第5話

彼を見た瞬間、なぜ余計なことに首を突っ込んだのかと後悔した。

彼が私の生まれ変わりを察するのは当然のことだった。だって、私は隠すつもりなどなかったのだから。

そうしなければ、自分が前世でどれほど愚かだったかをいつも自覚していられなかっただろう。

それでも、私はバッグを強く握りしめ、指の骨が白くなるほど力を込めたが、彼の言葉を遮ることはなかった。

伊藤拓真は口の端の血を拭いながら、顔には嫌悪感が満ちていた。

「相田真紀、俺は本当にお前が大嫌いだ。

勝手に俺を哀れむな。俺にはお前の同情なんて必要ない！お前も伊藤家の連中と同じだ。哀れみという外套をまといながら、上から目線で俺を見下しているんだ」

私は唇をきつく引き締め、鋭い視線で彼を睨みつけた。

心の準備はできていたものの、胸の奥に湧き上がる苦しさはどうしようもなかった。

私は三十年以上、全身全霊を込めて彼に尽くしてきた。彼の胃が痛むと聞けば、料理を学び、彼のために作った。

彼が昼食を取る時間がないと愚痴をこぼせば、毎日彼に昼食を会社に届けた。十年以上も、雨の日も風の日も休むことなく。

服の組み合わせが面倒だと言われれば、前夜のうちに彼の服を準備した。

彼が社交を嫌えば、私は顔を厚くして各夫人たちと親しくなり、彼が欲しい情報を手に入れた。

......

しかし、彼の目には、私はただの偽善者にしか映らなかったのだ。

私は心の中の苦しさを抑え、怒りに任せて笑みを浮かべた。「伊藤拓真、あなたは本当に死んでしまえ」

伊藤拓真は冷笑した。「お前こそ……」

彼が言い終わる前に、私は彼に平手打ちを食らわせ、バッグを手に彼の体に向かって狂ったように振り下ろした。

元々顔を殴られて青あざだらけだった伊藤拓真は、体に力が入らず、避けながらも怒鳴った。

「相田真紀、気が狂ったのか！やめろ！」

私は好機を見つけて一発蹴りを入れた。伊藤拓真は体のバランスを失い、階段から転げ落ちた。

苦痛に顔を歪ませ、何度か立ち上がろうとしたが、結局起き上がれなかった。

私は彼を見下ろし、低い声で言った。「伊藤拓真、お前を救うかどうかは私の気分次第だ。でも、お前はとっくに死ぬべきだったんだ」

そう言い放ち、私は伊藤拓真の驚いた目など気にも留めず、その場を去った。

私はいくつもの取引先を駆け回り、次々と新しい契約を取り