第0490話

綿は顔を上げ、目の前の相手を見て少し眉を上げた。「雅彦は？」

「雅彦？ああ、美人を見かけて、ナンパに行ったよ！」彼が答えた。

綿は冷たく笑った。雅彦はそんなことをするタイプじゃない。きっと炎に無理やり追い払われたのだろう。

そう、商崎炎だ。

炎はちょうど国外に用事があったので、彼女と一緒に飛行機に乗ることになった。

綿は温かいコーヒーを一口飲んで、少し心が温まった。

炎は綿の隣に座っていた。彼は黒いスーツを着て、黒いコートを羽織っていて、とても格好良かった。

綿はふと輝明の服装を思い出した。秋や冬になると、彼もいつもこんな格好をしていた。大学時代、このスタイルで女子たちを虜にしていた。

輝明は別荘にはあまり戻ってこなかったが、彼のクローゼットにはいつもこのスタイルの服が並んでいた。

とても格好良く、まさに完璧な姿だった。

もちろん、炎も負けていない。

時折、綿は思う。どうしてこの男たちは、見た目も良く、家柄も恵まれているのだろうと。

「ねえ、お姉さん、もしかして俺に見惚れてた？」

炎が突然笑いながら言った。

その時、綿は自分が彼をじっと見つめていたことに気づき、慌てて顔を背けた。

「そんなわけないでしょ。私は世間を見てきたんだから」綿は少し照れくさそうに言った。

「ふーん？でも俺より格好いいやつなんて、そういないだろう？お姉さんが言う世間って、もしかして……あの『高』……」炎が言いかけたその瞬間、綿はすぐに話を遮った。「岩段くんもすごく格好良いわ！」と。

炎はすぐに口をすぼめ、彼女が目をそらしながら少し動揺している姿を見て、その表情を見逃さなかった。

炎は微笑み、目を上げて遠くの掲示板を見つめた。

「本当に勉強のために留学するのか？」彼が聞いた。

「うん」綿は即座に答えた。

「輝明を避けるためじゃないのか？」

「違う」

彼女の答えは即答で、ためらいはなかった。

炎はその言葉を信じていないようだったが、特に反論はしなかった。

その時、前方の掲示板に搭乗案内が表示され、彼らの便が搭乗開始になったことを知らせた。

「行こう」炎は静かに言った。

綿は窓の外を見つめた。雨は本当に小降りになっていた。

彼女は立ち上がり、「行きましょう」と言った。

この便の乗客はずいぶん少なくなっていた。さっきの激しい雨と、夜という時間帯