大丈夫、大丈夫。今日は朝から水しか飲んでいないし、吐き気止めの薬草も噛んだ。
「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」
カメラの赤い光を前に、僕は腹に力を込めて声を張る。手に汗が滲み、エプロンの上でそれとなく拭う。昨日よりはマシかもしれない。だけど、慣れることはない。生きた魔物を解体し、料理するなんて、まともなことじゃない。
「本日の調理人は、エルドリス・カンザラ先生です」
彼女はいつものように冷淡な碧眼をカメラに向け、頷く。
「食材はこちらです。D級魔物、スプリンターマウス」
僕が調理台の方を指し示すと、金網のケージに入れられた小さな魔物たちにカメラが寄った。
スプリンターマウス。大きさや見た目は普通のネズミとほぼ変わらない。だが、その脚力は強靭で、名前のとおり俊足を誇る。獲物に噛みつくと神経毒を流し込み、動きを封じる性質を持つ。本来なら捕獲することすら困難な魔物だが、今は10匹ほどケージに閉じ込められ、小さな体を震わせている。
「本日は、このスプリンターマウスをローストします。では先生、お願いします」
半月型に口を開けたオーブンにはあらかじめ火が灯されていた。赤々と燃え盛る炎が、小さな獲物たちを待ち構えている。
「下処理を始める」
エルドリスは無造作にケージを開けると、一匹のスプリンターマウスの首根っこを素早く掴んだ。魔物はキィッと鳴き、鋭い前歯を剥き出しにして暴れるが、彼女の手から逃れることはできない。
「では、開いていく」
エルドリスは細身のナイフを手に取り、スプリンターマウスの腹部に刃を入れた。
ズ……ズズ……。
皮膚が裂かれ、内部の臓器が覗く。
キィ……キィィ……!
かすかな鳴き声。魔物の小さな体がピクピクと痙攣し、その爪が忙しなく宙を掻く。
「小動物の魔物は内臓の臭みが強いため、速やかに取り除く」
エルドリスは迷いなく指を突っ込み、内臓を掻き出す。小さな臓器たちがズルリと抜き取られ、トレーの上に放られる。
腹の中はほとんど空洞になったが、臓器を抜きながらエルドリスが掛けた延命魔法のおかげで、スプリンターマウスの四肢はまだ意志を持って動いている。
「臭みを抑えるために、内部にフルーツを詰める」
エルドリスは小さく切ったメルグナの実とトルフェの果肉を押し込み、腹の皮を元通りに合わせ、短い金串を刺して閉じた。
「先生、焼きの作業ですが……」
「なんだ助手君。何か問題が?」
台本によると、スプリンターマウスを並べた鉄板を、僕が鉄板ごとオーブンの中に入れることになっていた。昨日、吐いて蹲《うずくま》ってばかりでほとんど役に立たなかったせいで、演出家が僕の見せ場を台本に追加したらしい。難易度は、きちんと新米アシスタント向けだ。オーブンに入れるだけなら、やれないことはないように思える。だが――
「あの、ひとつ質問していいですか。オーブンに入れ"続ける"というのは……」
入れる、ではなく入れ"続ける"、と台本にはあった。単に鉄板を入れっぱなしにしておけという意味なのだろうか。
「助手君、頭を使え。この『30分クッキング』は魔物を生きたまま調理するのが売りの番組だぞ」
「はあ」
「当然、スプリンターマウスも生きたまま焼いていく」
「……はい」
考えただけでおぞましいが、そういう映像に需要があるのだから仕方ない。一介の新米助手が、番組の根幹となる演出に、どうこう口を出せるものではないのだ。
「でも、生きたまま焼くことと、オーブンに入れ"続ける"ことに、何の関係が?」
「スプリンターマウスはな、命の危険を感じたときこそ最も俊足となる。わかるか? これから始まるのは、もぐら叩きゲームだ。お前には、熱さに耐えかねて逃げようと、オーブンを飛び出してくるネズミたちを、フライ返しでオーブンの中へと打ち返す使命が与えられた」
「なっ……どうして、わざわざそんなことを。オーブンに蓋をすれば済む話では?」
「それでは画《え》としてつまらない。圧倒的な絶望とは、いつだって少しの希望のそばに落ちているものだよ」
「悪趣味です」
「視聴者のほとんどが、そうだ」
エルドリスは美しく猟奇的な微笑みを見せる。
「お前のようなヒヨッコが、魔物の命を恐る恐る奪うところを見てみたい」
僕は言葉を失った。見てみたい、というのは視聴者の気持ちの代弁か、それとも彼女の本心か。
「では、焼きの準備だ、助手君」
エルドリスは鉄板を調理台に乗せる。そしてその上に、弱って動きの鈍くなったマウスを並べていき、塩ひとつまみを振りかける。
「さあ、お前の見せ場だ」
僕は抗えなかった。彼女の言葉にも、用意された台本にも。
防熱のミトンを手につけ、鉄板を掴み、燃え盛るオーブンの中へと押し込む。
スプリンターマウスの皮膚が熱を帯び、チリチリと焦げ始めた。そして次の瞬間、マウスの全身がボッと炎に包まれる。
キィィィッ!
