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第3話

その医師は眉をひそめ、困ったように野口由佳を見つめていた。

私が最後まで見届けたいと主張すると、仕方なく由佳が夫と姑の七つの穴を塞ぐ処置を始めた。

「野口先生、お疲れ様。火葬の手配は私がやるね。それから死亡診断書はどこで受け取ればいいの?」

私の言葉に、由佳は思わず口元を引きつらせた。

その横で、節子が私の腕を慌てて掴んで引き止めた。

「そんなことを妊婦のあなたがやるなんて!私たちは隣人だから、残りのことは私に任せて。お腹の赤ちゃんに影響があったら大変だからね」

節子が私のお腹に手を伸ばそうとしたとき、私は思わずに後ろに下がった。

確かに、今ここで彼らを地獄へ送ったら、お腹の赤ちゃんにも悪影響があるかもしれない。私は彼らが計画したことが全て水の泡になる瞬間を見せつけるつもりだ。

「そうだね。では、お言葉に甘えておばさんにお願いしようかしら。私は先に死亡診断書を取りに行くわ」

そう言って、その場に立ち尽くし、姑と剛が口と鼻を塞がれたまま、どれだけ耐えられるのかを冷静に見つめた。

「葵、先に家へ帰って待っていたらどう?処理が終わり次第、連絡するわ」

私は、姑と剛の足がわずかに痙攣し、そして無力に垂れたのを目にし、満足して頷いた。

家に戻ると、姑と剛に関連するものをすべて整理し、庭に放り出した。そして自分のために豪華な昼食を用意し、それをゆっくり楽しんだ。

お菓子を食べながら、隣人たちが二人の「遺骨」を持って帰ってくるのを待っていた。

午後3時ごろ、節子と由佳が私の家にやって来た。

二人が偽の遺骨を持ってくるかと思いきや、手ぶらで現れた。

「葵、先ほど病院から連絡があって、お義母さんとご主人はもうしばらく安置室に置いておく必要があるみたい。気にしないで、私が処理しておくから」

私は涙を拭い、彼女の手を握りしめた。

「ありがとう、おばさん。でも、もう少し待ってみるわ。他にもっと大切なことがあるから、必要なときにはお願いするわね」

私が予定通りに動かないことに、節子は戸惑った様子で由佳をちらりと見た。

「何か手続きがあるの?由佳が代わりにやってくれるから、妊婦のあなたは無理しないで」

「大丈夫よ。家の細かい用事だから、心配しないで」

私が固く断ると、岩崎節子もそれ以上強くは言ってこず、二人はそのまま帰っていった。

二人が去った後、私は家にあった銀行カードと通帳を手に銀行へ向かい、全額を自分の口座に移し替えた。

それから、病院の発行した死亡診断書と二人の身分証明書や戸籍を持って市役所へ行き、戸籍を抹消して葬儀証明書を取った。そして、そのまま村の委員会へ向かった。

1年後の再開発に向けて、この土地は4億円と2軒の住宅が補償されることになっている。

もう一度生まれ変わった私としては、この土地の名義を自分のものに変えなければ安心できない。

節子はこの話を聞きつけ、委員会に駆け込んできた。部屋に入るなり、私に対して非難の声を上げた。

「葵、なんで家の名義変更なんてしようとしているの?この家はあなたのものなんだから、そんなことしなくても......」

「おばさん、聞いた話では、このあたりは再開発で取り壊されるらしいの。そうなったら、夫を亡くした私が、もし財産を奪われるなんてことになったら困るでしょう?名前を変えておけば安全よ」

「そんなのただの噂話よ。そんな話をどこで聞いたの?変更する必要なんてないと思うわ。さあ、私が豚骨スープを作ってあげるから帰ろう」

「おばさん、もう手続きはほぼ完了していて、あとは名義変更だけなのよ。ここで止められてもどうしようもないわ」

村長もこの話を聞き、頷きながら私の意見に賛同した。

「夫を亡くしたことは気の毒だし、もし本当に再開発があるのなら、その時に親戚から横取りされる可能性もある。名義変更しておいたほうが確かに安全だろう」

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