第7話

「お前は自分の醜い現実を認めたくないのか、それとも前世の自分の愚かさを認めたくないのか？」

その日以来、伊藤拓真とは一度も会っていない。

翔子に関するスキャンダルも、すぐに沈静化した。

城北地区の土地の入札の時が、ついに静かに訪れた。

そこで私は以前とは全く違う伊藤拓真の姿を見た。

彼は安物のスーツを着ていたが、髪はきっちりと背中に整えており、顔はやつれていたものの、その目は異常に輝いていた。

彼がこの入札に全てを懸けていることがわかる。

翔子は冷ややかに彼の後ろを歩いていた。

伊藤拓真は私を見つけると、口元に軽く笑みを浮かべ、目には相変わらず侮蔑の色を浮かべていた。

私は目を伏せて、何事もないかのように微笑んだ。

入札が正式に始まると、伊藤拓真は各社の提示する価格を聞くたびに、笑みが深くなっていった。

私の名前が呼ばれるまで、彼は余裕たっぷりだった。

伊藤拓真は急に姿勢を正し、目を輝かせて壇上を見つめ、眉間に緊張の色を浮かべていた。

私だけが彼をよく知っていて、彼と対等に戦える力を持っていた。

彼の拳は強く握られ、指の骨が白くなっているのがはっきりと見えた。

「相田様18億」

その瞬間、伊藤拓真の顔に狂喜と疑念が一瞬だけ浮かんだのを私は見逃さなかった。

彼は私を曖昧な表情で見つめ、無言で口を動かした。

私は彼の口の動きを読み取った。

「ありがとう」

私は眉を上げ、心の中で「馬鹿ね」と嘲笑った。

残っているのは、まだ価格を提示していない日吉家だけだったが、今の伊藤拓真は完全に自信に満ちていた。

私はまるで前世の伊藤拓真を見ているようだった。

彼は、日吉家が最近あるプロジェクトを受注したことを知っていて、今はこの土地を手に入れる余裕が全くないことを理解していた。

ところが、壇上から響いた価格に、伊藤拓真の顔色が変わった。

「日吉様20億」

伊藤拓真は突然立ち上がり、複雑な表情で大声を上げた。

「ありえない！」

皆が彼を見つめた。私もその一人だった。

「ありえない、ありえない......」彼は呆然と呟き続けた。

「俺は万全を期したはずだ。日吉がどうして......こんなことが起こるなんて......」

日吉の提示額は、彼の価格よりわずかに上回っていた。

まるで、彼の提示価格が最初から漏れていたかのようだ。