悲鳴とともに、マウスが鉄板の上を駆け回り始める。燃える尾を振り乱し、オーブンの開いた出口へと突進してくる。
「ほら。来るぞ、助手君」
エルドリスの冷静な声を聞く暇もなく、僕は反射的にフライ返しを振っていた。オーブンの外へ飛び出しかけたマウスを、手首のスナップを効かせて打ち返す。
ベチッ!
マウスの燃える小さな体が鉄板の上に叩きつけられる。焼ける脂の匂いが皮肉なほど香ばしく鼻を突く。
僕は次々と飛び出してくるマウスを、それこそもぐら叩きの要領でオーブンの中へと返していった。
やがてネズミたちは起き上がってこなくなり、鉄板の上で消し炭のように固まった。
「焼き上がりだな」
エルドリスは鉄板ごとスプリンターマウスを取り出す。鉄板から落ちた場所で炭になっているマウスも、長いトングで残さず拾っていく。
「黒焦げで不安か? 安心しろ。一番外側の皮は、もとより捨てるつもりの料理だ」
彼女はマウスにナイフを入れて、肉を左右に割り開いた。瞬間、マウスの腹に詰められたフルーツの甘酸っぱい香りが色濃く立ち上る。それを彼女は10匹分、大皿に載せて、メルグナの果皮をおろし器で擦りながら振りかけていく。
「完成だ」
カメラが黒焦げの皮の内側で黄金色に輝くネズミの肉を映し出す。
エルドリスはナイフとフォークで骨付き肉を切り出し、軽く持ち上げた。
「ほら、見ろ。骨も綺麗に火が通っている」
彼女はフォークを口元に運ぶと、カリッと小さな音を立てて噛み、満足げに頷いた。
実食までするなんて聞いていない。僕は彼女が食べ終わるのを待たず、エンディングに入った。
「とっても良く焼けましたね。今日はスプリンターマウスのローストでした。では材料と調理道具のおさらいと、本日のポイントです」
【材料】
老婆に集団で突進して噛みつき、神経毒を流して殺したスプリンターマウス 10匹
メルグナの実(爽やかな甘みとわずかな酸味を持つ黄緑色の小果実)
トルフェの果肉(トロピカルな風味とねっとりとした食感のオレンジ色の果肉)
塩 ひとつまみ
【調理道具】
ナイフ(解体・調理用)
金串(開いた腹を閉じる用)
鉄板(ネズミを並べる用)
オーブン(加熱用)
ミトン(鉄板を掴む用)
フライ返し(オーブンから逃げ出てくるネズミを打ち返す用)
長いトング(オーブンの端に落ちたネズミを拾う用)
おろし器(メルグナの果皮をおろす用)
【ポイント】
死ぬ間際に運動させることで肉質が格段に向上!
「それでは皆さま、また次回お会いしましょう。良い食卓を――」
◆
「待ってください、エルドリス」
地下調理場を出て、彼女の独房まで続く薄暗い通路。その途中で僕は、ようやく彼女に追いついた。といっても、彼女は足を止めないので、僕は置いていかれないよう早歩きでついていく。
なぜ早歩きかというと、僕の方がコンパスが――つまりは脚が短いからだ。言い換えれば、彼女は僕より背が高い。180センチ近くある。
今日も今日とてエルドリスは、生放送が終わるなり、僕に背を向けて帰ろうとした。昨日はそのまま帰したが、今日こそ、そうはいかない。
「僕に少し時間をください。話をしませんか」
「必要ない」
「で、でしたら、望みの物をひとつ差し上げます。それでどうですか?」
彼女が立ち止まり、僕を振り向く。
「ならば、フィンブリオの涙が欲しい」
「私の房だ」 短く告げると、エルドリスは鉄扉を押し開け、自分の独房へと足を踏み入れた。僕は少し躊躇ったが、彼女が振り向きもせず奥へと進むのを見て、後に続く。 囚人の独房のはずなのに、そこは静かな宿泊所のようだった。壁は無機質な石造りだが、ところどころに淡い色の布が掛けられ、冷たい印象を和らげている。部屋の隅には簡素ながらも重厚感のある木製のベッド。壁際には本棚とキャビネット。造り付けの吊戸棚や、その下には小型の魔導炉まである。 特に目を引いたのは、鉄格子付きの窓だ。 ここ第七監獄《グラットリエ》は、囚人の脱獄を防ぐため、ヴェルミリオン帝国の本土から離れた孤島の上に建てられている。この独房は、第七監獄《グラットリエ》に数百ある房の中でも比較的環境の良い位置にあった。 窓からは午後の日差しが房内に降り注ぎ、鉄格子越しには、陽光を浴びて煌《きら》めく青い海と、船ひとつない水平線が見える。その上を海鳥たちが旋回し、時折遠くで鳴き声を上げる。美しさと孤独さを同時に感じるような風景。 その窓の手前に、木製のテーブルと、椅子が二脚あった。一脚でなく二脚なのは、今回のような来客を想定してのことだろうか。 それもまた、彼女への"特別待遇"のひとつなのだろう。「座れ」 促されるまま、窓際のテーブルに腰を下ろす。エルドリスは戸棚を開け、ティーセットと小箱を取り出した。「茶を淹れよう」 彼女が小箱を開けると、出てきたのは茶葉……ではなく、小さな魔物だった。黒い甲殻に覆われたそれは昆虫の一種だろうか。六本の脚を持ち、頭部には短い触角がついている。「これは?」「カサリス・ビートル。D級魔物。体内の分泌液が湯に溶けることで、上質な紅茶のような香りを生む」
