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第239話

平野は短気で、拓海に向かって怒鳴った。

「何でそんな目つきで見てるんだ?」

拓海は何も言わず、別荘のホールを後にした。

その足取りは乱れ、みすぼらしかった。

北は拓海の後ろ姿を見ながら、この男の反応がとても奇妙だと感じた。

何か見落としているところがあるのだろうか?

そのとき、南は平野に向かって言った。

「平野兄さん、詩織はまた嘘をついたんだ」

北は少し黙った後言った。

「僕は、詩織が拓海にそんなことを言うなんて思わなかった!彼女が嘘をついたのはこれが初めてじゃない!」

先ほどの拓海の答えから、詩織が渡辺家の人々にずっと嘘をついていたことが推測できた。

北は今では拓海が本当に詩織を好きなのかさえ疑わしくなっていた。

平野はこめかみをさすった。

「分かった。紗希が戻ってくる前に、詩織の身分問題を解決する。絶対に紗希に不当な扱いをさせない」

南は口を開いた。

「紗希は今回の婚約パーティーのデザイナーだから、もうすぐ来るはずだ。紗希にどう説明するか、相談しておく必要がある」

北は唇を引きつらせた。

「これは本当に難しい問題だな。平野兄さん、あなたが長兄なんだから、僕らがここにいる理由を説明してくれ。落ち着いてな!」

平野は眉をひそめた。

「俺は紗希とあなたの関係が良いと思うが、あなたが説明するのはどうだ?」

いろいろなことを体験してきた三人だが、今回ばかりは弱気になった。

三人は顔を見合わせ、隠そうとした......。

一体どう説明すればいいのか?

その時、二階の化粧室。

詩織は白いウェディングドレスに着替え、鏡の中の自分を見て、得意げな表情を浮かべていた。

何年も待っていたこの日がついに来たのだ。

彼女が拓海と婚約すれば、渡辺家には紗希の居場所はなくなる。

詩織こそが渡辺家の正当な若奥様なのだ!

玲奈は隣で羨ましそうだった。

「詩織姉さん、今日はとても綺麗だよ」

「ありがとう。ウェディングドレスを着た女の子は誰でも一番綺麗なものよ。いつかあなたにもこんな日が来るわ」

玲奈は目を丸くして、興奮した様子で言った。

「詩織姉さん、南には恋人がいるの?」

先ほど調べたところ、南は技術会社での新興実業家で、将来有望だと思った。

そのため、医者の北ではなく、会社を経営している南を選んだのだ。

詩織は眉を少し上げた
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