共有

第197話

雅之って一体どれだけクズなんだろう?こんなにたくさんのことがあったのに、平然とそんなことを言えるなんて。

里香は一つ深呼吸をして、「会社には行かないの?」と尋ねた。

雅之はじっと里香を見つめた後、手を放し、少しがっかりした様子だったが、何も言わずに車を発進させた。

車内の空気は微妙に気まずかった。

会社に着く頃には、里香は自分の気持ちを整理し、車を降りると振り返らずに会社のビルに入っていった。

雅之はその細い背中を見つめ、視線は彼女の腰からヒップへと自然に移った。シンプルなシャツとパンツを着ているだけなのに、歩く姿はしなやかで、雅之の目は少し暗くなった。

すでに出勤時間を過ぎていたため、エントランスにはほとんど人影がなかった。そのため、里香が雅之の車から降りても、誰にも見られずに済んだ。

エレベーターを降りると、ちょうど山本が通りかかり、里香に一瞬目を留めたが、何も言わずに通り過ぎた。

里香は敏感に気づいた。今日は山本の態度がいつもと違う。でも、特に気にしなかった。

里香はもうやめるつもりだったのだから。どうせ、マツモトのプロジェクトチームから追い出されたし、手元の仕事を片付けたら、すぐに退職届を出すつもりだった。

山本は退職届を見て、一瞬驚いた。「どうして辞めたいんだ?」

里香は「退職届に書いてあります」と淡々と答えた。

山本の顔色が曇り、「小松さん、もう少しちゃんと理由を説明してくれないか?」と詰め寄った。

しかし、桜井の言葉が頭をよぎったのか、山本は自分の怒りを抑え、「この退職届は社長の承認が必要だから、今日は帰って待っててくれ」と告げた。

里香は眉をひそめた。「ただの社員なのに、そんな必要あるんですか?」

山本は強い口調で「必要だと言ったら必要だ。出て行け!」と一喝した。

里香は無言で部屋を出た。振り返りもせず、口を尖らせたまま。

山本は里香の退職届を手に取り、しばらく眺めた後、結局桜井に渡すことにした。

桜井は退職届を見て、すぐに表情を引き締め、社長室のドアをノックした。

「社長、小松さんがまた退職届を提出しました」

雅之は書類を処理している最中で、その言葉に顔色を曇らせた。「里香を呼んでくれ」

「はい」と桜井は返事をし、その場を去った。

里香が自分の席に戻ると、電話が鳴った。里香は受話器を取り、「はい?」と応答
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status