エルドリスはキャビネットを開けて、平たい缶を取り出した。僕は甘い焼き菓子の類が出てくると思い、期待を込めて彼女の手元を見つめる。 しかし、彼女が缶の蓋を開けた瞬間、その期待は粉々に打ち砕かれた。 中に詰められていたのは、丸く平らな魔物だった。見た目はチョコチップクッキーに似ているが、数えきれないほどの細かい脚が、体の周りをぐるりと取り囲んでわさわさ動いている。 鳥肌が立った。「こ、これは……?」「ダスト・スコッチ。D級魔物だ」 エルドリスは缶の中からダスト・スコッチを一匹取り出し、指でその脚の生えていない体の中央を摘まみながら僕に見せた。「ダスト・スコッチは食べ方に工夫がいる。正しい食べ方をすれば焼き菓子代わりになるが、間違うと、臭くて苦い雑巾の味になる」「ぞ、雑巾……?」「味を知らないか? それは幸運な人生を送ってきたな」 僕は返事ができなかったが、彼女は気にせず続けた。「まず、脚をすべて抜く」 そう言い、ダスト・スコッチの周囲に生えている細かな脚を二十本ほどまとめて摘み、一気に引き抜く。そしてそれを繰り返す。 僕もダスト・スコッチを摘まみ上げ、彼女の真似をして、恐る恐る脚を引っ張った。細い脚は大した抵抗もなく簡単に抜ける。虫は悲鳴を上げたり暴れたりしないから、あまり気も咎《とが》めない。 エルドリスは、僕がすべての脚を抜き終えるのを待って口を開いた。「次は、平らな面が地面と平行になるように持ち、十回ほど振る。こうして内部の臓器や体液を撹拌《かくはん》するんだ」 エルドリスは言いながらダスト・スコッチを振る。僕もすかさず真似をした。その動作に合わせて、ダスト・スコッチから微かに甘い香りが漂ってくる。「これが最後だ。振り終えたら間髪入れず、半分に割り開く」 彼女は両手の親指と人差し指を使って、パキッと小さな音を立てながらダスト・スコッチを二つに割った。僕もやってみる。 断面は、焼いたパイ生地のような層になっており、層の間からは紫水晶のように輝く淡紫の蜜がとろりと滲《にじ》み出てくる。「こうなれば、もう大丈夫だ。よく噛んで食べろ」 エルドリスは真っ二つに割り開いたダスト・スコッチの半分を口に運び、カリカリと小気味よい音を立てながら咀嚼する。僕も同じように口に入れてみた。「甘い……」 最初に広がるのは、仄《ほの》かな甘み
海の中から見上げる水面のように、青々と澄んだ瞳が僕を見つめていた。 両方、間違っている……? 彼女の言葉の意味を僕は計りかねる。いや、考えられるとしたらひとつ。「あなたは罪を犯していない……?」 フッ、とエルドリスは小さく笑った。「YESだと自信満々に言えないのが痛いところだが……そうだな。私視点の事実を語らせてもらうと、私は嵌《は》められた」「どういうことです?」「少し……長くなるが、聞く気はあるか」 僕は頷く。「なければここに来ていません」 彼女は口角を僅かに上げると、カサリス・ビートル茶のカップの中に目を落とした。「ここに投獄される前、私は生まれ育ったセリカの町で、妹と小さなレストランを営んでいた。私が調理し、妹が接客をする。田舎町で女二人、細々と生きていけるくらいには繁盛していたさ」「あの、もしかして……そのころから魔物の調理を?」「……どう思う?」「いや、どうと言われても」「魔物を調理すること自体は犯罪じゃない。むしろ、やれる調理人は少ないから重宝されるし、金になる」「その言い方は、YESと捉えますけど」「やめておけばよかった」「はい?」「私が最も後悔することのひとつが、その日の選択だ。帝都から使者がやってきた日。その使者は、私たちの店にアンフィモルフという魔物を生きたまま持ち込み、調理しろと言ってきた」「アンフィモルフ? 聞いたことがありません」「私もそうだった。そいつはトロールやゴブリンのような人型の魔
