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第390話

「もし本当にそうなったとしても、それはあなた自身の選択だよ。私には関係ない」

そう言い切ると、桃は躊躇なくその場を立ち去った。

雅彦は立ち尽くし、冷たい黒い瞳で彼女の去っていった背中をじっと見つめていた。

彼女は一度も振り返らず、全くためらいのない決然とした態度だった。

まるでこの間の出来事すべてが、彼にとってただの夢でしかなかったかのように。

彼の生死など、彼女は全く気にも留めていなかった。彼がどれだけ尽くしても、佐和が彼女の心に占める位置には到底及ばなかった。

桃は外に出て、輝く陽光を目にした。その瞬間、解放感を感じるべきだった。

しかし、なぜかその光に目に刺さるような痛みを感じ、瞳がじんわりと熱くなり、涙が落ちそうになった。

雅彦が手配した運転手が、彼女を見つけて急いで駆け寄ってきた。

「桃様、大丈夫ですか?雅彦様は一緒じゃないんですか?」

桃は首を振った。

「彼の様子を見に行ってあげて。彼の具合がよくないかもしれないから」

その言葉を聞くや否や、数人が急いで雅彦の元へ向かって行った。

桃は最後に一度だけその場所を見上げ、そしてタクシーを拾ってその場を去った。

雅彦がどれくらいの間そこに立っていたのか、自分でもわからなかった。手下たちが駆けつけ、足元の血に気づき、彼を助けようとしたとき、ようやく彼は意識を取り戻した。

「僕に構うな」

雅彦は彼を支えようとする手を振り払い、一歩一歩自分の足で歩き出した。

今は誰とも関わりたくなかった。ひとりで静かに過ごしたかった。

しかし、自分がどこへ行くべきなのか、彼にはわからなかった。滑稽なことだった。かつてこの街の主だと自負していた男が、今や捨てられた野良犬のように、居場所を失っていたのだ。

桃は車の中で、先ほどの出来事を思い返していた。計画通りに行けば、雅彦は彼女に対して完全に失望したはずだ。あの男の性格上、二度と彼女に戻ることはないだろう。

桃は自嘲気味に微笑んだ。これこそが、彼女が望んでいた結末のはずだった。それなのに、なぜか達成した後の心は重く、全く喜びを感じなかった。

しばらくぼんやりとしていたが、やがて桃は我に返り、何かを思い出して急いで携帯を取り出し、美穂に電話をかけた。

「すべてあなたの言う通りにしました。あなたが約束したことは、いつ実行するの?」

その頃、美穂
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