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第3話

私の前で面目を失ったせいか、伊藤拓真はその後、私の前に姿を見せることはなかった。

とはいえ、上流社会の世界は狭いもので、伊藤拓真と翔子の噂は絶えず耳に入ってきた。

結婚から逃げた後、伊藤の父親が彼を見放そうとしていた。

しかし、伊藤拓真は前世の機会を利用していくつかの新しい技術製品を開発し、ビジネス界に新風を巻き起こした。多くの企業が彼に投資しようと争ったのだ。

彼はビジネス界で大いに成功し、新製品の生産によって伊藤家の株価は急上昇し、伊藤の父親も再び彼を重用するようになった。

伊藤拓真はさらに数千万元を投じて翔子をエンタメ業界に送り込んだ。

二人は頻繁にSNSのトレンドに上がるようになった。

例えば。

「伊藤家の社長が、新人女優に数千万を投じてヨットを購入」

「伊藤社長が翔子のために、ドラマの撮影班全員を『ブルースカイホテル』に招待して食事会を開催」

「翔子の誕生日に、世界限定のスポーツカーをプレゼント」

といった具合だ。二人はまさに一世を風靡していた。

私は陽の下でゆったりと目を細め、心の中で彼の手元にどれだけ資金が残っているかを計算していた。

伊藤拓真は忘れているのだろう。前世において、すべての製品の生産工程や詳細は私が管理しており、彼はただ意思決定に関与しただけだったことを。

彼はただ、真似をしているに過ぎない。

長い夢は、いつか覚めるものだ。

だが、まさかその前に、思いもよらない人物が私の前に現れるとは思わなかった。それが伊藤拓野だった。

この男に対して、私は一貫して敬遠してきた。なぜなら、前世から知っている通り、彼は徹底した狂人だからだ。

もし、伊藤拓真が法律を気にかける狂人だとしたら、伊藤拓野は刑法の中で生きる狂人だ。

「相田さん、協力しませんか?俺は伊藤拓真が欲しい。あなたは何が欲しい?」

私は表向き冷静を装っていたが、心の中で思わず一言、狂人だ、と嘆いた。

椅子に身を預けながら、落ち着いた様子の伊藤拓野を睨み、笑みを浮かべた。「伊藤さん、私があなたと協力すると思う根拠は?」

「あなたが伊藤拓真を殺したがっているからだ」

私は膝の上の手を静かに握りしめ、伊藤拓野の目を見つめてゆっくりと笑った。「いいわ、私の協力者として」

伊藤拓野が部屋を出て行くまで、私は息をつめていた。彼が出て行った後、ようやく深い息をつき、額に冷や汗が滲んでいるのを感じた。

そして、幼い頃のある出来事を思い出した。

かつて、私の保護の下で、伊藤拓真はその立場の微妙さにもかかわらず、何の屈辱も受けることはなかった。

ただ一度だけ、彼の姿が一日中見つからなかったことがあった。

伊藤家の一人の使用人が私にこっそり教えてくれた。「長男様が次男様を連れ去ったのを見ました」と。

使用人に伊藤拓野を探しに行かせようとしたところ、その使用人はまるで幽霊を見たかのように、慌てて逃げ出してしまった。

伊藤拓野の部屋に辿り着いたとき、私が目にした光景は、一生忘れられないものだった。

部屋の四方には陰鬱で恐ろしい絵が掛けられ、薄暗いランプがいくつか点灯しているだけだった。

床には無数の動物の死体が散らばっており、カーペットにはまだ血痕が残っていた。

伊藤拓真は部屋の中央の十字架に縛り付けられ、体はわずかな布で隠されているだけだった。

強烈な血の匂いが漂い、吐き気を催すほどだった。

そのとき私は、生まれて初めて心の底からの恐怖を感じた。だが、その恐怖を上回るほど、私は伊藤拓真を心配していた。

彼の体には鞭打ちの痕が無数に刻まれ、顔は青白く、髪は乱れ、唇は乾燥して裂けていた。まるで、息絶える寸前のようだった。

その一件で、彼がようやくベッドに起き上がれるようになるまで、三ヶ月以上かかった。

私の強引な働きかけによって、伊藤家はついに伊藤拓野に謝罪をさせることとなった。

その時、私は初めて、伊藤拓真の目に宿る、全てを破壊するかのような憎しみと恐怖を目にしたのだった。

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