「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」 魔導カメラに向かい、抑揚を意識しながら番組のオープニング口上を始める。隣には、黒革のエプロンを身にまとったエルドリスが、いつものように無表情で立っている。「本日の食材は、こちら」 僕が背後を指し示すと、鎖と首輪に繋がれて吠える魔物が映し出された。「ヴァーモート・ハウンド。C級魔物です」 黒く滑らかな毛並みを持つ大型の犬型魔物で、四肢は異様に発達しており、特に後ろ脚の筋力が強い。その跳躍力は人間の身長を軽々と超え、獲物を捕らえる際には飛びかかって喉元に噛みつく。 特徴的なのは、その涙。 ヴァーモート・ハウンドは極度のストレスを受けると、フィンブリオの涙と呼ばれる特殊な分泌液を目から流す。それは極めて甘く、果実酒のような香りを持ち、料理の旨味やコクを引き立てる高級調味料として重宝される。 エルドリスが、僕と話す時間を作る対価として僕に求めた調味料だ。「さて、今日はこのヴァーモート・ハウンドを使ってバーベキューを作ります。では、エルドリス先生、よろしくお願いします」 僕が言うと、エルドリスは厨房の端にあった長い木製のピザピールを手に取った。「まずは、適度にストレスを与えて、フィンブリオの涙を抽出する」 ヴァーモート・ハウンドにツカツカと歩み寄り、その横腹にフルスイングの一打を見舞う。 ゴチャッ。 嫌な音がした。「グゥウウウゥ……!」 ヴァーモート・ハウンドが低く唸り声を上げ、身を捩る。エルドリスはさ
「んふふっふ~、んふふ♪ んふふっふ~、んふふ♪」『30分クッキング』放送前の地下調理場にはたいてい、エルドリスの鼻歌が響いている。彼女は僕と共に調理器具や魔物以外の食材の準備をしながら、僕など目に入っていないかのように一人の世界の中で歌い続ける。 そんな彼女の世界を脅かす来客があった。 廊下から調理場へと続く鉄製の扉がギィィと開く。「やあ、エリィ。調子はどうかな」 現れたのは、黒衣を羽織った長身の男だった。透けるような金髪に赤褐色の目、勝気な眉。がっしりとした首から続く肩幅は広く、服の上からでも窺《うかが》える鍛え上げられた体躯が、少なくとも彼が事務職の文官ではないことを物語っている。 エルドリスの鼻歌が止み、彼女は振り返る。「ネイヴァン・ルーガス。何しに来た」「フフ……演者と少し交流しようと思ってね」 低くゆったりと響く声。 彼女の呼んだ名を聞いてピンときた。ネイヴァン・ルーガスは、この『30分クッキング』の脚本家兼演出家だ。刑務所の役人ではなく民間人で、普段は調理場に顔を出さないため、その姿は初めて見た。「もうじき生放送が始まる。目障りだから出ていけ」「ご挨拶だなあ……ああ、そうそう。目障りといえば俺も、昨日の放送でとんでもない蛇足を見つけちまってねえ」 ネイヴァンの目がギロリと一瞬僕を見て、またエルドリスに戻る。「あんな馬のゲロの腐ったヤツみたいな実食シーン、俺が書いたとは思われたくないな。ボケた婆さんだってもう少しマシな台詞を吐くぜ」「演出家だろう? 役者の伸びしろに期待しろよ」「ふぅん、伸びしろねぇ……」 頭の先からつま先まで値踏みするような露骨な視線
エルドリスは昨日あのあと、ネイヴァンとどんな話をしたのだろう。 いつものように『30分クッキング』の準備を進めながら、僕はその疑問を頭の片隅で転がしていた。今日、顔を合わせたときに、それとなく聞いてみたのだが、彼女は『大した話じゃない』と言うだけだった。 特上の食材。それは一体何なのか。『30分クッキング』の趣旨からして、魔物であることは間違いなさそうだ。とすると、相当レアな魔物なのだろうか。 もうひとつ気になるのは、ネイヴァンが言った『お前の望みのモノかもな』という言葉の意味。エルドリスはネイヴァンに、どのような望みを伝えたのか。『かもな』という表現。以前にエルドリスが僕にフィンブリオの涙を求めたように、何か欲しいものを伝えたのだとしたら、それが用意できたか否かはAll or Nothing《オールオアナッシング》。『かもな』という不確実性を匂わす言い方はしないはず。 考えれば考えるほど、落ち着かない。 そうこうしているうちにいつの間にか、生放送の時間は迫っていた。◆「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」 オープニングの挨拶をしながら、カメラのレンズを意識する。視聴者――嗜虐心を持て余した金持ちたちの目がこちらを見ている。 エルドリスは相変わらずの無表情。準備段階の方が、鼻歌まで歌って機嫌が良さそうなのが不思議だ。もしかすると、カメラの前では多少キャラを作っているのかもしれない。「本日より、特別企画――一体の魔物の全身を使った“フルコース”をお届けします」 台本通りの台詞。だがそれも、ここまでだった。昨日、夜になって上官から渡された僕の台本には、ここから先の展開はアドリブでと書かれていた。
