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第5話

藤井杏はおねだりするような仕草で、言弥のいた方向へ歩いた。私の側を通った時は、再び力を入れて私の顔面を踏んだ。

ハイヒールが潰された血肉を摩擦する音が耳に入ってきた。私は痛みすら、感じられなくなった。

都度都度のなぶりで、私の頭はビニール袋から出てきたので、本能で私は口を大きく開けてできるだけ酸素を取り込むよう呼吸した。

物音がしたのを聞いて、ふしろを向けた言弥は再び振り向いた。

頭を私の耳元に近つけた彼の口振りには、濃くなってきた殺意が込めていた。

「この卑き虫螻、そんなに僕の気を引きたいか。かろうじて生きているだけのドブネズミが、よくも彼女の真似をしてくれたな」

私の顔には、びっしりと穴だらけで、両目からは恐ろしいほど血が流れ続けていた。本来の姿のかけらもなかった。

言弥は目の前のドブネズミを私として認識できなかった。

かなり怒っていたようで、彼は適当に地に落ちた枝を拾った。そして、その枝をすでに血の海だった私の眼球に突き刺さった。

「死にたいのか」

ああ、そうだよ。死にたいのさ。

私はつい笑い出してしまった。そのついでに、口の中にあった砕かれた歯を綺麗さっぱり吐き出した。

「そうさ、私はただのドブネズミだ。けど、君と私はどう違うというの?」

「君は死ぬまでも、独りよがりの考え方しかできず、深く愛する人には一度もみてもらえずの哀れの存在だけさ」

口を開いたと思ったら、出てきたのは自分の声だとは思えないほどの聞き覚えのない声だった。

先藤井杏に踏まれたのかもしれないが、私が今出した声はとびきりかん高くて、生きている人間が出せるような声ではなかった。

空気が少しばかり固まった。

そして、私は次の瞬間で、とんでもないほどの強い力に蹴られて倒れた。小腹の中では何かがのたうって、私は我慢できずに血を吐き出した。

その怒りを完全に解消できていないようで、言弥は再び強く私の腹を蹴った。

本能で私は反射的に袋の外へと逃げようとしたが、袋の口は言弥に踏まれて塞がられた。

「なんだ?彼女の驕る性格までも真似するのか。お前のようなキモい女は、彼女と並ぶ資格などない」

視力を失った後、聴覚が何倍か冴えてきた気がした。

藤井杏のひそかに喜ぶ笑い声まではっきりと聞こえてしまった。

言弥は革靴を拭いて、側にいた使用人に命令した。

「口をしっかり
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