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第255話

彼の態度からは、穏やかさが消え、代わりに厳しさと圧迫感が漂っていた。

雅之の端正で鋭い顔には、感情の変化は一切なく、冷淡に言い放った。「もちろん覚えてますよ。あの件がなければ、おじさんも無傷で済んだとは思えませんね」

錦の目つきが一気に険しくなった。昔のことを引き合いに出そうとしたら、雅之も逆に過去を持ち出してくるなんて。

生意気な若者だ。なかなかやるじゃないか。

錦は深く息を整え、口を開いた。「二宮くん、今回の件は私の教育不足だ。君とこのお嬢さんに謝罪しよう。私が名義を持っているダイヤモンド鉱山があるんだが、明日には引き渡しの手続きを進めさせる。それでどうだ?」

錦は自分のプライドを捨て、ダイヤモンド鉱山まで差し出して、優花を罰することを避けようとしていた。それだけ彼が娘を溺愛しているのが見て取れた。

優花がここまで傲慢で横暴になったのも、父親である錦が無条件に甘やかしてきたからだ。錦の謝罪には誠意が感じられる。これを断る理由はないだろう、と里香は思った。

案の定、雅之はじっと錦を見つめて言った。「おじさんがそこまで言うなら、これ以上は何も言いません。ただ、今後二度とこんなことが起きないようにお願いします。いくつもダイヤモンド鉱山を持ってるわけじゃないでしょう?」

錦は内心不快だったが、抑えながら「心配するな。帰ったらあのバカ娘をしっかり叱って、もう二度とこんなことをさせないようにする」と答えた。

雅之は「疲れた。ホテルに戻る」と短く言った。

錦は「気をつけて帰ってくれ」と見送り、彼らは病院を後にした。

車の中で、里香は黙り込んでいた。結果は予想通りだったが、どこか心に小さな悲しみが残った。

結局、利益の前では、自分の命なんて何の価値もないのだろうか?

雅之は里香が黙っていることに気づき、少し不機嫌そうに「俺、痛いんだけど」と口を開いた。

里香の長いまつげがわずかに震え、「じゃあ、あまり話さないで、休んで」と冷静に答えた。

雅之は一瞬沈黙し、眉間にしわを寄せた。

どうしてそんな反応なんだ?里香が哲也に対しては、こんな態度じゃなかったはずだ。

ようやく晴れたはずの胸のもやが再び広がり始め、雅之の美しい顔には冷たい表情が戻っていた。

翡翠居(ひすいきょ)。

雅之は車を降り、そのまま中へと向かった。

里香は雅之の背中を見つめ、哲也
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