ヴァルドルは、昨日と変わらず檻の中にいた。 四肢を拘束され、膝を抱えるように座らされている。表情はない。昨日、血液を搾られた際には呻き声を上げたが、今はただじっと虚空を見つめていた。 僕は準備をしながら、魔物の様子を盗み見ていた。昨日、エルドリスが回復魔法をかけたおかげで、傷は完全に塞がっている。それでも、昨日からずっとこのままの姿勢で拘束されているのかと思うと、胃の奥がずしりと重くなる。 少なくとも、水と何かしらの食事は与えられた形跡がある。檻の隅には、空の水皿と、食べ残しらしき肉の端切れが転がっていた。だがそれが、人道的な配慮からなのか、それともただの“食材の管理”なのかは、僕には判断がつかなかった。「助手君」 不意にエルドリスの声が背後から響き、僕は我に返った。彼女はいつものように淡々とした表情で、調理台に用意された器具を点検していた。「生放送の時間だ。準備はできているか」「……はい」 今日もまた、凄惨な30分間が始まる。 ◆「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」 いつも通り、カメラに向かって挨拶をする。「本日は、フルコースの第二弾。アミューズ・ブーシュとオードブルを作ります」 エルドリスが檻の前に立つ。ヴァルドルは相変わらず無表情だ。しかし、彼の鱗状の皮膚の一部が、微かに震えているのが見えた。「まずは、皮を剥ぐ」 言いながら、エルドリスは鋭利な皮剥ぎ包丁を手に取る。その刃先は薄く研ぎ澄まされており、光を反射して輝いていた。「ヴァルドルの皮は、鱗の間に脂肪層を含んでおり、強い旨
ヴァルドルは昨日までと同じく、狭い檻の中で膝を抱えて座っている。 別に気にかける必要もないのだが、どうにも気になってしまって、僕は準備をしながら、さりげなく檻の近くを通り、魔物の様子を伺った。すると、かすかな声が聞こえた。「……ま、こ……ぐ……で……」 魔物の言葉はわからない。助けを求めているのか、神に祈りでも捧げているのか。 いや、意味のある言葉なはずがない。この魔物にそんな知能はないだろう。 ……本当に?「助手君、そろそろ時間だ」 考えを巡らせているうちに、エルドリスの声が響いた。 僕はヴァルドルを一瞥し、調理台へと戻る。 生放送の時間が迫っている。今日もまた、お届けしなければ。 "極上のエンターテインメント"を。 ◆「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」 カメラに向かって、いつもの挨拶をする。「本日は、フルコースの第三弾。ヴァルドルの肝臓を使ったポタージュを作ります」「ヴァルドルの肝臓は、鉄分と脂肪が豊富で、クリーミーな味わいが特徴だ。燻製にすることで、濃厚な旨味が際立つ」 エルドリスは説明しながら、檻の扉を開いた。僕は彼女に言われる前にヴァルドルの鎖を引き、昨日と同じように蹲《うずくま》った態勢にさせる。 彼女の靴底が魔物の横っ腹を蹴りやり、まるで猫でも転がすかのように、全長四メートルの魔物の体を仰向けにした。「では、開いていく」
僕たちは光の雨粒に打たれた白骨遺体を見つめていた。人間の形を保ってはいるものの、ところどころ損傷が目立つ。とりわけ頭蓋骨は縦に真っ二つに割れていて、致命傷の跡なのか白骨化後の傷なのかは知れないが、異様だった。 骨の表面には、雨水や泥の跡がうっすらと残っている。 そして絡みつく、僕が放った絶対拘束《トータル・フェター》の蛇。その意味するところはつまり、「これは囚人の――死刑囚の遺骨です」「誰なんだよ」 とネイヴァン。「わかりません。でもラシュトの部屋の奥にあったんですから、ラシュトの知り合いなのでは?」「うーむ……でもあいつ、他の死刑囚とつるむようなタイプか? 殺しちまいそうだろ」「知らないですよ」「あ、そうだ。これは聞いた話だが、人間の遺体が雨風に晒された状態で完全に白骨化するには、少なくとも一年かかるらしいぜ。