第3話

藤井杏は一瞬戸惑って、すぐヒスって大声で叫んだ。

おや、彼女のその泣きぼくろは刺青のようだ。

彼女自身にも、自分がレプリカという自覚があったのだ。

彼女の後ろにいた女子の二人は、些か緊張のようだった。

「杏ちゃん、やるは彼女が何者かのをはっきりしてからだ。下手に動いて、他の名門の恨みを買うようなことをしたら、お父さんに叱られるでしょう」

藤井杏は鼻で笑った。

「言弥くん誕生会は今日、会社でやることになっているのよ。身分のある人物は皆、最上グループに招待されているわよ。こっそりと人様に屋敷に侵入しようとするご令嬢など、どこの世にも存在しないわ」

「別の人になりすまして、汚い手で地位や名誉を手に入れようとするのは、下水口に住むドブネズミだけよ。最上奥様になるだなんて？百年早いわよ」

一言一言ぽつりとしていながら、藤井杏はハイヒールを持っていた手を高くあげた。

次の瞬間に、そのヒールは私の目玉を貫通した。私は脳から強い痛みを覚えた。そして、暖かい液体が氾濫して、目縁から流れてきた。

痛い。自分の喉をきったあの時よりも、ずっと痛いのだ。

私は、これでやっと死ねるのか。

やっと、解放される。

激痛で、長い間に混沌としていた私に頭は、いきなり冴えてきた。私は、目の前の殷紅の血の海を鮮明に感じた。手足が抑えられなく震えていた。

藤井杏は、乱心したかのように大笑いをした。

「未来永劫、盲人でいろう！あんたにあったあたしと一番似ていたものをぶっ壊したのだ。これでもう言弥くんを誘惑することができないでしょう！この恥じ知れず！」

未来永劫？

なんという悪質な呪いだ！

なぜだ？

私はただ死を望んでいるだけのに、死ぬってこんなにも難しいことなの？

私は絶望のあまりに、笑い声をあげた。感覚で、なんとなく藤井杏の襟を掴んだ。

私の目にはもう虚ろしかなかった。目縁の内側にはころりとするたびに、変な音がした。それと共に、血が大量に出てくる。

「恥じ知れず？ねぇ、知ってるか。私の肌がきみのよりも何倍ツヤツヤする秘密を？それは言弥が毎日のように、彼の手で化粧水と乳液を塗ってくれるからだ」

「どう？怒ったか。けど、きみが私に勝ってないのは事実なんだ！私を殺してみせるよ！」

私が力を尽くしたから、振り解きようのなかった藤井杏は、そのまま私からの頬引っ叩きを何回かを食らった。彼女はその後、力が抜かれたように地に倒れた。私も彼女と共に、顔を叩く音が止んだのと同時に倒れた。

藤井杏、私を殺しきれないのなら、道連れにしてやる。

私は手を動かして、感覚を頼りに彼女の存在を探知した。そして、彼女の腕を力強く噛んだ。私は、彼女の骨までに噛み入れるほど、全身の力を使った。

藤井杏は血迷ったように、すでに傷を負った私の眼球を抑えてた。私は、ぎりぎり自分が失神しそうになるまで、やっと口を離して噛むのをやめた。

「このキチガイ！絶対ぶっ殺してやる！おい！このキチガイを縛れ！」

藤井杏に助っ人がいたことをすっかり忘れてしまった。

この三人はなにもしてこなくて、物静かだった。少しばかり躊躇っていた様子だった。すると、ものをかき集めるような物音で、縄を一本探し出した。こうして、私の手足は、彼女たちによって、再び縛られた。私は身動きとれなくなった。

私がもう一度、暴き出すのを警戒していたようで、彼女たちは役をわけて、私の手足を押さえていた。その後すぐ、何か鋭利なものが、何度も何度も繰り返して私の顔を刺し続けた。

多分、金属製の一種の太くて丸い針だった。最初は頬、続いて鼻先、それから顎......

「あたしよりもいい肌をしているだっけ？言弥くんに化粧水と乳液を塗ってもらってるだっけ？文字通り面目ないようにして差し上げるわ！傷だらけの顔にしてやる！この不細工、これでもう寝言は言えないでしょう！」

自分の顔がボロボロで傷だらけのはもう、はっきりと感じられていた。表情が少し変わっても、ピクピクと痛いのだ。

ただ、私はなにも見えないのだ。

「言弥くんはあたしのものだ。この尻の軽い淫乱女め！あたしの振りをして、言弥くんを誘惑しようだなんて、図太いもんだ！」

そう言ったそば、今度藤井杏は庭の手入れ用のハサミを拾った。

「あたしのコードを真似するためには、サイズの合わない服を着るまでのつまらないことしやがって。それにさ、あたしの服は全部言弥くんに送ってもらった季節限定のオートクチュールなんだ。安い海賊版を買っただけで、なに偉そうになってんの？」

「脱げ！あたしと同じような服を着ることなんて許さないから！」

彼女は大声で叫びながら、荒い動きでハサミで私の服を切り破った。

服の大半を切られ、私の肌もハサミに切られて血だらけになった。体中にも、顔にも血まみれで、満身創痍だった。

藤井杏の服は、彼女の激しい動きで糸屑がはみ出た。けど、彼女は全然そのことに気付いてなくて、一向に正気を失ったように、私に向けてハサミを振る舞った。

彼女が知らないのは、彼女自身が海賊版の服をきていることだ。