第101話

拓海の顔には余計な表情がなかった。「離婚すれば問題を解決できると思っているのか？」

「おばあさんの方は、私が彼女に手術をするように説得する」

男は目を少し細めた。「どうやっておばあさんを説得できるんだ？」

紗希は少し表情を曇らせた。「それはあなたに関係ないわ」

その時、病室のドアが開き、松本おばさんが出てきた。「若奥様、渡辺おばあさんがお二人は一緒に中に入るようにとおっしゃっています。お二人にお話があるそうです」

詩織は傍らに立ち、笑顔で言った。「私も渡辺おばあさんのお見舞いに来たんです」

松本おばさんは冷たい口調で言った。「申し訳ありませんが、渡辺おばあさんはあなたにはお会いになりたくないそうです」

詩織は表情が凍りついたが、心の中でどんなに不満に思っても、ただ外に立って待つしかなかった。拓海が別の女性と一緒に病室に入っていくのを見て、目が冷たくなった。

紗希は病室に入ると、詩織からの視線を感じた。

しかし今はそんなことを考えている暇はなかった。彼女は前に進み、渡辺おばあさんの手を取り、その手の冷たさに感じて、苦しそうにしながら言った。「おばあさん、今日は少しよくなりましたか？」

「はい、だいぶ良くなったよ。死にはしないさ」

渡辺おばあさんは軽く言ったが、その蒼白い顔色は彼女の体の状態を明らかにしていた。

拓海は唇を薄く締め、「おばあさん、私は来週の手術を用意しました。」

渡辺おばあさんはすぐに拒否した。「手術はしないって言ったでしょう！ひ孫の誕生を見られない限り、生きていても意味がないわ」

拓海は苛立って言った。「おばあさん、体の健康状況を利用して僕を脅すつもりですか？」

「そう思うなら、私にはどうしようもないわ」

紗希は渡辺おばあさんの弱々しい様子を見て、胸が痛んだ。渡辺おばあさんが手術を受けようとしないのは自分のためだということを知っていた。おばあさんは手術後に万が一のことがあれば、将来紗希を守れなくなることを心配していたのだ。

しかし、彼女は今や拓海と離婚の約束をしており、すでに渡辺おばあさんの期待を裏切っていた。

紗希は幼い頃から孤児で、養父母からはひどい扱いを受け、伯母だけが優しくしてくれた。

この3年間、渡辺おばあさんは彼女に何の不満もなく、実の孫娘のように接してくれた。彼女は渡辺おばあさんがこのように弱っていく