となれば、この遺体は一年以上前にこの島へ送られた囚人のものだ」「そんなの、数えきれないほどいます」「だよなぁ。……新人君、識嚥《シエ》で食ってみろよ。それでわかるだろ」「嫌ですよ! 冗談じゃない!」 この男はなんてことを言うんだ。 エルドリスが小さくため息をついた。「断られるに決まってるだろ。頭を使え、ネイヴァン・ルーガス」「なんだよエリィ。じゃあ他に方法があるっていうのか?」「だから頭を使えと言っている。これまでの情報を総合的に考えてみるんだ。まず、この場所はラシュトのねぐらの奥にあって、ここに繋がる通路は岩壁によって遮断されていた。だが完全な遮断ではなかった。岩壁には隙間があったし、ここの天井にも隙間がある」「それが何なんだよ」 次に、とエルドリスはネイヴァンの問いかけを無視して続けた。
頭が重い。手足が思うように動かない。体が痛い。 目を開けると、冷たい岩肌の床が視界に入り、その先に、赤々と燃える焚き火が見えた。「おはよう、怖いお兄さん」 楽しげな声が降ってくる。 顔を動かして声のした方を見ると、ラシュトが焚き火のそばに座り、金属製のナイフを弄んでいた。彼は木製のナイフしか持っていなかったはずなので、それは恐らくエルドリスの持ち物だろう。その唇の端は愉快そうに吊り上がっている。「あなたたちさ、昨夜食べたセフィアベリーと今朝食べたヴェルド、食べ合わせって考えたことある?」 唐突な問いかけを聞きながら、頭の中で警鐘が鳴り続けている。手足が動かないのは縛られているせいだ。しかも手は背中側で括られているため、身を起こす支えにもできない。 エルドリスとネイヴァンも目を覚ましていたようで、すぐそばで動く気配がする。「セフィアベリーはね、胃でなかなか消化されないんだ。だからひと晩経ったくらいじゃまだ、胃の中に残ってる。それで、ヴェルドと混ざると……さ、あっという間に有害成分に変わる。そうなると、人間は――」 ラシュトはそこで言葉を止め、ゆっくりと笑みを深めた。「――昏倒してぐっすり眠っちゃうんだよ」 ネイヴァンが舌打ちする。本当は悪態のひとつも吐きたいところだろうが、彼とて今、この不利な状況で少年を煽るリスクを考えないわけがない。 エルドリスも同様だった。いつもネイヴァン相手に流暢に飛び出す嫌味が今は鳴りを潜めている。だが、彼女の無念は僕ら以上だろう。調理人である彼女にとって、毒の生成に食べ合わせを使われること、そしてそれにまんまと引っかかってしまったことは、屈辱にも近いはず。「あなたたちは運が悪かった。でも逆に僕はものすごく幸運だ。い
なんだ? どういうことだ? ラシュトはどこへ消えた? 僕はエルドリスとネイヴァンを起こし、事の顛末を二人へ伝えた。 ネイヴァンが点火魔法で焚き火に火をつけ、洞窟の中に鮮やかな視界が戻ってくる。僕たちは壁面を丹念に調べ始めた。叩いたり、押してみたり、突起に指をかけて引いてみたり。しかし――「特に変わったところはないな……」 ネイヴァンが首を水平に振る。壁面を構成する岩は、どれもただの岩でしかない。床も、下に抜け穴がないかと三人で調べてみたが、何も見つからなかった。 僕たちが調査を続けていると、外から小鳥の鳴き声が聞こえてきた。「朝か」 エルドリスは立ち上がると、部屋の入り口へ向かっていく。「どこへ行くんです? もう砂浜へ戻りましょう。ネイヴァンさん、転移魔法をお願いします」「少し待て、念のため洞窟の外を確認する」「確認って何を! エルドリス、待ってくださいっ」 僕は洞窟へ入っていくエルドリスを追った。エルドリスは歩きながら僕の質問に答える。「確認するのはあの部屋の外側だ。私たちはここに入ってくるとき、蔓に覆われた入り口しか見なかった」「それが何なんです?」「あの部屋――あの広い空間には外気が流れていたな。つまり、僅かだが外部と繋がっているということ。その繋がっている場所を外側から見れば、わかるかもしれない。内側を調べてもさっぱりだったが、子どもひとり通り抜けるだけの隙間の手がかりが。あくまで小さな可能性だが」「わかりました。じゃあ、洞窟の周囲をざっと見て、そしたら浜辺へ帰りましょう」「おいおい、新人君。なんだか妙に焦っちゃいねえか」 後ろから付いてきていたネイヴァンが飄々と言う。彼にはわから
