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第202話

そのまま立ち去ることはできたが、もし今回の取引を台無しにしたら、雅之がどんな手を使ってでも自分を追い詰めてくるのは明らかで、何を言われるかも里香にはもうわかっていた。

里香は深呼吸して席へ向かい、酒杯を手に取り微笑んだ。「皆さんに乾杯です」

一気に飲み干すと、誰かがすぐに「お見事!」と囃し立てた。

その様子を見ていた山本は、近藤剛という男と目配せを交わし、里香を彼の隣に座らせた。

今夜の主役は近藤。40代半ばで、見た目は平凡だが、笑顔は穏やかで人当たりが良さそうに見える。「小松さん、マツモトとの契約を一手にまとめたと聞いて驚きましたよ。松本社長はかなり気難しいと伺ってますが?」

里香は軽く微笑んで答えた。「私の提案に納得していただけたなら、それで十分です」

「素晴らしいですね」

近藤は笑いながら、さりげなく里香の太ももに手を置いた。

「小松さんは卒業してすぐにDKグループに入社されたんですか?」

里香は一瞬体がこわばったが、表情には出さずに淡々と答えた。「ええ、そうです」

近藤の手は彼女の太ももを撫で回し始めた。「あなたのように若くて優秀な女性が頑張っている姿を見ると感心します。ぜひ乾杯しましょう」

近藤は酒杯を手に取り、里香に差し出した。

里香はすでに体が硬直していたが、近藤の手はますます大胆に動き始めた。耐えられなくなった里香は突然立ち上がり、「すみません、少し気分が悪いのでトイレに行ってきます」と言い、その場を離れた。

里香はすぐにトイレに駆け込み、冷たい水で顔を洗って気持ちを落ち着かせようとした。

戻るべきかどうか迷っていると、背後でドアが閉まる音がした。振り返ると、近藤がニヤリとした笑顔を浮かべながら近づいてきた。

「小松さん、あなたの能力は高く評価しています。でも、女性はそんなに無理しなくてもいいんですよ。今夜、俺と過ごしてくれたら、すぐに会社との契約を結んであげますが、どうですか?」

里香は眉をひそめ、「そんなの無理です」と言って、その場を去ろうとした。

しかし、近藤は素早く彼女の腕を掴み、無理やり個室に引き込もうとした。「いい加減にしろよ。俺がお前と寝てやるんだから、光栄に思えよ。俺を怒らせたら、この業界で生きていけなくなるぞ」

これまで、この手の脅しに屈した若い女性たちが従順に従ってきた。近藤は今回もそうなると信
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