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第389話

この女、本当に雅之と知り合いだなんて!

浩輔はぎこちない笑みを浮かべ、桜井に尋ねた。「最近、お忙しいですか?良かったら、食事でもどうです?」

「無理ですね」桜井はきっぱりと断った。

浩輔なんかに気を使う必要なんて全くない、と桜井は心の中で思った。浩輔の父親でさえ雅之の前では頭を下げるのに、その息子が一体何様のつもりだ?

浩輔の顔がみるみるうちに絶望に染まった。

「じゃ、行くね。聡も早く帰りなよ」里香はそう言って、聡に軽く声をかけた。

「気をつけてね」聡は頷きながら返した。

「わかった」

里香は桜井と一緒にパーティー会場を後にした。外に出ると、夜の闇が広がり、豪華な車が路肩に静かに止まっていた。

車の窓がスーッと下がり、中から男性の横顔がうっすらと見えた。彼は少し目を伏せて、どこかご機嫌な様子だった。

里香は車に乗り込むと、「助けてくれてありがとう」と礼を言った。

雅之は細長い黒い瞳で里香を見つめ、薄く唇を開いた。「どうお礼してくれるの?」

一瞬、里香の動きが止まり、目を伏せた。

雅之の細く美しい指先がライターをいじっていた。タバコを吸おうとしていたが、結局火をつけなかった。

里香はしばらく黙っていたが、すぐに彼のポケットに手を入れ、タバコを取り出して自分の唇に挟むと、雅之のライターを取って火をつけた。

軽く一口吸うと、煙がふわりと広がり、女性らしい色香が漂った。

そして、タバコを雅之に差し出しながら「どうぞ」と誘った。

雅之はじっと暗い目で彼女を見つめ、タバコを奪い取ると、そのまま窓の外に投げ捨てた。そして、里香を無理やり引き寄せて、強引にキスをした。

彼女の唇にはまだタバコの味が残っていた。

雅之のキスは激しく、まるで里香をそのまま体の中に飲み込もうとしているかのようだった。

「ここで、僕を満足させろ」

雅之は耳元で低く囁くと、里香の体が小さく震えた。

ホテルの前に車は止まっている。まさか、ここで?

息を乱しながらも、里香は彼の服を掴み、「車を......前に進めてくれない?」と頼んだ。

里香は拒まなかった。

雅之に何かを頼む以上、代償を求められることは予想していた。たとえ、二宮の妻という立場があっても、その条件を無視するわけにはいかなかった。

二人の関係は、夫婦というより、まるで計算づくの恋人のようで、裏切りも
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