ラシュトに導かれ、僕たちは洞窟の中へと入っていった。 ひんやりとした空気。足元の地面は剥き出しの岩肌で、場所によっては水滴で湿っていて滑りやすい。壁面には光る苔や菌類がまばらに張り付いており、それらが様々な色合いでぼんやりとした微光を放っていた。天井は標準的な成人男性の背丈ぎりぎりくらいの高さしかなく、長身のネイヴァンは常にかがみ気味で、何度も頭をぶつけそうになっている。 洞窟の奥へ進むほどに、湿気と冷気が増していく。水の滴る音がどこからかポチャン、ポチャンと反響する中、ラシュトは楽しそうな鼻歌を歌う。 やがて道が開け、僕たちは広々とした空間へと出た。 天井は高く、壁面は無数の岩が積み重なった形状をしている。その岩々の隙間から新鮮な外気が入り込み、ゆるやかな空気の流れを生み出していた。 中央には焚き火の跡があり、奥には乾いた枯草を敷いた簡素な寝床がある。物を入れる木箱や簡素な木の机、革袋のようなものまであり、それなりの生活を営んでいる様子が伺える。「ここが僕の部屋だよ。まあ、ちょっと狭いけど、十分だよね?」 ラシュトは振り返って、にこりと微笑む。「なかなか悪くないな」 エルドリスが周囲を見回しながら呟いた。「きみが一人でここを作ったのか?」 ネイヴァンが少し驚いたように尋ねると、ラシュトは得意げに頷いた。「そうさ。死刑囚島《タルタロメア》は危険だけど、こうしてちゃんと居場所を作れば生きていけるんだ。さあ、座って」 ラシュトの言葉に従い、僕たちは焚き火の跡の周囲に腰を下ろした。「さて、晩ご飯の準備をしようかな」 ラシュトは焚き火の残骸に火をつけ直し、部屋の端に置かれていた木箱から干し肉らしきもの
「おいおい、新人君、今なんて言った? 俺の聞き間違いか?」「聞き間違いじゃありません。彼はA級殺人犯です」 ネイヴァンは眉をひそめて、少年をまじまじと見つめる。しかし、見たところでわかるものでもない。囚人に、その罪状と等級ごとに刻まれる魔導印は、人道的な理由により監獄の監督官にしか見えないようになっている。「死刑囚島《タルタロメア》に送られた囚人の生き残りか」 エルドリスが冷静に呟いた。 そうでしかあり得ないと僕も思っているが、疑問は残る。「最後に死刑囚が送られたのは約一か月前です。仮に彼がそのときの死刑囚だとしても、一か月間この島で生き抜いたことになる。そんなのは前代未聞です。大抵は数日で魔物に襲われて命を落とします」 少年に注意を払いつつ小声で話していると、少年は突然にこりと微笑んだ。「ねぇ、あなたたちも死刑囚?」 不意に発せられた問いに、僕は思わず違うと答えそうになったが、その前にエルドリスが進み出て答えた。「そうだ」 僕はぎょっとして彼女の横顔を見る。その表情には何か思惑がありそうだった。 少年は興味深そうに僕たちを見つめながら、「罪状は?」「連続強盗殺人。三人ともグルだ」 少年の目が楽しげに輝いた。「へぇ! じゃあ僕と似たようなものだね」 それは笑顔で言う台詞か? 背筋にぞくりと寒気が走った。「僕はラシュト」 少年――ラシュトに促され、僕たちはエルドリスから順に名乗った。「ラシュト
三人の総意により、フワドルの子どもは逃がしてやることにした。 だが僕が俊足の鎖《ラピッドチェイン》を解いてやると、白くふわふわした小さな魔物は走り去らず、エルドリスの足にぴょんと飛びついた。「なんだ」 エルドリスが面倒くさそうに見下ろす。「きゅるる♪」 甘えた声を出して彼女の足にすり寄るフワドル。その小さな前足で彼女のズボンをカシカシと引っかき、まるで注意を引きたいかのようだ。「おいおい、可愛いじゃあないか。ママになってやれよエリィ」 ネイヴァンが楽しげに笑うが、それも含めてエルドリスには鬱陶しいようで、彼女は大きめの舌打ちをする。「お前がパパでも何でもなってやれ。……おい、まとわりつくな、離れろ」 エルドリスは足を振ってフワドルを引き剝がそうとしたが、フワドルはまるでそれが遊びの一環であるかのように喜び、ますます彼女にじゃれついた。「きゅっきゅ♪」「……ああもう、好きにしろ」 諦めた様子でため息をつくエルドリス。 そんな彼女を見ながら、ネイヴァンが「そうだ」と手を打った。「このフワドルに、擬態してたあの気色悪い魔物をどのあたりで見たのか聞いてみようぜ。案内させれば話が早いだろ」「フワドルって会話できるんですか?」「試してみりゃあいい」 そう言ってネイヴァンは、エルドリスの足にしがみつくフワドルのそばにしゃがみ込んだ。「おい、チビ助。お前が擬態してたあの魔物、どこで見かけた?」 魔物に人間の言葉が通じるはずがない。それも
