第0497話

雅彦は綿を振り返り、彼女の出発を止める何かが起こっているのではないかと心配していた。

綿が取り出したのはスマホだった。母親からの電話だった。

きっと、飛行機が予定通り飛ぶのか、まだ空港にいるのかを確認しようとしているのだろう。

「子供が外出するとき、母は心配するものね」と、綿は息を吸い込み、気持ちを整えてから電話に出た。

綿は笑顔で耳にスマホを当てて、「ママ、飛行機がもうすぐ飛ぶよ。着いたらまた連絡するね、無事を報告するから」と言った。

電話の向こうでは、盛晴が綿の名前を呼んでいたが、彼女の言葉を聞くと、しばらく沈黙が続いた。

「ママ？」綿は呼びかけた。

盛晴は「分かった、無事ならそれでいい……」と応じた。声はかすかで、震えているように聞こえた。

綿は眉をひそめ、母親の様子がどうもおかしいことに気づいた。

「ママ、何かあったの？」とすぐに問いただした。

しかし、盛晴は「何でもない。着いたら連絡して。じゃあね」とだけ言って、そのまま電話を切った。

綿は困惑したままスマホを見つめ、少し戸惑いながら電話を切った。

「何だったんだろう？」と心の中で呟きながら、スマホをしまおうとしたが、その瞬間、ニュースの通知が画面に現れた。

『雲城にて大雨の影響で三環高速道路で多重事故が発生。6台の車が衝突、中央の車が最も激しく損傷しています。警察と消防者が現場に到着し、救助活動が続いています……』

綿はニュースをすぐに確認した。

三環高速？

そういえば、祖母が研究所から家に戻るルートもその道だった……

先ほどの母親との会話が頭をよぎる。

――「おばあちゃん、もう家に帰ったの？今日は大雨だったよね」

――「おばあちゃんはまだ研究所にいる。でも、さっき電話があって、もうすぐ帰るって」

そして、あの沈黙が続いた母親との電話……

綿はさらにニュースをスクロールして確認した。

そして、一枚の写真に映る、見覚えのある黒いマイバッハが目に飛び込んできた。

それは祖母の乗っていた車だった。

祖母が事故に遭っていた！

その車は中央にあり、すでに激しく変形していた。

そのとき、新たな速報が届いた。

『桜井家の千惠子夫人、交通事故で重傷。救助された際には意識不明で、現在病院に搬送されています……』

このニュースを目にした瞬間、綿の胸は激しく打ち震えた。