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第2話

「夫と姑は今朝出かけたばかりだし、まだ2時間余りしか経っていないのに狼が丸ごと食べ尽くせると言うの?」

私がどうしても探すと言い張ると、節子と由佳はお互いに目配せし、何も言わずにその場を去った。

間もなく、警察が現場に到着し、私はこれまでの事情を説明した。すぐに捜索が始まり、約1時間後、由佳が突然「あっ!」と叫んだ。

皆が駆け寄ると、大きな岩の後ろに姑と大西剛が倒れていて、全身が血にまみれ、息をしていないように見えた。

皆で協力して姑と剛を病院まで運び、救命処置が行われた間、私は由佳に無理やり手術室の外で待つように制止された。

「ご家族の方は外でお待ちください。私たちが全力で対応していますから」

私が悲しみに暮れると、節子がわざとらしく私を慰めた。

「大丈夫よ。うちの娘はこの病院で評判の良い医師だから、全力を尽くしてくれるわ」

しばらくして、涙を浮かべた由佳が出てきて、二人に最後の別れを告げるよう促してきた。

救命救急室から出された姑と剛は、白い布で覆われ、既に息を引き取っているようだった。

私は近づき確認しようとすると、由佳が布を少しめくり、顔だけが見えるようにした。二人の顔色は灰色で、まるで本当に死んでいるかのようだった。

彼らの演技は見事なものだった。由佳と手を組んで死んだふりをするとは――

では、彼らに演技の続きをさせよう。死んでいないにしても、半分は死んだ気にさせてやる。

私は手を上げ、姑と剛の顔にそれぞれ平手打ちを食らわせた。

「うわー!あんたたち、なんてことしてくれたの!死んでもお母さんを連れて行くなんて、私、これからどうしたらいいのよ!」

そう言いながら、私は拳を握りしめ、剛の胸を2回、続いて姑の胸も2回、思いっきり叩きつけた。

「だめよ、信じられない。あなたとお義母さんがこんなふうに逝くなんて......どうか目を覚ましてよ、うう......」

その時、明らかに姑が顔を一瞬しかめた。麻酔も鎮静剤もたっぷり打っているはずだが、痛みを感じている証拠だ。

そばにいた医師と由佳が、慌てて私の手を取り、「死人は戻って来ないんだから、どうかお腹の子に影響が出ないようにしてね」と慰めた。

私は静かに涙を流し、悲しみに沈んだ。

「姑と剛と少しだけ二人きりで過ごさせてほしいの......ほんの少しだけ。もう二度と会えないから」

由佳はしばし考えた後、私のお願いを聞き入れた。

安置室の扉が閉まると、私は姑と夫の顔をじっと見つめ、用意していた針を取り出した。

「お義母さん、剛......どうか安らかに旅立って。この痛みを、どうして私だけが背負わなければならなかったのかしら」

そう言いながら、細い針を剛の指や足の指に一本ずつ刺していった。

次々と、今度は姑の十本の指にも針を刺し、微かに彼女が震えるのがわかった。眠ってはいるものの、痛みは感じているようだ。

その後、二人の髪や眉毛を剃り落とし、死に化粧を施し、経帷子を着せた。それで満足した。

すると、私が何かしでかすのを恐れてか、由佳とその医師が突然、部屋に入ってきた。

この光景を見て、二人の顔は引きつっていたが、私はにっこりと微笑み、ふと思いついたことを言った。

「先生、亡くなった方には七つの穴を塞ぐ処置が必要だと思いますが」

医師は気まずく鼻を触り、そばの由佳に視線を送った。

由佳はそのサインを受け取ると、すぐに私の手を取った。

「葵、本当に物知りね。そういう処置は確かに必要だけど、今回は急だったから、先にあなたにお見せしたかったのよ」

私は涙を拭うふりをしながら頷いた。

「由佳、あなたって本当に思いやりがあるのね。私もわがままを言わず、姑と夫が恥をかかないようにちゃんと送り出してあげないとね。だから、きちんとした手続きをお願い」

由佳が何か言いかけたその時、私はすかさず言葉を付け足した。

「二人の旅立ちを見送りたいだけだから、ここでそっと見守らせてください。どうぞ続けてください」

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