捕えた魔物を前にして、僕たちは互いに顔を見合わせた。「さて、こいつをどうするか」 ネイヴァンが腕を組んで魔物を見下ろす。エルドリスは、僕の俊足の鎖《ラピッドチェイン》でがんじがらめにされている魔物を靴底で蹴って転がし、あらゆる角度から観察しているようだった。 ひび割れた皮膚。位置のズレた不自然な関節。形の歪んだ頭部。白く濁った目。 不気味すぎて到底人間とは思えない、人間に酷似したモノ。 ナイフの刃先で魔物の顎を持ち上げて顔を凝視していたエルドリスはため息をつくと、低く言った。「やはり見ただけではわからない」 その言葉の意味するところを察し、僕の胃が縮み上がる。 やっぱり、そうなるのか……。 どうやって拒否しようかと考えていた、その時――「きゅーぅぅ♪」 思わず全員が固まった。 なんだ今の音……いや、声か? 発生源を三人で見下ろす。 聞き間違いか? 今、この魔物が頓狂な鳴き声を上げたような……。 次の瞬間、魔物の体がぼわんと破裂し、白い煙が立ち上る。「全員下がれ! 煙を吸うな!」 服の袖を口元に当てて防御しながらエルドリスが鋭く叫ぶ。僕とネイヴァンも同じように口元を覆い、離れた場所から煙が晴れるのを待った。 逃げられてはいない手応えはあった。監獄の監督官が会得する俊足の鎖《ラピッドチェイン》は、そう易々《やすやす》と破れるものではない。僕の鎖はまだ何かを捕らえている。 しかし、その対象物は随分と
朝焼けのもと、僕たちは再び島の奥へと足を踏み入れた。ネイヴァンの転移魔法で昨日、クラ―グルと遭遇した場所まで一気に移動し、そこからさらに進んでいく。 高い樹々に日光を遮られた森は晴天の朝でも薄暗く、空気は冷たく湿っていて、不気味な雰囲気があった。明確な気配こそ感じないが、どこか草葉の隙間から、僕たちを狙う上級魔物が様子を伺っているのではないかと嫌な想像をしてしまうくらいだ。「周囲をよく観察しながら進め。普通の魔物の痕跡とは異なるモノが見つかるかもしれない」 エルドリスは僕とネイヴァンにそう指示し、先頭を勇ましく歩いていく。 僕は彼女の背中を見つめながら尋ねた。「エルドリス、もしも本当に、魔物にされた人間かもしれないモノを見つけたら、どうするんですか」 エルドリスは間髪入れずに答えた。「捕えて観察する」「それで、元人間かどうかがわかりますか?」「個体によるだろう。会話ができれば間違いない。それが無理でも人間だったころの名残が見受けられれば、そうとわかる。例えば指輪をしているだとか、歯に治療痕があるだとか」「そういうのがまったくなくて、判別できなかったときは?」「……お前が頼りだ」 やっぱりな。「ねえエルドリス、わかっていますか。人間が人間を食べること――カニバリズムは禁忌です。僕に禁忌を犯させるんです?」「私のために犯してくれ。いや、私たちの目的のために」「あなたには、人の心がないんですね」「すまない。だが他に方法がない。お前に支払わせる代償は大きいが、その分私もあとから同じだけ代償を支払おう」「別に道連れを求めているわけじゃ……」 ネイヴァンが背後で軽薄に笑った。
夜の帳が下りる中、焚き火の炎が砂浜を揺らめかせる。「皆さま、こんばんは。『30分クッキング』です」 いつものように調理台の手前に立ち、僕は魔導カメラへ語る。「本日も特別企画として、死刑囚島《タルタロメア》よりお届けしております。食材はこちら、クラ―グルです」 調理台の上に横たわるのは、蛸に似た巨大な魔物。無数の触手は束ねられて、ぎちぎちと締め上げられているが、まだ抵抗の意思があるのか、拘束の下でしきりに蠢《うごめ》いている。「クラ―グルはA級魔物に分類される非常に危険な存在ですが、味は絶品と言われています。本日はこのクラ―グルを、活け造りにしていきます」 エルドリスがナイフを手に取り、クラ―グルの巨体に歩み寄る。「まずは、触手の一本を開く」 刃が触手の表皮に触れた瞬間、クラ―グルが激しくもがき出す。しかし、エルドリスは構わず、縦一直線に浅く切り込みを入れた。そして切り込みに両手の親指を差し入れる。「クグルゥゥゥゥ……ガァ……」 ズルッ、メリメリッと嫌な音を立てて皮を剥いでいく。剥ぎ終えると、手際よく内側の肉を削ぎ始める。「ピィィィィィィィ……ギャアアア……」「薄く削いだ方が、食感が良くなる」 削ぎ取られた肉は透き通るような白色。それを、まだ生きているクラ―グルの顔の上に飾り付けていく。趣向を凝らした活け造りだ。「次に、頭部を処理する」 エルドリスは、クラ―グルの頭部に垂直に刃先を当てる。そして体重をかけて刺し込む。