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第2話

私の魂は、廃れた工場からふわりと浮かび上がり、空を漂って、最後には両親のそばに留まった。

これが、私の未練というものなのだろうか。

リビングでは、母が泣き崩れながら、妹の名前ばかりを繰り返していた。

「悦子がこんな目に遭うなんて、あんなに大事に育ててきたのに!」

「きっと玲奈が変なところに連れて行ったせいで、悦子が巻き込まれたんだわ」と、母は涙ながらに父に訴えている。

「違う!」私は必死に叫んだ。「違うの!悦子が小道に走っていくから、私が追いかけたんだ!」

声を振り絞って伝えようとしたが、母には私の声は届かない。

父はただ、黙って母の肩を撫でるしかなかった。

事件が起こる前、私はどうしても悦子の学校を見てみたくて、運転手と一緒に彼女を迎えに行った。

ところが、学校の門近くの路地で二人一緒に誘拐されてしまったのだ。

それなのに、母はまだ泣きながら「玲奈ったら、田舎娘でしつけが悪いわ!私たちの娘らしくない。もしかして、親子鑑定が間違ってたんじゃないかしら」と呟いている。

「二人が戻ってきたら、玲奈は送り出してしまいましょう。そうしないと、悦子がまた不満を言い出すわ」とも。

胸がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。両親に初めて会ったとき、私は不安そうに立っていた。母は私を抱きしめて泣き、「この子は私にそっくり、一目で私の娘だってわかるわ」と父に話していた。

それなのに今、母は鑑定が偽りであってほしい、私が自分の娘ではなければいいとさえ思っているようだった。

私は胸を押さえ、思わず考えてしまった。死んでからも、こんなに心が痛むなんて。

母が藤原家に私を迎えに来たとき、一晩中眠らずに私を抱きしめて、まるでまばたきすれば私が消えてしまうかのようだった。

藤原家で受けた虐待の痕を見て、母は涙を流しながら優しく薬を塗ってくれた。あのとき、私はやっと誰かに大切にされる存在になれたのだと思った。

でも今、私は絶望の中で考える。藤原家の両親は私を打ち負かし、私の実の両親は私に冷たい。

私は本来、生まれてこなければよかったのではないか。私が存在することで、誰かの負担になるだけなのだと。

犯人がまた両親に電話をかけて、身代金を急かしている。

きっと、私が死んだことがばれる前に金を早く手に入れたいのだろう。

電話口で悦子が可愛らしい声で「お母さん」と呼ぶと、母はますます涙をこぼした。

私は誘拐された最初の頃、犯人から電話を渡されて、母に声をかけようとした。

「お母さん……」

しかし、母は焦った様子で「悦子はどこ?悦子の声を聞かせて、私の娘はどこ?」とせがむばかりだった。

私の言葉は喉に詰まり、妹にかわるしかなかった。

それ以来、犯人が電話を渡してくるたび、私は黙って頭をふり、妹に渡すようになった。

母はまるで私の存在を忘れてしまったかのようで、一度も私の名前を呼ぶことはなかった。

母は再び犯人に尋ねた。「送られてきた指や足の部分は、玲奈のもので、悦子のものじゃないのよね?」

犯人がそうだと答えると、母はやっと安心したようだった。

「うちの悦子はピアノを弾かなくちゃならないから、指を失うわけにはいかないのよ。玲奈みたいな田舎の子はちょっとの苦労くらい平気でしょう」

「指と足がなくなっただけで、問題ないわ」と彼女はつぶやいた。

誘拐された直後、犯人は「どちらかの指を大島家に送りつけなければならない」と私たちに告げた。

私は妹の前に立ち、震える手を差し出した。

「彼女は大島家の娘ではない。彼女の指を切り落としても無駄で、DNA鑑定をしても何も分からないから」

私は落ち着いて言った。「私なら大島家の子供だと分かる。私の指を切って」

やはり父と母は指を受け取ると、すぐにDNA鑑定をした。

誘拐犯たちは最初、悦子は大島家の娘ではないから、大島家が必ずしもお金を出すとは限らないと考え、私を人質として確保すれば十分だと思っていた。しかし、悦子が戻って告発することを恐れていたため、結局誰も解放しなかった。

しかし、電話を重ねるうちに、彼たちは大島家が私のことを全く気にかけていないことに徐々に気付いていった。

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