第43話

「地下組織の主宰者の西坂和夫か？」

伊吹裕子はその名前を聞いた瞬間、雷に打たれたように驚き、急いで伊吹嵐の足にしがみついた。

「嵐君、お願い！彼を殺さないで」

「母さん」

「西坂和夫は函館市で一番の悪人よ！何万人もの地下ギャングを配下に抱えている。彼を怒らせたら、私たち家族は終わりよ」

伊吹裕子は恐怖で顔色を失った。数年前、遠い親戚が西坂和夫の手下にちょっとでも逆らった結果、家族全員が手足を切り落とされ、道端に捨てられたうえに、最後は全員が餓死したのだ。

一方、竹辺雄三はニヤニヤしながら言った。

「ハハハ！怖くなったか？お前たちに教えてやる。西坂和夫は俺の親戚なんだ！俺を助けてくれると思ってるだろう」

昔、西坂和夫はただの目立たない足の悪い男で、竹辺雄三が面倒を見ていた。

だから、彼が地下皇帝になったとたん、竹辺雄三に気を配り、彼の敵は誰も手を出せなくなったのだ。だから竹辺雄三は調子に乗って、さらに好き勝手に振る舞っていた。

若生花子も口を挟んできた。

「そうよ、私たちと西坂和夫の関係はとても良いの！もし彼があなたたちが雄三君を殴ったことを知ったら、あなたたちに生き残ることはできないわ」

伊吹裕子は混乱し、「お願いだからこのことを西坂和夫に知らせないで」と頼んだ。

竹辺雄三はニヤリと笑って言った。

「いいよ、契約にサインして、この家を俺たちに渡せば、許してやる、この無礼な息子のことは言わないから」

「わかった。子供たちに危害を加えないなら、私は何でもあげるから」

伊吹裕子は震えながら契約書を手に取り、ペンを開いてサインしようとしたが、伊吹嵐が手を伸ばして止めた。

「母さん、西坂和夫なんて所詮大したことない。今すぐ呼んで、謝らせるから」

そう言って、怒りながら電話を取り上げ、「西坂君、今すぐこっちに来い」と言った。

「何の用だ？お前の犬が俺を噛んだのか？犬の飼い主であるお前が片付けないのか」電話をかけた声が響きわたった。

みんなは驚いて笑い出し、「なんだと！西坂和夫を呼んで来いって？神様も頼んだのか？」などとからかった。

竹辺雄三は横柄に言った。「俺は西坂さんの気性を知っている。もし誰かが彼にそんな風に話しかけたら、次の日には道に転がっていること間違いない」

若生玲子は軽蔑して、「ふん、彼は西坂和夫の電話番号を持っているのか