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第31話

「え?」

里香がふらふらと立ち上がるのを見て、かおるは目を細めた。里香が灰色の髪のイケメンに向かって歩いていくのを見て、かおるの顔にはすぐに笑みが浮かんだ。

いいぞ、いいぞ!

クズ男を振り切って新しい生活を始めるんだ!

喜多野祐介は片手でイヤフォンを耳にかけ、もう片方の手で音楽を調整していた。彼の表情には邪気が漂い、微笑むとその魅力が溢れ出ていた。

彼に見とれる女性たちが黄色い声を上げていた。

里香は人混みをかき分けて彼に近づいていった。

「ねぇ、一杯奢ってあげようか?」

しかし、喜多野は片耳にイヤフォンをしているため、彼女の言葉は届いていなかった。ただ、目を伏せて再生機器を操作し続けていた。

もしかして無視されてる?

里香の頬は赤くなり、思わず手を伸ばしてイヤフォンを取り、横に置いた。

「ねえ、話を聞いてるの?」

音楽の音は耳をつんざくほど大きかったが、周囲は一瞬静まり返った。

全員の視線が里香に集まった。

喜多野も驚いた様子で彼女を見つめた。

自分のイヤフォンを奪う人なんて初めてだ!

彼は不快そうに彼女を見つめて「何の用だ?」と尋ねた。

里香は飲むジェスチャーをして「一杯奢ってあげようか?」と再び言った。

喜多野は一瞬笑みを浮かべたが、その目は冷たさを帯びていた。

「いいよ」

その返事に、その場にいた誰もが驚愕した。

喜多野の名声を知る者なら、彼が笑顔を見せるときは、何か企んでいると知っている。彼の不快を買った者は、後で必ず痛い目に遭う。

しかし、里香はその危険を感じることなく微笑んで彼を見つめた。

「こっちに来て。お酒を奢るから…」

遠くない場所で、かおるはその様子を見守っていた。

喜多野が里香と一緒にステージから降りてくるのを見て、かおるは目を大きく見開き、スマートフォンを取り出し、写真を撮ってタイムラインに投稿した。

【イケメンなんてどこにでもいるわ】

添付された写真は、喜多野と里香が並んで歩いているものだった。

かおると雅之はSNSでのフレンドだから、かおるが投稿したタイムラインは、雅之も見れるはずだ!

その写真を雅之にも見せてやりたかった。

里香ちゃんにふさわしい男は他にもたくさんいることを教えてやるわ。

病院。

雅之は夏実と一緒に診察を受けていた。

夏実の古傷による痛みが原因で、
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