第91話

突然立ち上がると、綾子は行ったり来たりと歩き回り始めた。まるで立ち止まれば凄まじい怒りを抑えきれなくなりそうだった。

直美は彼女を無視し、大きく伸びをすると、ゆっくりと実験に戻った。動作はのろのろとしており、仕事モードに入っていないように見えた。

やっと自分の心を落ち着かせた綾子は、再び彼女を見た。「分かりましたわ。あなたは何が欲しいのですか？条件を言ってみて。できる限り叶えて差し上げますわ」

危急存亡のとき、彼女はしばらく我慢せざるを得なかった。美緒に頼むくらいなら、目の前のこの娘と条件交渉する方がましだった。少なくとも、まだ自分の支配下にあると思えたからだ。

首を傾げて彼女を一瞥すると、直美は軽く笑った。「へぇ......若江さんの権限はそんなに大きくなったのですか？条件は何でも言っていいのですか？それって本当にいい話ですね。本当に何でも言っていいですか？」

彼女が興味津々な様子を見て、綾子は心の中で軽蔑した。結局のところ、これは取引に過ぎない。情けだの義理だのと言っても、結局は金次第なのだ。

直美がそう尋ねたということは、彼女が確かに重要な情報を握っているということだ。綾子は咳払いをし、真面目に話し始めた。「権限が大きいかどうかはともかく、私たちはこれだけ長く一緒に働いてきました。私はディレクターに過ぎないけど、社長とどういう関係かはあなたも知っているでしょう。今日のこの件をうまくやってくれれば、大げさなことは言えないが、社長の前であなたのためにいいように言ってあげることもできます。あなたが実験室で10年も20年も頑張るよりずっと効果的ですよ。そう思いませんか？」

真剣に考えるように、直美はしばらく黙った後、もっともらしく頷いて言った。

「言われてみれば、確かにそうかもしれませんね。でも、本当に何の条件でも言っていいのですか？」

彼女は目を大きく開いて、とても期待に満ちた様子だった。綾子はちょっと可笑しく思ったが、心の中では軽蔑の笑みを浮かべながら、表面上は真剣な態度を装った。「何でも相談に乗りますよ。何が欲しいですか？昇進？それとも昇給？」

「昇進も昇給も欲しいですね。どうしましょう。私、欲張りすぎですよね！」眉をひそめて本当に悩んでいるような顔をし、しかも自分の欲張りさを認めてしまったので、綾子は何も言えなくなった。

綾子は笑みを浮か