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第287話

拓海は顔が少し恥ずかしくなり、また顔を強張らせながらこう説明した。「紗希が騙されないか心配なだけだ。それに渡辺おばあさんも心配するだろう。紗希のためじゃない」

裕太は「......」

裕太は、男が女より口が裏腹だと思った。

社長が離婚を切り出して若奥様があっさり同意してから、社長の様子はおかしくなっていた。

一方、紗希は北兄と一緒に私立病院を出た。

助手席に座った紗希は、こっそり北を見た。「北兄さん、さっきの会議は上手くいった?」

「うん、順調だった。手術は三日後に始める」

紗希は手術の日程を聞いて、表情が真剣になった。「北兄さん、手術は絶対成功させてね。渡辺おばあさんは私にとって大切な人だから」

「安心して、全力を尽くすよ」

北は強い決意を示した。紗希が情に厚いことを知っていたので、必ず手術を成功させて渡辺おばあさんを回復させ、紗希が渡辺家に未練を残さないようにしたかった。

紗希は微笑んだ。「北兄さんが言うなら、私が安心できる」

「紗希、俺達と一緒に大京市に戻りましょう。お前は子供と一緒に新しい生活を始めて、渡辺家から完全に離れるんだ」

「うん、でも今じゃない」

北の目に戸惑いが浮かんだ。「まだ何か心残りがある?」

紗希は首を振った。「卒業単位を取り終えて、それに渡辺おばあさんの手術が成功してから、伯母さんを説得する。あと数ヶ月待って、その頃にはお腹も隠せなくなってるはずだ。その時に大京市に行く」

北は時間を計算して、あと数カ月待てばいいと判断した。

二人は病院に着くと、紗希は産婦人科検診に向かった。

エコー検査で、医師は驚いて言った。「おめでとうございます。二つの心音が聞こえます。双子ですね」

紗希は医師の言葉を聞いて、エコーの画面を信じられない様子で見つめた。「本当ですか?」

「はい、間違いありません」

最後に検診を終えた紗希は、エコー写真を手に持ち、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

その時、北は横から歩いてきた。「どうだった?」

「医者は双子だと言って、追加で血液検査をすることになった」

紗希は少し間抜けな笑顔で言った。「北兄さん、私に赤ちゃんが二人いるの」

北は診断書を受け取って見た後、一瞬にして唇を上げて、すぐに表情を抑えた。「二人の子供は良いことだけど、あなたにとってはリスクも増える。そもそも僕は子供を産
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