んだ。「先生?!」紀美子は困惑した表情で二人を見つめた。「そう、俺だよ」俊介はにこやかに言った。「イメージと違ったか?」「20代か30代かの人だと思ってたのに、まさか先生が中年だなんて。あんなに優秀なハッキング技術を持っているなら、少なくとも10年以上のキャリアがあるんでしょう?」俊介はうなずいた。「そうだ。たまたまこの分野でちょっとした才能があっただけだ」ちょっとした才能??佑樹は呆れ返った。彼の技術は世界中のトップハッカーを凌ぐものだ。それを「ちょっとした才能」だと言うのか?じゃあ、僕たちは何なんだ?初心者??「まあ……先生がわざわざ会いに来たってことは、用があるんでしょう?言ってください」佑樹が切り込んだ。「その通りだ」俊介は佑樹の賢さに感心した様子で答え、紀美子へ視線を移した。「この件については、君と相談しなければ」紀美子は俊介を見つめ、彼の説明を待った。俊介は腕を組みながら言った。「言うまでもなく、俺と晋太郎の母親との関係は君も分かっているだろう。そして、俺の能力は、『都江宴』を見れば理解できるはずだ。国外にも多数の勢力を持っているが、ここで全てを説明する気はない。ただ一つ、俺の勢力を継ぐ者が必要なんだ」紀美子は無意識のうちに隣にいる二人の子供に視線を移し、驚愕した。「俊介さん……まさかこの子たちを……」「そうだ」俊介は率直に答えた。紀美子は息を荒くした。あのカジノを思い出してしまったのだ。そこがどれほど危険で、混沌とした場所なのか、言わずとも分かる。もし子供たちがこのような世界に関わったら、同じ年齢の子供たちと比べて、精神的にかなり成長しすぎてしまうだろう。もともとこの子たちは早熟だが、こんなことに手を染めれば、さらに異常な成長を遂げてしまう。母親としては、子供たちが健康で安全でいることが一番大切だ。どうしていつも誰かが彼らを闇の中にはめようとするのか?紀美子はすぐに断ろうと口を開いたが、俊介
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